第29話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲのヒロインになりたい。
美月は、授業が終わり昼休みに入るとすぐに、スマホで郁人に、昼休みに一緒に、お弁当を食べようと連絡を取り合い、了承の返事をもらえたため、急いで郁人の所に行こうとする美月なのである。
(えっと、確か郁人は屋上で、お弁当を食べてるって言ってたよね? つまり、屋上に行けば良いってことだよね)
美月の頭には、郁人のハーレムメンバーに入って、他のメンバーから、正妻の座を勝ち取る事しか頭になかった。郁人お手製のお弁当を、スクールバックから取り出して、急いで、屋上に向かおうとする美月の前に、やはり、政宗と浩二が立ちはだかるのである。
「出たわね…お邪魔虫コンビ」
今日の二人は、まさに美月にとって、お邪魔キャラで、何をしようにも邪魔してくるのである。絶対に1組の教室には行かせないという強い意志が政宗と浩二から感じられる。
「美月…今日も一緒に食事をしよう」
「そうだぜ…美月ちゃん、食堂行こうぜ」
美月は、無言で二人を睨むが、全く気にしていない政宗と浩二である。
「あのね…本当に、邪魔だから…私は今から……そう、ちょっと、用事があるのよ」
「じゃあ、一緒についていく…用事とはなんだい?」
「ああ、一緒に行くぜ」
美月は、本日何度も同じ会話を繰り広げていた。ごまかして、郁人の所に行こうとする美月と、それを察して、決して一人にさせない政宗と浩二である。
お互いの間に、見えない攻撃が飛びあっていた。
「あのね…正直に言って鬱陶しいよ…私には、私のプライベートがあるんだから、干渉しないでよ!」
「わかってる…大丈夫だ…美月」
「ああ、それくらい、僕たちはわかってるぜ」
「絶対わかってないよね!? 私、結構はっきり、言ったつもりなんだけど!?」
全く話の通じない二人に、怒りのツッコミを入れる美月であるが、ハッとなって、首を振る。
(ダメよ…私、落ち着かないと…また、この人たちのペースに巻き込まれるよ…とにかく、この人たちは、日本語が通じなと思って接さないとダメね)
政宗と浩二を、軽蔑の眼差しで見つめる美月は、何か作戦はないかと考える。そんな美月にニコニコイケメンスマイルの二人である。
「わかったよ…うん、じゃあ、一緒にお昼ご飯食べようね…でも、まず、私の用事を済ませてからでいいかな?」
美月は、そう引きつった笑顔で、二人に提案するのである。政宗と浩二も、意外と言わんばかりに驚いている。
「じゃあ、先に美月の用事を済ませようか」
「そうだな…美月ちゃん、用事ってなんだ?」
「そ…そうだね…う~ん」
やはり、美月について来ようとする二人である。美月は考える。そして、政宗と浩二を交互に見る。
「あ、えっとね…ごめんね…覇道君は、先に行っててもらえないかな? 永田君だけで、大丈夫だから」
美月はそう二人に提案するのである。とりあえず、まだ、話が通じそうな浩二だけなら、なんとかなりそうと踏んだ美月は、政宗を引き離す作戦に出る。それだけ、本日の政宗はヤバいのである。
「それは、俺では、ダメなのか? 美月?」
浩二を、ヤンデレな瞳で睨む政宗は、そう美月にヤンデレボイスで訊ねる。さすがの強面浩二も表情が引きつっている。
「そ、そうだね…ごめんね…ほら、あれだよ…なんか、アイドルがどうとか…そんな話かな?」
美月は、自分でアイドル発言して、顔を真っ赤にしてしまうのである。
「そ、それなら、仕方ねーだろ…安心しろって、美月ちゃんは、僕が必ず、食堂に連れてってやるから、安心して待ってろって」
「……浩二…わかった…俺は、お前を信じる…美月を頼んだぞ…浩二」
