第56話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ゆるふわサブヒロインと一緒にお弁当が食べたい。 その4
郁人は、全てを悟った賢者の様な面持ちで、窓の外を眺める。そんな郁人をジト目で見つめるゆるふわ宏美である。もはや、ゆるふわ笑顔で感情を隠すことすらしない宏美なのである。
ゆるふわ宏美から、非難の視線を感じる郁人だが、完全に無視していた。そんな二人を、にこやかな清楚笑みを浮かべて、眺めている人物が一人いたのである。その人物の存在に気がつかない郁人と宏美である。
「郁人様…考え直してくださいよ~!!」
「…覚悟を決めろ…ゆるふわ…大丈夫だ…何が起きても、俺はお前を見捨てる覚悟だ」
「それ、何にも大丈夫じゃないじゃないですか~!! 酷いですよ~!! 郁人さまぁ~!!」
ゆるふわ宏美が、郁人の右腕を、両手でつかんで揺さぶるのである。そんなゆるふわ宏美にされるがままの郁人である。ある人物は、その光景をにこやかに眺めている。しかし、放たれるオーラは真っ黒黒である。周りの生徒達は、ヒィと恐怖に怯えるのである。
「…ゆるふわ…男には…一生に何度か命を懸けないといけない時が来る…今日がその時だ…諦めて、お前も命を懸けるんだ…いいな」
「わたしぃ、女の子ですよ~!! 郁人様の中でわたしぃの扱いどうなってるんですか~!?」
必死に郁人を揺さぶるゆるふわ宏美である。全身を使って考え直してくださいよ~と、郁人の右腕を、両手でつかんで揺らすゆるふわ宏美なのである。傍から見ると、ゆるふわ宏美が、郁人の腕に抱き着いているように見えるのである。
その様子を、笑顔で見ている人物は、清楚な笑みを浮かべて、殺気を放っているのである。クラスの空気が、とても重く寒くなる、静まり返るクラスで、ゆるふわ宏美だけが騒いでいるのである。
「ん…なんか…周りが静かな気がするんだが…」
「そんなこと言って~…誤魔化さないでくださいよ~!!」
郁人がクラスの異変に気がつくのである。朝の時間は、クラスメイトも談笑している時間であり、こんなに教室内が静かなことに疑問を感じて、周りも見ると、クラスメイトは、自分の席に座り、下を向いているのである。疑問顔を浮かべる郁人は、自分の後ろを振り向くのである。
そこには、ヤンデレ笑みを浮かべている梨緒が立っていたのである。みるみる郁人の顔が青ざめるのである。そんな郁人の変化に気がつかないゆるふわ宏美は、ゆさゆさと郁人揺さぶるのである。
「お…おい…ゆるふわ…やめろ」
「郁人様が考え直してくれない限り、わたしぃは、やめませんからね~!!」
「お、おい…ゆるふわ…いいから、やめろ…な」
「やめませんよ~!! わたしぃは誤魔化されませんからね~!!」
郁人は、そう言って、さらに力いっぱい郁人の腕をつかんで揺さぶる宏美に、あっちを見ろと左手で、梨緒の方を示すのである。ゆるふわ宏美は、疑問顔で首を傾げて、郁人が指す方を見ると、梨緒が満面なヤンデレ笑みを浮かべて立っているのである。
ゆるふわ宏美の表情もみるみる青ざめるのである。郁人と宏美は、冷や汗がダラダラである。恐怖で顔が引きつる二人である。宏美は、ゆっくり郁人の腕を放すと、梨緒の方に向き直り、引きつったゆるふわ笑顔になるのである。
「……おはようございます~…梨緒さんじゃないですか~…い、いつから、そこに居たんですか~」
「おはよう…宏美ちゃん…結構前から教室に居たかなぁ…それが…どうかしたのかなぁ?」
ヤンデレボイスの梨緒に、ゆるふわ宏美の必殺ゆるふわ作り笑顔が崩れるのである。郁人の方を見て、視線で助けを求める宏美から、郁人は視線を逸らすのである。
(いくとさまぁ~!! わたしぃのこと見捨てないでくださいよ~!! 助けてください~!!)
