第18話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、物凄く勘違いが加速してしまうのである。

 郁人と美月が隣同士で並んで歩き、その後ろを、美悠と雅人が並んで歩いている。美悠は、無言の圧を雅人に放つ、雅人も美悠に無言の圧を放つ、二人はバチバチと目線で喧嘩している。


(……こいつほんとヘタレ…早くお姉ちゃんの隣に行きなさいよね)

(本当に……さっさと、兄貴の隣確保しろよ…マジヘタレだろ)


 お互いに、お互いが、ヘタレの結果、美悠も雅人も相手に行動してほしいのである。


「そういえば、美月……今日の弁当渡しておくな」


 郁人は弁当をカバンから取り出して、美月に手渡すと、美月は嬉しそうに受け取る。美月は、先ほどの出来事から、ずっとソワソワしている。


「あ…ありがとう…あ、郁人昨日のお弁当どうだった?」

「ああ、美味しかったぞ…さすが美月だな」


 郁人は素直に美月を褒める。美月の頭をなでなでする。美月の顔がみるみると緩み、だらしない表情を浮かべている。


「……」

「……」


 美悠と雅人が、その光景をジト目で、ジッと見ている。美月は、ハッとなり、二人に見られていることに気づいて、顔を真っ赤にして、恥ずかしがる。あわあわする美月を見て、郁人はショックを受ける。


(しまった……つい癖で、美月の頭をなでてしまった…しかも、美月が嫌がった…だと)

(う~、恥ずかしいよ……美悠と雅人君に見られてしまったよ…まだ、お付き合い始めたって報告してないのに~)


 郁人は、美月から、離れてショックを受けている。美月は、顔を両手で押さえて、顔を真っ赤にしている。そんな二人を、ジト目で見ている美悠と雅人である。


(あれ…何とかしてよ…ヘタレ)

(何とかしてくれねーか…ヘタレ)


 美悠と雅人は、お互いを肘でつついて、どうにかして欲しいと喧嘩している。その光景を見て、郁人と美月は、さきほどの失態を忘れて、微笑ましくなる。


「相変わらず、二人は仲がいいな」

「フフ、二人とも仲いいよね」


 郁人と美月のその発言を受けて、何とも言えない表情を浮かべる美悠と雅人である。そして、美悠と雅人はお互い顔を見合わせると、怒りが込み上げてくる。


「あんたのせいで、誤解されるのよ…いつも、ほんと…迷惑なのよ」

「それを言うなら、お前のせいだろーが、マジでいつも、いつも、勘弁してくれ」


 美悠と雅人は喧嘩を始める。そんな二人を見て、やはり微笑ましく二人を見ている郁人と美月である。この二人は、やはり、鈍感キングと鈍感クイーンなのである。


 そんなやり取りをしている中、美月が、チラチラ郁人の方を見ている。何かを窺うような視線に、郁人は疑問の表情で首をかしげる。


(郁人……いつ、私たちが付き合いだしたことを、美悠達に言うのかな?)

(なんで、美月は俺の方をチラチラ見てくるんだ? 何かあるのか美月?)


 美月は、何度も郁人と視線が合わさっては、視線を逸らすを繰り返し、郁人は、そんな美月をジッと見つめている。立ち止まって、摩訶不思議な行動を繰り広げる郁人と美月に、気がついて、美悠と雅人は喧嘩を止めて、不思議そうに二人を見つめる。


「お姉ちゃん…どうかしたの?」

「兄貴…どうしたんだ?」


 そう二人が疑問の声をあげると、郁人はゆっくり雅人の方を向き、美月は、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに明後日の方角に顔を向けている。


「あ…いや…なんでもなくてだな」

「え?」


 その郁人の発言に、素っ頓狂な声を出して驚いている。そんな美月を郁人は、困惑の表情で見る。美悠と雅人も疑問顔を浮かべている。


(郁人…ここでは、二人に言わないのかな? 私たちが付き合いだしたって…)

(美月…どうしたんだ? やはり、俺に何かを伝えたいのか…いや、察してほしいという事なのか?)

