第17話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勘違いが加速してしまうのである。

 本日は、晴天なり、まぶしい朝日がこんにちは、本日も登校のお時間がやってまいりました。二日目の眠れない夜を過ごした郁人と美月は、やはり、げっそりとした顔で家から出てくる。


「……美月…体調悪そうだが大丈夫か?」

「郁人こそ……体調悪そうだけど、大丈夫なの?」


 昨日の再放送である。しかし、やはり少し違うことがある。郁人があからさまにソワソワして不安そうにしている。


(昨日の噂のことを、結局、聞けなかったからな……いや、しかし、美月に限って、逆ハーレムなんて…)


 郁人は、美月をジッと見ながら、考える。美月は、急に郁人に凝視されて、顔を真っ赤にして伏せる。郁人は、その美月の仕草にハッとなる。


(美月が、視線を俺から逸らした……まさか、やましいことがあるのか? いやいや、しかし美月に限って…そんなことは…いや待てよ……そういえば…)


 郁人は腕を組み、物思いにふける。美月はキョトンとしている。


(そうだ……美月が乙女ゲーをやっていた時、逆ハーレムなるものを目指してプレイしてたことがあったな……スチルをうめるとか言って……やはり、美月は……逆ハーレムに憧れが……いや、待て待て、その考えは早計ではないのか?)


 郁人は、自問自答している。結局、昨日は通話でも、訊ねることができなかった。直接会って訊ねた方がいいと考えてだが、やはり、直接顔を合わせても、それは同じなのである。つまり、郁人は結局のところで、ヘタレなのである。


 彼が、ヘタレでなければ、中学の時に二人は、恋人同士になっていただろう。じっと、立ち止まって、何かを考えている郁人を、ジッと見ながら、美月が不安になる。


(郁人……どうしたんだろう? 体調悪そうだし…大丈夫かな?)


 美月に、見られていることに気がついた郁人だが、美月が不安そうな表情をしていることに気がつくと、また、何かに気がついたごとくハッとする。


(美月が、不安そうにしている……まさか、あの噂を俺が知ってしまったのではと疑っているのか? やはり、あまり、聞かない方がいい話題なのか?)

「郁人……本当に大丈夫なの? すごく体調悪そうだよ」


 美月は、心の底から心配している。そんな美月をジッと見る郁人である。


(美月が、逆ハーレム……いや、ありえない……でも、もしかすると、ごめんね。郁人、やっぱり、女子高生になったからには、逆ハーレム目指さないとだよ……とか言いそうに……いや、絶対にないな)

(郁人……なんで、そんなに私のことジッと見つめてるの? ドドド、どうしたのかな。ま、まさか、昨日、みんなが言ってたのは勘違いで、やっぱり私の考えが正しかったのかも、やっぱり、郁人と私は両想いなんだよ)


 美月は、ジッと自分のことを見てくる郁人にソワソワする。郁人は、それを見て、やはり、不安になるのである。


(美月が、ソワソワしている……どうしてだ? やはり、この後、時代は、逆ハーだよって言われるのか……いや、大丈夫だ。俺は美月の幼馴染……美月の顔を見れば、美月が何を考えてるかなんて、わかるはずだ)

(でも、やっぱり、昨日の私の考えが正しかったってことは、郁人と私は、やっぱり恋人同士ってことだよね。じゃ、じゃあ、私は郁人の彼女ってことだよね)


 美月の妄想が加速するなか、郁人は、真剣な眼差しで美月を見つめる。彼女の本心を見抜くために必死な郁人である。郁人と美月距離も縮まる。


(え? 郁人どうしたの? ち、近いよ……そんな真剣な眼差しで、なんで私を見るのかな? ハッ、もしかして、郁人そういうことなの?)