「ああ、任せておけって!!」
政宗と浩二が、二流映画のワンシーンみたいな感じの雰囲気で会話しているのを、美月はかなり引いた表情で見ているのである。
そして、政宗は、教室からイケメンムーブで食堂に向かった。美月はため息をついて、移動を開始する。その後ろを浩二がついてくる。
「で? 美月ちゃん、どこ行くんだ?」
「…屋上」
美月は、ぼそりとそうつぶやくと、浩二は、鳩が豆鉄砲を食ったようになっている。
「み、美月ちゃん…わりぃ、僕の聞き間違いかもしれねーから、もう一度言ってくれねーか?」
「屋上に行くっていたのよ」
今度ははっきりそう言い放つ美月に、頭を抱える浩二である。
「美月ちゃん…マジで考え直した方がいいぜ?」
「別に、嫌なら来なくていいよ…一人で行くから…」
美月はそう言って、屋上に向かう。仕方なく、頭を掻いて、美月の後を追う浩二であった。
屋上に通じる階段を上る美月の表情は、とても勇ましかった。まるで、今から、魔王城に乗り込む勇者のようである。
「美月ちゃん…マジで、考え直してくれねーか?」
「うるさいわね…嫌ならついてこなくてもいいのよ」
美月は、後ろからついてきて、不安そうな強面浩二に振り返ることなく、ぶっきらぼうに言い放つ。そして、屋上の扉前にたどり着く。
「よ、よし…いくよ…大丈夫…私…やればできる子」
「いや…そんな嫌なら行かなくてもよくねーか?」
「う、うるさいわね…郁人のためなのよ! これは仕方ないことなのよ!」
美月は、思い切って屋上の扉を開ける。そこに、飛び込んできた光景は、まるで、お嬢様のお茶会のようなテーブルと椅子が配置された屋上であった。そして、そこには、女子生徒達と梨緒が座っていた。
「あ……あれが、噂の郁人のハーレムメンバーね」
「ちょ…美月ちゃん…マジでやめようぜ」
美月の存在に気がついた女子生徒達と梨緒は、美月と浩二に、あからさま嫌悪感を抱いている表情をしている。さすがの強面浩二も、たじろいでいる。美月も一瞬怯むが、勇気を奮い立たせる。
「い…いくよ」
「ま…まじかよ……絶対やばいって」
美月は、女子生徒達のところに向かう。そして、後をついてくる浩二に、女子生徒達はヒソヒソ話を始める。
「あの方…確か、トップスリーの永田 浩二さんではなかったかしら?」
「そうよ…あれよ…例の夜桜さんの男の人らしいわよ」
「夜桜さんって、男子生徒取り巻きにしてるらしいよ」
「何…じゃあ、あの人、私たちに自慢でもしにきたのかしら?」
「私たちが、郁人様以外に目が奪われるとでも思ってるのかな?」
そして、女子生徒達は、憤怒の瞳で、美月と浩二を睨みつける。
「…ちょっと、なんか信じられないこと言われた気がするんだけど…気のせいよね?」
「ぼ…僕は知らねーぜ! マジで、何もしらねーから!!」
美月は、浩二を非難の目で睨みつける。そんな美月に、両手と首を振って、無実をアピールする強面浩二である。
「……夜桜さん…ここになんの用かな?」
梨緒は席から立ちあがって、美月のところに来て、そうヤンデレボイスで問いかける。
「で、でたわね…わ、私は…郁人とお昼ご飯を一緒に食べに来ただけだよ」
「……夜桜さん…ごめんね…帰ってくれないかな?」
たじろぎながらも、何とか要件を口にする美月に、ピシャリと拒否を口にする梨緒である。そんな、梨緒にあからさまにムカッとする美月である。
戦争再びである。
「い、郁人がいいって言ったのよ…べ、別にあなたの許可は必要ないはずよ」
「ごめんね…ここのみんなの総意だと思うけど…ねぇ?」
そう言って、梨緒は女子生徒達にアイコンタクトする。そして、女子生徒達は、梨緒に同意する。ぐぬぬとやり込められる美月である。
