第111話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その11

 ゆるふわ宏美に連れられて、エレベーターに乗り、鍵を差し込んで操作するゆるふわ宏美に緊張する郁人達三人なのである。


「ここ面倒なんですよね~…鍵ないとエレベーター動かせないんですよね~来客もフロントで申請しないとエレベーター使えないんですよ~」

「そ……そうなんだな」


 フロントにコンシェルジュが滞在して、まるでホテルみたいなタワーマンションに驚く郁人達なのである。


「ゆ…ゆるふわ…結構上の方に住んでるんだな」

「あ……そうですね~…最上階の方ですね~…普通に借りられる階では~一番上なんじゃないですかね~」

「そ、そんな事よりですね~……わたしぃの家に入る順番なんですが~」


 最上階の方に向かうエレベーターの中で緊張気味な郁人に、あっさりそう言い放ち、真剣な面持ちでゆるふわ宏美は、郁人達を見てそう話を切り出すのである。


「いいですか~? まず、わたしぃが入ります~、次に郁人様で~…その次に妹さんで~、最後に美月さんでお願いしますね~」


 そう言って、エレベーターが止まり、扉が開いて一番最初に降りてビシッと三人に言い放つゆるふわ宏美に、疑問顔の郁人達なのである。


「私!! 私が二番がいい!!」

「美月さん…それはダメですよ~!!」

「というか…順番何てどうでもいいだろ」


 美月が二番目がいいと右手を勢いよく挙げて、ぴょんぴょんしながら、立候補し、どうでもいい郁人に美悠はコクコクと首を縦に振って同意するのである。


「ダメですよ~!! 順番は重要ですよ~…美月さん…いいですか~…美月さんはRPGってやりますか~?」

「え…うん…やることあるよ」

「いや……美月だいたい、俺にやらせ……いや、美月やるよな…うん」


 堂々とRPGをやる宣言をする美月にツッコム郁人なのだが、美月にキッと睨まれて、同意する郁人なのである。実際はほとんど郁人にプレイさせて見る専門の美月なのである。


「いいですか~…では、美月さん…RPGの隊列は後方の人の方が敵に狙われにくいんですよ~…つまり、大切なメンバーは後方に配置するんですよ~…わたしぃも郁人様、美月さんのことが大切だから~一番最後なんですよ~」

「え!? 郁人…ひろみん…そんなに私の事が大切なの!?」


 そう言われて顔を真っ赤にして照れながら、喜ぶ美月に、呆れる郁人なのである。ちなみに美悠ちゃんは完全に状況について行けないで、置物と化しているのであった。


「……ゆるふわ…もっともらしいこと言ってるだけで…実際は…」

「郁人様…余計なことは言わなくていいのですよ~」


 完全に、ゆるふわ宏美が、たった数秒でも梨緒達と美月が会うのを遅らせるための提案と悟った郁人が真実を言おうとするが、ゆるふわ宏美がゆるふわ笑顔で止めるのであった。


「いいですか~、わたしぃがまず入りますね~…次に郁人様で~…妹さんで~…最後に美月さんですからね~…みなさんリビングにいますから~…その順番でいきますよ~」


 最高の有無を言わせないゆるふわ笑みでそう圧力をかけるゆるふわ宏美に、仕方なく納得する郁人と美悠なのである。美月だけが、一人嬉しそうには~いと素直に返事をするのである。


「では、行きますよ~……いいですね~」

「ああ…いいぞ」

「ほ、本当に行きますよ~……良いんですか~?」

「え!? うん…いいよ…ひろみん」

「……本当に~、本当に~、いいんですか~!?」

「いや……いいから、行くぞ……覚悟を決めろ…ゆるふわ」


 自分の号室の前について、扉の前で渋りまくゆるふわ宏美に呆れる郁人なのである。


「どうなっても知りませんからね~!!」


 そして、ついにゆるふわ宏美の家に入る郁人達なのである。中から、梨緒達の喋り声が聞こえてきて、滅茶苦茶表情が強張る郁人とゆるふわ宏美に対して、美月と美悠はキョロキョロと周りを見回して、これがタワーマンションなのかと感動するのであった。


