第167話 大気圏の最終攻防
※
<やった……かな?>
ゼンが、普通は言わないお約束台詞(セリフ)を言う。
<ゼン、それは……、まあ、構わんじゃろう>
【月に生命反応はない。星霊も安定しておる】
【うむ。どうにかなったようじゃな】
月がまた、淡く輝き、光の粒子の様なものがジークを包み込む。
それは、ジークの防御障壁をすり抜け、二人の
ゼンが、先程までの瀕死状態から、少し楽になった。
<これは……?>
【月の星霊の加護じゃろうな】
【お礼、と言うべきだろう】
<うむ。それに値する事をしたのじゃから、当然よのう>
アルティエールが、狭い
<あれ?そう言えば、わし火星では何も貰っておらなんだよな?>
【いや、アルティエールも加護は授かっていただろう】
【そうじゃな】
<??そうかや?いつの間に?>
【ゼンから離れた後、別れ際にウィンクをしておった。それじゃな】
<……そんなん分かるかや!わしだけ雑じゃろ!女神共もまったく……>
ハイエルフ様が、ブツブツ苦情を申しておられるようです。
【なんだ。女神にゼンの様な、濃厚な加護を受けたかったのか。物好きな……。あれはあれで、ちゃんと意味があったのだがな】
最早三者は、事態が収束し、終わりを告げたと安心し切って緩んでいた。
その中で、ゼンだけが、まだ衰弱の残る身体を抱えながら、胸のざわつきに、戸惑いを覚えていた。
(確かに、月にはもう何もない、
何かを、まだ見落としているのか?
(嫌な予感がする。考えろ、考えろ……!)
ゼンは忙しく、今までの事を振り返り、考え直し、脳内で高速検証をする。
そして―――
<そうか!まだだ!>
ゼンは、ジークの向きを変え、アースティアへの軌道を、全速力で飛行する。
「な、なんじゃ、どうしたというのじゃ?」
全て終わった、とアルティエールはすでにヘルメットを脱ぎ、くつろぎモードでいた。
「ゼン、早く帰郷したいのは分かるが、速度の出し過ぎじゃ。重力による、落下の加速も考えずに、そんな速度で突っ込んだら……」
<そんなの、どうにでもなる!アルも準備して!>
「えぇ?準備って、何の準備なのじゃか……」
状況が理解出来ないアルティエールだったが、とにもかくにもヘルメットを被り直し、ジークとの同調(シンクロ)に戻る。
<……いた!あれだ!>
ゼンが、望遠で視界におさめたのは、先程見かけた、壊れた
<何じゃ。アレなら、落ちても大気圏の摩擦熱で燃え尽きるじゃろうて、そう神経質にならんでも……>
ゼンはアルティエールの言う事に耳を貸さず、収納空間内に残っていた、使い捨ての光線銃(ビームガン)を取り出す。
(遠距離武器は、もうこれしかない、か)
それを構えて、射程距離に入ったと同時に撃つ。
だが、壊れて何も動かない筈の飛行ユニットは、その光線を、ヒョイと機体を傾けて軽く躱した。
<な、何じゃ何じゃ!アレ、避けたのかや?>
ゼンは続けざまに2発3発と撃ったが、それらも躱され、1発は障壁で弾かれた。
<……そうとしか見えないだろ>
敵も収納空間を使うと聞いて、少し嫌な予感を覚えていたのだが、残念な事に正解だったようだ。
先程見かけた時に、気づくべきだった。
飛行ユニットが、アルティエールの魔術で爆発、飛行能力を完全に失った、と見れた時、その軌道は、アースティアに向かう軌道から完全にそれていた。
宇宙では、その軌道や速度を妨げるものは何もない。にもかかわらず、飛行ユニットはアースティアへの軌道に戻っていた。
あれから、エンジン部が誘爆を起こして、軌道が変わったとしても、丁度、星への軌道に戻る、等という偶然は起こり得ない。
ゼンは、エネルギーを使い切った銃を投げ捨てると、更に近寄ろうと、加速をかける。
<……多分、あの飛行ユニットの何処かに、収納空間を維持する機械があるんだと思う。その、収納空間の中に……>
後は、言わずもがな、であった。
<……ウゲ…しつこ過ぎるじゃろう……>
アルがゲンナリしている。ゼンも同じ気持ちだ。
敵が、星の重力圏内に入った。こちらも同じだ。
大気圏の摩擦熱に対する障壁を、下方に向けて展開する。
敵も同じように障壁(シールド)を展開している。もう間違いない。
ゼンは、力の使い過ぎで、頭が激しく痛む。視界も定まらない。
<……俺が、あれを破壊して、何とかいぶり出すから、後はアル、頼むよ……>
<わ、解ったのじゃ>
ゼンの苦しみや痛みが伝わり、アルティエールは焦って了解する。
ジークの収納空間から出す大剣は、もうこれが最後の一本だ。『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』はもう出さない。いや、出せないのだ。
ゼンは、月の星霊から貰った力と、自分の残り少ない力を剣に込める。
重力に捕まり自由落下状態で、距離はジリジリとしか縮まらない。
ゼンは、頃合いを見定め、剣を投擲した。
回転して飛ぶ、ゼンの全身全霊の力を込めた剣を、飛行ユニットの残骸は、自由落下状態であるにも関わらず、またそれを避ける。
その、避けて通り過ぎた剣は、まるで見えない壁にぶつかったかの如く、すぐに背後から、戻る状態で、飛行ユニットを両断した。
両断されたユニットは、そのまますぐに爆発した。
軌道を変えたのも爆発したのも、ゼンが“気”で操作した結果だ。
Giiiii~~~
耳障りな奇声を上げ、突如収納空間らしき所から飛び出してきたのは、他より四分の一の大きさしかなかったが、確かに
本当に、最後の予備が隠れていたのだ!
