第2話ギャルゲの主人公は、やはりモテるのである。

 最悪のクラス別けの結果、郁人は美月と別れて自分の教室に向かうこととなった。いったん発表されたクラスに行き、そこから体育館で入学式が行われる。教室に入るなり、郁人は女子生徒に囲まれて質問攻めにあっていた。


「どこの中学校出身なの?」


「趣味は?」


「彼女いるの?」


 そう矢継ぎ早の質問攻めに、苦笑いと困惑の表情でなんとか返す。郁人的にはめちゃくちゃ困っていた。


 困る理由は、男子生徒から向けられる殺意の波動を感じていること。そして単純に、どうして自分にこんなに女子生徒たちは話しかけてくるのかという困惑からだった。


(なんで、俺にこんなに話かけてくるんだ? 中学の頃も入学当初は女生徒に話しかけられていたな。やっぱ、あれか? 揶揄われてるのか? いや、いじめなのかもしれない。中学の頃も、そのせいで同性から嫌われて、ぼっちを三年間つらぬいたからな)


 郁人は過去の嫌なことを思い出した。女子からは、子供の頃から揶揄われてきたと思っている郁人にとって、女子生徒が単純に好意から、話しかけているという考えに至らないのである。


「はいはい~、みなさん、とりあえず落ち着きましょ~。イケメンさんが、困ってますからね~」


 そういって、女子生徒たちを、引きはがしにかかる子が現れた。セミロングゆるふわヘアーの美少女である。女子生徒達は不満の声をあげているが、郁人は正直ありがたいと思った。そして、その美少女に礼を言おうと思ったが、なぜか、美少女は女子生徒達を一列に並ばせる。


「はいはい~、順番に並んでくださいね~、一人ずつ質問していきましょ~。はい並んでくださいね~、接触は一人十秒ですよ~。じゃないと時間きちゃいますからね~」


(え? 何? 女子達解散させてくれるんじゃないの? ていうか接触ってなに? 意味わかんないんだが? ていうか、みんなきれいに一列に並んでるよ。さすが日本人ていうか何この状況?)


 混乱する郁人に、親指を立てて、やってやったぜと、ドヤ顔してくるゆるふわ美少女に対して、郁人はなんて言っていいのかわからずただ困惑する。


「そういえばですね~、わたしぃの名前は細田 宏美ですよ~。よろしくですね~」


「はぁ? えっと、朝宮 郁人だ。よろしく」


 自然に自己紹介してくる宏美に、困惑しながらも返事をかえす郁人に、満面の笑みを浮かべる宏美は、列の整理をしていた。いつの間にか手にはストップウォッチが握られていた。


「よろしくです~、郁人様って呼ばせていただきますね~。任せてください~、わたしぃ、こういうの得意ですからね~。ファンクラブ会長になってあげますならね~」


「は? ファンクラブ? 何言ってるんだ?」


「フフフ、任せてください~、じゃあ。まずは一人目ですよ~」


 流されるままに、一人目の女生徒と向き合う郁人に、手を出してと宏美は、郁人と女生徒を握手させる。困惑する郁人に対して、女生徒は顔を真っ赤にして、固まってしまう。


(いやいや、相手嫌がってるだろ? 何この状況? どうなってんの?)


「あ……朝宮 郁人様。生涯押します」


(え? 押す? 何どういうことだ?)


 女生徒は顔を真っ赤にして、そう言い放つ。困惑し続ける郁人。そして、はい~、十秒たったよ~。離れてね~。と女生徒を引きはがす宏美。そして、次の女生徒が郁人の前に来る。そして、握手する。


「郁人様応援しています!」


(応援って、なにを?)


 教室は完全に、混沌とかしていた。列を作る女子生徒達、嫉妬と殺意を向ける男子生徒。困惑する郁人に、ニコニコと女子生徒の対応する宏美。よくわからないままに、握手する郁人だが、このままではよくないと思った。


「あのさ、細田さん? これどういう状況なの?」


「フフフ、宏美でいいですよ~。どういう状況と言われましても~、こういう状況ですね~。郁人様は、そんなことよりですね~、ちゃんと握手してくださいね~、笑顔で対応しないとダメですよ~」


「いや、そういわれても、状況がよくわかってないんだが……」


「郁人様は、にっこり笑顔で握手すれば大丈夫ですよ~。そしたら、みんな幸せになれますからね~。いいですか~?」


 宏美はニコニコ郁人にそう言い放った。そこには有無を言わさない気迫があった。その気迫に負けた郁人は、何一つ状況がわからないまま、次々と女子生徒と握手する。完全に状況がわからない郁人だが、とりあえず、流れに身を任せて、女子生徒達と次から次に握手する。


 なぜか、握手するたびに、女子生徒から、歓声があがり、男子生徒からは殺気と罵声が飛ぶ。


(いじめか? これは新手ないじめなのか? 俺これ確実的にボッチ確定だぞ)


 ニコニコしている宏美に、郁人は再度、疑問をぶつける決意をする。なぜなら、このままでは完全に男子生徒に嫌われ、女子生徒にはおもちゃにされると思ったからである。


「細田さん。本気でこの状況を説明してもらいたいんだけど?」


「宏美でいいですよ~。普通に握手会ですよ~。そんなことよりですね~、にっこり、笑顔ですよ~」


「いや、握手会って、なんで俺がそんなことを?」


「郁人様だからですかね~。無駄話してる暇はありませんよ~、はい、次きますよ~」


 ニコニコしながらも、早く握手しろやという無言の圧が、宏美から感じられた。もはや、郁人は宏美の謎の圧に完全に屈した。意味は全然わからないが、とりあえず、握手するしかないようだと悟った。


 そして、心を無にして、女生徒達と握手する郁人の前に、一人の美少女が現れる。黒髪ロングヘアーに小顔で、大きな瞳に長いまつげ、小柄ながら、胸は結構ある。そんな美少女は、清楚よろしくと、握手を求めてきた。とりあえず、郁人は美少女の握手に応じる。


「その……ひさしぶりだね……郁人君」


 少し顔を赤く染めて、笑いながらそう郁人に挨拶してくる美少女だったが、郁人は全く覚えていなかった。


(えっと、この子誰だろう?)


 さすがに、覚えてないというのは、失礼だと思った郁人だが、この美少女になんて言っていいのかもわからない。困っていると、宏美が終わりだよ~と引きはがす。美少女は、清楚笑顔を浮かべて、手を振りながら、また、後でと小声で言い放って去っていく。全く記憶にない郁人は、必死に少女のことを思いだそうとしていが、やはり全く思い出せなかった。


 そうこうしているうちに、教室に担任だろうと思われるスーツ姿の女性が入ってきたことで、みんなが一斉に席につくことになる。とりあえず、よくわからない握手会は終わったと郁人は安心していたが、この後更なる問題が彼を襲うのであった。

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