第116話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その16

 ニコニコ清楚笑みで美悠に勉強を教える梨緒に、幹部メンバー達も一緒になって美悠に話しかけて勉強を教えようとするのである。その光景をジト目で見ながら、不機嫌な美月は無理やり笑顔を作ってゆるふわ宏美の方を見るのである。


「ひろみん……大丈夫? わからないことがあったら何でも聞いてね」

「あ…あのですね~…美月さん~」

「何かな!? なんでも聞いていいんだよ!!」


 ゆるふわ宏美は、何とか郁人の所に美月を向かわせるために、勉強教えたいモードの美月に話しかけると、嬉しそうにグイグイ距離を縮めてくる美月なのである。


「え、えっとですね~」


 美月の勢いに気圧されるゆるふわ宏美は、チラリと梨緒達の方を見ると、みんな、美悠に注目が集まっており、みんなで勉強を美悠に教えている様子に、今しかないと思うゆるふわ宏美は美月の耳元で郁人の事を伝えようと思ったのである。


「美月さん…実は、郁人様が廊下で美月さんの事を待ってるんですよ~…廊下に行ってもらえませんか~?」

「……そうなんだ……でも、今はひろみんの勉強を見ないといけないから、郁人の事はいいよ」


 美月にそう伝えると、美月はムスッとした表情でそう言って、ゆるふわ宏美のノートを覗き見る美月なのである。


「ひろみん……全く問題解いてないよ!! 解き方がわからないなら教えてあげるね」

「あ…いえ~…み、美月さん!? い、郁人様が待ってるんですよ~…行ってあげてくださいよ~」

「行かない……そんな事より、ひろみん!! ほら、勉強するよ!!」

(郁人様の嘘つき~!! 美月さん全く廊下に行く気ないんですけど~!! どうすればいいんですか~!? あ……こういう時こそ…スマホがあるんじゃないですか~!!)


 大嫌いな数学を必死に教えてこようとする美月をどうにかしたいゆるふわ宏美は、郁人様のために、必死に美月を廊下に誘導しようとするが、全く移動する気のない美月なのである。


「ほら、ひろみん…問題解いてね」

「え…あ~…は、はい~」


 スマホで郁人に連絡をとりたいゆるふわ宏美だが、美月の勉強攻撃がそれを許さないのである。そんな中で、ニコニコ清楚笑みの梨緒が、美月とゆるふわ宏美の方を見るのである。


「二人とも仲良しさんだねぇ…フフフ、じゃあ二人はそのまま仲良くしててねぇ…郁人君が戻ってきたら、私達で美悠ちゃんに勉強教えてあげないといけないからねぇ」

「……好きにすればいいよ……ひろみん!! ほら、勉強するよ!!」

(郁人様、緊急事態発生…美月さんに郁人様が待ってると伝えましたが~、美月さんは移動する気がありません~。どうしましょうか~!?)


 梨緒が美月をそう言って挑発すると、一瞬美月は梨緒の方を不機嫌に睨みつけるのである。その瞬間にゆるふわ宏美は、郁人に高速のフリック入力でメッセージを送るのである。


「はぁ、はぁ……そ、そうですね~…はぁ、はぁ…で、では、勉強しましょうか~」

「…どうしたの? ひろみん…なんか疲れてない? 大丈夫?」

「だ…大丈夫ですよ~」


 なぜか呼吸が乱れているゆるふわ宏美を心配する美月なのである。ゆるふわ宏美は、一瞬でスマホにあれだけの文字を入力するという神技を披露して、疲れてしまったゆるふわ宏美なのである。


(あ……郁人様から返事がきました~……ど、どうやって~…スマホの画面を見ましょうか~)


 すぐに振動するスマホに返事がきたと思うゆるふわ宏美なのだが、完全に肩が触れ合う距離でピッタリとくっついてきて、勉強を教えてくる美月に、ゆるふわ宏美はスマホの画面を見ることができないのである。。


「ほら、ひろみん……ちゃんと勉強しないと中間試験赤点取るよ…ほら、問題解いて…解き方はね」

「あ~…美月さん…わ、わたしぃ数学はもういいので~…べ、別の教科がいいです~!!」

「……ひろみん」


 何とか美月の視線をよそに向けさせようとするゆるふわ宏美なのだが、美月は物凄く呆れた表情を浮かべるのである。


「まだ、一問も問題解いてないよね? ちゃんと勉強しないとダメだよ!! ほら、教えてあげるから、勉強しようね」


 美月に優しく怒られるゆるふわ宏美なのである。そう言われると、もう何も言えないゆるふわ宏美は、謎の文字列を見て、ゆるふわ宏美に吐き気と頭痛が襲ってくるのである。


(全部郁人様のせいですからね~…絶対許しませんよ~!!)


 涙目で、数学の問題をやらされるゆるふわ宏美なのである。その時、ゆるふわ宏美の恐れていた事態が起こるのである。


「お、お兄ちゃん……戻ってくるの遅くないかな?」


 美悠がチヤホヤされてまんざらでもない感じだったのだが、さすがに、郁人が居ないと、まだ、緊張してしまう美悠は、そう言ってはいけないことを言うのである。あからさまに、ゆるふわ宏美がしまったという表情を浮かべるのである。


(ま、まずいですよ~!! 学園のアイドルがトイレ長いなんて~……幻滅モノですよ~!! どどどどどど、どうにかしないといけません~!!)


