第43話番外編 妹キャラから見るギャルゲの主人公と乙女ゲーヒロイン その1

 これは、夜桜 美悠がピカピカの中学一年生になった時のお話である。美悠が中学生になって、まだ数週間くらい経ったある日の下校時の出来事である。


先生のお手伝いを頼まれてしまった美悠は、いつもより、遅い下校となってしまったのだが、その帰り道に必ず通る公園前で、見知った人物が、ペットボトルのジュースを飲みながら、佇んでいるのである。


「……お姉ちゃん? 何してるの…こんなところで?」

「美悠…ちょっとね…その…今日は、体育があって…喉が渇いたから、飲み物を買って、休んでただけだよ…それに、ほら、これ…新作なんだよ!!」


 なぜか、キョドって、両手をパタパタしながら、言い訳を並べるのは、美悠の姉である夜桜 美月である。焦って、飲み物を勢いよく飲んで咽る美月である。そんな、姉に、呆れる美悠である。


「…そういえば…お兄ちゃんは?」


 美悠は、髪を手櫛で整えながら、頬を染めて、キョロキョロ辺りを見回して、姉の美月に尋ねるのである。


「べ、別に…い、郁人といつも一緒なわけじゃないよ…一人よ…一人」

「…そうなんだ」


 美悠の質問に、ビクッとなる美月は、口早にそう言うのである。そんな挙動不審な姉のことなど気にせず、肩を落として、露骨に落ち込む美悠である。


「…じゃあ…お姉ちゃん…こんなところで、何してるの? 早く帰ればよくない?」

「だ…だから…喉が渇いたから…じゃなくて、このジュース…ほら、新味だよ!! あのアニメの味を完全再現!! 体力一瞬で回復する伝説のエリクサー味だよ!!」

「…へぇ~…そんなに美味しそうじゃないね…でも、気になる…お姉ちゃん…ちょっと飲ませてよ」


 美悠は、姉の美月に、一口頂戴と言うが、美月は、露骨に嫌そうな顔をする。飲み物のペットボトルを両手で隠してしまうのである。


「美悠…私が家族でも、飲み物や食べ物のシェエが無理なの知ってるよね」

「ええ~!! いいじゃん!! 姉妹でしょ!!」

「無理なものは、無理」

「本当に…お姉ちゃん…潔癖症なんじゃない」

「普通よ…普通…とにかく…絶対あげないからね」


 必死に、飲み物を両手で抱いて守る美月に、呆れ果てる美悠である。そんなやり取りをしていると、一人のイケメンが二人に話しかけてくる。


「美月と…美悠ちゃん…何してるんだ? こんなところで?」

「い、郁人!?」

「お、お兄ちゃん!!」


 何しているんだという疑惑の視線を美悠と美月に向けて、近づいてくるのは、美月の幼馴染の朝宮 郁人である。美悠は、顔を真っ赤にして、顔を伏せてしまう。そして、姉の美月は露骨にキョドるのである。


「…美月…今日は遅くなるから、先に帰ってていいって言ったのに…もしかして、待っててくれたのか?」

「え…いや…そういう訳じゃないけど…その…飲み物!! 新作の飲み物飲んでただけだよ…うん」


 美悠は、両手でペットボトルを持って、郁人に突き出す美月を、ジト目で見るのである。なるほど、そういうことかと心の中で納得な美悠なのである。


「ごめんな…俺のクラス…結局、体育祭の出場枠決まらなくてな」

「もう、だから…別に待ってたわけじゃないよ…たまたま、あくまでたまたまだからね」

「はいはい…そういうことにしとくか…そういえば、美悠ちゃんはどうして、美月と一緒にいたんだ?」


 郁人にあしらわれて、少しムッとする美月を放置して、美悠に話しかける郁人である。急に話を振られて、あわあわとなってしまう美悠である。


「あ…えっと…お、お姉ちゃんが、ぼーっとしてるから、声かけたんだ…あからさまに不審人物だったから」

「ちょっと!! 美悠!!」


 顔を真っ赤にして、郁人に何とかそう伝える美悠に、怒りを示す美月である。


「美月…心配だから、すぐに家に帰っていいんだぞ…その…待っててくれたことは、嬉しいけどな」

「だから…待ってた訳じゃないけど…その…わかったよ」


 いい雰囲気になる郁人と美月を、嫉妬の眼差しでジーっと見つめる美悠である。


「…そういえば、美悠ちゃんも、もう中学生か…何回も見たけど、制服似合ってるな…相変わらず可愛いな…美悠ちゃんは」


 そう言って、郁人は、美悠の頭を撫でるのである。美悠は顔を真っ赤にして伏せる。


「べ…別に可愛くないし…お…お兄ちゃんに褒められても…う、嬉しくないんだから」


 滅茶苦茶嬉しいはずなのに、そう言ってしまう美悠は、心の奥底で自己嫌悪に陥るのであった。悪い悪いと笑顔を浮かべて、頭を撫でるのを止める郁人に、少し不満な美悠である。もう少し、頭撫でてくれてもいいのにと残念な表情の美悠である。


「…郁人…あんまり、美悠を甘やかさないでよね」

「ん~? 俺…美悠ちゃんの事…そんなに甘やかしてはないと思うけどな」

「ちゃんと、雅人君と同じように、厳しくしてあげてね…それでなくても、美悠はだらしないんだから」


 プンスカ怒る美月に、考え込む郁人である。美悠は、姉の美月に余計なこと言わないでよと視線で訴えるのだった。


「そういえば、美月…飲み物がどうこうって言ってたな?」

「え…うん…そうだよ…ほら、新味だよ…エリクサー味!!」


 郁人は、話題をジュースの話に変えるのである。正直、美悠にとってはありがたかった、あのままだと、姉の美月の小言が始まるからである。ほっとする美悠は、姉の美月を見ると、美月は、ドヤ顔で、郁人にジュースを突き出していた。


「へぇ~…どんな味か気になるな」

「じゃあ、郁人も飲んでみる? あげるよ」


 美月はそう言って、郁人に大事に守っていたペットボトルジュース(エリクサー味)を渡すのであった。その光景を、目を丸くして見つめる美悠である。


「いいのか? 悪いな…じゃあ……変わった…味だな…不味くはないが…美味くもない」

「うん…そうだよね…変わった味だよね」


 郁人は一口飲んで、そう感想を言って、美月にジュースを返すと、美月もそのまま一口飲んで郁人に微笑みながら、そう言うのであった。


 その光景を、口を半開きにして、目を見開き、呆然と眺める美悠であった。

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