第20話ゆるふわサブヒロインは、乙女ゲーのヒロインを偵察する。

 よくわからないままに、プレゼントボックス持って、郁人は宏美と教室に入る。席について、プレゼントボックスを机の上に置いて、ため息をこぼす郁人に、宏美は、ニコニコ笑顔で郁人を見ている。


「あのな……こういうのはやめてくれ」

「ほむ~、どういうのですか~?」

「この、イタズラをやめてくれ」

「え~? イタズラってなんですか~? みんな郁人様のファンクラブ会員の方で郁人様のファンなんですよ~」


 郁人の発言に、宏美は驚いた表情を浮かべ、そんなことを言っている。郁人は、そんなゆるふわ宏美に呆れかえる。


「ほんと、ゆるふわだな」

「え? なんですか~?」

「いや……なんでもない……そういえば、この間の美月の噂の件だが」

「あ~、ありましたね~…結局どうだったんですか~?」


 郁人は手を組んで、深刻そうな表情をする。宏美は、ゴクリと唾をのみ込み、郁人の発言を待っている。


「あれは、どうやら、事実らしい……だから、俺は決めた…美月の逆ハーレムの一員になると…」

「な~!? 何言ってるんですか~!!」


 郁人の真剣表情のマジ衝撃発言に、宏美は、ニコニコ笑顔ではなく、マジ驚きの表情で困惑している。そして、教室の視線が二人に集まる。もともと、視線が集中していた二人だが、さらに注目される。


「と、とにかくですね~…その話は、ここではまずいです~」

「お…おい…どこに行くんだ?」


 宏美は、郁人の腕をつかんで、引っ張って、教室から連れていく。空き教室に連れてこられる郁人である。


「ここなら、大丈夫ですよ~」

「あ、ああ…ところでここは?」

「はい~、郁人様のファンクラブの事務所にしようと思ってる教室ですよ~」


 こいつ何言っているんだ表情で宏美を見る郁人に、ドヤ顔でない胸を張っている宏美である。


「ところで、先ほどの話ですよ~」

「ああ、美月の逆ハーの一員になるという話か…俺も、つらいが、仕方ないことなんだ」


 下を向き、苦渋の表情を浮かべる郁人に、宏美はあからさまに動揺している。


「ダ、ダメに決まってるじゃないですか~! 郁人様、この学校を崩壊させる気ですか!!」

「いや、お前は何言ってるんだ?」


 宏美の意味不明発言に、郁人は、呆れている。だが、宏美は真剣だった。いつものニコニコ笑顔を捨てて、真剣な表情しているゆるふわである。


「いいですか~? 郁人様はきちんと、アイドルの自覚を持ってくださいよ~」

「いや、そんなものになった覚えはないんだが…」

「そもそも、その話って、夜桜さんご本人にしたんですか~? 逆ハーの一員になるとか~?」


 その宏美の発言に、腕を組み考え込む郁人である。そんな郁人を真剣な眼差しで見つめる宏美は、緊張の面持ちで、郁人の発言を待っている。


「してないが…幼馴染の美月の考えてることは、俺にはわかるんだ……あの、美月の表情は間違いなく、逆ハーの一員になって欲しいと思っているはずだ」


 宏美は、口をあけて目を見開く、間の抜けた表情をしている。ハッとなる宏美は、いつものゆるふわ笑顔を浮かべる。


「あの~、郁人様……それは…どうかと思いますよ~」

「どういうことだ?」

「いえ~、どうもこうも、きちんと本人に口頭で確認を取った方がいいと思いますよ~」

「大丈夫だ…俺と美月は通じ合ってるからな…言わなくてもわかる」


 ドヤ顔でそう言い放つ郁人に、ため息が出るゆるふわ宏美である。完全に呆れているゆるふわである。やはり、いつものゆるふわ笑顔が保てない宏美である。


「そうですね~、仕方ないですね~…では、私が確認を取ってきてあげますよ~」

「いや…その必要はない……今から、俺は美月の教室に行くからな…ライバル達にも、宣戦布告しないといけないからな」

「ちょ、やめてください~!! 暴動が起きますよ~!! 郁人様、7組男子にフルボッコされますよ~!!」


 宏美が必死で、郁人を説得している。郁人は疑問顔である。


「郁人様……そもそも、男子生徒に嫌われてるじゃないですか~」


 その宏美の衝撃の発言に、郁人は、少し怒る。なぜなら、その原因は宏美にあると思っているからである。


(そもそも、ゆるふわ…お前のせいだろ)

