第30話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、お互いのことを知るのである。

 結局、美月が食堂に来ることはなく、郁人は、弁当を急いで食べて、屋上に向かう事にする。食堂を後にするときも、政宗と男子生徒達に、憎悪の視線を向けられていた。そして、宏美は、借りてきた猫のようになっていた。


「い、郁人様~!! 死ぬかと思いましたよ~!!」

「そうか…しかし…やはり仲良くなれなかったな…今後、美月の逆ハーメンバーとしてやっていけるか不安になるな」

「だから、それはやめてください~!!」


 郁人は、宏美を連れて、屋上に向かっている途中で、宏美に非難の声をあげられる。郁人としては、そんな事よりも、彼等と今後いい関係を築く方が大切だった。


「屋上に行く約束さえなければ、美月が来るまで、食堂にいられたんだが…仕方ない…美月には連絡をいれておくか…」


 郁人はため息をついて、スマホで美月に連絡を入れようとすると、美月から、屋上に行ったけど郁人何で来なかったのという連絡が来ていた。


「美月…どうして屋上なんかに?」


 そうぼそりと疑問を口にする郁人は、スマホで、自分も食堂に行ったが美月はどうして、食堂に来なかったのかという返信をする郁人である。そんな郁人の独り言に、宏美は驚きの表情を浮かべている。


「ちょ…い、郁人様…今なんて言ったんですか~!?」

「ん…ああ、美月が、屋上に行ってたらしいが…なんで屋上なんかに行ったんだろうな?」

「だ、大事件じゃないですか~!?」

「ど…どうした!? ゆるふわ…何か問題があるのか?」

「問題しかないじゃないですか~!?」


 慌てる宏美に、疑問を浮かべる郁人である。宏美は、早足で屋上に向かおうとする。その速度に郁人も合わせる。


「急いで屋上に行きましょう~!! 流血事件だけは勘弁してくださいよ~!!」

「お、おい…ゆるふわ…本当にどうしたんだ!?」


 焦る宏美と全く理解できない郁人は、急いで屋上に向かうのであった。


そして、郁人と宏美が屋上にたどり着くと、そこには、死人のような表情の女子生徒達と梨緒がいたのであった。






 美月は、結局、お弁当を美味しく食べ終えると、さすがに、そろそろ、食堂に向かわないといけないと思って、席を立つことにした。結局、郁人は屋上には現れなかったので、スマホで郁人にどうしてこなかったのかという連絡を入れておくのであった。


「えっと、じゃあ、私は行くからね…あの…えっと、今後もよろしくお願いしますね」


 完全に思考停止して、死人のようになっている梨緒と女子生徒達に、お別れと今度の挨拶を言い残して、美月は屋上から立ち去る。浩二は、あまりの惨状に、かなり引いている。


「美月ちゃん…マジでやりすぎだって!!」

「え? 何の話よ? そんなことより、郁人のハーレムメンバーとして、うまくやっていく自身ないよ…私の渾身の話題に誰も食いついてくれなかったし…」

「ま、まさか…美月ちゃんあれで、仲良くしようとしてたのか!?」

「そ…そうだよ…な、何か問題あったかな?」

「も、問題しかねーよ!!」


 美月は、疑問顔で浩二に訊ねるが、浩二からしたら、喧嘩を売っているようにしか見えなかったのである。


「あ…郁人から返信来てる…えっと…え? なんで郁人食堂なんかにいたの?」


 美月のスマホに郁人からの返信がきていた。そこには、食堂に行ったとのことであり、美月に何で屋上に行ったのかという疑問が書かれていた。美月は疑問顔である。


「美月ちゃん…今なんて言ったんだ?」

「え? 郁人が食堂に行ってたらしいよ…何で食堂なんかに行ったのかな?」

「お、おい、大問題じゃねーか!?」

「え? う~ん? そうだよね…郁人自分のお弁当忘れたのかな? でも、郁人って、そんなドジしないよね?」


 美月は、一人で考え込んでいる。そんな美月を、無視して、早歩きになる浩二である。


「美月ちゃん…急いで食堂に行くぞ!!」

「え? ちょっと…どうしたのよ? 急に…」


 浩二は、美月を急かして、急いで二人で食堂に向かう。そして、食堂につくと、そこには、怒り狂っている男子生徒達と政宗の姿があった。






 なんとか昼休みを無事に過ごした、郁人は、午後の新入生歓迎会のために、講堂に向かっていた。宏美がもの凄く疲れた表情で、梨緒は瞳のハイライトがオフの魂が抜けた状態で、郁人の隣を歩いている。その後ろに1組女子生徒達がついてきている。


 郁人様一行は、物凄く目立っていた。あからさまに男子生徒達からは、殺意の視線を向けられる郁人である。


「郁人様…夜桜さんに言っておいてくださいね~…行動には気を付けてくださいって~」

「美月に…なんでだ?」

「わたしぃが、どれだけフォローするのが大変だったがわかりますか~!!」


 珍しく、非難の視線を郁人に向けて、プンスカ怒っている宏美である。そんな宏美に疑問顔を浮かべて、腕を組み考える郁人である。


「まぁ、結局、美月が何で屋上に行ったのかわからんが…後で聞いておくか」

「郁人様…夜桜さんの名前は不用意に発言しないでください~」


 首を傾げて、ヤンデレモードの梨緒は郁人をジッと見つめている。完全にホラーである。郁人も顔が引きつる。そんな中、宏美は郁人に小声で注意するのだった。


 講堂につく、クラスごとに場所は決まっているみたいだったが、席は自由に座っていいみたいで、郁人の周りは1組女性陣で固められていた。そんな郁人を嫉妬の炎を瞳に宿して睨みつける1組男子生徒達である。


