第177話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その22
浩二は、美月ちゃんファンクラブの部室の鍵を開けて、美月に部室の中で待ってもらって、本作戦の最大の難所である郁人連れ出し作戦に向けて、部室の中で準備するのである。
「じゃあ、美月ちゃん、行って来るぜ」
上機嫌な美月にそう言って、部室を後にする浩二は、屋上に向かう郁人とゆるふわ宏美の所に先回りするのであった。
「じゃあ、ゆるふわ……屋上に行くか」
「そうですね~、そろそろ行きますか~」
いつも通り、ゆるふわ宏美から、7組教室での美月の様子を聞いた後、屋上に向かう郁人と、その後について行くゆるふわ宏美なのである。本日、7組教室は異常に静まり返っているという報告を知って、本当に、今日の作戦大丈夫かと不安になる郁人は、とりあえず、美月を信じて、いつも通りのルートで屋上に向かうのである。
「……い、郁人様……な、何か視線を感じませんか~!?」
「いや、別に……と言うか、まぁ、いつも通り、何人かの生徒がこっちを見ているが……ていうか、どうした、ゆるふわ?」
急に何故か、震えだして、郁人に近寄るゆるふわ宏美に、疑問顔の郁人なのである。キョロキョロ辺りを見まわすゆるふわ宏美に、郁人も周りを見るが、いつも通り、廊下に居る数人の女子生徒がこちらを見ており、男子生徒からは、憎しみの視線を感じるのであった。
「ゆるふわ……いつも通り、男子から殺意の視線を向けられているが……何かヤバそうなのか?」
「い、いえ~、それはいつもの事じゃないですか~……そうじゃなくて~、何か嫌な視線を感じませんか~?」
「嫌な視線? 女子生徒がジッと俺の方を見てるが……それか?」
「それは、常にそうじゃないですか~、そうじゃなくてですね~」
ゆるふわ宏美は、郁人の制服の裾を握り締めながら、よくわからないことを言っているので、頭を掻いて困る郁人なのである。しかし、自分って、そんなにいつも誰かに見られているのかと、少し困惑する郁人なのであった。
「よくわからんが……とりあえず、行くぞ……ゆるふわ……ていうか、離れろゆるふわ……歩きにくいだろ」
「ま、待ってくださいよ~!! 郁人様!!」
ここで、ボーっとしている訳にも行かず、とりあえず、屋上に向けて歩き出す郁人に、ゆるふわ宏美は、郁人の制服の裾を放すことはなく、キョロキョロしながら郁人にピッタリくっついて歩くのである。
そして、屋上に向かう階段の前に着いて、階段をのぼろうとした時、ゆるふわ宏美の足が止まるのである。
「おい、ゆるふわ、突然止まるな……ていうか、制服を引っ張るな、伸びるだろ」
郁人そう言って、ゆるふわ宏美の方を見ると、何故か、カタカタと震え、恐怖の表情を浮かべているのである。
「おい……ゆるふわ? どうした?」
「ああああああ、あれ……あれですよ~!!」
「あれ? あれってなんだ?」
ゆるふわ宏美が、恐怖で震えながら、必死で指さす方を見ると、そこには、廊下で異常に目立っている白人顔の白塗りハロウィンマスクを被った人物が立っており、遠くから郁人達の方をジッと見ているのである。数人の生徒は、なんだあれと驚きの表情を浮かべるのである。
「……なんだ? あいつ……変なマスクつけてるな」
「ぶ、ぶぶぶぶ、ブギーマンですよ~!!!」
「はぁ? ブギーマン?」
ゆるふわ宏美は、今にも泣きそうな表情でそう言うと、郁人の腕を力いっぱい握り締めてくるのである。そして、ブギーマンはこっちに向かって歩き出すのである。
「ひぃ~!! こっちに来ますよ~!!」
「……来てるな」
「こ、殺されますよ~!! いやぁぁぁ~!!」
「お、おい、ゆるふわ!!」
こっちに向かって、白塗りマスクを被った男子生徒が歩いてくると、ゆるふわ宏美は、悲鳴をあげながら、郁人に抱き着くのである。
「郁人様!! 助けてぇ~!! ブギーマンですよ~!! 殺されますよ~!!」
「お、落ち着け、ゆるふわ、大丈夫だ……だから、とりあえず、離れろ……ていうか、痛いから、おい、ゆるふわ!? 聞いてるのか!!」
もはや、恐怖で錯乱しているゆるふわ宏美は、力の限りを尽くして郁人の腹周りにしがみつくのである。涙目であわあわしているゆるふわ宏美を何とか落ち着かせようとする郁人なのである。
「……」