「ちょっと、お姉ちゃん、急に黙ってどうしたの?」」

「兄貴? どうした? 体調でもわりぃーのか?」


 急に黙って、お互い見つめ合っている郁人と美月を、困惑して見守る美悠と雅人は状況が完全に理解できなかった。この二人の間で、物凄い勘違いが進行中など、誰も予想できないので仕方ないのである。


(美月の真剣な眼差し……まさか…そういうことなのか?)

(郁人が私をジッと見ているよ……もしかして、そういうことなんだね)


 郁人と美月は、お互い得心がいったような表情を浮かべている。完全に全て理解したとお互いに大丈夫だ…問題ないと、目線で伝える。


(つまり、美月は、俺にも、その逆ハーレムの一員になって欲しいということだな)

(放課後、家族一同揃って、婚約の報告するんだね。うん…私もそれがいいと思うよ)


 全く、問題だらけな二人である。郁人も話が飛躍しているし、美月に至っては、お付き合いの報告から、婚約の報告にランクアップしている。そんな二人のやり取りに、戸惑っている美悠と雅人はまさに、置いてきぼり状態である。


「兄貴…大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ…問題ない」


 弟の雅人の、心配発言に、複雑な表情でそう言い切る郁人は、どこか決意を固めた表情をしている。


「お姉ちゃん…大丈夫なの」

「うん、大丈夫だよ…なんにも問題ないよ」


 妹の美悠の、心配発言に、満面の笑みで返す美月は、ハッピーモードに突入していた。幸せ全快オーラが全身からあふれ出ている。


(美月のあの、幸せそうな表情…そうか、俺に気持ちが伝わったからか…正直、逆ハーレムなんて嫌だ…認めたくないが……しかし、美月がそれを望むなら…俺は、自分を殺す。大切なのは美月と一緒にいることだ……美月の幸せだ……美月がそれを望むなら……俺は喜んで、逆ハーの一員になろう)

(郁人、あの複雑な表情…そうだよね。恥ずかしいよね。私も、家族に報告するのは恥ずかしいよ。私も頑張るからね…恥ずかしいけど……郁人となら、ちゃんと言えるよ。私達、結婚しますって)


「大丈夫だ……美悠ちゃん…美月のことは俺に任せてくれ…美月の夢は俺が叶えるからな」

「雅人君……郁人君のこと、絶対に私幸せにするからね…全部任せてよ」


 全く勘違いで、すれ違っている郁人と美月だが、なぜか、言葉はいい感じにリンクする。このセリフを聞いては、絶望するしかない美悠と雅人である。


(美月……やはり、逆ハーレムの一員になって欲しいという事か、逆ハーの一員として、幸せにしてくれるということだな)

(私の夢…やっぱり、そういうことだよね。郁人……大丈夫だよ…私はいつでも郁人のお嫁さんになれる準備は万端だよ)


 そして、無言で歩き始める。郁人は、どこか全てを悟った男の表情をしている。美月は、幸せ全快で、もはやスーパーハッピーモードに突入している。美悠は、絶望の表情で郁人を見ている。雅人は、今にも死にそうな表情で、美月を見ている。


 だが、美悠も雅人も理解はしていたのだ。自分たちの初恋は、始まった時から、失恋しているということを、もうずっと、小さい時から理解していた二人だった。


 分かれ道に差し掛かり、郁人と美月は、自分たちの高校へと向かう。美悠と雅人は、ジッとその後ろ姿を眺めている。まさに、別れ道であった。


「「本当に…」」

「俺たち……」

「私たち……」

「「始まる前から、全て終わってたんだ」」


 そうぼそりと、つぶやく美悠と雅人は、お互いを見つめ合いって、涙を流すのであった。この初恋が始まって、何度も流した涙である。でも、今回は、二人にとって、

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