第210話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その56

 一方その頃、ゆるふわ宏美は、屋上で体操服姿で、スマホ片手に、ワイヤレスイヤホンから、7組教室内の音声を聞いて、何事もなく終わったようで安心して、ホッと胸を撫で下ろすのである。


 今日のお昼に、嫌な予感がして、放課後例のリレーのメンバーが教室に残りそうなら、教室に盗聴器を仕掛けて欲しいと、7組のクラスカーストトップ白銀にお願いしていたゆるふわ宏美なのである。


「ゆるふわ……どうだった…美月は大丈夫だったのか?」

「い、郁人様!? な、何のことですか~!?」


 屋上の手すりに身体を預けて、7組の会話を盗む聞きしていたゆるふわ宏美に、心配そうな表情でそう声をかけてくる郁人に、一瞬動揺するも、普段通りのゆるふわ笑みを浮かべて誤魔化すゆるふわ宏美なのある。


「まぁ、その様子なら、大丈夫だったみたいだな……ゆるふわ、全く……俺に気を遣わなくていいから、心配事があるなら、俺に相談しろよな……特に美月の事ならなおさらな」


 必死に誤魔化しゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美に、郁人はため息をつくと、そう呆れながら、やれやれとそう言うのである。


「は、はい~、も、問題があったら相談しますよ~……それよりは~、わたしぃ達1組の方が問題が多い気もしますけどね~」


 郁人は、体操服を着て、屋上に来たのだが、他のリレーメンバーの男子二人は屋上の入り口に制服姿で立っているのである。


「だな……とりあえず、話すしかないだろう……梨緒達はまだ来てないのか?」

「……さ、さぁ~、もうすぐ来るんじゃないですか~?」


 ゆるふわ宏美は、なぜか挙動不審になり、郁人から視線を逸らしてそう郁人の疑問に答えるのだが、実は、ゆるふわ宏美は、教室から、すぐに一人で更衣室に向かい、急いで着替えて、一人で屋上に来て、そして、7組教室の会話を聞いていた為、他のリレー女子メンバーがいつ来るかなど知らないのであった。


「朝宮……わりぃけど、やっぱ俺達部活に行こうと思うだけどさ」

「ああ、部活も大事って言うか……部活の方が大事だろ」


 ゆるふわ宏美と会話する郁人にそう言うサッカー部山本と野球部佐城なのである。郁人はどうしたものかと、考えていると、屋上の扉が開いて、体操服姿の梨緒と郁様親衛隊の三人娘が現れるのである。


「そんなこと言わないでぇ、一緒に練習しようよぉ!! ねぇ!!」

「「三橋さん!?」」


 二人の話を扉越しに聞いていたのだろう、梨緒が清楚笑みを浮かべて両手を合わせてそうお願いして、男子二人は戸惑いの声をあげるのであった。


「郁人様提案の練習より優先することがありますか? いえ、あるはずがないですよね?」

「尊い郁人様と一緒に練習できるのですわよ…何が不満と言うのかしら」

「練習しろ……一生郁人様推しの私の前でサボり宣言など、許さないから!!」


 優しくお願いする梨緒と違って、男子生徒二人を威圧する郁人様親衛隊三人娘に頭を抱える郁人なのである。


「とりあえず、落ち着け……二人の考えも聞いてから、考えような」


 郁人は、ゆるふわ宏美と一緒にみんなの所に近づいて、練習を強要する郁人様親衛隊の三人娘を止めながらそう言うのである。そして、男子生徒の言い分を聞く郁人達なのである。彼等の言い分を要約すると、噂通り、勝てるはずないのにみっともなく練習するのが恥ずかしいとのことなのである。


「勝てるはずない……か……なんでそう思うんだ?」

「いや、それはそうだろ……7組とか陸上部3人いるんだぜ……俺達は足が速い奴だっていないし……絶対に無理だろ」

「ああ、現実問題……どんだけ、バトンの受け渡しの練習しても無理なもんは無理だぜ…努力すれば勝てるなんて創作の世界の中だけだろ……なのに、馬鹿にされてまで練習する意味はないって……正直、部活の連中にも馬鹿にされて……なぁ、もういいだろ」


