第97話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その22

 ゆるふわ宏美は、果てしなく困り果て、考えるのである。右を見れば、梨緒率いる郁人様のファンクラブのメンバーで、左を見れば美月の後ろに、美月のファンクラブメンバーの男子生徒が集まっており、廊下にいる生徒数は異様なのである。


「ととととと、とにかくですね~…み、美月さん…ひとまず、7組教室に戻られてはどうですか~?」

「……ごめんね…ひろみんのお願いでも…それは無理だよ……私はいく…」


 また、美月が余計なことを言おうとしたため、口を封じにかかる宏美を、男子生徒達と浩二と政宗が威圧するのである。ビックと恐怖で体を震わせて、美月からゆっくり離れるゆるふわ宏美なのである。


「……美月さんいいですか~…前に言ったと思いますけど~……学校では、おとなしくですね~」

「ごめんね…ひろみん……やっぱり、私はいつでも、いく…」


 梨緒に、視線で応援され、男子生徒達に威圧される中、郁人と発言しようとする美月の口を、勇気を出して、再度塞ぎにかかるゆるふわ宏美なのである。


「貴様…美月に馴れ馴れしい!! 離れろ!!」

「…覇道君は黙ってて…宏美ちゃん!! 頑張って!!」


 美月にひっつくゆるふわ宏美を、怒鳴りつける政宗に対して、怒りの声をあげる梨緒は、宏美を応援するのである。


「会長!! 頑張ってください!!」

「会長!! てぇてぇですよ!!」

「会長!! 私は良いと思いますよ!!」


 女子生徒達が一斉に、ゆるふわ宏美に声援を送るのである。その声援に対して、みるみる顔が真っ赤になるゆるふわ宏美なのである。


「ななななな、何言ってるんですか~!! りりりりり、梨緒さん!? まさか~」


 わなわな、恥ずかしさで震えるゆるふわ宏美に、親指を立ててドヤ顔の梨緒なのである。その様子を美月は疑問顔で見て、政宗と浩二は険しい表情で、ゆるふわ宏美を睨むのである。


「貴様等……何を企んでいる?」

「そうだぜ…美月ちゃんに何かしたら許さねーぞ!!」


 そう声をあげる政宗と浩二に、男子生徒達も、美月ちゃんは俺が守ると、声をあげだすと、女子生徒達も、会長の邪魔するなと声をあげだすのである。もはや、廊下はカオスな状況なのである。


