第209話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その55

 なぜか、今日に限って、政宗は朝から一度も美月のところに来ることはなかったが、やたらと、美月に対して、女子生徒が近づいて、直接悪口を言う場面もあり、浩二が割って入るという事もあったのである。


 教室では、郁人の悪口も言われており、1組のリレーに対する練習を馬鹿にしたような発言は多く、その後に必ず、美月の悪口になり、女子生徒達が盛り上がるのである。そして、三限目が終わり、さらにヒートアップする陰口と噂話に、ついにある人物が、教壇に立ち、ざわつくクラスメイトを一蹴するのである。


「あんた達、いい加減にして!! 郁人様の悪口は許さないって言ってんの、わっかんないかな!!」


 そう言って、クラスメイト達を黙らせるのは、7組スクールカーストトップにして、郁人様ファンクラブナンバー9という、1組クラスメイト以外は伝説級の価値を持つ、会員ナンバー一桁台を持つ7組女王の白銀なのである。


「ウチ、そう言うの嫌いって言ってんの……夜桜さんだって、郁人様相手だし、焦る気持ちもわかってやんないかな~……まぁ、正直、クラスリレーの勝者は郁人様所属の1組で決まりでしょうけどさ」


 嫌味を言いまくっていたクラスメイトがムッとした表情で、いつの間にか両足を組んで教卓に座って、そう偉そうに言い放つ白銀の方を睨んでいるのだが、睨んだ生徒の方を白銀の釣り目の悪役よろしくの睨みで黙らせるのである。


 美しき金髪ロングをなびかせて、ため息をつく白銀に、文句を言えるのはただ一人、男の7組スクールカーストトップの覇道 政宗ただ一人なのである。


「白銀さん……そんなクラスの士気を下げる発言はどうかと思うけど……それに、何をしても勝つのは7組だし、君も7組の仲間じゃないかい……朝宮なんかじゃなく、7組クラスメイトを応援してくれないかい?」

「…朝宮なんか…あら、あら、覇道さん…その物言いは失礼言い方……まぁ、いいけどさ、ウチ嘘は嫌いで……それに、栄えある郁人様ファンっクラブ一桁ナンバーを持つウチは、郁人様の勝利を疑ったりしないんだよね……それに、別に同じクラスだからって、仲間って訳じゃないじゃん」


 政宗がそう言って、白銀にいつも通りのイケメンスマイルで話しかけるが、教卓の上に座って、艶めかしく、自慢の脚を組み替えながら、両手を広げてやれやれとそう言う白銀に、男子生徒は短めなスカートの中身が見えないかとドギマギなのである。


 しかし、政宗だけが、あからさまに、イケメンスマイルが引きつって、少しイラっとしている様子なのである。


「そんなことはないさ……7組も一致団結して、打倒紅組を目指そうじゃないか」

「う~ん、ウチ郁人様が居る白組応援するんでパ~ス……言ったじゃん……仲間じゃないって……ウチ等は、郁人様ファンクラブで郁人様応援する事決まってるし」


 政宗のイケメンスマイルで言い放つ発言に、窓の外を見て、不機嫌に話を聞いていた美月はどの口が言うんだかと呆れ果てるのである。浩二も、自分の席に座って、政宗の発言に呆れている様子なのであった。


 そんな、自分勝手な発言に、自分勝手な発言で返す白銀に、取り巻きの郁人様ファンクラブメンバーも同意するのである。そんな、白銀グループに政宗のイケメンスマイルもどんどん引きつっていくのである。


「とりあえずさ……ウチ、陰口とか好きじゃないんで、そう言うのは教室の外で話して……別に夜桜さんの事は好きじゃないけどさ、聞いてて気分悪いじゃん……それに、郁人様の悪口もこうも、ウチの前で堂々と言われると、ウチの会員ナンバー9っていう栄えある数字に泥を塗ることになるじゃん……会長に悪いわけじゃん……ほら」


 クラスメイトにそう言い放つ白銀に政宗も含めて黙るしかなく、クラスは気まずい雰囲気になるのであった。


 そして、何故か、美月の方を見て、アイコンタクトして、ドヤ顔の白銀に、美月は疑問顔なのであった。


「あ……会長……今日もバシッと言っときましたよ……これで、今日のお昼はウチ等7組の番ってことで……さすが、会長じゃん……じゃ、お昼楽しみにしてるから!!」


 そして、スマホを取り出して、そう誰かと通話した後に、周りの取り巻き達に親指を立ててグッとする白銀を、感謝感激の表情で称える郁人様ファンクラブメンバーの白銀取り巻き達なのであった。


