第208話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その54

 少し時間は遡って、ゆるふわ宏美が、颯爽と美月ちゃんファンクラブ部室から去って、まだ、あんな醜態をさらす前である。


「……しかし、朝宮が昔イジメられてたなんて信じられねーぜ……いや、逆に男子にあんなに嫌われてるわけだし……納得なのか」


 浩二は、美月ちゃんファンクラブ部室から、美月と一緒に外に出て、鍵を閉めながらそう独り言を呟くと、美月が、浩二の方を睨むとため息をつくのである。


「あ……いや、細田が言ってたことが信じられなくてよ!! 朝宮って、陽キャのリア充だろ……同級生にイジメられるとか信じられねーってか」


 美月に睨まれて、タジタジな浩二は、焦ってそう必死に言い訳を言うのだが、美月は浩二を睨むのをやめないのである。


「……そうだね……同級生なら……まだ、マシだったのかもね」

「……美月ちゃん?」


 ぼそりとそう呟くと、美月は浩二を置いて、教室に向かって歩き出すのである。そんな、美月の独り言に疑問を感じながらの浩二は、急いで美月の後を追うのであった。







 そして、美月と浩二が、7組教室に着くと、すでに政宗やリレーメンバーの陸上部の三人もすでに登校しており、何やら四人で話している様子で、クラスメイト達が美月と浩二の姿に気がつくと、ヒソヒソと話し出すのである。


「……んだ……感じわりぃな」

「……」


 浩二は、こちらを見てヒソヒソ話すクラスメイト達にそう独り言を呟いて、自分の席に向かうのである。美月も、浩二の後に続いて、無言で教室に入り、自分の席に向かうと、ヒソヒソ話の内容が少し聞こえてくるのである。


「夜桜さん、練習の強要とかウザイよね」

「何様って感じ」

「いるよね……ああいうやる気ありますってやつ」


 そう女子生徒からの悪口を聞こえないふりをして、自分の席に座る美月の元に、政宗がいつも通りの爽やかイケメンスマイルで挨拶しに来るのである。


「美月おはよう……美月、気にしなくても大丈夫だから、君の事は俺が守るから……安心してくれ」


 いきなり、そう言われて、美月は呆れ果てるのである。絶対に、郁人の噂や自分の噂を流したのはコイツだと思った美月は、政宗の方を見ることもせずに完全に無視するのであった。


「美月……そう言う態度はよくないな……そう言う態度だから、みんな、君の事を悪く言うのだよ……さぁ、きちんと、俺の目を見て挨拶をしようか」

「おい、政宗……てめぇ、美月ちゃんに何させようとしてるんだ!!」


 美月の机に手を置いて、窓の外を眺める美月の視界に無理やり割って入り、笑顔でそう言う政宗に、浩二が止めに入るのであった。


「また、浩二……君か……これは、幼馴染として、美月の態度を改めようとしているのだよ……悪いが部外者が邪魔しないでもらえないかい」

「政宗……てめぇ!! 美月ちゃんのファンクラブ会長としてそう言う行為は見逃せねーぜ!!」

「美月のファンクラブか……とはいっても、最近は全く意味をなしてないと思うけど……ファンクラブメンバーも減ってるみたいだしね……さっき、陸上部の彼も、抜けるって言ってたしね」

「はぁ!? んだと!?」


 浩二は、そう政宗に言われて、陸上部エースのリレーメンバー男子の方を睨むと、不機嫌にやれやれと言った様子でこう言うのである。


「いや……だって、美月ちゃんめんどくせーし……ていうか、可愛いの顔だけっていうか、性格うざいし……その点三橋さんとかの方がいいっすよ……それに、最近別にファンクラブいても、特に良いことないし」


 一部のファンクラブメンバー男子が陸上部一年エース男子を睨むが、少数の美月ちゃんファンクラブメンバーは気まずそうにしているのであった。


 浩二自身もそう言われると、最初は昼休みに食堂で食事したり、美月ちゃんとお話し会なんかをやっていたのだが、美月との仲が悪くなってから、何も活動していないことは間違っておらず、何も言い返せないのである。