 郁人がそう尋ねると、苛立った様子でそう答える二人に、イラっとする親衛隊三人娘なのだが、それより先に郁人が男子二人にあることを聞くのである。


「そうか……なぁ……練習することはダサいことか?」

「……だ、ダサいだろ……必死になって……正直、勝てないことに頑張るなんて馬鹿だろ」

「みんな、ダサいって言ってるぞ!! 朝宮、お前だって馬鹿にされてるんだぞ!!」


 郁人の質問にそう答える男子二人を、悲しそうな瞳で見つめる郁人と、なぜか、呆れた様子の梨緒なのである。


「まぁ、確かにダサいかもな……でも、ダサいって言われて、諦めて、何もしないで適当に参加して、はい、負けて当然ですってなるほうがダサいと思うけどな……俺は」


 郁人が少し怒った表情でそう言うと、顔を伏せて聞く男子二人なのである。


「正直、俺は、二人が陸上部に劣ってるとは思わない……サッカー部の山本は、サッカー部ぶってだけあって、瞬発力があって、足も速い……走り出しだけなら、野球部の佐城だって負けてない……ただ、単純に100m走での勝負なら、勝てないかもしれないけど……リレーなら、このメンバーなら俺は絶対に勝てると信じている!!」


 郁人は自信なさげに俯く男子二人にそう断言するのである。


「いや……でも…」

「ああ……正直……あんなこと言われてまで練習する意味ってあるのかって」

「そうだな……でも、あそこまで、馬鹿にされて……もしも、勝てれば最高にカッコイイし、最高に気持ちいいと思うぞ……9回裏、2アウト満塁で、三アウト……誰もが諦めている瞬間に……満塁ホームラン……野球の醍醐味だろ?」

「そりゃ……そうだろーけど」

「一点差……ロスタイム……もう誰も諦めた瞬間に点を入れて延長で何とか巻き返す……サッカーだってそうじゃないのか?」

「あ……ああ……そうだぜ」

「諦めたら、そこで終わりだ……努力は確かに、絶対に実るとは限らないけど……何かをしたいと思った時……努力しないで、何かをなすことはできない……確かにダサいかもしれない……でも、俺は絶対に勝てると思ってる……この下馬評……絶対に崩せる自信が俺にはある」


 郁人はそう熱く二人を説得しようとするが、それでも、二人の心には響いていない様子なのである。


「なぁ……二人はこのクラス……好きか?」

「きゅ、急になんだ!?」

「ああ……何聞いてるんだお前!?」


 郁人が急に全く違う質問をしてきたことに驚きの声をあげる男子二人に、郁人は笑顔でこう答えるのである。


「俺は好きだ……みんな、いい奴だしな……だから、俺はクラスのために勝ちたいんだ……大丈夫だ……前だけ見て走ってくれればそれでいい……みんなが、全力で走ってくれれば、後は絶対に俺が一番最初にこのバトンをゴールに持っていく……約束する……だから、二人の力を貸してほしい!!」


 郁人はそう言って二人に頭を下げてお願いするのである。さすがに戸惑う二人だが、サッカー部の山本も、野球部の佐城も諦めた表情を浮かべてこう言うのである。


「しょーがねーな……朝宮こんな熱い奴だったなんて知らなかったぜ」

「だな……もっと、クールぶった嫌な奴だと思ってたぜ……まぁ、さすがにここでやめたら、それこそ、ダサいしな……でも、やるからには勝たねーと……マジでダサいぜ!!」

「大丈夫だ……絶対にこのメンバーなら勝てる……さぁ、練習しようか」


 やれやれと言った感じで練習に付き合うことに了承する男子二人に、郁人はそう言うと、そんな郁人に見惚れる郁人様親衛隊の三人娘なのである。


「さすが郁人様です!! カッコ良すぎます!!」

「尊い郁人様のお言葉……感激しましたわ!!」

「郁人様……一生推します!!」


 そして、郁人に向けて称賛の言葉を贈る郁人様親衛隊を見て、一気にやる気のなくなる男子二人はこう言うのである。


「いや、やっぱり朝宮ムカつくな」

「ああ……やっぱ、練習するのやめるか」


 そう言って、露骨にやる気をなくした発言をする男子生徒二人に困る郁人なのであった。


「まぁまぁ、二人ともそう言わないでぇ、みんな一致団結して頑張ろうよぉ……ねぇ」


 梨緒は、男子二人に近づいて、清楚笑みを浮かべてそう言うと、あからさまにやる気をだす男子生徒二人なのであった。結局梨緒に全て持っていかれて、少し落ち込む郁人に、ゆるふわ宏美は、郁人の背中を叩いて励ますのであった。

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