(会長の思い人である夜桜さん庇うだけで、郁人様とのお昼が約束されるなんて、楽すぎて申し訳ないけど……まぁ、みんな喜んでるし、ウチも嬉しい、夜桜さんの事は、正直、どうでもいいけど、悪口言われずに済むし、誰も不幸にならないハッピーってやつじゃん)


 そう白銀は、ゆるふわ宏美から、美月に対しての陰口やイジメの兆しが見えたら止めて欲しいと頼まれており、もしも止めてくれれば、郁人様との握手会や昼食会を優遇してくれるという密約を交わしているのであった。







 そんなことがあって、少し大人しくなった7組で、何とか無事放課後まで過ごせた美月は、政宗に言われた通り、ジッと自分の席に座って、みんなが帰るのを待つのであった。もちろん、浩二も自分の席に座って待っており、政宗と陸上部リレーメンバーの三人だけが、教卓周辺に集まって談笑しているのであった。


 何やら、その様子を見て、白銀はスマホを取り出して、どこかに通話をかけた後に、颯爽と、取り巻きを引き連れて教室から出て行くと、教室には、7組リレーメンバーだけが居る状態になるのであった。


 そして、窓際の美月の元に、政宗がイケメンスマイルで近づくと、浩二も席を立ちあがり、美月の元に向かうのである。


「美月……さて、まずは、陸上部の三人にきちんと謝罪をしないといけないよ……彼女達に対して、失礼なことをした美月が悪いのだから、まずは、そこから始めようか」

「……」

「お、おい、政宗!! 待てよ!!」


 政宗はイケメンスマイルで諭すように美月にそう言い放ち、ニヤニヤ顔の陸上部三人をさして美月に謝罪を求めるのである。美月がムッとした表情を浮かべるが、どこか諦めた表情の美月に、浩二が止めに入るのである。


「すべて悪いのは僕だ!! 美月ちゃんは関係ないぜ!!」

「浩二……やはり、そうか……なら、君に謝罪をしてもらおうか」


 政宗は、待っていましたと言わんばかりに、浩二に勝ち誇った笑みを浮かべながら、そう言い放つのである。そう、政宗は美月に謝罪させる気はなく、美月にそう言えば浩二が絶対に止めに来るとわかっていて、あえて、美月に謝罪を求めたのである。


 それほど、政宗は、浩二に美月の偽幼馴染と言われたことが許せないのであった。


「ちょっと、待って……」

「美月ちゃん……いいから、僕が言ったこと覚えているよな……頼む、朝宮に誓って、ここは何があっても口は出さないで欲しい……これが、僕なりのけじめってやつだぜ」


 政宗の策略に気がついた美月が止めに入ろうと、席を立ちあがって睨み合う浩二と政宗に近づくが、浩二が、止めに入ってきた美月にしか、聞こえない声でそう言うと、美月は両手を胸の前で組んで顔を伏せて黙ると、少し後ろに下がって、成り行きを見守るのである。


 そんな、美月に安心して、浩二は、嫌な笑みを浮かべる政宗に向き直り、政宗の後ろで、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる陸上部三人をチラリと見た後に、頭を下げて謝罪するのである。


「このとーりだ!! 今回は僕のせいで、皆の事を不快にして、すまなかったぜ!! 許してほしい!!」

「それだけかい? 浩二……そんな謝罪じゃ、みんな納得できないと思うけど……どうだろうか?」


 ジッと頭を下げている浩二を、睨む政宗は、鼻で嘲笑うと、嫌味な言い方で、陸上部三人にそう問うのである。そんな、あからさまに、浩二を追い詰めようとする行為を許せない美月が、政宗達を一瞬睨むのだが、浩二との約束を思い出して、視線を逸らす美月なのである。


「いや、俺達の部活の練習時間奪ってそれぐらいじゃ許せないっすね!!」

「だね~、ほら、永田君……覇道君にも迷惑かけたんだし、ちゃんと謝罪しないとね」

「そうそう、謝罪と言えば、ほら、一つしかないじゃん!! 知ってるよね」


 そうニヤニヤした表情で、陸上部三人組は、床を指さしてそう浩二に言い放つと、それを見ていた政宗が同じようなニヤニヤ顔で浩二に向き直り、床を指さしてこう言い放つのである。


