星語り
月乃ゆみ
第1話 アルテミスの恋
太陽神アポロンと月の女神アルテミスは双子の兄と妹です。
月の女神アルテミスは狩猟の女神でもあります。
アルテミスは弓の名手で、躊躇なく放つ矢は必ず獲物を射止めていました。
そしてその姿は、冴え冴えとした月の光のように近寄り難いものでした。
気安く近づけるのは、兄のアポロンの他にはいませんでした。
アポロにとってアルテミスは自慢の妹でした。
人を寄せ付けないアルテミスでしたが、
オリオンが狩に参加するようになってから変わっていきました。
狩猟の女神アルテミスには、他のものの狩りはあまりにもお粗末なものだったのです。
ですがオリオンは違っていました。
アルテミスにはない力強い狩りの仕方に、
心を奪われてゆきました。
アルテミスが射止めた大鹿を、オリオンはひとりで軽々と抱え上げます。
その姿を見たアルテミスは吐息とともに言いました。
「なんて素晴らしいの!」
お付きの妖精たちはアルテミスのそんな様子を見て噂をしだしました。
「アルテミス様が恋をしているわ。」
その噂はやがて、兄のアポロンの耳にも届きました。
「アルテミスが恋だって!
そんな事は許されない!!」
アポロにとっては大切な妹が他の男に心を奪われていることが面白くありません。
それにもう一つアルテミスの恋を応援できない理由がありました。
「アルテミス、あなたは純潔の女神だと言うことを忘れたのか。」
アポロンはつぶやきました。
そうアルテミスは純潔を象徴する女神でもあるのです。
誰とも結婚することができなかったのです。
アポロンはある日、海の向こうのほうに金色の光を見つけました。
それはオリオンの頭でした。
大男であるオリオンは、海を歩いて渡ります。
その時、海面から出ていた頭部が、
金色に光っていたのです。
その姿を見てアポロンは一計を案じます。
アルテミスを海岸に連れてきたのです。
「アルテミス、はるか沖にある金色の小さな岩が見えるかい?」
アポロンは問いました。
「ええ、見えるわ。」
そう答えたアルテミスに
「見えてはいても、さすがのあなたでも、あの岩を射止めることはできないよね。」
アポロンは言ったのです。
「まぁ!アポロン!
私を誰だと思ってるの!!」
「狩猟の女神アルテミスよ。私に射止められないものはないわ!」
そう言うなり矢を1本引き抜き、弓を引きました。
矢は大きく弧を描きながら金色の岩に命中したのです。
「どう!?」
満面の笑顔でアポロンを見るアルテミスに
「さすがは狩猟の女神!!
恐れ入りました。」
と深々とお辞儀をしました。
アポロンのそんな姿にアルテミスはご満悦です。
「わかってくれたのならいいわ。」
と言うアルテミスに
「あなたは自慢の妹だよ。」
と答えながらアルテミスの肩を抱き、ふたりは海岸を後にしました。
ー翌朝、
アルテミスのお付きの妖精たちが騒いでいました。
「騒がしいわね。どうしたの?」
尋ねるアルテミスに妖精たちが、
早く海岸に行くようアルテミスに告げます。
訳がわからぬまま海岸に着いたアルテミスは、波打ち際に打ち上げられているオリオンを見つけたのです。
「オリオン!!」
「どうして!?」
走りよったアルテミスは、頭に矢が刺さっているのを見つけました。
「これは!」
「私の矢!!」
アルテミスが昨日射止めた金色の岩が、
実はオリオンの頭だったことにやっと気がついたのです。
そこへアポロンがやってきました。
「アポロン…あなたは知っていたの?」
アルテミスの問いに
「岩がオリオンの頭だと言うことをかい?」
「もちろん!!」
と笑顔で答えました。
「どうして!?
どうしてこんなひどいこと!!」
アルテミスは涙を流しながら問い詰めました。
「アルテミス。それはね、あなたがオリオンに恋をしたからだよ。」
「私はあなたの身を守っただけだよ。あなたのためだ。」
と答えたのです。
「恋をしたから…私がオリオンに恋をしたから彼は死ななければならなかったの??」
「それでは私は、恋をすることも許されないの?」
アルテミスは泣き崩れました。
その嘆きは全知全能の神ゼウスの元にも届きました。
ゼウスはアポロンとアルテミスの父です。
アルテミスの元にやって来たゼウスは、そっとアルテミスの肩に手をかけました。
「アルテミス、たとえあなたでも恋をしてはいけない訳ではないんだよ。その身を守るのはあなたの役目ではあるけれど。」
「恋はすべてのものにとって生きるエネルギー。活力の源になるんだよ。」
と優しく語りかけました。
「さぁ、オリオンを空にあげよう。あなたが星になったオリオンに会えるようにね。」
そう言ってゼウスはオリオンを天にあげて星にしました。
こうしてアルテミスはゼウスの計らいで
オリオンに会うことができるようになったのです。
月がオリオン座のそばにある時は、ふたりが語り合う時間。
一途なアルテミスの恋のお話しでした。
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