「……あ…ゆるふわ…まず手を洗わしてくれないか?」

「あ…私も…ひろみん洗面所どこかな?」


 今から、リビングに向かおうとするゆるふわ宏美にそう言い放つ郁人と美月なのである。


「……わかりました~…洗面所はそこですよ~…でも、郁人様はダメですからね~…ほら、行きますよ~」

「おい…ゆるふわ…待て…俺も手を洗いたいんだが…」


 家に入ると手を洗いたくなる郁人と美月なのである。ゆるふわ宏美は、これは好機と、美月だけを洗面所に案内して、先に郁人と妹の美悠をリビングに連れてくことにしたのである。無理やり、洗面所に行こうとする郁人を引っ張ってリビングに連れて行くゆるふわ宏美なのである。


「あ…郁人君来たんだねぇ…私も迎えに行くって言ったんだけどねぇ…宏美ちゃんが一人で行くって言うからぁ」


 リビングで、テーブルを囲んで盛り上がっている梨緒達と対面して、引きつった笑みを浮かべる郁人なのである。梨緒は、郁人がきたことに気がつくと清楚な笑みを浮かべて郁人の所に来るのである。


「あ…ああ…みんなもう来てたんだな」

「勿論です!! 万が一にも郁人様をお待たせできませんから!!」

「尊い郁人様のためなら、何時間でも待つ覚悟はできてますわ!!」

「郁人様を一生推すために、郁人様を一生待つ覚悟です!」


 重いことを言う郁人様親衛隊の三人娘は仲良く三人で並んで座っていたのに、郁人が来ると同時に起立して、直立不動でそう言い放つのである。


「いいいい、郁人様…す、すみません…もう少し早く来て待つべきでした!!」


 副会長のクラス委員長もオロオロと動揺しながら、立ち上がって、頭をペコペコさせながら、そう言うのである。


 そんな、女の子たちの様子を郁人の背後から見ていた美悠はドン引きなのである。


「え…お兄ちゃん…ど、どういうことなの!?」


 困惑する美悠を見つけて、委員長がすぐに美悠の元にかけつけ挨拶するのである。それに続く三人娘たちと梨緒なのである。


「あああああの…ここここちらが…いい妹さんですか?」

「あ…いや…そのだな」

「郁人君の妹なんだねぇ…そうなんだねぇ…私、三橋梨緒って言うのよろしくねぇ」

「え!? あの……私…」


 みんな一斉に美悠にそう話しかけるのである。ニッコリ清楚笑みで美悠にそう挨拶をする梨緒に困り果てる美悠なのである。


「お、お兄ちゃん…ど、どうい…えっと…まって…あの…」

「流石は郁人様の妹さんです!!」

「尊い郁人様の妹なだけに、尊さを感じますわ」

「一生郁人様を推すためにも、妹さんも一生推しますね」


 そう三人娘に捲し立てられて困る美悠は、必死に郁人に助けての視線を向けるのである。幹部メンバーに次々に話しかけられて、人見知りの美悠はオロオロするのである。美悠は、みんなに引きつられて、ここに座ってと長テーブルの奥に案内され、言われるがままに座って、みんなに囲まれるのである。


「そう言えば…郁人様の妹さんって~…あんまり郁人様に似てないですよね~…どちらかと言うと美月さんに似てる気がしますね~」


 連れ去られて包囲されている美悠を見ながら、ゆるふわ宏美は、冷や汗ダラダラな郁人に対してそう言うのでる。


「……それは…そうだろ」

「……………ま、まさか~…え!? う、嘘ですよね~!?」


 郁人がボソリと放った一言で全てを悟ったゆるふわ宏美は、ゆっくり郁人の方を驚愕の表情で見て、そして、囲まれて、チヤホヤされてる美悠を見て、焦りのゆるふわ笑みを浮かべるのである。郁人もゆるふわ宏美を冷や汗ダラダラなのである。


