第193話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その38

 美月達、7組のリレーの練習が上手く行ってない一方で、郁人達1組も、屋上でリレーのバトンの受け渡しをコソコソと練習しているのであった。


 しかし、こちらも、男子二名の方はやる気があまりなく、やる気満々の郁人や梨緒、そして郁人様親衛隊のおかっぱ娘に、ニコニコとゆるふわ笑みを浮かべながら参加しているゆるふわ宏美なのである。


 そして、応援とアシスタント担当の郁人様親衛隊の残り二人は、スマホのカメラで、みんなのバトンの受け渡しフォームを記録しながら、もう一人は、郁人の勇姿を必死にスマホのカメラに録画しているのであった。


「こんなことしても、勝てねーって」

「だな……さすがに陸上部いねーしな」


 フォームを確認して、改善点を指導する郁人に不満が溜まる男子生徒はそう愚痴を言うのである。そんな、男子生徒二人に、郁人様親衛隊のおかっぱキリングマシーンがすぐに反応するのである。


「一生郁人様推しの私の前で、弱音を吐くなんて許されない……死ぬ気でやれば勝てる!! そもそも、郁人様が居るのだから、私達の勝利は約束されてるの!! わかった?」


 男子二人に詰め寄って、そう捲し立てる郁人様親衛隊のおかっぱ娘にタジタジになる男子生徒二人は、コクコクと無言で首を縦に振るのである。


「大丈夫だ……必ず、バトンの受け渡しが上手くいけば、勝てるからな……俺を信じてくれ、佐藤」

「……いや、俺、佐城なんだが」

「……大丈夫だ、二人とも確実的に上手くなってるからな……特に、山田……さすがサッカー部だ……足も速いし、頼りにしているからな」

「山本だ!! 喧嘩売ってんのかテメェ!!」


 親衛隊のおかっぱ娘に脅されている男子生徒にフランクに話しかける郁人だが、コイツ喧嘩売ってんのかと怒られる郁人がさらに二人を怒らせないようにと慌てて、郁人の腕を引っ張ってその場から連れ出すゆるふわ宏美なのである。


「郁人様、何やってるんですか~? 人の名前を間違えるなんて怒られて当然ですよ~」


 そうゆるふわ笑みを浮かべながら、メッですよ~と注意するゆるふわ宏美に、ふむと考え込む郁人なのである。


「いや、俺なりに、二人と仲良くなろうとしたんだが……ダメだったか?」


 郁人が真剣な表情でそう言うと、ゆるふわ宏美のゆるふわ笑みが呆れた笑みに変わり、可哀想な人を見る目で郁人の事を見るのである。


「そうですよね~、郁人様はコミュ力低いですからね~……普通は、名前を間違えられたら~、大抵の人は怒りますよ~」

「そうなのか? 俺の知っている限りでは、意外とこう言ったジョークを繰り返し、仲良くなっていく展開が多い気がするが……」

「……郁人様……それ~、どこ情報ですか~?」

「俺がよく読んでる本はだいたい、そう言う展開が多いが……」

「……それって~、ラノベですよね~」


 ゆるふわ宏美は、美月から、郁人がよくラノベを読んでいることを聞いていた為、すぐにそう思い至って、自慢のゆるふわ笑みも引きつるのである。


「そうだが……何かおかしいか?」

「何もかもがおかしいですよ~」


 真顔でそう言い放つ郁人に呆れるゆるふわ宏美は、郁人様はボッチでコミュ力ないから仕方がないですね~と心底呆れながらも、ボッチを卒業しようと頑張っている郁人に何とかアドバイスしようと考えてあることを思いつくのである。