「とにかくですね~…ここは、わたしぃに全て任せてください~」


 郁人は、あからさまに嫌な表情を浮かべる。宏美に任せては、ろくなことにならないと思っているからである。そんな風に思われている宏美は、自信満々の表情で、ゆるふわ笑顔でドヤ顔している。


「いや、やはり俺が直接行った方が…」

「郁人様、夜桜さんは、男子生徒に囲まれてるはずですよ~…その防衛網を、郁人様に突破できるのですか~?」


 郁人は腕を組んで考える。確かに、それは難しそうだと、しかし、やらなければならないなら、やるだけだとも思う郁人である。それに、宏美にも、男子生徒の防衛網を抜けて、美月に接触できるとは思えなかった。


「それは、お前もだろ?」

「フフフ~、わたしぃを甘く見てますね~…大丈夫ですよ~、ニコニコ笑顔でだいたいなんとかなりますよ~……とくに男子なんて~」

「おい、お前な……やはり、ゆるふわか」


 最後に爆弾発言を投下する宏美に、呆れる郁人である。頭を抱えている郁人である。


「あ~、今のは聞かなかったことにしてくださいね~…乙女の秘密ですよ~」

「……あ、ああ、でも、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ~…ただ、偵察してくるだけですからね~」


 郁人の大丈夫かという質問は、お前、余計なことしないよなの意味なのだが、宏美は単純に自分の身を心配してくれたのだと思っている。


「では、不肖この細田宏美行ってきますね~」

「あ…ああ」


 ドヤ顔でない胸を張って、そう宣言して、教室をあとにする宏美に、滅茶苦茶心配で不安な郁人であった。






 なんとか、校内に入れた、美月は教室にたどり着くことができた。そして、現在、美月は、物凄く疲れていた。朝のハッピーモードから、お疲れモードとなっている美月は、自分の席に座って目の前のプレゼントボックスを睨んでいた。


「あのね…永田君……こういうイタズラはやめてって言ったよね」


 そう、疲れ果てていた美月の所に、強面イケメンスマイルで、このプレゼントボックスを持ってきたのである。


「いやいや、美月ちゃん、ほんと人気者なんだぜ」

「はぁ~」


 美月は理解していた。この人は話が通じないと、そして、もう一人話が通じない人物も美月の所にやってくる。


「すごいな…美月は…さすが美月だ」

「おお、美月ちゃんは凄いぜ!! さすが美月ちゃんだぜ!!」


 イケメンスマイルで登校してきたのは政宗である。真っ先に美月のところに来る政宗はそう言って、美月を褒める。浩二もそれに便乗する。さすみつである。それに対して、美月は頭を抱える。露骨に嫌な表情を浮かべて、ため息をついている。


 そんな、やり取りを、教室の外から確認しようとしている人物がいる。ゆるふわ宏美である。


「……こちら、宏美です~…聞こえますか~? 郁人様オーバー」

「あ、ああ、聞こえている……というか、通話だから、オーバーいらないと思うぞ…オーバー」


 宏美は、ワイヤレスイヤホンを耳につけて、郁人と通話している。そして、7組廊下から、こっそり、教室をのぞく宏美である。外からだと、美月らしき人物が、男子生徒に囲まれてるところしか確認できなかった。


