第21話ゆるふわサブキャラは、乙女ゲーのヒロインのことを察するのである。

 7組教室内の生徒から、全視線を向けられる宏美は、キョロキョロ7組教室内を見渡して、ニコニコ笑顔を浮かべる。しかし、宏美の額から、冷や汗が流れる、内心は焦っているゆるふわ宏美なのである。


「あ…まずいですね~」

「おい、どうした?」

「すみません~、任務失敗です~」

「大丈夫か? 何があった?」

「……」

「おい! 返事をしろ…おい!? ゆるふわ? どうした?」

「……」


 宏美からの、返事がない。ただの屍のようだ。郁人は、焦る。超焦る。郁人は思ったのである。あいつ絶対に、問題を起こしただろうと、しかし、とりあえず、待つことにした郁人であった。






「お、おはようございま~す~。今日はいい天気ですね~」


 あわてて、ワイヤレスイヤホンを操作して、通話を切った宏美は、7組の男子生徒自称美月ファンクラブメンバーに囲まれる。そして、ニコニコ笑顔でコンタクトを試みる。しかし、彼らは怒りの表情を示している。


「何しにきた?」

「やはり、スパイか!?」

「ち……違いますよ~。わたしぃがスパイなんかする訳ないじゃないですか~」


 確信をつかれる宏美は、ニコニコ笑顔で否定する。両手で自分は無実ですと訴えている宏美であるが、怪しむ男子生徒達である。


「とりあえず、浩二さんに処遇決めてもらいましょーぜ」

「そうだな…おい、お前とりあえず、浩二さんとこに行くぞ」

「え…あ~、わ、わたしぃ用事がありまして~、すぐに行かないといけないんですよ~」


 宏美は、ニコニコ笑顔でそう言うが、男子生徒達は問答無用で、宏美を連行しようとする。


「あの~、わ、わたしぃ、用事がですね~」

「いいからこい!」


 宏美の秘儀ゆるふわニコニコ笑顔も、美月ファンクラブメンバーには通じないようで、引っ張って連行される宏美である。


「わ~、やめてください~! 訴えますよ~! いいんですか~!」


 必死に抵抗しようとする宏美であったが、やはり、完全に無視され、浩二の所に連れてこられる。そこは、美月の席のところであった。


 つまり、完全に魂の抜けた美月と、あからさまに機嫌の悪い政宗と浩二がいる場所であった。


「とりあえず、浩二さん…こいつ、連れてきたんですけど…どうしますか?」

「スパイですぜ…浩二さん」

「ち、違いますよ~…ちょっと、外から中の様子を見てただけです~」


 浩二のもとに連れてこられた宏美は、正座させられている。ニコニコ笑顔で弁明する宏美だが、笑顔から、まずいまずいと冷や汗が出ているゆるふわである。


「ああ、ご苦労…あとは、こっちで、やるから、お前らは下がっていいぜ」

「はい…わかりました」


 浩二は、そう男子生徒達に言い放つと、言われた生徒達は、少し下がって、また美月の囲いを始める。浩二は、宏美を睨んでいる。強面浩二の睨みは、まさに任侠の睨みである。命の危険を感じる宏美である。


「で、お前…何しに7組にきたんだ? ことと次第だと…戦争だぞ」

「そ、そんな大袈裟ですね~…ただ、たまたま、たまたまですね~、7組の前を通ったから、クラスの様子を見ただけですよ~」

「たまたまね……お前、誰かと話してただろ?」

「いえいえ~、話してないですよ~」

「で、通話の相手は朝宮だろ?」


 浩二に確信をつかれる宏美である。とりあえず、宏美はニコニコ笑顔を浮かべておくのである。そして、その一言に、美月が我に返る。抜け出していた魂が戻て来た美月である。


「え? 郁人と話してたの…そういえば…聞き覚えのある声のような気が…」

「いえいえ~、気のせいだと思いますよ~」


 ニコニコ笑顔で否定する宏美である。美月は口元に人差し指を持っていき、う~んと考え込んでいる。


「で、君は、朝宮郁人のハーレムメンバーなのかな?」

「はい~? 言っている意味が分からないのですが~?」


 政宗がそう、不機嫌に宏美に訊ねている。宏美は、本当に質問の意味が理解できない。よくわからない宏美は、やはりニコニコ笑顔を浮かべるのである。ゆるふわの必殺技である。