「こっち見てますよ~!! いくとさぁまぁ~!! 短い間でしたが~、ありがとうございましたぁ~!!」
「落ち着け、大丈夫だからな……ていうか……お前誰だ?」
「だ、ダメですよ~!! 郁人様……ブギーマンには、郁人様でも勝てませんよ~!! 大人しく殺されるしかないんですよ~!!」
「とりあえず、ゆるふわは落ち着け……ブギーマンって、あれだろ、映画の殺人鬼の……とりあえず、大丈夫だから、たぶん、そのマスクをつけてるただの、生徒だから」
「いえ~!! あれは、マイケルですよ~!! わたしぃ達を殺しに来たんですよ~!!」
もはや、恐怖で泣き叫ぶゆるふわ宏美には何を言ってもダメなのである。とりあえず、他の生徒達から、物凄い目で見られていることに気がつく郁人は、一刻も早く、ゆるふわ宏美には離れて欲しいのである。
「……これだと……刺激が強すぎたみたいだぜ……ちょっと待ってろ」
「……今の声……永田か? あいつ……何してるんだ?」
ジッと、こちらを見ていた、白塗りマスクを被った男子生徒はそう言って、立ち去っていくのである。その姿を見ながら、そう言えば、美月がいつも通り、屋上に行けば、後は何とかなると言っていたが、作戦ってこれかと、みるみる、作戦内容に不安になる郁人なのである。
「い、郁人様!? ま、マイケルは~? ブギーマンはどこですか~?」
「いや、突然いなくなったぞ」
「ほ、本当ですか~!? まだ、どこかでわたしぃ達を見てるんじゃないですか~!!」
「大丈夫だから、とりあえず、離れてくれ……ゆるふわ」
「い、いえ~、まだ安心できませんよ~!! どこかで、わたしぃ達を見ているかもしれませんよ~!!」
ゆるふわ宏美は、恐怖で必死に閉じていた瞳を開いて、辺りを見まわして、郁人にそう聞くと、とりあえず、離れて欲しい郁人は、ゆるふわ宏美にそう言うが、まだ、安心できないと、郁人から離れないゆるふわ宏美なのである。
「とりあえず、よくわからないが……屋上に行くか……」
物凄く、廊下に居る生徒達に、見られている郁人は、早くこの場を移動したくてそう言うと、屋上に向かう階段を上りだすと、ゆるふわ宏美は、郁人にしがみつきながら、恐怖で顔を歪めて、涙目でキョロキョロ辺りを見まわしながら、郁人について行くのである。
「もう、大丈夫だから、とりあえず、離れろ、ゆるふわ…歩きにくいだろ」
「い、嫌ですよ~!! まだ、ブギーマンが居たらどうするんですか~!!」
「いや、どうするって言われてもな……」
涙を溜めた瞳で、郁人の事を上目遣いで見て、必死にしがみついて、泣き叫ぶゆるふわ宏美に、困り果てる郁人なのである。
「まぁ、とりあえず、もう大丈夫だから、一旦離れような……こんなところ、梨緒にでも見られたら面倒だからな」
「そ、そうですね~……でも、また、ブギーマンが居たら~」
「大丈夫だって、その時は、俺が何とかするから……な」
「そ、そうですよね~、もしもの時は~、郁人様が何とかしてくれますよね~」
郁人が、とりあえず、ゆるふわ宏美に離れて欲しくて適当に言った言葉を、心から信じるゆるふわ宏美なのである。今まで、散々な扱いをされてきたのに、何故か、郁人に対して、厚い信頼を寄せるゆるふわ宏美は、恐怖で涙目な顔を両手で拭いながら、郁人から離れるのである。
「ゆるふわ……お前、怖がりだったんだな」
「い、いえ~……こ、怖がりではないですよ~!!」
なぜか、あれだけの醜態をさらしても、郁人にそう言われて、必死に否定するゆるふわ宏美なのである。
「い、郁人様!! 先ほどの事は誰にも言わないでくださいね~!! と、とにかく、屋上に行きましょう~!! 梨緒さん達待ってますからね~!!」
そう言って、屋上の階段を先に上りだすゆるふわ宏美の後を追う郁人だが、突然ゆるふわひ宏美が、また、立ち止まるのである。
「おい、ゆるふわ……突然立ち止まってどうしたんだ?」
「あ…ああああああ」
カタカタと震えだすゆるふわ宏美の視線の先を見ると、階段の先には、今度はホッケーマスク被った男子生徒が立っているのである。
「……またか……おい、永田これはどういうこ……」
「きゃああああああ!!!! ジェイソンです~!! 郁人様助けて~!!」
郁人が呆れながら、ホッケーマスクを被った男子生徒に声をかけようとすると、ゆるふわ宏美が悲鳴をあげながら、そう言って、郁人に飛びついてくるのである。四段ほど階段を上っていたゆるふわ宏美は、踊り場で立ち止まっている郁人めがけて、無我夢中で飛びついてきて、郁人は倒れたら危ないと、必死に踏ん張るのである。
