その2 神も仏もあったもんじゃない

 伯父が亡くなり葬儀に参列した。告別式を経て、火葬場でお骨が上がる間、待ち合い室では、葬儀委員長の町内会長と伯父の職場の元同僚の二人が供養だと言いながら日本酒一升を飲み干した。



 お骨が焼き上がり、皆で骨壺に伯父を納めて火葬場を後にした。葬儀場に戻りバスを降りると葬儀委員長が崩れるように玄関で突っ伏した。慌てて葬儀屋の兄ちゃんが救急車を呼んだ。救急隊が到着した時には葬儀委員長は息を吹き返していた。当然の如く飲み過ぎだった。葬儀屋の兄ちゃんは救急隊に詫びを入れ引き取って貰った。役立たずの葬儀委員長は別室で寝かされた。



 繰り上げ法要の時刻となり、住職他2名の坊主が入場した。読経が始まり2~30分経った所で、俺の後に座っていた伯父の元同僚が痙攣し始めた。次第に震えが激しくなり、遂には吐血してパイプ椅子から転げ落ちた。参列者もざわめき出し、慌てて、くだんの葬儀屋の兄ちゃんが心臓マッサージを始めた。流石に素人のにわか処置では回復はせず、兄ちゃんは司会の姉ちゃんにもう一度救急車を呼ぶよう指示をした。その間にひとつ目の読経が終了し、坊さん達は祭壇側から参列者側に座り直し、何食わぬ顔で二つ目の読経を始めた。坊さんの方を見ているものは誰もいなかった。



 10分程してさっきの救急隊員がやって来た。葬儀屋の兄ちゃんは、再び要請した事を詫びたが、救急隊員は気にしないでくださいと応じた。救急隊員が患者のおっちゃんの病状を確認し、ストレッチャーを用意した所で読経が終わった。導師達は、繰り上げ法要の終了を告げ、一礼した後、昏倒してストレッチャーに載せられたおっちゃんの脇を通って控室に消えていった。不安な表情を浮かべながら救急車で運ばれて行くおっちゃんの姿を皆で玄関先で見送り、会場に戻ると目を擦りながら葬儀委員長が、何かあったの? と間抜け事を言いながら突っ立ていた。結局、死にかけたおっちゃんを救ったのは坊さんではなく、葬儀屋の兄ちゃんでした。ちなみにお布施は全部で50万円。チーン。

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