「土下座しろ……浩二…まずは…それからだ」


 浩二は、頭を下げたまま、政宗のその発言を聞いて、怒りで身体が震えるのである。その発言に美月も目を見開いて驚きの表情を浮かべて政宗の方を見るのである。


「ちょっと……それは!!」

「美月ちゃん!! いいから……僕は大丈夫だぜ……美月ちゃんは知らねーかもだけど、頭なら下げ慣れてるんだぜ」


 美月が、やっぱり、我慢できないと止めに入ろうと口を出すと、浩二が大声をあげて美月を止めて、頭を下げたまま、心配そうに近づいてきた美月の影を見ながら、小声でそう自慢げに言うのである。


 そして、頭を下げた状態から、膝を地につけ、両手も地面について、土下座の姿勢を取る浩二なのである。


「この度は、僕のせいで、みんなに迷惑をかけて、まことに申し訳ありませんでした!!」


 美月はその光景を見て、悔しさで震え、また、政宗という人間のあまりのクズっぷりに憤りを感じるのである。この間まで友と呼んでいた人物に平気でこのような行為を行える人間性に呆れ果てる美月は、この時、覇道政宗という人物を心の底から、嫌悪して、軽蔑するのであった。


「それだけか? 浩二……貴様が、俺に言ったこと!! 覚えているか!! 美月の幼馴染じゃないだと!! 貴様の言ったこと俺は絶対にゆるさん!! 許さんからな!! 謝れ、俺に謝れ!!」


 そう激しく激昂して、浩二の頭を右足で踏みつける政宗に、美月は悲鳴をあげるのである。しかし、美月だけが、その光景にショックを受けており、他の陸上部の三人はショーでも見るように笑って見ているのであった。


「ほ、本当に……す、すまなかったぜ……政宗……この通りだ……許してくれ」


 浩二は頭を踏まれながらも、なんとかそう謝罪の言葉を口にするのである。そんな、光景を見る美月は、やはり止めに入ろうとするのだが、浩二が声をあげて止めるのである。


「美月……君はそこで大人しくしているんだ……君を誑かす、浩二と言う悪い奴は、この俺が、徹底的に叩き潰しておいてやる……そして、今度の体育祭で君を苦しめる朝宮郁人も、この俺が叩き潰す……何も心配はいらないから……さぁ、浩二、きちんと、陸上部のみんなにも謝るんだ!! そして、誠心誠意お願いしろ!! リレーのために力を貸してくれって!! そうしたら、みんな考えるそうだよ!!」


 悪役のような邪悪な笑みを浮かべて、美月にそう言って、踏みつけている浩二を睨むと、ぐりぐり力を込めて踏む力を強めてそう言う政宗に、浩二は口を切ったのか、唇から血を流しながら、謝罪の言葉を口にするのである。


「陸上部のみんなを不快にさせて、本当にすまなかった……僕が間違っていた……この通り、謝るから、もう一度力を貸してくれ!!」

「いや……どうっすかね……誠意が感じられないっすね!!」

「だね……ていうか、夜桜さんも謝って欲しいよね!!」

「あ…それ、男だけ謝らせて、自分は謝らないのはおかしいでしょ!! ほら、夜桜さんも一緒に土下座して」


 そう言う陸上部三人は調子に乗って美月にも謝罪を求めると、美月も、悔しそうな表情を浮かべながら、頭を下げようとするのだが、政宗が激昂した瞳で、陸上部三人組を睨むのである。


「悪いのは全部浩二だ!! 美月は騙された被害者で、謝罪の必要はない!!」

「……ううん……永田君が頭を下げたんだから、私も頭を下げないと、この度は、申し訳ありませんでした……陸上部のみんなの事を信じられなかった私が悪かったです……みんなを不快にして本当に申し訳ありませんでした……もう、練習しようなんて言いません……なので、リレーは本気で走っていただけると助かります!! どうか、お願いします!! 本気で走ってください!!」

「美月ちゃん!!」


 美月もまた、土下座をして政宗と陸上部に頭を下げるのである。その光景に、政宗は驚き、動転して、震えだすのである。そして、浩二は、苦痛に歪んだ表情で美月の名前を叫ぶのであった。


「覇道君……これで、満足かな……私の頭も踏みますか?」

「いや……美月!! 君にそんなことはしない!! 頭をあげてくれ!!」


 美月は顔をあげて、浩二の頭を踏み続けている政宗の方を睨みながらそう言うと、あからさまに動揺する政宗なのである。そして、その動揺は陸上部の三人にも伝染したかのように、焦った表情の三人なのである。