「え? 何? ひろみん? どうなってるの?」

「わ、わたしぃが聞きたいですよ~!!」


 あまりの異様な光景に、キョロキョロ周りを見回して、困惑する美月は、目の前の宏美に素直に疑問を口にするが、真っ赤になって、絶叫するゆるふわ宏美なのである。


 声援を送る女子生徒達と、罵詈雑言を送る男子生徒達に挟まれる美月とゆるふわ宏美は、困惑しだすのである。


「男子達は、早くどっかに行って!! 会長の邪魔しないで!!」

「男子禁制の花園なのよ!!」

「女子共!! 何企んでやがる!!」

「変なこと教えようとするんじゃねー!!」

「僕は良いと思うなぁ」


 両サイドがわーわー騒いで、好き勝手言っている中、政宗と浩二が美月に近寄るのである。


「美月…いい加減帰ろう…さすがにこの状況はまずい」

「ああ…美月ちゃん……7組教室に戻ろうぜ」

「……だから・・・帰りたいなら勝手に帰っていいよ!! 私には構わないで!!」


 美月が、イケメン二人にそう冷たく突き放す発言に、周囲が一瞬静かになるのである。そして、周囲のヒソヒソ話が始まるのである。


「え? 美月ちゃん……永田さんや覇道さんと仲いいんじゃねーの?」

「喧嘩か?」

「覇道とは幼馴染だろ?」

「何かあったのか?」


 男子生徒達はそう言い始め、三人は勝手に仲が良いものと思っていた為、動揺が走るのである。


「夜桜さん…何様なの?」

「もう、攻略した男子はどうでもいいってことかしら?」

「やっぱり、郁人様には近づけてはダメね!!」

「私達で郁人様をお守りしないと!!」


女子生徒達は嫉妬と恨みの発言をしだして、一丸となって郁人守りたいモードに入るのである。


「あ…ああ~…ま、まずいですよ~!! み、美月さん…とりあえず、落ち着いてください~!!」


 騒ぎが大きくなりだす中、1組教室から、女子生徒達の声が聞こえてくるのである。


「郁人様!! 待ってください!! 行ってはいけません!!」

「ああ~!! 郁人様尊い!! でも行ってはいけませんわ!!」

「郁人様~!! 一生推しますから!! ここで、待っていてください~!!」


 そして、女子生徒達の壁の後ろから、郁人が声をかけるのである・


「何があったんだ?」

「郁人君!? なんでぇ!?」

「い、郁人!!」


 梨緒が、郁人の登場に動揺しだすが、すぐに、冷静になり、郁人の方を向く、美月は、女子生徒の壁越しでも、郁人に会えたことが嬉しくて、郁人に声をかけるのである。


「郁人君…教室に居てって…私…言ったよねぇ!!」

「いや…ここまで、騒ぎが大きくなると、そういう訳にはいかないだろ……とりあえず、そこ、通してくれないか?」


 女子生徒の鉄壁の壁越しに、郁人と梨緒はそう会話するのである。郁人の登場に、男子生徒達に緊張が走り、政宗と浩二は険しい表情を浮かべるのである。


「貴様…また、お前が何かを企んでるのか!?」

「おい!! 細田!! これもてめぇの仕業か!!」


 ゆるふわ宏美に、そう言って詰め寄る政宗と浩二なのである。イケメン二人に詰め寄られて、恐怖で首を左右に振って否定する宏美に、すぐに駆け寄り、宏美を守るように、間に入る美月なのである。


「美月・・・そこをどいてくれないか?」

「ひろみんをイジメるのは許さないよ!!」

「美月ちゃん!!」

「……」


 キッとイケメン二人を睨みつける美月に、やはり、完全に仲たがいをしたと確信する周囲なのである。逆に、宏美と美月の仲の良さが周知されるのである。


「会長!! いけますよ~!!」

「会長!!! 頑張って!!」


 自分たちのために、ゆるふわ宏美を応援する女子生徒達なのである。そんな中でも、郁人と梨緒は会話を続けていた。


「いいから…ここを通してくれないか?」

「それは、ダメだよぉ!! いいから、郁人君は…教室に戻ってくれないかなぁ…夜桜さんの事は、宏美ちゃんに任せて大丈夫だからねぇ!!」

「いや…とりあえず、ゆるふわにも、用事があるから…」


 そう言うが、女子生徒達は、郁人を絶対通さないように、みんなで両手を広げて通せんぼするのである。


「夜桜さんの事は、会長に任せて大丈夫!!」

「郁人様は何も心配いりませんよ!!」


 そう女子生徒達に捲し立てられる郁人は気圧されるのである。絶対に通さないという女子生徒達なのである。


「いいから…美月!! もう、我儘言わないで!! 戻ろう!!」

「何!? 我儘って!! だいたい、我儘なのはあんたでしょ!!」


 美月を、怒鳴り、早く連れ帰ろうと詰め寄る政宗に、声を荒げる美月なのである。ゆるふわ宏美はオロオロしだして、役に立たないのである。興奮しだす美月に、さすがにまずいと思う浩二は、政宗の肩を掴んで落ち着かせようとするのである。


「政宗…落ち着けって…さすがにまずいぞ」

「み、美月さん…落ち着いてください~!! と、とにかく、教室に戻りましょうよ~!! もう、この状況では無理ですよ~!!」


 そして、怒る美月に、後からぎゅっと抱き着いて、説得に入るゆるふわ宏美なのである。


「いいよぉ!! 宏美ちゃん!! 頑張ってぇ!! 郁人君…とにかく、今、宏美ちゃんが頑張ってるからぁ…郁人君は、おとなしく教室に戻っててくれないかなぁ」

「梨緒…何を言ってるかわからないが……とりあえず、ゆるふわも困ってるだろ」


 女子生徒達の壁から、わずかに見える美月とゆるふわ宏美のやり取りに対して、そう言う郁人に、女子生徒達は一丸になって大丈夫と言い張るのである。


 女子生徒達の鉄壁な壁越しに、心配そうに美月とゆるふわ宏美を見る郁人なのである。


(くそ…ゆるふわ…すまない…美月の事は頼んだ)


