第55話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その3

 7組の教室の前で、宏美は、疲れ切った笑顔を浮かべて、では、わたしぃはこれで~と、自分の教室に向かおうとするが、やはり、美月に腕をつかまれる。


「…放してくださいね~…わたしぃ…自分の教室に行かないといけませんからね~」


 ゆるふわ笑顔で、ニコニコ笑顔の美月にそう言い放つ宏美である。そんな宏美を、睨む浩二である。浩二の鋭い睨みに気がついている宏美は、わたしぃにどうしろと言うんですか~と心の中で思うのである。


「ひろみん、もう少しお話ししようよ」

「いえいえ~、美月さん…わたしぃは、早く教室に行かないといけませんから~」


 もう疲れた宏美は、早くこの場を後にしたかったのである。それでも、美月は、宏美と一緒に居たいので、宏美を放さないのである。ニコニコと笑顔を見つめ合う美月と宏美である。


「美月…おはよう…今日も可愛いな…教室の前で何をして…貴様…細田…ここで、何をしているんだ?」


 そんなやり取りをしていると、政宗が登校してきたのである。美月にイケメンスマイルで挨拶をすると、宏美の存在に気がついた政宗は、ゆるふわ宏美に敵意を剥き出しにするのである。頭を抱える浩二である。


「政宗…おはようさん…とりあえず、落ち着けって…細田…お前は、早く教室戻れって」


 浩二は、怒れる政宗の肩に手を乗せてそう言い放つのである。ゆるふわ宏美は、何でわたしぃが睨まれないといけないのですか~っと心の中で思うのである。


「…ひろみん」


 寂しそうな瞳で、美月はゆるふわ宏美を見つめるのである。そんな、美月に、最高のゆるふわ笑顔を浮かべる宏美である。


「ひろみん」

「…では、美月さん!! わたしぃはこれで失礼しますね~!!」

「ひろみん~!! 待ってよ!! 私を一人にしないでよ!!」


 一瞬嬉しそうな表情を浮かべる美月に、そう言い放ち、脱兎のごとくこの場から走り去るゆるふわ宏美である。そんな宏美に、悲しみの声をあげる美月であった。






 何とか、自分の教室にたどり着いた宏美は、自分の席に座り、ぐったりとなるゆるふわ宏美である。しばらくそうしていると、郁人が登校してきたので、ゆっくりと立ち上がり、郁人の席に向かうゆるふわ宏美である。


「郁人様…わたしぃは言いたいことがありますよ~」

「なんだ…急に…どうかしたのか?」


 郁人は、自分の席に座りながら、すごい剣幕で詰め寄って来るゆるふわ宏美に疑問顔を浮かべるのである。


「美月さんから、例の作戦の件聞きましたが~…無謀ですよ~」


「大丈夫だ…俺達は、偶然たまたま、食堂で美月と会って、たまたま、席が一緒になって、たまたな、一緒にお昼ご飯を食べることになるだけだ…何も問題はない」

「郁人様…本気で、そう思ってますか~?」


 疑惑の視線を郁人に向けるゆるふわ宏美に、両手を口の前で組む郁人は、問題ないと宏美に断言するのである。


「…郁人様…きちんとわたしぃの目を見て、言ってくれませんか~…本当に、本気で大丈夫だと思ってますか~?」

「……」


ゆるふわ宏美は、郁人の机に両手をついて、ジト目で、ジーっと郁人を見つめる。サッと郁人はゆるふわ宏美から視線を逸らすのである。


「やっぱり、郁人様も、問題あると思ってるんじゃないですか~!!」

「思ってないぞ…ゆるふわ」

「じゃあ、何で視線逸らすんですか~」

「……」


 ゆるふわ宏美の追及に黙る郁人である。疑惑の視線を向け続ける宏美に、やれやれとなる郁人である。


「なぁ…ゆるふわ…これは仕方ないことなんだ…わかるな…ゆるふわ」

「いえ~…まったくわかりませんよ~」

「…なぁ…ゆるふわ…美月がな…天使の笑顔で、明日、三人でお弁当を食べようよと言ってきたら…お前ならどうする?」

「絶対に嫌ですね~って、答えますよ~」

「違うな…間違ってるぞ…ゆるふわ…いいか…美月にそう言われたら、こう答えるんだ…そうだな…じゃあ、明日一緒に食べような…てな」


 郁人は、天井を見上げて、そう言い放つのである。その郁人の発言に、宏美は心底呆れるのである。


「郁人様…本気で言ってるんですか~? そもそも…あの人が…り、梨緒さんがどうなるか~…郁人様…考えましたか~!? それに、あの二人…わたしぃ正直、あの二人苦手なんですよ~!!」


 宏美のその発言を聞いて、郁人は、そっぽを向くのである。郁人様~と、ジト目で追及するゆるふわ宏美に、郁人は、頭を抱えるのである。


「それは俺も考えたが…仕方ないんだ…美月が嬉しそうに、三人でお弁当食べようよと言ってきたんだ…もう、三人で弁当を食べるしかないんだ…わかるな…ゆるふわ」


 郁人は、そう言って、ゆるふわ宏美に同意を求めるのである。驚愕の表情を浮かべるゆるふわ宏美である。


「い、郁人様!! 正気ですか~!? いえ、正気ではないですよね~!? 正気に戻ってくださいよ~!!」

「大丈夫だ…俺は…正気だ」

「それ、絶対正気の人が言うセリフじゃないですよね~!!」


 宏美は必死であった。お昼の惨劇を回避するために、郁人を説得しとする宏美だが、郁人は、戦場に向かう戦士の顔になっていた。


「大丈夫だ…ゆるふわ…俺は、もう…昨日…覚悟決めたからな…お前も、覚悟を決めるんだ」

「嫌ですよ~!! だいたい、お昼ご飯食べるのに、何でそんな、覚悟を決める必要があるんですか~!?」

「それは…必要だろ…俺達…これが最後かもしれないだろ?」

「い、郁人様…郁人様も、この作戦まずいと思ってるんじゃないですか~!! 美月さんを止めてくださいよ~」

「無理だ…あんな、天使の笑顔を浮かべる美月に、無理だとは言えない…大丈夫だ…ゆるふわ…一緒に食堂(地獄)に行こうな」


 宏美の肩をつかんで、笑みを浮かべる郁人である。ゆるふわ宏美は、絶望するのである。この人、もう駄目だと思う宏美である。


「いえ、いえ、いえ~、ダメですよ~!! わかりませんよ~!! わたしぃは、反対ですからね~!!」

「安心しろ…ゆるふわ…お前の分の地獄への片道切符…用意しといたからな…受け取ってくれよな」

「い、いりませんよ~!! せめても、往復切符にしてください~!! わたしぃは地獄に行きたくありませんよ~!! まだ、死にたくないですよ~!!」


 完全に死地(食堂)に向かう覚悟を決めた郁人は、ゆるふわ宏美を巻き込む気満々である。必死に嫌がるゆるふわ宏美である。正直、涙目なゆるふわ宏美なのである。


「わたしぃは、まだ、死にたくないです~…だから、絶対に阻止してみますからね~!!」

「…ゆるふわ…世の中な…諦めることも必要だと思うぞ」


 郁人は、悟ったような笑顔を浮かべて、宏美にそう言い放つのである。絶望の表情を浮かべて、頭を抱えるゆるふわ宏美だった。

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