第178話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その23
郁人は、一階にある保健室まで、ゆるふわ宏美を運ぶと、保険の先生が不在のため、とりあえず、空きのベッドにゆるふわ宏美を寝かせるのである。
「おい……永田、これどうするんだ?」
「うううう~、ブギーマンが~、ジェイソンが~」
「ゆるふわ…うなされてるぞ」
悪夢にうなされるゆるふわ宏美を指さしながら、未だにホッケーマスクを被ったまま、仮面越しでもわかるほど、申し訳なそうにしている浩二らしき人物にそう言う郁人なのである。
「と、とりあえず、朝宮……僕はこんなイタズラをしてしまった訳だぜ……風紀委員として取り締まってくれ!!」
「だから、お前は、何を言っているんだ?」
郁人の肩を両手で掴んで、ホッケーマスクを被った顔を近づけて、必死にそう言うホッケーマスクを被った浩二らしき人物に、呆れ、困る郁人なのである。
「だから、僕を取り締まることで、細田や屋上の奴らから引き離して、美月ちゃんとこに行けってことだぜ!!」
「ああ……なるほど、そう言うことか……いや、だからって……これはやりすぎだろ…」
「ううううう~、郁人様~!! 助けて~!! マイケルが~!! ブギーマンが見てますよ~!! ジェイソンが~!! 帰ってきましたよ~!!」
ベッドで仰向けに寝ているゆるふわ宏美は、う~、う~、とうなされながら、寝言を発しているのである。
「それは、マジですまなかったぜ……でも、美月ちゃん待ってるんだぜ!! 早く行ってやってくれ!!」
「でも、誰かにゆるふわの事、頼まないと……仕方ない……あまり、頼みたくないが…」
ホッケーマスクの浩二と思われる男子生徒に、そう必死に頼み込まれるが、さすがに、今すぐ美月のところに行きたい郁人でも、ここにゆるふわ宏美を放置したままという訳にはいかないと、ポケットから、スマホを取り出して、ある人物に通話をかけるのである。
「い、郁人君!? 郁人君が私に通話かけてくるなんてぇ…珍しいねぇ……何かあったのぉ?」
「ああ……実はな」
郁人は、屋上で待っている梨緒に通話をかけて、先ほどの出来事を説明し、これから、浩二を厳重注意するために、別室に連れて行くことを説明し、ゆるふわ宏美の事を、梨緒に頼む郁人なのである。
「うん、わかったよぉ…みんなには私から説明しとくから、安心して、宏美ちゃんの事も任してくれて大丈夫だよぉ」
「あ……ああ、頼んだ」
かなり、上機嫌に全て引き受けてくれる梨緒に、困惑する郁人だが、梨緒は、単純に郁人に頼られて嬉しいだけなのであった。
「とりあえず、大丈夫そうだ……しかし、永田……お前が、俺と美月のために、ここまでやってくれるなんてな」
「別に朝宮……テメェのためじゃねーぜ! 美月ちゃんのためだぜ! それと、これは、細田のアドバイスだぜ」
「ゆるふわの? 永田……お前、ゆるふわの事も嫌ってなかったか?」
通話を終えると、最後に郁人はホッケーマスクを被ったままの浩二らしき男子生徒にそう質問するのである。
「別に嫌ってたって言いうか……信用できなかったってだけだぜ……まぁ、テメェの事は今でも嫌いだぜ」
「……そうか……じゃあ、ゆるふわの事は信用できるって事か?」
「……いや……わかんねーけど……まぁ、今はそれなりに信用してるぜ」
郁人は、そう言われて、未だにうなされているゆるふわ宏美の方を見て、微笑むのである。
「じゃあ、行くか……美月のところに」
「ああ……行こうぜ……朝宮」
そう言い合って、郁人と、ホッケーマスクを被った浩二らしき男子生徒は、保健室を後にするのである。未だに、ブギーマンが~、ジェイソンが~とうなされるゆるふわ宏美を置いて……。
そして、ホッケーマスクを被った浩二らしき人物を連れて、美月ちゃんファンクラブの部室前まで来る郁人達だが、道中物凄く目立っていたのである。
「おい……永田……本当に大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だぜ!! 風紀委員に怒られる覚悟で、始めたことだからよ!!」
「いや……そう言うことじゃなくてだな……まぁ、いいか」
正直、こんな騒ぎを起こして後始末が絶対に大変だと思う郁人だが、美月とお昼を過ごせるなら、まぁ、良いかとなる郁人なのである。
「じゃあ、僕は行くぜ……朝宮、入ったらカギ閉めて、出る時は絶対に、誰にも見つかるんじゃねーぞ!!」
「ああ……永田」
「……んだよ?」
「……ありがとな」
郁人はそう言って、ホッケーマスクを被ったまま、去って行こうとする浩二らしき男子生徒を呼び止めて、お礼を言うと、少しだけ振り向いた後に、手だけ振って、去っていく浩二なのであった。
(朝宮……美月ちゃんの事は頼んだぜ……テメェは、あの野郎とは違うって……信じたからよ)
浩二は心の中でそう呟き、美月ちゃんファンクラブの部室のドアが閉まる音を聞いて、やり遂げた表情を浮かべるのだが、未だにその顔はホッケーマスクで隠されていたのであった。
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