第117話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その17

 美月があからさまに、私不満がありますと言う表情で郁人をジト目でジーっと見ているのである。そんな美月の視線に、もちろん気がついている郁人は、タジタジなのである。


(み、美月…あれは…相当怒ってるな……あ、後で、土下座プラス何か考えとかないと…とりあえず、今日…俺はリビングで寝るしかないな)


 今日は自分のベッドは美月に占拠されるだろうなと、遠い目でそう考える郁人なのである。そして、戻ってきた郁人は早々に、問題が起こるのである。


(美月のあの視線は……隣に座れと無言で言っているな……いや…しかし……さすがに、それは無理だ……いや…しかし、ここで美月の近くに座らないと…美月の機嫌がさらに悪く…まぁ、機嫌が悪い美月も可愛んだが…いやいや…それはダメだろ)


 郁人はリビングの扉に突っ立て、腕を組み難しい顔をして、そんなことを考えているのである。もちろん、物凄く注目されている郁人は、美月が、頬を膨らませて、私不機嫌だけど良いのと視線で訴えてくる美月の可愛さに、彼女の隣に行くことに決めた郁人なのである。


「さぁ…勉強を再開するか…お…ゆるふわ…お前は何を勉強しているんだ?」


 郁人はジト目で圧を放っている美月と、ニコニコ清楚笑みで、こちらを見ている梨緒に冷や汗ダラダラながらも、意を決して美月の隣に行くために、ゆるふわ宏美をダシに使うのである。


「い、郁人様~!! こ、こっちに来ないでくださいよ~!!」

「いや…そう言えば、ゆるふわ……お前には勉強教えてなかったからな」


 そう言いながら、さりげなく、郁人は、ゆるふわ宏美と美月の間に割って入って、さりげなく美月の隣をキープする郁人なのである。両手に花な郁人に、もちろん、周りの視線が物凄く冷たいのである。


「べ、別に私がひろみんの勉強は見てあげるから…郁人はいらないけどね」


 周りに睨まれながらも、郁人が自分の隣に来てくれたことを嬉しく思う美月だが、照れ隠しから、憎まれ口をたたいてしまうのである。完全に機嫌が戻ったわけではない美月なのである。


「そう言うなって…まぁ、美月が勉強見てあげてるなら、確かに俺はいらないかもだけどな」

「そ、そんなことないよ……い、郁人の方が頭いいし」

「そんなことないだろ…美月の方が成績良いだろ?」

「い、郁人の方が成績良いよね?」


 そう言って、滅茶苦茶周りからジト目で見られていることも気がつかずにイチャイチャする郁人と美月なのである。美悠は死んだ表情で、梨緒は完全にヤンデレモードで、郁人と美月を見ているのである。


「い、郁人様~!! わ、わわわわたしぃ~…もう全部わからないんですけど~!! どうすればいいですか~!!」


 最悪の空気を察して、ゆるふわ宏美が郁人にそう言い放つが、郁人様ファンクラブ幹部メンバーに一斉に睨まれるゆるふわ会長の宏美なのである。


「会長……会長は夜桜さんにわからないところは聞いてはどうでしょうか?」


 代表して、副会長の1組委員長が物凄い圧を放ちつつゆるふわ宏美にそう言い放つのである。郁人様親衛隊の三人娘もコクコクと同意して、ゆるふわ会長の宏美を睨むのである。


「……み、美月さん…お、教えてください~…い、郁人様は邪魔なのでどこかに行ってください~…あ、郁人様は妹さんの勉強見てあげてくださいね~!!」


 また、この二人イチャイチャしてと、死んだ表情で見ていた美悠の方を指さして、空気を読んだゆるふわ宏美は、郁人を美悠の隣に移動させようとするのである。


「まぁ、美悠ちゃんの勉強も見るけど……ゆるふわ…さすがに全部わからないはヤバいだろ……しっかり、俺達が教えてやるから…ほら、勉強するぞ」

「そうだね…ひろみん…勉強しようね」


 そう言って、郁人は美月にゆるふわ宏美の隣に来てもらって、郁人も、ゆるふわ宏美の隣に移動するのである。つまり、郁人と美月に挟まれるゆるふわ宏美なのである。


「いいいいいい、いえ~…大丈夫ですから~!! い、郁人様は妹さんたちの勉強を見てあげてください~!!」


 郁人と美月が空気を全く読まずに、ゆるふわ宏美に勉強を教えようとするのである。もちろん、両手に学園のアイドルのゆるふわ宏美は、殺気を込められて、一斉に睨まれる可哀想な状況に恐怖の涙目なのである。


「郁人君……ほら、美悠ちゃんがわからないところがあるらしいよぉ…今日は、妹に勉強教えるって言ってたよねぇ? ほったらかしにするのかなぁ?」


 ハイライトオフの瞳で郁人を見ながら、そう言う梨緒なのである。梨緒の放つ圧倒的な圧とド正論に郁人は、たじろぐのである。


「妹さん…連れてきたんだからぁ…ちゃんと面倒見ようねぇ…郁人君」

「そ、そうですよ~!! 郁人様~!! ほら、早く妹さんの所に行ってあげてください~!!」

「……そ、そうだな……悪い…美月…ゆるふわの事は任せたからな」

「…………別にいいよ…ほら、美悠の所に行ってこれば…」


 あからさまに、不機嫌にそう言う美月に、タジタジな郁人なのである。これは、美月行くなと言っているなと思った郁人だが、さすがに、美悠の所に行かないわけにもいかないため、仕方なく美悠の隣に移動する郁人なのである。