「…俺、物凄く男子生徒に嫌われてないか…お前のせいだぞ…ゆるふわ」

「なんでも、わたしぃのせいにしないでください~…郁人様の行いのせいではないですか~?」

「フフフ…郁人君……宏美ちゃん…本当に仲いいよねぇ…フフフ」

「待ってください~! 梨緒さん…わ、わたしぃは、梨緒さんの味方ですよ~…だ、だから、落ち着いてくださいね~…決して、さ、刺したり、か、監禁なんどはやめてくださいね~」

「お…おい、ゆるふわ…お前…」


 ヤンデレモードで、瞬きすら忘れて、郁人と宏美をジッと見て、ヤンデレボイスでそう言う梨緒に、怯えまくって、失言をしてしまう宏美に、郁人は冷や汗が流れる。


「????」


 瞳ハイライトオフ梨緒は、首を傾げて、ヤンデレ疑問顔である。そっと胸をなで下ろす郁人である。宏美は、ゆるふわ苦笑いで誤魔化している。


 そして、新入生歓迎会が行われる。内容は、部活動紹介や、生徒会の挨拶に、風紀委員の注意事項などが行われていた。そして、それが終わると、部活動勧誘が行われるとのことであった。


 そして、講堂での新入生歓迎会が終わり、講堂の外に出る郁人は、上級生の女子生徒達に囲まれるのであった。







 美月は、新入生歓迎会を終えて、講堂から外に出ると、上級生の男子生徒陣に囲まれる。部活動の勧誘みたいだが、中には愛の告白をする生徒もいる。


 昼休みも、食堂で男子生徒に囲まれて、講堂でも、男子生徒に囲まれて、終わっても男子生徒に囲まれる美月は、もの凄く嫌気がさしていた。政宗や浩二やその他男子生徒達からは、郁人ことを悪く言われて、機嫌もすこぶる悪い美月なのである。


「先輩方…すんませんが、美月ちゃんとの距離を離して、用件は順番にお願いしまっす!!」

「美月…安心しろ…俺たちが、守ってやるからな」


 浩二が先輩方を牽制して、政宗が美月の隣にナイトのように立っている。7組男子生徒も美月の背後に兵士のごとく待機している。


「……」


 美月は、もはや諦めモードであった。そして、死んだ顔で周囲を見回していると、ある一角に女子生徒達が大勢いることに気がつく美月であった。


「…あれ…あそこにいるの…郁人!?」


 美月は、見てしまったのである。郁人が女子生徒陣に囲まれているとこを、そして、その隣には、宏美と梨緒がいるところを見てしまったのである。


「俺たちのマネージャーやってくれ!! 君がいれば俺達甲子園に行ける気がするんだ!!」

「いや、バスケ部のマネージャーを!!」

「いやいや、サッカー部の!!」

「ここは、テニス部だろ!!」


 好き勝手言っている上級生男子生徒達を完全に無視して、郁人のことを見つめる美月である。


(私…なにしてるんだろう…郁人の隣にいるのは、私だったのに…別にハーレムでもいいよ…女子生徒に囲まれててもいいよ…郁人の隣に居られるなら…なのに…どうして、私がそこにいないんだろ)


 美月は、そんなことを考えて居ても立っても居られなくなり、郁人の所に行こうとするが、政宗や浩二に止められ、上級生男子生徒に囲まれて、身動きが取れなかった。


 美月は、歯がゆい思いを抱えて、郁人のことを見続けることしかできなかった。






 郁人の方も、また、上級生女子生徒達に囲まれて、部活動の勧誘を受けていた。宏美がニコニコスマイルで、丁寧に対応する。梨緒は、ひたすら、険しい表情で、上級生たちを牽制している。


「おい…ゆるふわ…なんだ? この状況は…お前、何したんだ?」

「な、なんでもわたしぃのせいにしないでくださいよ~…とにかく、優しく対応してくださいよ~…今後の活動にも影響が出るんですから~…お願いしますよ~」

「郁人君…本当に…もてるよねぇ」


 郁人は、ヤンデレボイスで梨緒に嫉妬され非難され、宏美からは、丁寧に上級生の女子生徒達の相手を、優しくしろと心の底からお願いされる。それに対して、何で俺がと思う郁人である。


「良ければ、吹奏楽部に見学に来てよ」

「ぜひ、美術部のモデルに…」

「女子バスケ部のマネージャーになってよ」

「ええ~、ずるい~!! じゃあ、女子運動部の応援団とかやってもらおうよ」


 郁人は、上級生から好き勝手言われ、完全に疲れ果てる郁人である。そして、不意に視界に、男子生徒の集団が見えた。


「あれ…美月…」


 郁人は見てしまったのである。男子生徒達に囲まれる美月を、そして、その隣に政宗と浩二がいるとこを、見てしまったのである。


「い、郁人様、どこ見てるんですか~!?」

「おい…ゆるふわ…俺は、少し用事が…」

「ちょっと、郁人様…この状況で、どこ行くんですか~!? 無理ですよ~!!」


 郁人は、美月のところに行こうとするが、宏美に止められる。確かに、上級生の女子生徒達に囲まれて身動きが取れない郁人である。郁人は美月の方を再び見る。


(なんで、美月の隣に俺がいないんだ…美月の隣は、俺の場所だ…くそ…別に、美月が、男子に囲まれて、逆ハー狙ってても構わない…でも、美月の隣だけは、誰にも渡したくない)


 郁人は、苛立ち、歯がゆい思いを抱えて、男子生徒に囲まれる美月を、眺めることしかできなかった。

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