(頑張れ、ゆるふわ…お前なら、何とかできる…だから、頼むから俺を巻き込まないでくれ)
郁人と宏美は、心の中でそう思うのである。そんな二人に近づいてくる梨緒に、体が恐怖で跳ねる郁人と宏美である。
「どうしたのかなぁ…二人とも…あ…郁人君…おはよう」
「あ…ああ…おはよう」
郁人は、梨緒から視線を逸らして挨拶をかえすのである。頼むから、俺に矛先を向けないでくれと祈る郁人である。
「フフフ…本当に、二人って仲がいいよねぇ…うらやましいなぁ」
「い…いや…そんな仲よくはないが…」
「そ…そうですよ~!! 郁人様とわたしぃは、そんなに仲が良くないですよ~」
必死に否定する郁人と宏美である。そんな二人を、ハイライトの消えた梨緒の瞳が見つめるのである。
「そっかぁ…でも…仲が良くないと…あんなにくっついたりしないと思うなぁ…そこの所…郁人君…宏美ちゃん…どう思ってるのかなぁ? 私に詳しく聞かせてくれるかなぁ?」
「…ゆるふわが悪い」
「わたしぃは悪くないですよ~!! 郁人様が悪いんですからね~!!」
「なんで俺が悪いんだ!?」
「何って、全部ですよ~!!」
郁人と宏美は口論を始めるのである。自分は悪くないことを梨緒にアピールしようと、互いに責任を擦り付け合う二人である。そんな二人を、半開きの目でジーと見つめる梨緒である。梨緒の口元はにっこりとしていたが、表情は完全に笑っていなかった。
「……」
「……」
梨緒の圧倒的な圧に気がつき、郁人と宏美は黙り込むのである。嫌な汗が流れる二人である。
「私には、二人が凄く仲良く見えるなぁ…仲がいいのはいいことだよねぇ…うん…でも、教室で、男女がくっつきあうのはどうかなぁって、私は、思うんだよねぇ…たぶん、クラスのみんなもそう思っていると思うなぁ」
梨緒の圧に、クラスメイト一同首を縦に振るのである。クラスカースト最上位の梨緒に、そう言われたら、頷くしかないのが1組というクラスなのである。
「い…いや…あれはそう言うのじゃないだろ」
「そ…そうですよ~!! わたしぃはただ、郁人様に意識の改善を促していただけでして~」
必死に否定する郁人とゆるふわ宏美である。そんな二人に、にこりヤンデレスマイルを浮かべる梨緒である。
「私…言い訳は嫌いだなぁ…ねぇ…郁人君…宏美ちゃん」
「すまない」
「すみませんでした~!!」
頭を下げる郁人と宏美である。もはや謝るしかないと判断した二人は、息ぴったりに同時に謝罪するのである。
「本当に仲がいいなぁ」
ニコニコそう言い放つ梨緒の笑顔に恐怖を感じる郁人と宏美である。そして、宏美は、郁人の方に視線で訴えるのである。
(本気で、例の作戦を決行する気なんですか~!? 正気の沙汰じゃないですよ~!!)
郁人は、宏美の視線に気がつく、なんとなくゆるふわ宏美の視線の意図に気がついた郁人は、もちろんだと視線で宏美に伝えるのである。
「り、梨緒…そ、そんなことより…今日の昼だが…その…よければ食堂で食べないか?」
「い、郁人様!?」
あからさまな修羅場のこの場面で、郁人は、そう梨緒に昼休みの約束を取り付けようとするのである。この人ありえないという驚愕の表情で郁人見るゆるふわ宏美である。
「え!? い、郁人君が…わ、私を……お、お昼に誘ってくれたの!? も、もちろん!! いいよぉ!! フフフ、うれしいなぁ」
清楚100%の満面な笑顔で、郁人にそう返事をかえす梨緒は、先ほどと打って変わって、超ご機嫌になるのである。そんな梨緒を見て、宏美は心の中で悲鳴を上げるのであった。
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