「まぁ、そういう訳で、俺は抜けるんで、よろしくっす!!」


 浩二にそう言って、へらへらしている陸上部一年エース男子に、イラっとするが何も言い返せず黙るのであった。


「ほら、浩二……ファンクラブ何てもう、意味はないさ……今後は、君も、美月と話したいなら、幼馴染である俺の許可をもらってからにしてもらおうか……まぁ、君には美月に二度と近づけさせたりはしないけど……」

「て、てめぇ」

「……何で、永田君が私に話しかけるのに覇道君の許可がいるの? 意味わからないんだけど……」


 政宗が、悔しそうに黙っている浩二に、挑発するように嫌な笑みを浮かべながら、そう言い放つと、浩二は、政宗を睨みながらも、何も言えないでいると、今まで無言だった美月が、まさかの浩二の味方をするのであった。


「……美月……君は浩二の事が嫌いだったんじゃないのかい!?」

「……嫌いだけど……別に……話しかけるだけなら、許可なんていらないけど……というか、覇道君、最近馴れ馴れしいよね……正直、幼馴染ってだけで、そんなに慣れ慣れしくされても、困るんだけど」


 驚き、そう言う政宗に、美月は睨みながらそう言うのである。もちろん、美月の発言に瞳のハイライトをオフにして、不機嫌そうな表情になる政宗に、美月もまた、不機嫌な表情で対抗するのである。


「み、美月ちゃん!! 政宗……僕が悪かった……政宗、今度からは気をつけるから、許してくんねーか」


 あまりの険悪のムードに浩二は、そう言って美月を止めて、政宗に謝るのである。


「……浩二、その程度の謝罪では許されると思うなよ……美月も、誰の味方をするべきかは、よく考えた方が良いと思う……君を守れるのは俺だけなのだからさ」


 政宗は、浩二を睨んでそう言うと、美月にキザな笑みを浮かべながら、美月の顔を覗き込むようにそう言うので、美月は露骨に嫌な顔をするのである。


「……美月……まだそんな態度で……はぁ……このままでは、リレーやる気はでないな……なぁ、みんなもそうだろ?」

「そうっすね!! やる気出ないっすよ」

「だね……正直、やる気失くしたって言うか……どうでもよくなったよね」

「それそれ、まぁ、もう手を抜いて走ろうよ……別にリレーで本気にならなくてもいいしね」


 政宗は、そんな美月の方を真直ぐ見てそう言うと、7組リレーメンバーにも話を振って、政宗に同意する陸上部リレーメンバーの三人なのである。


 美月は、目を見開いて政宗の方を見ると、政宗は勝ち誇った表情でこう言うのである。


「リレーの結果は美月と浩二の態度次第さ……放課後にまた、話そうか……浩二もどうすればいいか考えておくんだ」


 そう言って去っていく政宗の方を悔しそうな表情で睨む美月に浩二は、ため息をついて、美月の方に真剣な表情をして、こう言うのである。


「美月ちゃん……この件は全て僕に任せてくれねーか……美月ちゃんは、ただ、口で謝るだけでいい……絶対にその他の行動はしないで……僕に全て任せてくれ……細田と……朝宮のためにも……頼むぜ!! 美月ちゃん」


 美月にしか聞こえない声で、そう言う浩二の必死さと、郁人の名前を出してまで、そう言う浩二に美月は、気圧され、首を縦に振って同意するのであった。浩二は、そんな美月に安心したような表情を浮かべた後に、政宗の方を睨むと、決意に満ちた表情で自分の席に戻るのであった。


(……私……本当に何をやってるんだろう)


 どんどん、クラスやリレー部メンバーとの関係が悪化していくのに、何もできない自分が悔しくて、自分自身に呆れ果てる美月なのであった。

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