「いいですか~、郁人様……お友達を作る時は、まずは笑顔が大事ですよ~」

「……笑顔か」


 そう満面なゆるふわ笑みで郁人にアドバイスするゆるふわ宏美の笑顔を見て、顔をしかめる郁人なのである。


「な、何ですか~!? いいですか~、郁人様が笑顔で~、一緒に頑張ろうなって言えば~、大抵は何とかなりますよ~」

「……本当か?」

「本当ですよ~!! わたしぃを信じてくださいよ~!!」


 疑惑と疑念に満ちた表情の郁人に、ドヤ顔でそう言い放つゆるふわ宏美の、ゆるふわ笑みを見て、不安になる郁人だが、そこまで、ゆるふわ宏美が言うなら、やってみるかと、怒りの視線を向けている男子二人組に話しかけに行く郁人なのである。


「朝宮……また喧嘩売りに来たのか!!」

「細田とまた、イチャイチャしやがってよ!! いつもテメェ等のイチャイチャ見せられるこっちの方の身にもなってみろっての!!」


 野球部佐城と、サッカー部山本が、郁人に怒りと嫉妬をぶつけるのだが、その発言に、疑問顔の郁人なのだが、先ほどのゆるふわ宏美の発言を思い出して、笑顔を浮かべるのである。


「て、テメェ……なんだ、その余裕の笑みは……」

「クソ!! 彼女持ちが、彼女いない歴=年齢の俺達を見下してやがる!!」


 郁人の引きつった笑みを、嘲笑ととらえた二人は、悔しがるのである。


「大丈夫だ……頑張れば……何とかなるさ…一緒に頑張ろうな」

「テメェはそれ以上頑張るんじゃねーよ!!」

「学校中の女を自分の女にする気か!! ふざけるな!!」


 なんとか笑顔でそう言う郁人に、ブチギレる男子二人は、悔し涙すら流し始めるのである。そんな二人から、離れて、ゆるふわ宏美の方に、頭を掻きながら戻ってくる郁人は一言こう言うのである。


「ダメだったぞ……やっぱ、ゆるふわみたいな怪しい笑顔じゃダメなんだな」

「な、何てこと言うんですか~!! ていうか~、わたしぃの笑顔はダメじゃないですし~、怪しくもないですよ~!!」


 郁人が、やれやれと、ゆるふわ宏美にそう言うと、目を見開き、物凄い勢いで、郁人に怒るゆるふわ宏美なのである。


「そもそもですね~、いいですか~!! わたしぃを参考にしなくても~、いつも美月さんに見せるようなイケメンスマイルでいいんですよ~……わ、わたしぃの笑顔がダメではないですけどね~」


 そして、なんとか、落ち着きを取り戻して、ゆるふわ笑みを浮かべて、そう言うゆるふわ宏美は、最後の方だけ、小声になるのだった。


「いや……イケメンではないが……美月に見せる笑顔って言うのはよくわからないが…」

「目の前の相手が美月さんだと思って~、笑顔になれば完璧ですよ~」

「いや……それは無理だろ…」

「で、では~、た、試しに~、試しにですよ~……わ、わたしぃに笑顔で一緒に頑張ろうって~、い、言ってみてくださいよ~」

「ゆるふわにか……美月に接するように……難しい注文だが……やってみるか」


 なぜか、ソワソワと、両手の指をモジモジさせながら、顔を赤くして、チラチラ、上目遣いで郁人の方を見ながらそう言うゆるふわ宏美に、難しそうな表情を浮かべながらも、やる気の郁人なのである。


「……一緒に頑張ろうな」


 郁人は、美月に見せるような笑顔を何とか作って、そう言うと、顔を真っ赤になって、真顔のゆるふわ宏美に、感想を求めるのである。


「で……どうだ? ゆるふわ? こんな感じか?」

「え!? あ、はい~!! 完璧ですよ~!! 完璧な笑顔ですよ~!!」


 ゆるふわ宏美は、ハッと正気に戻り、普段通りのゆるふわ笑みを浮かべて、郁人を褒めまくるのである。そんな中、その様子を見ていた郁人親衛隊の三人娘がゆるふわ宏美に文句を言うのである。


