第120話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その20

 郁人の家に着くころには、すっかり日も落ち始めて夕焼け空なのである。ムスッとした美月の表情が赤く染まるのである。


(こ……これは…相当怒っているな……とりあえず…家についたら土下座するか)


 郁人は美月のムッとしている表情をチラチラ見て、心の中でそう決意するのである。そんな、郁人と美月を不満気にジッと見て、無言でトボトボついて行く美悠なのである。


「美月達は……いったん家に帰るだろ?」

「………」

「……か、帰らないのか?」

「え!? 帰るよ」


 家の前についても、美月が手を放さないので、郁人が美月にそう聞くのだが、反応が鈍い美月なのである。もちろん、手を放さない美月は、ジッと郁人を不満気に見つめるのである。


「じゃあ……すぐに用意して、郁人の家に行くから」

「あ……ああ…待ってるな……美悠ちゃんもまた後でな」

「……うん」


 美月は、ジッと郁人を見た後に、そう言って、手を放して自分の家に小走りで走っていくのである。なぜか美悠まで少し不機嫌な感じで郁人を見て、美月の後を歩いてついて行く、そんな二人に郁人は冷や汗ダラダラなのであった。


(さて……どのタイミングで美月に土下座するかだな……なんとか、美月と二人きりになれればいいが…)


 郁人は土下座するタイミングを考えながら、家に帰るのである。いつも通り、ただいまと言って、手を洗面所で洗って、リビングに顔を出す郁人なのである。


「今日は、美月ちゃんたち来るのにどこに行っていたんだい?」


 父の晴人が、リビングの大画面で、ゲームをしている母の麻沙美のゲーム画面を見るのをやめて、郁人の方を見て、聞いてくるので、郁人はちょっとなと誤魔化すのである。


「美月達……すぐに来ると思うから…」

「……そう」

「も、もう来るのか!? 姉貴!?」


 郁人の発言に、不機嫌になる母の麻沙美と、なぜかソワソワ緊張している弟の雅人なのである。


「じゃあ、俺は部屋に行ってるから」


 そんな二人になんの疑問も抱かないまま、郁人はリビングを後にして、自分の部屋に向かうのである。郁人は、美月に土下座する事しか頭にないのであった。






 そして、しばらくすると、美月達が郁人の家に来るのである。いつも通り、美月が合鍵で郁人の家に入り、お邪魔しますと言って、リビングに来るのである。


「お邪魔します。今日はお世話になります」


 美月はそう言って、リビングに居る郁人の両親に頭を下げて挨拶するのである。美悠も美月に続いて、頭を下げる。


「美月ちゃん、来てくれたね…突然だけど、美月ちゃんにお願いがあるんだけどいいかな?」

「え!? なんですか?」


 郁人の父の晴人が、挨拶をする美月を快く迎えて、少し申し訳なさそうに話を切り出すのである。


「今日の勉強会なんだけど…雅人の勉強を見てもらえないかな? 雅人が時ノ瀬高校に行きたいらしくてね…どうかな?」

「え…えっと…も、もちろんいいですよ」


 戸惑う美月は、そう言って、仕方なく了承するのである。雅人は頬を掻きながら、少し嬉しそうにしている様子をジト目で見つめる美悠なのである。


「そうか…じゃあ、郁人の部屋で勉強するのかな?」

「え…えっと…そうだと思います」

「じゃあ、雅人も行っておいで」

「あ……ああ…よ、よろしく……姉貴」

「え…えっと、ま、任せておいてね……雅人君」


 そう言って、三人でリビングを出て、美月を先頭に郁人の部屋に向かうのである。


「あんたにしては、積極的じゃん」

「う、うるせーな……お前こそ…泊まりに来るなんて…兄貴に告白でもする気か!?」

「する訳ないでしょ……今はまだね」

「お前の方がヘタレだろ」

「誰がヘタレよ」


 この間の件を根に持っている雅人に、美悠はジト目で睨んで反論するのであった。小声で喧嘩する美悠と雅人に全く気がつかない美月は、やはりムスッと不機嫌な様子で、郁人の部屋をノックするのである。


「入ってきていいぞ」


 そう言われて、部屋に入る郁人は、雅人が居ることに疑問を感じるのであった。


「雅人…どうかしたのか?」

「え…えっと…姉貴に勉強見てもらいたくて……」

「そうか…勉強なら俺が見てやるぞ」

「い、いや……あ、兄貴はちょっと…そ、それに兄貴…み、美悠の勉強見るんだろ?」

「別に……二人とも俺が見てもいいが……まぁ、確かに美月が見た方がいいかもな」


 美月の方が頭がいいから、美月に勉強見てもらいたいのだろうと、特になんの疑いもしない郁人なのである。そんな郁人をジト目で見ている美月なのである。


「じゃあ、勉強するか」


 郁人がそう言うと、美月は床に座って、テーブルの前に勉強道具を並べだすのである。郁人の部屋のテーブルは小さいため、四方向にそれぞれ、一人座れるくらいの大きさで、郁人と一番近い場所に座る美月なのである。そうすると、雅人は美月の近くで、美悠は郁人の近くになり、必然的に、美悠と雅人は近くになるのである。


「み…美月…今日はそこでいいのか?」


 美月は郁人のベッドを背にした席の床に座っているのである。てっきりベッドに座るものと思っていた郁人が疑問を口にすると、美月にギロリと睨まれたため、黙る郁人なのであった。


(ど、どうするか…雅人も来てしまって……土下座するタイミング……さすがに、今だと、美月も困るだろう…やはり、二人きりにならないと…しかし、どうやって、美月と二人きりになるかだな)


 やはり、不機嫌にムスッとしている美月の方をチラチラ見る郁人は、美月が郁人の方を見てきたため、バッチリ目が合うのである。ジーっと郁人の方を見る美月に、視線を逸らす郁人なのである。


「なぁ…姉貴……機嫌悪くないか? お、俺居てもいいのか!?」

「ちょっとね……まぁ、いろいろあったんだよ……とりあえず、お姉ちゃんの怒りの矛先が向かないように祈っといた方がいいよ」

「マジかよ!?」


 無言で郁人の方をジーっと見ている美月に、冷や汗ダラダラで視線を逸らす郁人を見て、この勉強会大丈夫なのかと不安になる雅人と、お願いだから、お姉ちゃんの怒りがこっちに来ませんようにと天に祈る美悠なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る