小瓶の中の物語

@ojizousann

第1話

第3章がゆっくりと幕を下ろした。誰もいない観客。拍手なんて聞こえない。真っ暗な横断幕裏では静かなライトが、私独りを照らしていた。私は心ゆくまでお辞儀を優雅に済ませ、控えめにしかし舞台に響く程度には鋭く軽快にステップを踏みながら舞台脇に近づいていった。そして大きく深呼吸すると舞台裏の電気をつけた。舞台の柔らかい黄色いスポットから一転した人工的な眩しい光に、私は目を細めつつ口元を緩ませると自然と歌が紡ぎ出されていく。

お別れよ。ここまで狼達と一緒に一心不乱にジャングルの中を走り抜けてきた。貴方に会うために。水辺を見つけては覗き込んで、結局自分の姿だけを見てはがっかりした。沢山の太陽の影の形を見た。月の裏側だって見た。でも私は貴方の事がちっとも見えていなかった。

私は貴方に縋りながら泣いて手放すしかない。自分や家族、周りの友を愛すために。世に溢れる無邪気な言葉が全て意味のあるものになって私を一喜一憂させた。沢山の可憐な花を手に入れた。葉1枚だって欠けたことない。でも花を摘みつくした結果、気付けば冷たい風が音を立てて吹きすさぶ荒野になっていた。

私は私の森に油を注いだ。貴方はそこに火を投げ入れた。煙の充満した灰色の世界で寒さも熱さも感じず、ただ貴方から目を離さず、私は物語の終わりを静かに見ようと待っていた。

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