「あれだろ…朝宮に、美月ちゃんの様子見てこいって言われたんだろ」

「いえいえ~、違いますよ~」


 そう浩二に言われる宏美だが、実際は、宏美から様子を見てくると言ったので、これは本当に違うのである。ゆるふわ宏美も余裕の否定である。


「嘘つくんじゃねーよ。朝宮が、美月ちゃんも自分のハーレムメンバーに加えようとしてるんだろ」

「なるほど…君は、そのためにここに派遣されたという訳だね…朝宮…相変わらずのくそだな」


 勝手に、浩二と政宗の間で話が進んでいく。彼らの中では、もはや、郁人が美月をハーレムメンバーにしようとしている事になっている。さすがのゆるふわ宏美も、困惑である。


「あの~、どこからそんな話がでてきたんですか~?」

「誤魔化すんじゃねーぞ」

「ああ、俺たちは、その胡散臭い笑顔に騙されはしない」

「う、胡散臭いって失礼じゃないですか~!」


 さすがの宏美も怒りを示すのである。そんな中、美月が、ハッとなる。そう思い出したのである。


「思い出した…朝、郁人のスマホから聞こえた声だよ!! 一緒だ!!」


 美月のその一言で、浩二と政宗の表情がさらに険しくなり、宏美を睨む二人である。


「美月ちゃん…朝宮と一緒にいたのか? 僕が朝見つけれてよかったぜ」

「それは、本当か…助かった…ありがとう、浩二」


 美月の身を心配する二人である。美月とゆるふわ宏美は、疑問顔を浮かべている。宏美は、すでに、郁人と美月が幼馴染と言う事実を知っているため、一緒に居ようと疑問には思わないのである。


「やはり、朝宮の奴…美月ちゃんにちょっかいだしてきたのか…許せねーぜ」

「ああ、美月…安心しろ…俺が必ずお前を守るからな」

「ちょ…何言ってるのよ? 意味わかんないわよ!?」


 政宗と浩二の、美月を朝宮郁人から守る宣言に困惑する美月である。その様子をジッと見ている宏美である。宏美の視線はとても鋭かった。そして、何かを考えるゆるふわ宏美である。


「なるほどですね~。そういうことですか~」


 そして、一人で納得する宏美である。宏美は、すっと立ち上がる。そんな宏美を睨む、イケメン二人である。


「夜桜さん…あなたも大変だと思いますが、頑張ってくださいね~…きっと、それが夜桜さんの役割なんですよ~」

「え? 何? 何の話?」


 宏美に突然そう言い放たれ、美月は、ただ困惑する。イケメン二人は、美月を守るポーズをしている。宏美はそんな様子をニコニコ笑顔で見ている。今の宏美は、いつもの宏美の完璧ゆるふわニコニコ笑顔である。


「夜桜さん…今日は会えてよかったです~…では、また、お会いしましょうね~」

「え? あ、はい…また、お会いしましょう?」


 そう美月にお別れの挨拶をして、この場を去ろうとする宏美を、浩二と政宗は呼び止め、男子生徒が宏美を逃がさないと通せんぼする。


「こっちの話は終わってねーぞ」

「ああ、もう少し、話を聞かせてもらうよ」

「そうですか~…わたしぃはもう話すことはないですね~…それにほら~…」


 宏美が、そう言い放つと予鈴のチャイム音が鳴り響く、ニコニコ笑顔を浮かべて、クールに去っていく宏美であった。


「チッ…逃がしちまったぜ」

「まぁ、仕方ないな…美月も無事だし、良しとしよう…浩二」

「ああ、そーだな」


 そんなイケメン二人の中で今の出来事は片付けられていたが、美月の中では終わっていなかった。


(郁人がハーレム? どういうことなの郁人? 郁人は私と結婚するんじゃなかったの?)


 完全に混乱する美月である。そんな中、教室に担任が入ってきたことで、みんな席につく。美月は、ホームルームの間、ずっと、死んだ表情で、郁人のことを考えるのであった。

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