「美月ちゃん…やっぱ、戻った方が良いって…」
「こ、ここで引く訳にはいかないのよ…わ、私にだってプライドがあるのよ」
浩二が美月に耳打ちで、撤退を提案するが、美月は断固拒否する。ここで負けては、ヒロイン戦争の敗北者じゃけェ、負けられない美月なのである。
「と、とにかく私も、一緒にお弁当を食べるのよ! 食べるったら、食べるんだよ!!」
「はぁ~…夜桜さん…我儘もいい加減にして…みんな嫌って言ってるよね?」
駄々をこねる美月に、ヤンデレボイスで追撃をする梨緒である。浩二は、そんな二人にハラハラしている。
「むむむ~…って、ところで郁人はどこにいるのよ?」
「…郁人君の事…呼び捨てにしないでもらえないかなぁ?」
美月は、あたりをよく見ると、郁人がいないことに今更気がつくと、そう梨緒に訊ねるのだが、梨緒と女子生徒達は、あからさまに、美月の郁人発言に、怒り心頭である。
「え? 呼捨て禁止が、ハーレムの掟なの? じゃ、じゃあ…その…い、いっくん…こ、これはさすがに今更恥ずかしいよ」
美月はそう言われて、昔の呼ぶ方で郁人のことをいっくんと言って、一人で赤面して顔を押さえて恥ずかしがっている。
「み…美月ちゃん…さすがにやりすぎじゃね~?」
「え? 何がよ? どういうことなの?」
浩二の発言がよくわからない美月は疑問顔である。しかし、女子生徒達と梨緒は、今にも、美月を処刑台送りにしそうな勢いで殺気を放っている。
「フフフ、夜桜さん…私たちに喧嘩を売りに来たんだぁ…そっか、そっか、うん…その喧嘩買うよぉ」
「ちょ…待ってよ…なんでそうなるのよ!?」
梨緒は、完全に、ヤンデレモードで、ヤンデレボイスで美月に言うが、美月は全く状況が理解できないでいた。頭を抱える浩二に、今にも立ち上がって、美月に襲い掛かりそうな女子生徒達の構図ができていた。
「と、とにかく…私は、お弁当を食べに来たんだよ!!」
美月は、そう言って、空いてる席に座ると、郁人お手製のお弁当を食べ始めようとする。そのうち郁人も、ここに来るだろうと思った美月は、強硬手段に出るのである。
「ちょ…美月ちゃん!? マジで何やってんだ!? 状況理解してんのかよ!?」
「夜桜さん…何を勝手なことしてるのかなぁ?」
「いただきます…いいでしょ…あ…郁人のたこさんウィンナーだよ」
美月は、完全に無視して、お弁当を食べだすが、また、余計な一言を発してしまう。
「よ…夜桜さん…そ、そのお弁当…どうしたのかなぁ?」
「え? 郁人に作ってもらったんだよ」
その美月の発言に、衝撃を受ける梨緒と女子生徒達である。あからさまにみんなダメージを受けている。あるものは倒れ、あるものは現実逃避を始め、あるものは呪詛を唱えている。
「み、美月ちゃん!! マジで考えて発言してくれって!!」
超焦る浩二に、疑問顔でお弁当を食べる美月である。
「て、て、て、て、て、て、て、て…」
完全に壊れたテープレコーダーのようになってしまった梨緒である。ヤンデレ思考停止モードに入っていた。
「郁人のお手製おにぎりだよ…わ~い、ツナマヨだよ…ツナマヨだよ」
そう言って、美月がお弁当を食べるたびに、周囲は大ダメージを受ける混沌の昼休みとなってしまった。
(う~ん…郁人のハーレムメンバーと仲良くなりたくて、会話の話題を出してるのに、乗ってこないよ…私、みんなと仲良くできるかな?)
美月は、お弁当を食べながら、そんなことを考えるのだった。しかし、その行動が、嫌われる原因となっているとは、美月は全く微塵にも思っていなかったのである。
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