第70話ゆるふわサブヒロインは、幼馴染たちの調査をするのである。 その3

 一限の授業を終えて、宏美は、7組教室に向かおうと席を立とうとすると、郁人が宏美の所にやって来るのである。


「ゆるふわ…悪いな…これは、俺からの差し入れだ」

「あ…はい~…ありがとうございます~…って、なんですか~!? これ~? あんぱんと牛乳ですか~?」


 郁人が、宏美の机に、あんぱんと紙パックの牛乳を置くのである。その組み合わせに疑問で首を傾げる宏美である。


「張り込みには…あんぱんと牛乳は欠かせないだろ…用意しといてやった」


 ドヤ顔でそう言う郁人に、ありがた迷惑なゆるふわ笑顔を浮かべる宏美に、張り込み用アイテムを渡して、颯爽と去っていく郁人である。ゆるふわ宏美は、仕方なくそのアイテムを持って、7組教室前廊下に向かうのであった。


(いえ~…でも、よく考えると~…このアイテムは使えますね~…さすがは郁人様ですよ~)


 ゆるふわ宏美は、右手にアンパンを、左手に牛乳を持って、アンパンと牛乳を交互に見て、ナイスアイデアですよ~と内心で、自画自賛するゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑顔を浮かべると、廊下ですれ違う生徒達に、不審な目で、ジロジロと見られるのであった。


 7組教室前廊下にたどり着いた宏美は、自然な行動を意識して、チラリと教室内を覗くと、相も変わらず、美月の席には、政宗と浩二に、男子生徒達がいるのだった。物凄く不機嫌そうな美月の表情を確認する宏美である。


(美月さんは、常に不機嫌そうですね~…これは、郁人様にご報告ですね~)


 自然に、7組教室前の廊下の窓際の壁に寄りかかる宏美は、紙パックの牛乳にストローを刺して飲み始めるのである。


(う…ぎゅ…牛乳は久しぶりに呑みましたが~…やはり、あまり好きじゃないですね~)


 小中時代の給食の牛乳を我慢して飲んでいたことを思い出して暗い気分になるゆるふわ宏美なのである。飲めないことはないけど、牛乳は好きではない宏美なのである。不機嫌に、紙パックの牛乳を睨む宏美は、やはり、物凄く目立っているのである。


 廊下を歩く生徒からは、物凄く不審者を見る目で見られている宏美なのであった。そして、アンパンを食べるゆるふわ宏美は、超目立っているのである。


(完璧ですね~…これは、完全にモブムーブですね~…もしも、見つかっても、わたしぃは、ただ、廊下で食事をしているだけですからね~…フフ、完璧ですね~)


 ゆるふわ宏美は、そう思いながら、7組教室内の監視を続けるのだが、完全に、美月に見つかっている宏美なのである。


(ひろみん…何やってるんだろう? 張り込みごっこでもやってるのかな?)


 廊下で、牛乳を飲んで、アンパンを食べる宏美を凝視する美月なのである。そんな、美月の視線に気がついて、政宗や浩二も、廊下の方を見るのである。


「また、来てるじゃねーか…細田のヤツ…」

「少し、文句を言ってこないといけないね…俺が行ってこよう…すまない美月…少しだけ、待っていてくれるかい?」


 政宗が爽やかイケメンスマイルで、美月にそう言うと、美月は、あからさまに顔をしかめて、待ちたくはないよと思う美月だが、ハッと朝、宏美に、スルーして欲しいと言われたことを思い出すのである。


「も、もう少しだけ様子見てもいいと思うよ…ひ、ひろみんにも何か事情があると思うよ」


 あせあせと、宏美の所に文句を言いに行こうとしている政宗を止める美月なのである。


「美月…安心してくれ…少しだけ、離れるだけだから…すぐに戻って来るから」

「そ、そうじゃなくて…ほら、ひろみんは、たまたま、あそこに居るだけかもしれないよ…だから、もう少し、見守ってあげようよ」

「美月ちゃん…政宗に任せておけば大丈夫だぜ…なぁ…政宗」

「ああ…任せてくれ、浩二、美月…では、行ってくる」


 完全に美月の話が通じない二人に、呆れる美月は、ひろみんごめんねと心の中で謝るのであった。


「おい…貴様…また、こんなところで何をしている!?」


 政宗は、廊下に出て、真っ先に宏美の所に向かうのである。急に政宗に声をかけられて、ビックリした宏美は、ゴッホっと食べていたアンパンを喉に詰まらせて、急いで牛乳を飲みなんとか、ピンチを乗り切るのである。