「ほむ~、でも、スパイモノとかは、オーバー言うじゃないですか~オーバー」

「いや、あれは、無線だからだ……オーバー」

「なるほどですね~…ところで、無線だと何でオーバー言うんですか~? オーバー」

「……その話、今必要なのか? オーバー」

「そうですね~…あまり重要ではないかもしれませんね~…あ…確認できました。スリートップの二人が夜桜さんと一緒に居るのを、目視で確認しましたよ~、オーバー」

「なんだ? そのスルートップって? オーバー」

「ほむ~、この時ノ瀬新入生イケメンランキングトップスリーですよ~。今年の新入生はイケメン揃いと話題なんですよ~。その中でも特にイケメンな3人のことですよ~、オーバー」


 郁人は、その話を聞いて、不安になる。美月の逆ハーのメンバーは、そんなにレベルが高いのかと、自分に美月の逆ハーの一員が務まるのかと不安になるのである。


「まぁ~、問題ないですよ~、所詮私たちの敵ではないですよ~、オーバー」

「どういうことだ? オーバー」


 郁人は、宏美の発言が理解できなかった。そう宏美に訊ねるが、宏美はあまり、その話題はどうでもいいらしく、スルーされる郁人である。


「ほむ~、状況があまりわかりませんね~……ここだとあまり見えないですね~オーバー」

「おい、あまり変なことするなよ…オーバー」

「大丈夫ですよ~…お任せくださいですよ~オーバー」


 そう郁人に自信満々で言い放つ宏美に、やはり滅茶苦茶不安になる郁人であった。


「とにかく、二人とも私を揶揄うのは、本当にやめて」


 美月は、本気で困っている。郁人と婚約した(美月の中だけ)美月としては、あまり、他の男子生徒と一緒にはいたくなかったのである。遠回りに男子生徒に囲まれている美月は、あからさまに女子生徒達から、陰口をたたかれている。


「大丈夫…美月は、俺が守るよ」

「そうだぜ……女子共の嫉妬なんか気にすんな」


 斜め上な二人の発言に、美月は両手で頭を抱える。本気でどうすればいいのかわからない美月である。


 そんな美月たちのやり取りを、7組教室前の扉から、顔だけ出して、見ている宏美がいた。滅茶苦茶目立っている宏美である。


「ほむ~、郁人様~…とりあえず、夜桜さんは凄い数の男子生徒に囲まれてますよ~オーバー」

「そ、そうか…って、お前本当に大丈夫か?」

「大丈夫ですよ~…わたしぃ、存在感薄いですからね~、ミスディレクションですよ~オーバー」

「……いや、お前、絶対存在感薄くないと思うぞ…オーバー」


 そんな、馬鹿なやり取りを郁人と繰り広げる宏美が、目に入った美月である。目と目が合う瞬間である。


「あ…やばいかもですね~オーバー」

「おい、どうした?」

「夜桜さんと目が合ってしまいましたよ~オーバー」

「本当に、大丈夫なのか?…オーバー」

「大丈夫ですよ~…わたしぃみたいなの誰も気にしませんよ~オーバー」


 小声で、郁人と通話のやり取りをする宏美は、やはり滅茶苦茶目立っていた。それはそうである。教室の入り口から、室内の様子を窺って、ぼそぼそ独り言を言っている宏美は、間違いなく不審人物である。


 7組クラスメイトの視線が宏美に集中する。そして、正宗と浩二も、宏美の存在に気がつく、美月も勿論、あの子どうしたんだろうと、宏美を見ているのである。


「あの子……スリートップの細田 宏美じゃねーか? まさか、偵察にきたのか!!」

「どうしたんだ? 浩二? あの子がどうかしたのか?」


 浩二が思い出したように、そう言い放つ、その発言に疑問を浮かべる政宗である。


「ああ、あの子、あれだ…朝宮ハーレムメンバーの一人だ」


 浩二の爆弾発言は、もちろん美月にも聞こえるのだった。


「え? ハーレム? 何の話?」


美月は、浩二のその発言にただ混乱するのであった。

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