「……美月ちゃんが土下座してくれたんなら、まぁ、俺は許すっすかね……ていうか……別に俺はそこまで、してほしいわけじゃないって言うか……」

「そ……そうだね……よ、夜桜さんが頭を下げたんなら、これで、終わりでいいよね」

「だ、だね……」


 さすがに、学園のアイドルとまで言われており、上級生からも人気の高い美月に土下座をさせたなどという事がバレたら、ただでは済まないのではと焦りだしたのである。そう、政宗も陸上部三人も、美月はプライドが高く、頭を下げるような人物ではないと思っていたようだが、元からそこまでプライドは高くないし、自己評価自体低い子なので、土下座させられて、頭を下げることに抵抗は少ない美月なのである。


 そう、政宗も、陸上部の三人も美月の性格をわかっていないのであった。ただ、この場では浩二だけが、美月なら絶対に土下座をするとわかっていて、美月には土下座をさせたくなくて、何もしないで欲しいとお願いしたのに、結局土下座をさせてしまって、ゆるふわ宏美に…そして、大嫌いな郁人に対しても申し訳なく思うのだった。


「美月ちゃん……そこまでさせて、すまねーが……後は僕に任せてくれ……政宗」


 隣で土下座をしている美月にそう言う浩二は、頭を踏まれながら、両腕に力を込めて、政宗の足を押し返してそう彼の名を呼ぶのである。


「……な、なんだ浩二!?」

「本当に僕が悪かったと思ってる……陸上部のみんなも……本当にすまなかった……だけど、リレーだけは本気で走って欲しい……僕はみんなの事を信じることができなかった……だから、こんなことになった……政宗……リレーに勝ってくれ……もしも、勝てたら、僕は美月ちゃんファンクラブ会長をやめる!!」


 足で押さえつけられた頭を無理やりあげて、政宗の方を見上げてそう言い放つ浩二に、美月は驚きの表情を浮かべるのである。


「……そうか……そうか…ハハハハハハ、それはいい……陸上部のみんなもそれでいいかな?」

「あ……ああ……いいっすよ」

「う、うん……覇道君がそれでいいなら……」

「だ、だね……それでいいよ」


 政宗は、顔を右手で覆い隠して、これは、愉快、愉快と笑い声をあげて、陸上部の三人にもそれでいいかと問うのである。


 そんな、政宗に戸惑いながらも、同意する陸上部の三人に、満足気な政宗は、浩二の頭から、右足を退けるのである。


「浩二……貴様の望み通り、俺達は本気で走ってやる……感謝するといい」

「ああ、だけど、僕も美月ちゃんも頭を下げてまでお願いしたんだ……絶対に勝ってくれ……政宗……約束だぞ」


 そう偉そうに、浩二に言い放つ政宗に、口から垂れる血を拭いながら、政宗にお願いする浩二に、美月は、悲痛の表情を浮かべるのである。


「ふん……浩二、貴様に言われなくても、最初から勝ちは決まっていたことなんだが……しかし、浩二……君が邪魔するなんてことはないだろうか?」

「ある訳ねーだろ……僕は最初から、このリレーには命かけてんだぜ!! ぜってーに勝つ」

「なら、約束してやろう……必ず、美月に勝利を捧げるとね」


 政宗は、そう自信気に言うと、浩二の方を疑惑の表情で、貴様こそ裏切るのではと問いかけるが、浩二は決意に満ちた表情でそれを否定すると、満足気な政宗は、いまだに跪いている美月の方を見て、そう浩二に誓いの言葉を口にするのであった。


「じゃあ、美月……俺達は、生徒会に行こうか……全て終わったし」


 じゃあ、俺達はこれでと、陸上部三人は気まずそうに部活に向かうために、教室から出て行くと、未だに地面に膝まづく美月と浩二、そして、一人だけ偉そうに立っている政宗だけが教室に残されて、イケメンスマイルを浮かべて、美月に手を差し伸べながらそう言う政宗なのである。


「……ごめんなさい……覇道君は先に言っててくれないかな……私、永田君に話あるから」

「なら、一緒に聞こうじゃないか」

「……お願い……先に行ってて……幼馴染のお願い……たまには聞いてよ」


 そんな、政宗の方を見向きもせずに、美月は浩二の方を見ながら、そう政宗に言うと、政宗はイケメンスマイルを崩すことなく、そう言って、まだ、美月に差し出した手を引っ込めないので、震える声で、美月はそう政宗にお願いするのである。