「会長!! ずるいですよ!!」

「そうですわ!! 尊い郁人様に笑顔でそんなことを言ってもらえるなんて!!」

「郁人様の笑顔……一生推します!!」

「あ……いえ~、これはですね~!!」


 郁人とゆるふわ宏美の周りで、騒ぐ郁人様ファンクラブ親衛隊の三人娘に困るゆるふわ宏美は、何とか必死に言い訳を述べるのだが、その光景を、嫉妬と殺意の眼差しで見つめる男子二人組なのである。


「ごめんねぇ…二人とも……郁人君も宏美ちゃんも悪気はないから、許してあげてねぇ」

「いや……アイツらふざけてるだろ!!」

「絶対に喧嘩売ってるぜ!!」


 呆れた様子で今までのやり取りを見ていた梨緒が、そう言って怒る男子生徒二人の怒りを鎮めに行くのである。


「本当に許してあげてねぇ……郁人君も宏美ちゃんも……友達いないから、コミュニケーションの取り方が下手なだけなんだよねぇ」


 そう男子生徒二人にそう言い放つ梨緒の発言は、郁人とゆるふわ宏美の耳にも聞こえており、信じられないとばかりに、ゆるふわ宏美は、驚きの表情で梨緒と男子生徒達の方を見るのである。


「ま、待ってくださいよ~……い、郁人様はともかくですね~…わ、わたしぃも何ですか~!? し、心外ですよ~!!」


 梨緒の発言を全く気にしていない郁人とは違って、ゆるふわ宏美は、その発言は聞き捨てならないらしく、梨緒に詰め寄ってそう言うのである。


「う~ん……でも~、宏美ちゃんクラスにお友達いないよねぇ……いつも郁人君と一緒に居るし…あと、体育の時とか私が宏美ちゃんと一緒に組んであげなかったら……誰か他に組む人いるのかなぁ?」

「そ、それはですね~……そ、そうかもしれませんが~……で、でも、さすがにわたしぃはそこまでコミュ力低くないですよ~!!」


 梨緒に残酷な真実を突きつけられ、同意せざる負えない状況に追い込まれるゆるふわ宏美だが、まだ、敗北を認めないゆるふわ宏美に、梨緒は満面な笑みを浮かべてこう言うのである。


「確かに、宏美ちゃんは郁人君のファンクラブを運営しているけど……運営に関する話以外でファンクラブのメンバーと話をする宏美ちゃん見たことないよぉ……だいたい、部室でも一人だしねぇ」

「…………」


 そう梨緒に言われて、今まで見たこともないほどの絶望の表情を浮かべるゆるふわ宏美は、トボトボと郁人の所に行くのである。


「い、郁人様……り、梨緒さんがイジメます~!!」

「そうか……可哀想に……真実でもゆるふわにそんな事言うなよな……ぼっちにぼっちって言ったらダメだろ……ぼっちの俺達だって傷つくんだぞ」


 郁人に泣きつくゆるふわ宏美をよしよしとなだめながら、郁人は梨緒にそう言い放つのである。その発言に信じられないと郁人の方を見つめるゆるふわ宏美なのである。


「それはごめんねぇ……でも、二人でふざける郁人君たちも悪いんだよぉ」

「いや……ふざけてないんだが」

「ふざけてないですよ~」


 梨緒に呆れながらも、そう注意される郁人とゆるふわ宏美は、至って真面目なのである。そんな二人にやれやれと呆れる梨緒なのである。


「全く……でも、ゆるふわ……安心しろ……お前には、大事な大事な親友がいるじゃないか……俺なんか、友達一人もいないからな……ゆるふわ、お前は俺よりはマシだ……自信を持て」

「い、郁人様!!」


 そう言って、梨緒を睨んだ後に、傷心のゆるふわ宏美にそうドヤ顔で言い放ち、慰める郁人に感動するゆるふわ宏美だが、郁人の発言に男子生徒二人はドン引きなのである。


 そして、初めて男子生徒二人は、郁人に対して嫉妬でも殺意でもなく、憐れみの視線を送るのであった。

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