第108話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その8

 土曜日の詳しいことは、ゆるふわ宏美と梨緒に任せて、郁人は放課後に美月を誘うことになるのだが、いざ誘うとなると緊張する郁人なのである。重い足取りで帰る郁人は、いつも通る公園の前に美月が立っているのを目撃するのである。


「美月? 何しているんだ?」

「い、郁人!? あ…えっとね…そのね……い、郁人の事を待ってたんだよ!!」


 郁人がそう声をかけると、美月は嬉しそうに小走りで郁人の所に走ってきて、少し恥ずかしそうにそう言うのである。


(……よし、土曜日は美月とずっと一緒に居るか)


 あまりの美月の可愛さに、一瞬で決意が揺らぐ郁人なのである。甘えてくる美月に郁人はメロメロなのである。


「み、美月…そ、そうか…じゃあ、一緒に帰るか」

「う、うん!!」


 美月は郁人にそう言われて超嬉しそうな最高の笑顔を浮かべるのである。郁人の腕に抱き着いてくる美月に、郁人は内心では心臓バクバクなのである。


「今日も郁人の家に行くね」

「ああ…待ってるからな」


 郁人は全てを忘れて、美月の天使の微笑みに癒されるのだが、決して問題が解決したわけではなく、美月と美悠を土曜日の勉強会に誘わなければならないのである。


「……あ…美月……土曜日の事なんだがな」


 ハッとそのことに気がついた郁人は、唐突にそう土曜日の話題を出すのである。


「土曜日だよね!! 楽しみだよね!! 郁人の家にお泊りだよ!!」

「あ…ああ…そうだな」


 テンションマックスの美月は、物凄く楽しみにしている様子で、最高に上機嫌なのである。こんな美月に、土曜日ゆるふわの家で梨緒達と勉強会をやろうとは、言えない郁人は複雑な表情なのである。


「郁人? どうかしたの?」


 何とも言えない表情の郁人に対して、美月は首を傾げて疑問を浮かべた表情でそう郁人に言うのだが、郁人は頭を掻いてどうしたものかと困り果てるのである。


「その…郁人は土曜日…楽しみじゃないの?」

「楽しみだな!! うん!! 美月とずっと一緒に居られるしな」


 しょぼんとして、不安気な美月に、郁人はすかさずそう言って誤魔化すのだが、美月は不満気で不安気なのである。


「……郁人なんだが…今日変だよね? どうかしたの?」

「い、いや…なんでもないぞ…いや…なくはないが…」


 疑惑の眼差しで郁人にそう言う美月に対して、キョドリまくる郁人なのである。


「……郁人…私に何か隠し事してるよね?」

「あ…えっとだな…いや……そういう訳じゃなくてだな……土曜日なんだが……ゆるふわとだな…その…」

「ひろみん? え!? もしかして、ひろみんとも一緒にお勉強するの!?」

「あ…ああ…まぁ…そうなんだが」

「ひろみんも来るんだね!! えへへへ、それなら、そうはっきり言ってよね!!」

「あ…美月…そのだな」

「えへへへへ、楽しみだよ」


 郁人の発言で、最高にハイテンションで喜ぶ美月なのである。しまったと後悔するが後の祭りなのである。どんどん言いにくい雰囲気になるまま、家にたどり着いてしまって、最高のハイテンションの美月と別れる郁人は、困り果てて家の中に入るのである。






 そして、家に帰った郁人は、自分の部屋で頭を抱えて美月が来るのを待つのである。さらに誘いにくい状況になってしまいさらに、美悠まで誘わなければならないのである。


 しかし、何も作戦を思いつかないままに、美月が部屋に遊びに来るのであった。美月は郁人の部屋に入るなり、郁人のベッドにダイブするのである。


「えへへへへ、土曜日楽しみだね」


 そう言いながら、郁人の枕をギュっと抱きしめてゴロゴロしだす美月に、頬を掻いてどうするべきかと悩む郁人なのである。


「あのな…土曜日なんだがな……美月…美悠ちゃんとだな」

「美悠がどうかしたの?」

「そのだな……ゆるふわの家にだな」

「ひろみんの家? ひろみんの家に行くの?」

「あ……ああ…そうなんだ…美月」


 美月は上半身を起こして、郁人の枕を抱きしめながら、疑問顔でそう言うのである。


「でも……郁人の家に泊まるんだし……ひろみんを郁人の家に呼んだ方がいいんじゃないかな?」

「いや……それは…ゆ、ゆるふわがな…勉強が苦手でな……ゆ、ゆるふわ主催の勉強会が土曜日にあるんだが…そこに美月と美悠ちゃんも一緒に来て欲しいらしいんだ」


 勝手にゆるふわ宏美主催という事にする郁人なのである。


「そうなんだね……そっか…じゃあ、ひろみんの家に行こうよ」

「あ……それとだな……その……ゆるふわ以外にも参加者がいてだな」

「……そうなんだね……それって…誰なのかな?」


 先ほどまでとは違い美月の表情がみるみる不機嫌になるのである。ジト目で郁人を見つめる美月に郁人はタジタジなのである。


「……1組のクラス委員長とかだな」

「ふ~ん…後は?」

「えっとだな……仲が良い三人グループの子達とか」

「……それ以外は?」

「……最後は…そのだな……三橋梨緒なんだが…」

「………………………………………………………………………………………」


 長い長い沈黙が続くのである。美月はなんとなく察していたのだろうメンバーを聞くたびに美月の機嫌は悪くなり、最後には梨緒の名前を出すと、郁人の枕を力いっぱいに抱きしめて、ジト目でじっと郁人を見ているのである。


「も、もちろん嫌なら、断ってくれていいんだぞ…美悠ちゃんにも聞かないといけないしな」

「…………」

「美月……そうだよな…嫌だよな…よし、この話はなかったことにしような……土曜日は俺の家で勉強会を三人でしような」

「………行く」

「そうか……行きたくないか…俺から、ゆるふわ達に言っておくな」

「行くよ…美悠は私が誘っとくね」

「よし、今からゆるふわにれん……え?」

「だから、行くよ…その勉強会…私も行くからね」


 美月はそうはっきり、戸惑う郁人に言い放つと、ボフンと不機嫌にベッドに横になるのである。郁人の枕を力いっぱいに抱きしめて、ふて寝する美月なのである。


「そ……そうか…わかった…ゆるふわには俺から伝えておくな」


 美月の予想外の行動に戸惑う郁人は、メッセージでゆるふわ宏美に美月も参加とだけ送るのであった。もちろん、このメッセージを見たゆるふわ宏美は絶望の悲鳴をあげたのは言うまでもないことなのであった。

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