第187話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その32

 本日は、土曜日で学校は休みだが、美月はいつも通り早く起きて、自分の部屋から、窓の外を眺めていると、郁人が家から出て、ランニングに向かう姿を見つけて、心の中で、郁人に向けて行ってらっしゃいと言う美月は、一階のキッチンに向かい朝食の準備を始めるのだが、ハッと、昨日の夜のゆるふわ宏美との会話を思い出すのである。


「ど、どうしよう!? ひ、ひろみんの勢いに呑まれて…とんでもない約束してしまったよ!! そ、それに衣装の話なんかも……よ、よく考えれば…チア衣装着ても、私白組で、郁人紅組なんだから、応援できないし!!」


 美月はそう言って、一人叫んで恥ずかしさで悶絶するのである。そんな美月の奇行を、起きてリビングに来た母の美里に見られるのである。


「み、美月ちゃん? ど、どうしたの!?」

「お、お母さん!? お、おはよう…べ、別に何でもないから!!」

「な、なんでもなくはないでしょ? どうしたの? 悩み事でもあるなら、お母さん聞くわよ」


 相変わらず、帰りの遅い美月が心配な母の美里がそう言うと、あからさまに不機嫌になる美月なのである。


「……別に何もないから…」

「そ……そう…」


 美月に冷たくそう言われて、もう何も言えない母の美里は、いつも通り、ダイニングテーブルの自分の席に座るのである。


「み、美月ちゃん……今日も……雅人君の家庭教師だけど…」

「……わかってるから!! ちゃんと家庭教師やるから……郁人もどうせ、こっち来るでしょ……」

「そ、そう……み、美月ちゃん……その…い、嫌ならやめても…」

「だから、やるって言ってるでしょ!!」


 母の美里がそう提案すると、さらに機嫌が悪くなる美月なのである。それから、美月と母の美里は会話をしないまま、父の公人と妹の美悠が起きてきて、朝食を食べるのだが、朝から気まずい雰囲気の夜桜家なのであった。







 そして、お昼も、美月が不機嫌に用意した昼食を、またも、気まずい雰囲気で食べる夜桜家なのである。そして、美月は、後片付けをして、郁人の家に雅人の家庭教師をするために向かうのである。郁人の部屋に行く時と違って、あからさまにテンションの低い美月に、少し心配になる父の公人なのである。


 そして、美月が家を出ると、美悠の家庭教師をするために、美月の家のインターホンを鳴らすところだった郁人と鉢合わせするのである。


「美月……美月も今から、雅人の家庭教師か? お互い大変だよな……雅人の家庭教師終ったら、俺の部屋で待っててくれていいからな」

「郁人…うん、わかったよ……あ!?」

「どうした? 美月……お前…顔赤いぞ?」

「な、なんでもないから!! み、美悠のこと…よろしくね!! くれぐれも、変なことしたいでよ!!」


 美月は、郁人にそう言われて嬉しくなるのだが、昨日のゆるふわ宏美との約束したチア衣装の件を思い出して、恥ずかしくなる美月なのである。そんな、美月を心配する郁人に、美月は必死に誤魔化して、郁人に対して、厳しくそう言うのである。


「別に……勉強教えるだけだぞ?」


 そう、美月は、美悠の気持ちも、雅人の気持ちも知っているが、郁人だけが知らないのである。この家庭教師も、お互いの両親が、美悠や雅人の気持ちを知っていて、あえて、家庭教師などやらせたのだと思っている美月なのである。


「そうだね……普通に勉強を教えるだけでいいんだよね」

「?」


 ジト目で郁人を見ながら、鈍感な郁人に呆れる美月に、疑問顔の郁人なのである。しかし、美月も、美悠や雅人に言われなければ、二人の気持ちに気がつかなかったので、鈍感はお互い様なのだが、そんなことは忘れている美月なのである。


「とにかく、美悠には、注意してよね!! 私もきちんと気をつけるからね!!」


 美月にそう言われて、さらに疑問が深まる郁人なのである。妹や弟の勉強見るのに何を気をつける必要があるのかと悩む郁人は、ハッとある答えに行きつくのである。


「わかった……美月…俺、気をつけるな」

「い、郁人!!」


 郁人がやっと、美悠や雅人の気持ちに気がついてくれたのだと嬉しくなる美月だが、その後に続く言葉で絶望するのである。


「美悠ちゃん、勉強嫌いだからな…サボらせないように気をつけるから……雅人も、勉強嫌いだからな……お互い大変だよな」

「……郁人」


 もう、何を言っても、郁人はダメだし、この調子なら、美悠と二人になっても、何も起こらないだろうと、安心する美月だが、少しはこっちの心配もしてほしい美月は、少しムッとするのであった。







 そして、美月と別れて郁人は、美月の家を訪ねると、美月の母の美里が出迎えてくれるのである。


「郁人君…ごめんね…美悠ちゃんの家庭教師……今日もお願いね」

「美里さん、こんにちは……自分にできる範囲で教えますけど、本格的に受験勉強をするなら、やっぱり、塾とかの方が良いと思いますよ」

「……い、郁人君も…美悠の家庭教師やるのは嫌なの?」


 郁人は、本格的に受験勉強に取り組まなければならない美悠の事を思って、そう言うのだが、その発言を聞いて、美月の母の美里の態度が急変して、急に冷たくそう言われて郁人は、驚くのだが、すぐに否定するのである。


「別に嫌ではないですよ……もって美里さん言いましたけど…美月は嫌がってるんですか?」

「え!? それは……」


 今度は、郁人の方が鋭い目線で、美月の母の美里にそう質問すると、あからさまに動揺する美月の母の美里なのである。


「……まぁ、それはいいんですけど……さっきも言った通り、真面目に試験勉強に取り組むなら、俺や美月よりは、きちんと塾とか、本当の家庭教師などの方が良いかと思いますよ」

「いえ……郁人君に美悠ちゃんの家庭教師をしてほしいのよ」


 美悠の気持ちを知らない郁人からしてみれば、ごく当たり前の意見を述べているのだが、母の美里は美月が考えている通り、妹の美悠のために、郁人に家庭教師をお願いしたのである。そのため、他の家庭教師や、塾などは意味がないのである。


「今更ですけど、俺と美月で、二人の勉強を見るとかじゃダメなんですか?」

「それはダメよ!! 郁人君と美月ちゃんが二人でいたら、勉強を教えないで遊び始めるでしょ!!」

「いや……俺も美月も、そんなことしませんよ……むしろ、美悠ちゃんや雅人の方が遊び始める可能性高いと思いますけど…」


 郁人の提案を、必死に否定する美月の母の美里の言い分に疑問の郁人なのである。そして、美月の母の美里も、郁人が言うように、実の娘の美月や、幼馴染の郁人は真面目に勉強を教えるのもわかっているのだが、それでは家庭教師をさせた意味がないのである。


「とにかく、もうしばらくは、一対一で家庭教師をお願いできるかしら……その後に、郁人君の意見は考えてみるわ」

「そうですか……わかりました…じゃあ、美悠ちゃんは部屋ですかね?」


 郁人は、美月の母の美里の言動に疑問を感じながらも、美悠の家庭教師するのであった。

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