 美月は、郁人の顔をジッと見つめる。郁人もジッと美月を見つめる。美月は確信した。


(こ、これって、やっぱり、き、き、き、き…だよね。そ、そうに違いないよ。郁人は私に、き、き…しようとしてるの? だ、大丈夫……郁人との、き…は、初めてじゃないから、き、緊張しちゃだめだよ…私…大丈夫、幼稚園の時の初めてのき…を思い出すのよ)


 美月は、そっと目を閉じると、両手組んで祈りのポーズをしている。郁人は、そんな美月の行動を不審がる。


(美月が……目を閉じて、祈りを捧げている。ま、まさか、今から俺に懺悔する気なのか? 私は逆ハーレムを目指しますって…懺悔する気なのか?)

(私、郁人となら…大丈夫だよ。そ、それに、ちゅ、中学のころだって、郁人が風邪ひいて寝てる時に……き、き…しちゃったことあったし、うん。大丈夫……大丈夫だよ…お母さん、お父さん、美月は大人の階段を上るよ)


 家の前で、固まる二人を、家から出てきた、美悠と雅人に見つかる。家の前で、固まっている二人に疑問を抱く美悠と雅人である。


「お姉ちゃん、まだ、学校に行ってなかったの?」

「兄貴…家の前で何してるんだよ?」


 その言葉でハッとなる郁人と美月である。美月に至っては、顔が真っ赤で、今にも、この場から消えたいという感じで、小さくなっている。


「こ、こ、これは違うんだよ…その、べ、別に、き…しようとして訳じゃなくてね」


 必死に弁解する美月に、郁人は美月の不審な行動にさらに疑惑を強める。


(美月…どうして、そんなに必死に誤魔化そうと…まさか、やはり、さっき俺にだけは、本音を言ってくれようとしたのか…逆ハーレムを作ると宣言しようとしたところに、美悠が来たから、誤魔化したんだな…さすがに家族には知られたくないという事なのか?)


 郁人は、完全に勘違いしている。彼の中では、美月逆ハーレムの疑惑が確信に近づいている。しかし、やはり、美月が逆ハーレムを目指すなど考えられない郁人である。


(え? え? 郁人なんで、そんなに堂々としているの…もしかして、美悠たちに私たちの関係を報告しようとしているの…それに、さっき、き…しようとしたことも宣言する気なの? ダメだよ…郁人、それは恥ずかしすぎるよ)


 堂々とした佇まいの郁人に、美月は、さらに顔を真っ赤にして、恥ずかしくなる。そんな二人を、美悠と雅人は首をかしげている。


「俺達も、今から、学校に行こうとしてたところだ…ちょうどいいし、久しぶりにみんなで、途中まで一緒に行くか?」


 郁人は、美悠と雅人にそう言うと、美悠は、あからさまに嬉しそうにしている。もちろん雅人も、美月の方を見て、頭を掻きながら照れている。美月は、郁人のその発言に、これは、今から、私たちの関係を話す気だよと確信している。


「う、うん、そこまでだけど、た、たまには、お姉ちゃん達と一緒に行ってあげてもいいよ」

「あ、ああ、兄貴がそこまで言うなら、しかたなく、しかたなく、一緒に行ってやるよ」


 美悠も、雅人も一緒に行きたいのが本心であるが、素直になれないのがこの二人なのである。


「じゃあ、そこまでだけど、四人で久しぶりに行こうか」

「そ、そうだよ。うん、久しぶりに四人で一緒に行こうね」


 郁人と美月は、そう言って歩き出すと、二人の後に続く美悠と雅人である。


(いい、お姉ちゃんの隣確保してよね…このヘタレ)

(オイ、兄貴の隣確保しろよな…このヘタレが)


 そう、郁人と美月の後ろで、バチバチに視線で喧嘩している美悠と雅人がいた。そんな中、美月はソワソワ郁人の方を気にしている。


(郁人……どのタイミングで、私達、付き合いだしたって言う気なのかな)

(美月…そんなソワソワしてどうしたんだ…やっぱり、あれか、逆ハーレムの件での話なのか? 好きな人ができたってことなのか?)


 郁人と美月の物凄い勘違いから、不安の四人登校を迎える事となってしまった。

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