 その声には、悔しさが込められており、美月の心がずきずきと痛むのである。そんな、美月の心を知ってか知らずか、美月に幼馴染と言われて、喜ぶ政宗は、いいよと言って、教室から出て行くのであった。


「……美月ちゃん……な、なんであんなこと!!」

「はい……ハンカチ……これで、拭いた方が良いよ……どうしても、今……永田君に聞いておきたかったことがあったから」


浩二は跪いた状態から、座り直して、美月に批難の声をあげるのである。浩二は、美月にとって、どれだけ今の台詞を言わされたのが屈辱的だったかを理解していたからこそ、憤る浩二に、美月も、そのまま、正座で、座り直して、ハンカチを取り出して浩二に差し出しながらそう言うのである。


「聞きたいこと?」

「……なんで、そこまでしてくれるのかなって……聞いておきたいの…なんでかな?」


 浩二は、美月からハンカチを受け取ると、美月は真剣な表情で、そう浩二に、今までずっと抱いていた疑問をもう一度ぶつけるのである。そんな、美月から視線を逸らす浩二なのである。


「責任ってやつだぜ……こうなったのも、僕が勝手に美月ちゃんのファンクラブを作ったからだし……それに……美月ちゃんにはよくも知りもしねーのに、朝宮との仲に口を挿んだりして……しかも、あんな野郎を推薦するとは……僕は本当に馬鹿だったぜ!!」

「……本当にそれだけなのかな? それだけで、ここまでしてくれるはずないよね……お願い……本当の事を聞かせてくれないかな?」


 視線を逸らして語る浩二に、もう一度、美月は真剣な表情で同じ質問を投げかけると、浩二は美月の方を見て、観念した表情を浮かべるのである。


「……美月ちゃんがさ……僕の好きな人に似てたからって……言ったら、くだらないって笑うか?」


 観念した表情で、自虐的な笑みを浮かべながら、美月にそう告白する浩二を見つめる美月は首を横に振って否定するのである。


「ううん……笑わないよ」

「……本当にただそれだけだぜ……でも、それだけじゃない……本当に似ててさ……その好きな人……美月ちゃんみたいに可愛くてさ……人気者で……でも、悪い男に目をつけられて、付き合えって脅されて、拒否したアイツは……酷い目に……イジメにあった」


 そう言ってくれた美月に、浩二は今にも泣きだしそうな表情を天に向けて、語りだし、その言葉を静かに聞く美月なのである。


「……そう……なんだ」

「ああ……僕は、一つ上の学年でさ……何もしてあげられないどころか、気付いてすらあげられなかった……ずっと、傍にいたのにさ……それこそ、ずっと傍にいたのに……好きなことに夢中の僕は…アイツの変化気づきもしねーで……そして、アイツは、ついに学校に行けなくなっちまった」


 なんて言っていいのかわからずに相槌を打つことしか出来ない美月に、話を続ける浩二の声はどんどん、悔しさと後悔で震えて、かすれていくのであった。


「馬鹿だぜ……全く……部活に夢中になるあまり、周りの事が目に入らなくなって……だから、僕は、同じような美月ちゃんを見て……今度は助けるって、いや……ちげーぜ……あの時の自分が居たら、そんな目には遭わせなかったていうことを証明したかっただけなんだぜ……本当に下らねーぜ」


 だが、もう話だしたら止められないと、必死に声を振り絞り、悔しさと後悔を口にする浩二の話をただ、ひたすら黙って聞く美月なのであった。


「……そんなこと」

「いや……そんなことあるぜ……結局、僕はまた、周りが見えなくなっちまって、美月ちゃんにも細田にも……朝宮にも迷惑をかけちまったぜ」


 自分自身に心底呆れ果てている浩二に、否定の言葉を口にしようとする美月だが、お世辞はいらないとばかりに、自身の不甲斐なさを肯定して、そう謝罪の言葉を口にする浩二なのである。


「……だから、私の事をあんなに助けるとか守るとか言ってたんだね」

「ああ……朝宮の事も……勝手にあの悪い男と重ねて嫌ってた……まぁ、今も嫌いなんだけどよ」

「フフフ、郁人は悪い男か……たぶん、郁人とよく話せばわかるよ……郁人は良い人だって」

「かもな……美月ちゃん……マジですまなかったぜ!! 僕の贖罪につき合わせちまって……だから、今回のは詫びだ……全部ケジメをつけるぜ……美月ちゃんファンクラブも解散する……そのうえで、美月ちゃんに悪い男が言い寄らねーようにボディガードするぜ!! 細田だって、美月ちゃんの事心配してるみてーだしよ!! ていうか、最初から、こうすればよかったぜ」


