第110話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その10

 ゆるふわ宏美に教えてもらった住所に向かう郁人達は、どんどんその場所に近づくにつれて表情が青ざめていくのである。


「ねぇ…お兄ちゃん…やっぱり、あそこなんじゅないかな……こ、これ、たぶん絶対そうだよ」

「い、いや……まだ決めつけるのは早計だ…あのゆるふわが…そんな訳…」

「…………」


 美月だけ黙っているものの明らかに緊張している様子なのである。郁人の手を握る力も強くなるのである。


「……いや…絶対そうだって…お、お兄ちゃんのクラスメイトの人って…お金持ちなんだね」

「いや…まて、まだ、そうと決まったわけじゃない」


 頑なに認めない郁人なのである。そう、郁人達は、いわゆるこの高級住宅街の中の一番高いタワーマンションに向かって歩いているのである。ゆるふわの家がまさか、タワーマンションだとは思っていなかった郁人なのである。


「と、とりあえず、ゆるふわ宏美から……マンションの前についたら連絡してと言われたが……」

「……ひろみんの家ってここなんだね…す、すごいね」

「あ……ああ」

「お、お姉ちゃん…し、親友なのに知らなかったの!? ほ、本当に親友なの!?」


 驚きながらも、姉の美月をディスる美悠を凄い形相で睨む美月に、たじろぐ美悠は郁人の影に隠れ、美月も動いて美悠を睨もうとして、美悠は郁人の影に隠れるを繰り返して、郁人の周りをチョロチョロする二人に困り顔の郁人なのである。


「と…とりあえず……やはり、ここみたいだし……ゆ、ゆるふわに連絡するから、二人とも大人しくしていてくれ」


 郁人の周りで、チョロチョロかくれんぼを繰り広げる美月と美悠にそう言って、スマホを取り出す郁人なのだが、美月は美悠を睨むのを止めないので、美悠も隠れるのを止めないのであった。


「美悠……許さないからね…絶対だよ」

「お、お姉ちゃん…そ、そんなに怒らなくてもよくない!? ほ、本当のこと言っただけじゃん」

「…み…ゆ…今なんて!?」


 美月がわなわなと震えて、美悠に怒りを示すのである。さすがにまずいと思った美悠は、恐怖で震えるのである。


「ゆ…ゆるふわか? いちよ…着いたには…着いたんだが……ほ、本当にここなのか? ここタワーマンションだろ?」

「あ…そうですよ~……というか…やっぱり来たんですか~!! ど、どうするんですか~!?」

「いや…ゆるふわ…お前に全て任せただろ……場はあったまっているか?」

「……今は別の意味であったまってますよ~!! 今から、別の意味であったまるんじゃないですかね~!!」

「そうか…ゆるふわ……美月が来るって伝えてくれたんだな」

「伝えてないですよ~!! と、とりあえず、わたしぃが迎えに行きますから…そこで待っててくださいね~」


 そう言って、通話を切るゆるふわ宏美なのである。しかし、やはり、ゆるふわは伝えることができなかったかと困り果てる郁人は冷や汗ダラダラなのである。


「美悠…いいからこっち来なさい!!」

「嫌だよ…お姉ちゃん…本当のこと言われて怒らないでよね!!」

「……み、美月とりあえず、美悠ちゃんと喧嘩するなら、俺の手を放してからにしてくれ…」

「それは嫌!! いいから、美悠……こっち来なさい!!」

「絶対嫌だから」


 美月は郁人の手を握ったまま、美悠を捕まえようとして、美悠は郁人の影に隠れるので、郁人はくるくる回されるのである。


「や、やめろって…目が回るだろ…と、とりあえず、落ち着け二人とも」


 姉妹喧嘩の中心にいる郁人は目を回しながら、二人を止めようとするが止まらない二人なのである。そして、そんなことしているとゆるふわ宏美がタワーマンションから出てくるのである。


「すみません~…お待たせしました~…あ…そちらが妹さんですか~」

「あ…ああ…」

「初めまして~…細田宏美です~…よろしくお願いしますね~」

「あ…は、初めまして…み、美悠です」


 満面なゆるふわ笑みで挨拶するゆるふわ宏美に人見知りを発揮する美悠なのである。正直、美悠は少し人見知りなところがあるのである。


「で…どうするんですか~…郁人様…帰るなら…今のうちですよ~」

「え!? 様!? お、お兄ちゃん!?」


 ゆるふわちびっこ美少女が郁人の事を様呼びしていることに驚く美悠なのである。そんな美悠に、しまったと思う郁人なのである。


「ひろみん!! 早く行こうよ…ひろみんの家楽しみだよ!!」

「み、美月さん…い、良いんですか~!? そ、その、り梨緒さん達もいますよ~」


 ゆるふわ宏美は、郁人の手を握りしめたままに、急かす美月に最終確認をするのである。


「……いいから、早く行こう…ひろみん」


 全く目が笑っていない笑顔を浮かべる美月に、ゆるふわ苦笑いを浮かべる宏美は、困ったように郁人を見ると、郁人は、美悠から、疑惑の眼差しを向けられており、頬を掻いて困っているのであった。


「どうかしたんですか~? 郁人様?」

「あ…やっぱり、様って!?」


 美悠がゆるふわ宏美の、郁人様発言に過剰反応するのである。それに対して、郁人はゆるふわ宏美を睨むのだが、何が悪いかよくわかっていないゆるふわ宏美は、ゆるふわ疑問顔で小首を傾げるのである。


「ゆるふわ…お前な」

「な、なんですか~!?」

「ゆるふわ……その前から思っていたんだが…その様呼びやめてくれないか?」

「それは無理ですね~…わたしぃに死ねって言うんですか~!?」

「いや…なんでそうなるんだ?」

「これは仕方ないんですよ~!! そんなことより、郁人様…本気で行くんですか~!?」


 美悠に、お兄ちゃんクラスメイトの子に様って呼ばせているのと言う疑惑の視線に、心が痛くなる郁人は、チラリと美月の方を見ると、早くゆるふわ宏美の家に行きたくてうずうずしている美月が視界に入るのである。


「あ…ああ…見ろ…美月の表情を…美月は……行く気満々だ」

「い、いえ~……それが怖いんですけどね~……仕方ないですね~…では、行きますか~…地獄に~」


 郁人とゆるふわ宏美の会話を怪訝な表情で見ていて美悠なのである。美月も、険しい表情を浮かべて、殺伐とした雰囲気に困惑する美悠なのである。


「では~、行きましょうか~」


 もはや諦めの表情でゆるふわ宏美は、物凄く重い足取りで郁人達を引き連れて、今から地獄となる我が家に向かうのであった。

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