 焦るゆるふわ宏美は、何とか誤魔化そうとするのだが、美月がさらに爆弾発言をするのである。


「郁人お腹の調子でも悪いんだよ……そんな事より、勉強しなさい…美悠」


 美月は、不機嫌に実の妹の美悠を睨んでそう言うのである。ゆるふわ宏美は、美月の方を驚愕の表情で見るのである。


(な、何てこと言うんですか~!! 美月さん!! それは思っても、言ってはいけないことですよ~!!)


 心の中で美月に絶叫のツッコミを入れるゆるふわ宏美は、ハッとなり、スマホを見るなら今しかないと、スマホの画面を見るゆるふわ宏美なのである。


(えっと~…何々~? ゆるふわなら問題ない……何とか美月を連れてきてくれ? 無理ですから~!? 郁人様無理なんですよ~!!)


 ゆるふわ宏美は、無理です~、戻ってきてください~と返事を返すのである。もちろん、トイレが長い疑惑がかけられてますよ~と郁人に注意を促すゆるふわ宏美なのである。


(あ…郁人様から返事が~……えっと~…お腹の調子が悪いという事にしてくれって~!! だから~!! それがダメって言ってるんですよ~!! いいから、戻て来てください~!!)


 ゆるふわ宏美は怒りの返事を郁人に送り、ため息をつくのである。そんなことをしている中、やはりヒソヒソと郁人のトイレに関する話題が出始めるのである。


「郁人君……本当にトイレに行きたかったのかなぁ…悪いことしたなぁ」

「お兄ちゃん…大丈夫かな? あ、後で謝らないと…」


 トイレを我慢させていたと思い込んでいる美悠と梨緒がシュンと落ち込んで反省しているのである。その声で、幹部メンバー達も郁人の体調を心配する声をあげるのである。しかし、一人だけ全く心配していない人物が声をあげるのである。


「ほっとけばいいよ……どうせ、すぐ戻ってくるから」


 美月だけが、冷たく呆れた感じでそう言い放つのである。もちろん、郁人様ファンクラブ幹部メンバー達はそんな美月を睨みつけるのである。


「い、郁人様になんてことを言うんですか!?」

「尊い郁人様にそんな言い方…許せませんわ!!」

「一生郁人様推しに、そんな言い方戦争しますか!?」


 そう声を出して怒り出す郁人親衛隊の三人娘なのである。そんな、三人をギロリを睨みつける美月なのである。


(まずいですよ~!! また、最悪の雰囲気に~!! 郁人様~!! 早く戻ってきてください~…って、郁人様から返事が~…えっと~、とりあえず、トイレに居るから任せたゆるふわ……いから戻て来てください~!! 郁人様~!!)


 今にも戦争が始まりそうな雰囲気に、呑気にトイレに籠ってないで~早く戻ってきてください~とSOSの返事を送るゆるふわ宏美なのである。


「夜桜さん…先ほどから少し態度が悪くないですかね?」

「別に…普通だけどね」


 副会長の1組委員長にそう睨まれながら態度が悪いと注意される美月は、不機嫌に普通と言い放つのである。


「そっちこそ……態度悪いと思うけどね」


 そして、美月も負けずに言い返すのである。態度が悪いことに関しては確かにお互い様なのである。


「夜桜さん……私達は前も言ったと思うけどねぇ…夜桜さんとは仲良くしたいと思ってたんだよねぇ」

「それ…絶対嘘だよね……言い方が嘘くさいんだよね」


 清楚笑みを浮かべてそう言う梨緒に、間髪入れずにそう返す美月なのである。もちろん、梨緒が美月と仲良くしたいと思う訳もなく、ただ、ゆるふわ宏美と美月をくっつける為の方便なのである。


「フフフフ、嘘じゃないよぉ…本当に夜桜さんとは仲良くなりたいと思っているんだけどねぇ」

「嘘つきはみんなそう言うんだけどね…嘘じゃないって」


 清楚なつくり笑みを浮かべる梨緒を、超絶不機嫌に睨みつける美月なのである。バチバチの二人のやり取りに、美悠は恐怖でガタガタ震え、ゆるふわ宏美も冷や汗ダラダラなのである。


「お、お兄ちゃん…早く戻って来てよ!!」

「郁人様…早く戻ってきてくださいよ~!!」


 郁人に早く戻ってきてと願う二人の思いが通じたのか、通じないのかはわからないが、リビングの扉がガチャリと開いて、郁人が現れるのである。


「……す、すまない…お、お腹の調子が悪くてな……さぁ、勉強を再開しようか?」


 今にもキャットファイトを始めそうな美月と梨緒は、戻ってきた郁人の方を見るのである。みんなから、視線を向けられる郁人は、冷や汗ダラダラで苦笑いを浮かべながらそう言い放つのであった。

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