その結果、ゆるふわ宏美は、郁人の首にしがみつく形になり、郁人がその場で踏ん張ったため、ゆるふわ宏美は勢いよく、グルっと半周回って郁人の背後に回り込んで、首を絞める形になるのである。
「おい!! ゆるふわ、首締まってるから!!」
「きゃああああ!! 助けて~!! 殺さないで~!!」
郁人は必死に首にしがみつくゆるふわ宏美の手を掴んで、引き離そうとするが、物凄い力で、放してなるものかと、必死にしがみつくゆるふわ宏美なのである。身長が高い郁人と、身長が低いゆるふわ宏美だと、完全に首にしがみついているゆるふわ宏美の足は地面についていないため、ゆるふわ宏美の全体重が郁人の首に圧し掛かるのである。
「マジで、お前、俺、死ぬから、首を絞めるのやめろ……とりあえず、落ち着け、ゆるふわ」
「いやあああああ!! こっち来てますよ~!! 死んじゃいますよ~!! 郁人様、わたしぃ達死んじゃいますよ~!!」
「いや、俺、今お前に殺されそうだから……マジで放せ、ゆるふわ」
なんとか、力いっぱい首にしがみつくゆるふわ宏美に抵抗する郁人だが、もはや、パニックになった、ゆるふわ宏美の火事場の馬鹿力は物凄いのであった。
「お、おい……朝宮、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないから、ていうか、そのマスク外せ!!」
「いやぁぁぁぁぁ!! ジェイソンが喋った~!!!」
もうなんでも、悲鳴をあげるゆるふわ宏美なのである。ホッケーマスクを被った男子生徒が、郁人にそう声をかけると、郁人は、とりあえず、ゆるふわ宏美に落ち着いてもらうため、マスクを外せと言うのだが、一向に、その生徒はマスクを外す様子はないのである。
「それは出来ないぜ!!」
「なんでだよ!! いいから、ゆるふわが大変なことになってるから!! 外してやれって!! 後、このままだと、俺も死ぬから!!」
悲鳴をあげるゆるふわ宏美の声を聞いて、野次馬たちが集まってくるのである。さすがに、こんな醜態をさらすのはゆるふわが可哀想だと思う郁人なのである。そして、自分の命もかかっているので、必死なのである。
「いいから、朝宮……この姿は、風紀違反だぜ!! さぁ、僕を取り締まってくれ!!」
「お前は何を言っているんだ!? とりあえず、マスクをつけたまま、こっちに来るなって、ゆるふわがやばいから!!」
「いやぁぁぁぁぁ!! 助けて~!! ジェイソンが~!! ジェイソンが~!!」
郁人は、ゆるふわ宏美に耳元で泣き叫ばれて、耳がなくなりそうになるのである。
「マジで、ゆるふわヤバいから!! マスクを外せ!!」
「それは出来ねーぜ!! いいから、僕を取り締まれ!! あさみやぁぁぁぁ!!!!」
「やばい、やばい、それ以上近づいたら、ゆるふわマジでやばいから!!」
郁人がそう言って、ホッケーマスクの男子生徒を止めようとするが、男子生徒は止まるんじゃねーぞとばかりに、階段を一歩一歩ゆっくり下りてきながら、そう叫ぶのである。
「おい、ゆるふわ……ゆるふわ? 大丈夫か?」
いきなり、首の締まりが緩くなったと思ったら、ゆるふわ宏美がずるずると郁人の背中からずり下りていき、廊下に寝そべるのである。そんな、ゆるふわ宏美を心配する郁人が、寝そべったゆるふわ宏美を見ると、完全に気を失っているのであった。
「ゆるふわが死んだ!! いや……死んでないか…ていか、気失ったぞ……おい、これ、どうするんだ?」
ゆるふわ宏美を抱き起しながら、郁人は近くに来たホッケーマスクの男子生徒にそう言うと、男子生徒は、ホッケーマスク越しでもわかるほど困惑している様子なのである。
「どうするって言われてもよ……どうするよ?」
「いや……まさか、俺を連れ出すために、ここまでやるとは……さすがにゆるふわが可哀想だろ?」
「いや……わりぃ……まさか細田がここまで、ホラー苦手だったなんて知らなかったぜ」
郁人は仕方なくゆるふわ宏美をお姫様抱っこで抱えると、気絶したゆるふわ宏美を保健室に運ぶことにしたのであった。もちろん、ホッケーマスクを被った浩二も、そのまま、郁人について行くのであった。
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