<『炎熱結界』!>
アルティエールがすかさず、ヴォイドを結界内に封じ込めた。
が、中からそれを打ち破ろうと、凄い抵抗をしているのが、結界を維持しているアルには分かる。
<来るのじゃ、
ハイエルフの召喚に、すぐさま四大精霊王の内の二人が応じ、現れる。
二王の助力。アルに加護を与えた
と、きらびやかな光と共に、炎熱結界が強化され、二人の精霊王の背後に、幻の様に、世界樹の幻影が浮かぶ。
<チッ、呼んでもおらぬのに、いらぬお節介を焼きおって……>
舌打ちをしつつ、アルティエールは攻撃呪文の高速詠唱を終える。
<わしがこの道中、ただのらりくらりとしていた訳ではない成果を見せてくれるわ!>
<『
既存の炎魔術とは違う、桁違いの熱量が、結界内で荒れ狂った。
<わし等、三者の意志の込められた術、吸収など出来ぬぞい。貴様がどれ程の熱耐性を得ていようとも、焼き尽くしてくれるわ!>
更にアルティエールは、もう一つの大魔法を展開する。
<結界内の酸素残量など、心配せずとも好いぞ。これ等の術は、わしの魔力が続く限り、真空内でも燃え続けるように改造した、特別製の、無限の炎じゃ。
『
自分が張っている炎熱結界すらギリギリの、超高熱呪文で、内部は第二の太陽が降臨したような有様となり、その爆発の眩さで、世界は白い光に包まれた。
<はぁはぁ……仕上げじゃ。『圧縮』!>
逃げ場のない閉鎖空間で、灰すら残らない程の熱攻撃にさらされた筈だが、敵はナノ単位まで分裂出来る相手だ。アルは用心の為に、極小単位まで炎熱結界を圧縮し、その効果を更に高めた。
そして―――
<『滅』!>
何もかも消滅させる。
アルティエールも、星霊達から授かった力を全て出し尽くしたのだ。
ヘルメットの内部は、汗でグシャグシャ。ひどい有様だった。
<ゼン、やったぞ!終わったのじゃ!>
最早、なんの存在も感じない。転移もない。
精霊達が、世界の隅々まで監視をし、王達に報告している。何の異常もないようだ。
<……さ、すが、アル…だ……>
ゼンも、自分の感覚に、何も訴えるものがないのを確認すると、張り詰めていた糸が、突然切れるように、バッタリ意識を失った。
当然、メインの
<ふぎゃあ!落ちる~~!下は……海か!風の
アルティエールの狼狽え、騒ぐ声を聞き、風の王は、機神(デウス・マキナ)が着水する寸前で、フワリと落下速度を弱め、無事、海へと柔らかく着水させた。
ゼンの意識もまた、海の底へと呑まれて行くように、深く深く落ちこんで行った……
*******
オマケ
ミ【長く、険しい旅じゃったのう】
テ【具体的には、20話超えて、プラス意味不明な幕間の多い……】
ア「メタネタやめんかい!」
ゼ「疲れしか感じないですよ。なんで剣と魔法の世界から、いきなり宇宙なんかに駆り出されたんだか……」
ア「そういうのも、ふぁんたじには付き物じゃぞ?」
ゼ「そうなの?俺は、嫌だなあ。操縦とかも、下駄履かされたみたいに、自分の力じゃない分、底上げされてるのが、自分の実力じゃないし……」
ジ「………」(ションボリ)
ゼ「あー、ジークが悪い訳じゃないよ!俺が、その、上手くいえないけど、ジークやアルが凄いのに、俺ばっかり前面に出てるのが気になって……」
三者(苦労症じゃ(だ)なぁ……)
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