「ど、どどどどどうするんですか~!? と言うか~何で言わないんですか~!?」

「いや…ゆるふわ…お前…美悠ちゃんと挨拶してただろ?」

「しましたけど~……え? いえ、わたしぃ名前しか聞いてませんよ~!! それに、郁人様の妹とわたしぃも思っていましたし~」

「……え?」

「え? じゃないですよ~…どうするんですか~!?」

「どうすればいいと思う? ゆるふわ?」


 もはや、郁人の妹という事になっているこの状況で、実は美月の妹など言える訳もなく、困る郁人とゆるふわ宏美なのである。しかし、一番困っているのは囲まれて、次々と話題を振られ、郁人の妹にされてしまった美悠なのである。


「お、お兄ちゃん…た、助けて…」

「あ…お前等…美悠ちゃん困ってるから…」


 とりあえず、囲まれて助けを求める美悠を助け出す郁人なのである。美悠はすぐに郁人の元に駆け寄り、郁人の背中に隠れて、怯えているのである。


「お、お兄ちゃんどういうことなの!?」

「ど…どういう事なんだろうな」


 困惑する美悠に、困り果てる郁人なのである。そんな様子を兄妹愛素晴らしいと、うっとりと眺めている郁人様ファンクラブ幹部メンバー達なのである。


「あ…ひろみん……私を置いてかないでよ」


 そんな中で、リビングの扉の前に立ち尽くしていたゆるふわ宏美に、そう手を洗い終えた美月が話しかけるのである。


「……」

「……」

「……」

「……」

「え!? 何どうしたの?」

「さ、さぁ…ど、どうしたんだろうな?」


 今まで騒がしかった郁人ファンクラブ幹部メンバーと梨緒が急に静かになり黙るのである。物凄く空気が重くなり、その様子に困惑する美悠と冷や汗ダラダラな郁人なのである。


「……あ…みなさん……言い忘れてましたけど~…今日は美月さんも参加する事になりまして~…な、仲良くみんなでお勉強しましょうね~」


 冷や汗ダラダラなゆるふわ笑みでそう重い空気が漂う中で、みんなにそう言い放つゆるふわ宏美なのである。


「そ、そうだな…じゃあ、勉強始めるか…な…ゆるふわ」

「そ、そうですね~……さぁ、勉強始めましょうね~」

「と…いう訳で俺は…手を洗って来るな…後は頼んだ…ゆるふわ」

「……逃がしませんよ~…郁人様!!」


 そう言って、手を洗いにリビングから出て行こうとする郁人の服を掴んで逃がさないゆるふわ宏美なのである。


「放せ…ゆるふわ…俺は本当に手を洗いに行きたいんだ」

「ダメですよ~!!」

「わ、私も手を洗いに行こうかな」


 そう言って、あまりの場の空気の悪さを察して美悠は洗面所に向かって逃げ出すのである。


「俺も行かせてくれ」

「ダメですよ~…この雰囲気どうにかしてからにしてくださいよ~」


 超絶不機嫌な美月と、なんでここにお前がいるんだよと言う瞳で見つめる郁人様ファンクラブ幹部メンバーとの睨み合いを見て、そう言うゆるふわ宏美なのである。


「……ゆるふわ…任せた」

「絶対に逃がしませんよ~!! 郁人様~!!」


 郁人はゆるふわ宏美を引きづって、洗面所に向かい歩き出すのである。必死にしがみつくゆるふわ宏美は、絶対に郁人を逃がす気はないのであった。


「……夜桜さん」


 梨緒がそうぼそりとつぶやくと、ニッコリ清楚笑みを浮かべるのである。それに、美月もため息をついて、ぎこちない笑みを浮かべるのである。


「……今日はよろしくね」


 美月は、郁人ファンクラブ幹部メンバーに睨まれて、梨緒に清楚な作り笑いを浮かべられる中でそう、嫌そうに言い放つのであった。


 ついに、恐ろしい勉強会の幕が開けるのであった。そんな中、郁人とゆるふわ宏美は、洗面所に行く行かせないの攻防を繰り広げるのであった。

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