 咽ている宏美を、軽蔑の眼差しで見つめる政宗に、非難の視線を送るゆるふわ宏美である。


「ゴッホ…なんですか~…急に話しかけないでくださいよ~…何かわたしぃに用でもあるんですか~?」


 何とか、息を整えて、平静を装う宏美は、いつものゆるふわ笑顔を浮かべて、政宗にそう言うと、露骨に、顔をしかめ、不機嫌になる政宗なのである。


「貴様…ふざけるのも大概にしろ…何か用があるのは貴様だろう…何を企んでいる?」

「わたしぃは、ただ、たまたま、ここで、偶然、食事をしていただけですよ~」

「…そんな嘘が通じるとでも本気で思っているのか!? 貴様…馬鹿なのか!?」

「あ…でも~、たまたま、偶然、ここで、覇道さんに会ったのも何かのご縁ですし~…少しお話しませんか~?」


 ゆるふわ宏美は、政宗にそう提案するが露骨にいやな顔をする政宗である。


「断る…貴様と話すことなど何もない」

「そうですか~…あ…覇道さんと美月さんって、幼馴染なんですか~?」

「……貴様…朝宮に何か言われたのか?」


 ゆるふわ宏美は、ここで、政宗に探りを入れようと思ったが、あからさまに警戒されて、睨みつけられるのである。


「い、いえ~…あ…わたしぃはこの辺で失礼しますね~」


 圧倒的な圧を放つ政宗に、これ以上ここに居たら危ないと思った宏美は、すかさずこの場から逃げ出すのであった。宏美の背中を睨みつける政宗は、物凄く機嫌が悪くなるのであった。


「政宗…戻ったか…細田のヤツ…どうだったよ?」


 戻ってきた政宗に、そう尋ねる浩二を一瞥して、腕を組む政宗は機嫌が悪いのである。


「よくわからないが…何か企んでいる様子だった…朝宮が関わっている可能性が高い」

「そっか…わかったぜ…とにかく、警戒しとかねーとな」


 そんな二人の会話を不安気に聞いていた美月に、気がつく政宗は、イケメン笑顔を浮かべるのである。


「美月…心配しないでくれ…何があっても、俺が君を守るからね…安心してくれ」


 いきなりそう言われる美月は、この人何言っているのだろうと思うのである。そもそも、美月が不安なのは、このイケメン二人が郁人や宏美に何か危害を加えないかと思い心配なだけなのである。


「余計なことしないでよ…あと、ひろみんの事は、私に任せてよね」

「大丈夫だ…美月…君の幼馴染の俺が、必ず君を守るから…幼馴染の俺がね」


 そう幼馴染を強調する政宗に、美月の機嫌は悪くなり、無言で政宗を睨む美月に対して、爽やかイケメンスマイルを浮かべる政宗という二人の様子を、不審げに見つめる浩二なのであった。






 1組の教室に戻ってきた宏美は、すぐさま郁人の所に向かうのである。そこには、やはり、梨緒が居るのであった。


「宏美ちゃん? どこに行っていたの?」

「少し、用事がありまして~…り、梨緒さん達は何のお話をしていたんですか~?」


 今度は、梨緒に探りを入れてみようと思うゆるふわ宏美は、とりあえず、当たり障りのない会話から始める宏美を、不安気に見る郁人なのである。


「え!? う~ん…いつも通り、日常会話だけど…何で急にそんなこと聞くのかなぁ?」

「わ、わたしぃも会話に参加したくてですね~…で、では、仲良く日常会話をしましょうよ~」


 あからさまに挙動不審の宏美に、疑惑の視線を送る梨緒なのである。郁人は、露骨な宏美に頭を抱えるのである。


「ゆるふわ…お前な」

「な、なんですか~?」


 呆れる郁人に、自分だって頑張ってるんですからね~と怒る宏美なのである。


「あ…そう言えば、宏美ちゃん…また、郁人君から何かもらっていたよねぇ…フフフ、私見ちゃったんだよねぇ」


 思い出したと言わんばかりに、両手を合わせて、ヤンデレスマイルで、そう宏美を追い詰める梨緒なのである。


「あ、あれは…その~…な、なんでしょうね~? なんですかね~? 郁人様?」

「あ、あれはだな…牛乳だ…ゆるふわを見ろ…小さいだろ? 俺なりに、ゆるふわの心配をしてだな…差し入れをしたというわけだ」

「い、郁人様!? な、何てこと言うんですか~!! わたしぃだって、怒る時は怒るんですからね~!!」


 胸を両手で押さえて、顔を真っ赤にして怒るゆるふわ宏美に、郁人は、疑問顔を浮かべるが、ハッとなり、申し訳なさそうな表情をするのである。


「ゆるふわ…俺は身長の事を言っているんだが…そうか…それは…すまなかった…俺が悪かった」


 素直に謝る郁人に対して、勘違いした宏美は、顔を紅潮させて、恥ずかしくなり、小さい宏美がさらに縮こまるのであった。


「ひ、宏美ちゃん…ご、ごめんねぇ…そっか…うん…あのねぇ…お、大きくても困るだけだよぉ…ほら、下見えなくて危ないし、肩も凝るし…うん…だから…その…えっとぉ」


 必死に慰めようとする梨緒は、珍しくテンパっているのである。そんな、巨乳の梨緒の励ましが、さらに宏美の心にダメージを与えて落ち込むゆるふわ宏美なのである。もう、宏美のライフはゼロなのである。


「…本当に悪かったな」

「本当にごめんね…宏美ちゃん」


 本気で申し訳なさそうな顔で真剣に謝る郁人と梨緒に対して、いたたまれなくなった宏美は、自分の席に逃げ帰り、机にうつ伏せで寝て振りをする宏美なのであった。

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