第119話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その19

 なんとか、昼食を無事終えて、片づけで郁人と美月がキッチンに消えていく中、げっそりしている梨緒達なのである。とくに、梨緒は物凄く疲れた表情を浮かべているのであった。


 そして、その後、片づけを終えて戻ってきた郁人と美月はそれぞれ、郁人は美悠に、美月はゆるふわ宏美に勉強を教えて、何回か美月に不機嫌に睨まれる郁人だったが、午後は、なんとか平和に勉強することができたのである。


「じゃあ、俺達は先に帰るな」

「き、今日はありがとうございました」


 当初の予定通り、郁人は先に美悠と一緒にゆるふわ宏美の家を出るのであった。郁人様ファンクラブ幹部メンバーから、名残惜しそうに送り出される郁人と美悠は、苦笑いなのであった。


「……」


 残された美月だけが、幹部メンバー達の後ろで不機嫌に立って、ジト目で郁人と美悠を見ているのであった。ゆるふわ宏美は、郁人達を見送ってホッと肩を撫でおろすが、まだ、美月と梨緒達が家に居るために、気が抜けないゆるふわ宏美なのである。


 郁人が帰った事で、玄関の廊下がシーンとなるのである。緊迫する雰囲気の中、ゆるふわ宏美だけが、冷や汗ダラダラなのである。


(どうして~…美月さんが先に帰らないんですか~! あからさまに最悪の雰囲気ですよ~)


 これは、あらかじめ、決めていたことなのである。一緒に帰らずに、時間差で帰る方がいいとゆるふわ宏美が提案した時、美月自身が帰るのは後で良いと言ったのである。


「……」


 不機嫌な美月をチラリと見て、内心でどうしましょうか~と考えるゆるふわ宏美なのである。美月がなぜ、残ったのかわからないゆるふわ宏美は、心臓バクバクなのである。


「夜桜さん…夜桜さんは今日何で来たのかなぁ?」

「……」


 表情は笑っているはずなのに、目が全く笑っていない梨緒が、美月にそう尋ねるのである。美月は不機嫌に梨緒達の方を見ながら黙っているのである。


「……はぁ~…別に……誘われたから来ただけだけどね」

「そうなんだぁ……でも、よく来れたよねぇ……どうして、そんなに不機嫌になるってわかっていたのに来たのかなぁ?」

「……」


 あからさまに今日の美月は態度が悪かったのは言うまでもないのだが、梨緒が遠回しに美月にお前機嫌悪くて空気悪くしていたという言い方をするのである。


「……」

「黙っていてもわからないんだけどねぇ……今学校で夜桜さんの評判悪いよねぇ……いつもそう言う態度だからじゃないかなぁ?」


 そう言われて、美月が梨緒を睨むのである。しかし、郁人様ファンクラブ幹部メンバーVS美月だと多勢に無勢なのである。ゆるふわ宏美が心配そうに美月を見ているのである。


「三橋さん……私の態度が悪かったのはごめんね……でも、私の機嫌を悪くするようなことをする方も悪いと思うんだけどね」

「……」


 美月はそう素直に謝罪の言葉を述べるが、機嫌が悪くなるようなことするあなた達も悪いよねと反撃する美月なのである。そんな、美月の正論に梨緒は黙るのである。


「ねぇ……たぶんね…あなた達とは仲良くできないと思う……今日はっきり分かったんだよね……たぶん、私達は仲良くなれないって…まぁ、最初からわかってたんだけどね」

「どういうことかなぁ? 夜桜さん?」

「あなた達は私の事が嫌いで…私はあなた達が嫌いだからだよ……わかるよね?」


 そうはっきり言われて、美月を睨む郁人様ファンクラブ幹部メンバーなのである。もちろん、美月も彼女たちを睨むのである。


「それは…夜桜さんが私達と仲良くする気がないからですよね?」

「じゃあ、逆に聞くけど…本当に私と仲良くする気…あるのかな?」

「……」


 副会長の1組委員長がそう美月に言うのだが、質問を質問で返されて黙ってしまうのである。


「……でも、まぁ…今日はひろみんと勉強できたし…言いたいことはもう言ったから…私ももう帰ろうかな」


 黙る郁人様ファンクラブ幹部メンバーにそう言って、美月は、リビングに戻り、自分の荷物を持って、帰ろうと玄関に向けて歩き出すのだが、梨緒がそんな美月に立ちはだかるのである。


「夜桜さん…夜桜さんが嫌われる理由…本当にわかってるのかなぁ?」

「……うん…わかってるよ……でもね…ごめんね…そこは絶対に直す気はないから」

「……」


 美月は、真正面から梨緒の怒りの視線を、真剣な表情で受け止めて、はっきりそう言うのである。梨緒は無言で美月を睨むが、美月はそんな梨緒の横を通り過ぎて、郁人様ファンクラブ幹部メンバー達の間を通り抜けて、玄関に向かうのである。


「あ…あの~…美月さん」


 ゆるふわ宏美は、美月に声をかけるのである。正直、このまま、美月を返しては、決定的にみんなと溝ができてしまうと思ったゆるふわ宏美は美月を引き留めるのである。


「ごめんね……ひろみん…今日はありがとう…お邪魔しました」


 そんな宏美に、振り返ることなく、美月はそう言って、玄関の扉を開いて出て行くのである。ゆるふわ宏美は心配そうに、バタンと閉まる玄関の扉を眺めた後に、振り返ると、物凄く不機嫌な郁人様ファンクラブ幹部メンバーの姿が目に入るのである。


 そう、この時、もう、美月と梨緒達とでは、決定的な深い溝が出来てしまうのである。もはや、絶対に、この人達は仲良くなれないと確信したゆるふわ宏美なのであった。







 美月は、エレベーターを降りて、ロビーから外に出ると、郁人と美悠が待っていたのである。もちろん、ムッと郁人を不機嫌に睨む美月なのである。その美月の視線には色々な感情が込められているのである。


「み、美月…そのだな……今日はすまなかった!!」

「……」


 謝る郁人に無言の美月なのである。視線で郁人に怒ってますアピールする美月なのである。そんな、二人に冷や汗ダラダラな美悠は、正直、実の姉の怒りの矛先がこっちに来ませんようにと心の中で祈るのである。


「よ、よし…帰ろうか…今日は俺の家で勉強会だからな」

「……」


 無理にハイテンションでそう言う郁人は、無言の美月に乾いた笑みを浮かべながら、冷や汗ダラダラで歩き出すのである。


「郁人!!」

「な……なんだ!? 美月!?」


 歩き出す郁人を不機嫌な声で引き止める美月は、郁人を睨みながら、手を差し出すのである。首を傾げる郁人をジーっと睨む美月に、ハッとなる郁人は、美月の手を握るのである。


「……」

「じゃあ…か、帰ろうか」


 美月と恋人繋ぎで手をつなぐ郁人だが、やはり不機嫌な美月にタジタジなのである。そんな、郁人と美月をジト目で見る美悠なのである。美悠は、実の姉の美月が郁人と不機嫌に手をつないでいることが不満なのだが、自分に姉の美月の怒りの矛先が向けられるのを恐れて何も言えないのであった。


 そして、全く会話がないままに郁人の家に向かう三人なのであった。

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