その3 続シークレットシューズ

 俺の仕事は会社の宣伝課長だ。

 今日はうちのプロモーションビデオが出来たと発注先の道央映像プロダクションから連絡があったのでデモを見に行く事になっている。

 通信販売で買った踵5センチ上げ底のタッセルロファーのシークレットシューズを履いて部下を従え出掛けた。



 札幌の中心街に社屋を構える道央映像プロダクションは自社ビルだった。

 1階の正面玄関を開けると受け付け用の内線電話が迎えてくれた。

 受話器を取って名前と用件を告げると4階に上がるよう案内された。



 エレベーターで4階に上がると担当者が出迎えてくれた。スタジオは右手に折れて一番奥だった。

 入口ドアが開くと三和土たたきがあり、靴を脱がなければならなかった。糞。

 少し背伸びをしながら玄関ホールを進むと腰の曲がった小柄な爺さんが現れた。聞くと社長だと言う。一言礼を述べたくて出てきたとの事だった。



 頭から一通りデモ映像を見せてもらい満足出来る仕上がりである事を確認した。

 スタッフに礼を述べ辞去しようとした所でさっきの爺さんが再び、現れた。

 どうもありがとうございました、と礼を言われ、わざわざ玄関ホールまで先導してくれた。ところまで良かったが、更にエレベーターまで見送ろうと思ったらしく、三和土で俺の上げ底タッセルに何故か足を突っ込んだ。

 ちょっと待って、それは私のです、と制止しようとしたが、間に合わず、俺の靴に両足とも差し入れた爺さんの体は前傾姿勢のまま腰が伸び切り、スキージャンプの飛形のように美しかった。糞。

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