「お、お兄ちゃん!? い、いいの!?」

「あ…ああ…今日は美悠ちゃんの勉強見てあげるのが目的だしな」


 美悠は、超絶不機嫌にこっちを見ている実の姉の美月を見て、不安そうに郁人に尋ねると、問題ないと笑みを浮かべる郁人なのである。


(……ん? 今回の目的……そう言えば…美月を誘ったのって…梨緒達と仲良くなってもらうためで……いや…やっぱり、これは無理そうだな)


 超絶不機嫌にこっちを睨んでいる美月を見て、仲良しさん大作戦は難しいと判断した郁人なのである。なんだか、嬉しそうな美悠に、勉強を見てあげる郁人を、清楚なニコニコ笑顔で見ている梨緒なのである。


「美悠ちゃん…よかったねぇ…お兄ちゃんが優しくて」

「え…う、うん?」


 突然そんなことを言う梨緒に戸惑う美悠なのである。そんな美悠をニコニコ上機嫌の清楚笑みで微笑ましく眺めている梨緒なのであった。


「……ひろみん…そこ違うからね…もう一回解いてみようか」

「……は、はい~」


 美月は超絶不機嫌に郁人達の方を見ながら、ゆるふわ宏美に厳しく勉強を教えるのである。もちろん、ゆるふわ宏美は涙目で大嫌いな数学のさっぱりさ~な数式を解くのである。


 そして、しばらく勉強すると不意に、十二時も終わりに近い時間になっていることに気がつく郁人なのである。


「よし…そろそろ、昼ご飯の準備しないとな…ゆるふわ…台所借りていいか?」


 突然郁人が立ち上がりながらそう言うので、みんな、もうそんな時間かと、みんな勉強を止めて背伸びしたり、机に突っ伏したりして、それぞれリラックスするのである。


「はい~…別に構いませんけど~…郁人様が料理するんですか~? なにかデリバリーでも頼もうと思っていたのですが~」

「ああ……簡単に作れるモノだからな…材料も持ってきてるしな」


 郁人はそう言って、勉強道具を入れてきただけには少し大きいリュックを持って、キッチンに移動するのである。


「じゃあ、すぐに作ってくるから、みんなはその間休憩でもしていてくれ…美月行くぞ」

「…あ…うん」


 超絶不機嫌だった美月だが、郁人にそう言われて、不機嫌ながらも郁人の後について行ってキッチンに向かう美月なのである。


 もちろん、それを梨緒達が許すわけもなく、美月が行くなら自分も手伝うと立候補するのである。


「郁人君…私も手伝うよぉ」

「……や、やめておいた方がいいですよ……みなさん…料理できるんですか?」


 そう、立ち上がって、キッチンに向かおうとする梨緒達を真剣な表情で止める美悠なのである。シリアスに、両手を組んで口元を隠している美悠に、唾を飲み込む一同なのである。


「そ、それは…あ、あんまり得意ではないかなぁ」

「そうですね…料理は得意ではないですが」

「い、郁人様のために、頑張りたいですけど…料理はちょっと…」

「尊い郁人様のためでも…りょ、料理はその…」

「一生郁人様を推しますが……料理は…す、少しなら…」


 郁人様ファンクラブ幹部メンバー料理できる人ゼロ人なのであった。もちろん、ゆるふわ笑みを浮かべているゆるふわ会長の宏美が料理などできる訳がないのである。キッチンにある調理器具も、母親が自炊しなさいと買い揃えてくれたものの、ほとんど新品状態なのである。


「では…おとなしくしておいた方がいいです……お兄ちゃん…キッチンに料理できない人が来ると……物凄く不機嫌に怒り出します……私は前にそれで酷い目にあって以来…料理中のお兄ちゃんの居るキッチンには近づかないようにしています」


 物凄く、真剣に過去のトラウマを話す美悠に、チラリキッチンの方を見る一同は、物凄く真剣な表情で素早く料理する郁人と美月を見て、これは、近づかない方がいいと判断するのである。


「そ、そういうことなら…し、仕方ないから…ま、待ってようかなぁ」

「そ、そうですね…おとなしくしていましょう」


 郁人と美月が一緒に料理をしているのは気に食わない郁人様ファンクラブ幹部メンバー達だが、美悠の忠告を素直に受け入れて、おとなしくしているのであった。


「……よ、よかったです~…キッチンが血で染まらなくて~」


 ゆるふわ宏美は、郁人が美月をキッチンに連れて行った時から、心臓が止まりそうなほど緊張して、緊張のゆるふわ笑みを浮かべていたのだが、なんとか流血沙汰にはならなくてよかったと安堵するゆるふわ宏美なのである。


 しかし、この後、また、自分に不幸が訪れるとは夢にも思っていなかったゆるふわ宏美なのであった。

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