 自分は、この壁を超えることはできないと悟り、全て宏美に託すしかない自分の不甲斐なさと情けなさに、拳を握り締めて、悔しい思いを噛み締める郁人なのである。


 そんな郁人の視線に気がつく、ゆるふわ宏美は、気合を入れなおすのである。ここで、自分が踏ん張らないと、頑張らないと、また、あの時みたいなことになると、ゆるふわ宏美は、いつになく真剣な表情を浮かべるのである。


「美月さん……見てください~…郁人様も…心配していますよ~…さぁ…戻りましょうよ~…大丈夫ですよ~…放課後になれば~…一緒に居られるんですから~…それに、美月さんと郁人様の絆は本物ですよ~」


 そう美月を抱きしめながら、美月にしか聞こえないように言うゆるふわ宏美に、美月は、女子生徒達の壁の向こうにいる郁人を見て、心が痛むのである。悔しそうな郁人に、美月も悔しくなるのである。変わらない関係、いつも通りの日常・・・でも、今は、郁人との、学校での距離は、壁を挟んでの関係であると言われているようで、変わらない関係などないと言われているような気がする美月なのである。


「……そうだね…うん…仕方ないよね…ひろみん…ごめんね」


 美月はそう言って、ニッコリゆるふわ宏美に笑いかけて、ゆるふわ宏美も、いつものゆるふわ笑顔を浮かべるのである。


「じゃあ、行きましょうか~…美月さん」

「うん」


 そう言って、ゆるふわ宏美は、美月を7組教室まで送っていくのである。そんな二人に、納得のいかない政宗と浩二は、渋々ついていき、その後に男子生徒達も続くのである。


「会長!! やりましたね!!」

「私達の勝利です!!」

「会長!! 会長の頑張りに感動しました!!」


 勝利宣言と、ゆるふわ宏美を称える声をあげる女子生徒達なのである。梨緒も、勝利の微笑みを浮かべて、女子生徒達の壁を抜けて郁人の所に来るのである。


「郁人君……夜桜さんの事は…宏美ちゃんに任せようねぇ」


 そう小声で言う梨緒は、とても、悪い笑みを郁人に浮かべるのである。そんな、梨緒に何とも言えない表情を浮かべる郁人は、なぜか、梨緒の事が少し可哀想に思えてきたのであった。


(梨緒…お前は……どうしてそこまで……やっぱり、俺も、美月のために…彼女と向き合う時がきたのかもしれないな)


 郁人は、今まで誤魔化していた梨緒との関係性に決着をつけなければと、心の奥底から決意するのであった。






 そして、無言で7組教室まで、美月を送るゆるふわ宏美は、少し落ち込んでいる美月を心配そうに見つめるのである。


「ひろみん…大丈夫だよ……ただね…私は…ただ、郁人と一緒に居たいだけなんだよ…それだけなのにね」


 悲しい微笑みを浮かべる美月に、何とも言えないゆるふわ宏美なのである。美月と郁人が一緒に居られない原因の一つは自分にあることを自覚しているゆるふわ宏美は、罪悪感を覚えるが、決して、曲げてはいけないことが、宏美にもあるのである。


「すみません~…美月さん…それは…できないんですよ~…もう、郁人様も…美月さんも…」

「うん…わかってるよ…わかってしまったよ」


 そう、高校に入って、環境も、関係も、大きく変わってしまったことに気がつく美月なのである。普段通り、いつも通り、今まで通りにと決意した美月だが、今までの様にはいかない状況に、悲しみと憤りを覚えるのである。


「そろそろ…貴様は教室に戻れ」

「ああ…細田…後は、僕達に任せてくれ」


 そうゆるふわ宏美に声をかけるイケメン二人を、睨みつける美月なのである。大きく、郁人との関係性が変わってしまった原因の二人に、美月は思うのである。


(郁人のために…はっきり、この二人とは決別しないといけないよね……郁人だって、私が他の男子と一緒に居るなんて嫌なはずだよ…郁人が悲しむのは嫌だもん!!)


 クラスで浮くことになっても、イジメられることになったとしても、美月は、この二人とは決別すると、たとえ、親友の宏美に、おとなしくしてろと言われても、もう、この二人とは一緒には居られないと思った美月なのであった。


 そんな、美月の表情を不安そうに見つめるゆるふわ宏美は、何があっても、美月の事は、自分が守ろうと思うのである。昔、自分が守れなかったものを今度こそ自分が守ってみせると決意する宏美なのである。

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