第71話ゆるふわサブヒロインは、幼馴染たちの調査をするのである。 その4

 気分が沈んだままに、二限目の授業を終えた宏美は、落ち込んではいられないと、頬を叩いて気合を入れるのである。勢いよく立ち上がり、7組教室に向かう宏美を、不安気に見る郁人なのであった。


(ゆるふわに頼んで…本当によかったのか)

「郁人君…どうかしたの?」


 不安になる郁人に、ニコニコ清楚笑みで、話しかけてくる梨緒なのである。スマホを取り出して、ゆるふわ宏美に、大丈夫かと確認の連絡を入れようとしたが、梨緒に話しかけられたために、スマホをポケットに入れる郁人なのである。


「い、いや…ゆるふわに…少しな」

「ふ~ん…そうなんだぁ」


 郁人がそう言うと、表情は笑顔のハズなのに、全く笑っていない感じの梨緒に、顔を背けて、窓の外を見る郁人なのである。


「ねぇ…郁人君…一つ聞いていいかなぁ?」

「な、なんだ?」

「郁人君…郁人君って…宏美ちゃんの事好きなの?」


 窓の外を、肘をついて眺めている郁人は、梨緒の質問に、呆れた表情を浮かべるのである。


「なんで…そんな話になるんだ?」

「郁人君…最近、宏美ちゃんと仲が良いよねぇ…好きじゃないなら…なんでそんなに仲が良いのかなぁって…疑問に思ったんだぁ」


 郁人の事を見る梨緒の瞳の光は消えていて、探られているような感覚を感じる郁人は、梨緒の方に向けた視線を、再度逸らすのである。


「別に…仲良くしてるつもりはないんだがな」

「ふ~ん…そうなんだねぇ」


 梨緒の疑いの眼差しに、冷や汗ダラダラな郁人は、結局ゆるふわ宏美に、連絡はしなかったのである。






 7組教室の前にたどり着いた宏美は、教室内の様子を見ながら、ゆっくりと、歩くのである。


(美月さん相変わらず、男子生徒達に大人気ですね~)


 美月が、政宗や浩二に、話しかけられている様子を、確認する宏美である。物凄くゆっくり、歩きながら、ジッと教室内を見る宏美は、不審者そのものであり、物凄く不審な目で生徒達から見られているのである。


 美月は、スマホを持っては、机に置いて、持っては、机に置いてを繰り返しているのである。


(美月さん…何をしているのでしょうか~?)


 その様子が気になる宏美だが、7組教室の前を通り過ぎてしまい、すぐさま反転して、再度ゆっくり、歩いて、7組教室内をジッと見る宏美なのである。


 美月が、上機嫌な男子達に、不機嫌に対応している様子が窺えるのである。美月は、やはり、スマホを持っては、机に置いて、ため息をつくのである。


(なるほどですね~…美月さん…無視してスマホいじればいいのに~…真面目な人ですね~)


 スマホをいじりたい美月は、周りの人たちが話しかけてくるので、スマホをいじれないのだろうと感じた宏美は、これは、郁人様に報告ですねと思うのである。


(思えば、確かに~…あれだけ、連絡してくる美月さんが、学校だと全然連絡ないのはこういう事だったんですね~)


 放課後や休みの日は、滅茶苦茶メッセージが宏美に来るのに、学校ではあまり来ないので不思議には思っていた宏美は腕を組んで、うんうんと首を縦に振って、納得するのであった。


 そして、やはり、7組教室前を通り過ぎる宏美は、再度反転して、ゆっくりと教室前を歩きながら、教室内をジッと見るのである。


「…ひろみん…なにやってるんだろう?」


 宏美が、さっきから、教室前をちょろちょろしているのが気になる美月は、ジッと宏美の方を観察するのである。


「美月…どうかしたのかい?」

「…ああ…また、細田のヤツがきてやがるぜ」


 美月がジッと廊下の方を見ているので、気になった政宗と浩二も、廊下の方を見るのである。すると、ゆっくり歩いて、教室内を見ている宏美を見つけるのである。


「仕方ない…俺がまた、行って来よう…今度は、きつく言っておくよ…じゃあ、行ってくる…美月」


 そう爽やかイケメンスマイルを浮かべて、宏美の所に向かう政宗に、不機嫌そうな美月なのである。


「美月ちゃん…政宗の事だけど…いや…なんでもねーぜ」

「?」


 不機嫌そうに政宗を見る美月に、浩二は何か言いたげだが、美月の疑問顔を見て、誤魔化す浩二なのである。






「おい、貴様…さっきから、何をしている?」

「あ…覇道さん…偶然ですね~…たまたま、そう、たまたま~、偶然、廊下を歩いていただけですよ~」


 ゆるふわ笑顔でそう言う宏美を、睨みつける政宗の表情は、滅茶苦茶怒っているのである。さすがにたじろぐ宏美は、引きつった笑みを浮かべるのである。


「覇道さん…そ、そう言えばですね~…み、美月さんって、昔はどんな子だったんですか~?」


 物凄く不自然に、話を振る宏美に、顔をしかめる政宗である。


「貴様…そんなことを聞いて…何を企んでいる?」

「な、なにも企んでないですよ~…じゅ、純粋な好奇心ですよ~…み、美月さんは昔から、あんなに人気モノだったのか気になっただけですよ~」


 ぎこちないゆるふわ笑顔を浮かべて、両手をすり合わせて、下手に出る宏美に、あからさまに機嫌が悪くなる政宗なのである。


「なんで、貴様にそんなことを教えないといけないんだ…くだらない」

「そ、そうですか~…覇道さんは、美月さんの幼馴染なので~…美月さんの事は、覇道さんに聞くのがいいと思ったのですが~」


 宏美のその発言に、瞳のハイライトが消えて、静かに怒る政宗の様子に、寒気を感じる宏美である。


「で、では~、わたしぃはこのへんで失礼しますね~」

「……」


 ジッと宏美を睨みつける政宗に、恐ろしさを感じる宏美は、脱兎のごとく1組教室に逃げ帰るのであった。


 そして、教室に戻ると、ヤンデレ梨緒に、物凄い嫉妬の眼差しを向けられる宏美は、恐ろしさのあまり、自分の席に座り、うつ伏せになって、寝たふりをするのであった。


(やはり…覇道さんは…美月さんと幼馴染ではないのでしょうか~)


 政宗の様子に、そう考える宏美は、梨緒の方を寝たふりをしながら、確認すると、ジッとこちらを見ているのである。


(もしかしたら~…梨緒さんも…で、でも…もし本当に…そうなら…い、いえ~…考えすぎですよね~…もう一度、確認してみましょう~)


 三限目の授業が始まると、机から顔をあげて、授業を受ける宏美は、もう少し、確信に迫ってみようと思うのだった。

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