 美月は、浩二の語る言葉から、今までの意味不明な浩二の行動を思い出して、なるほどと納得して、やっぱりこの人は馬鹿だなと思う美月は、笑顔で浩二に話しかけ、浩二もまた、笑顔で答えるのであった。


「ねぇ? なんで、ファンクラブ何て作ろうとおもったのかな?」

「……俺の好きな人がさ……学園のアイドルって言われててさ……ファンクラブがあったんだ……だから、もしも、あのファンクラブの奴らが、そいつから守ってくれたら……違ってただろって……これも自分勝手な考えだったぜ」


 そして、美月はこの際だから、何で浩二がファンクラブ何て作ろうと思ったのかを理由を聞いたら、そう話す浩二に、呆れる美月なのである。


「何それ……本当に自分勝手な考えだね……というか……私、そんな学園のアイドルなんて言われるような子じゃないけどね」

「それはないぜ……美月ちゃんは人気者だぜ……だからこそ、政宗みたいな変な奴に付きまとわれるんだと思うぜ」

「……そうなのかな? 確かに……永田くんにも迷惑かけられたしね」

「い、いや……それは、マジですまねーって思ってるぜ!!」


 美月は、浩二の話を聞いて、少し照れんながらも、自分に自信のない美月がそう言うと、浩二が自信に満ちた表情でそう断言すると、苦笑いで、浩二を非難する美月に、両手を合わせて謝罪する浩二なのである。


「ねぇ……永田君」

「……あ、あらまって……ど、どうしたんだよ!? 美月ちゃん!?」


 美月が浩二に向き直って、正面から真直ぐ見つめて、真剣な表情で浩二の名前を呼ぶと、戸惑う浩二もまっすぐ美月を見返すのである。


「ありがとう……絶対にリレー勝とうね」

「あ、ああ……絶対に勝とうぜ!! そして、美月ちゃんは美月ちゃんのやりたいようにやってくれ!! 僕は、細田と一緒に全力で美月ちゃんのサポートをするぜ!!」


 そして、笑顔でお礼を言う美月に、浩二も笑顔で返して、ガッツポーズで美月にそう宣言する浩二なのである。そんな浩二を見ながら美月は、意を決して先ほど疑問に思ったことを口にするのであった。


「ねぇ……永田君の好きな人って……今……」

「……今は家で引き籠ってる……妹なんだ……義理の」


 美月がそう浩二に聞くと、浩二は目を見開いて驚いた表情をしたものの、悲しそうな表情でそう美月に問いに答えるのであった。


「そっか……ねぇ……今度、その子に会ってみたいな……ダメかな?」

「い、いや……ダメって言うか……たぶん、会いたがらないって言うか……」

「……じゃあ、約束……全部上手く行ったらその子に会せて……私に似てるって言うから気になるしね」


 美月は浩二の話を聞いて、土下座までしてくれた浩二のために、何かお礼をしてあげたいと思って、もしも、本当に自分に似ているなら、その子の助けになれるかもと、自分にも引き籠りたくなった時期があるから、だからこそ、そう浩二にお願いする美月に、戸惑う浩二なのである。


 そして、強引に約束を取り付ける美月に、浩二は戸惑うものの、頭を掻きながら困った表情を浮かべるのである。


「……か、考えておくぜ……妹にも聞いてみないといけないしよ」

「永田くんって……シスコンだったんだね」

「……それは否定しねーぜ」


 真っ赤に照れながら、そう美月に揶揄われた浩二は、頬を掻いてまんざらでもない表情で、そうはっきり言うのである。そして、美月は、嫌いな彼の事が少し理解できて嬉しくなり微笑む美月なのであった。


 そして、美月は少し考えるのである。浩二に郁人の事であんなことを言われて、今も決して許してはいない美月だけど、彼の事を少しは理解することが出来て、納得することもできたのである。


 だから、あの時も、周りの事を理解しようとしたら、どうしてと問うことができたなら、何かが変わっていたのかと、しかし、すぐにその考えをやめるのであった。


 なぜなら、今の美月は、あの時から、必死に頑張った結果、人とここまで話せるようになったけど、昔の自分じゃ、どうあがいても、人と話すなんてできなかったのだから、それだけ、美月は本当にコミュ障で、人見知りの女の子だったのだから、この、もしもはあり得ないと、そう思ってしまう美月なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る