第136話 集団生活の成果☆



 ※



「じゃあ、武器の使い勝手や威力を見たい、と思うので中庭に出て見てみましょうか」


 全員でゾロゾロと中庭に出る。


「左側を、魔術障壁に変えたので、術士の方々はそちらを、一応、小城の建物から外れる位置で試して下さい」


 ゼンだけが、頑なにフェルゼンという名称を使わないのであった。


 ゼンは右側の端の方に、連れて行き、端の手前で止まると、ポーチから大きな岩を取り出して、それを3個4個と並べた。


「これは、ご存じの人もいるかもしれませんが、硬鋼岩石、という、見た目ほどの重さはないんですが、硬くて丈夫な岩で、よくスキル技の試しなんかに使用される物です。


 ……え、なんでそんな物が収納具の中にあるのか、ですか?それは、師匠が技の試しによく使うので、その岩がゴロゴロしていた岩山で、たくさん収納しておいたんです。


 普通の岩だと、師匠は粉々にしてしまうし、木だとただ真っ二つにするだけなので。


 お渡しした武器は、これぐらいで刃こぼれしたりしませんから、試してみて下さい」


 ゼンが、皆に場所をゆずって、横に移動すると、サリサが向こうから、風の魔術を使って移動しているらしく、スルスルと走る速さよりも速く、ゼンの所に向かって来た。


「ゼン、こっちにも、その岩置いて欲しいの。ただ障壁に当てるよりも、目標ある方がやりやすいだろうし、威力も見れると思うから」


「ああ、そりゃあ、そうだよね。分かった」


 ゼンが術士側に『流歩』で移動すると、同じように硬鋼岩石を4つ程並べた。


 もう術士はほとんどの者が、アリシアやサリサからパラケスのクリスタルの映像を見せられ、疑似無詠唱の暗示登録を済ませた術を使っていた。


 今までよりも早く、一瞬でくり出せる術に、新しくなった杖のお陰で上がった威力と、二重に良くなった成果に、目を輝かせて驚いていた。


「サリサは程々で、アリシアにはあの術、使わせないでよ」


「わ、分かってるわよ」


 答えるサリサの目が泳いでいて、何だか不安になる。


 ゼンは、前衛、中衛の方に戻り、彼等に貸し与えた武器の様子を見る。


 『清浄なる泉』のリーダー、魔法剣士のザカ-トに渡したのは、そのものズバリ、『精霊剣(スピリットソード)』。軽く、切れ味もいいが、精霊を呼び寄せ、その力を術を使わずに宿す事が出来る剣だ。エルフ専用ではないが、エルフの持たせるのが一番効果的な武器だろう。


 リバース再生の古木同様に、エルフの森の遺跡で複数、見つかったものだ。


 副リーダーのセイラが魔術師なので、『精霊剣(スピリットソード)』はもう一本、『清浄なる泉』に提供している。誰に渡すかはリーダーに任せた。


 『蒼き雷鳴』のリーダー、シグマには『轟雷閃』。名前そのままに“気”で雷が出せる魔剣だが、狙い当てるのがかなり難しい、味方に誤爆しかねないので、纏わせて斬る以外は使わない様に言ってある。制御に難のある剣だが、シグマなら使いこなすだろう。


 『蒼き雷鳴』の副(サブ)リーダー、野伏(レンジャー)のジョンソンには風な魔弓『風雅』を。弓に風の魔力を宿らせ強化するのは、魔弓にはありがちなのだが、『風雅』にはこれとセットで魔具の弓筒があり、それがラルクの魔弓と同じで、“気”で弓矢を造りだせるのだった。


 彼は小人族で、普通の長弓だと長過ぎるのだが、そこは魔弓。手に取ってみれば、使い手に合わせて長さが変化するのだ。


「予備の弓矢を気にしないで済むのは大きいが、威力の調整と、“気”の残量との兼ね合いを覚えなくてはいけませんね」


 ジョンソンは、硬鋼岩石に射て命中する弓の食い込み具合で威力を計りながら、“気”の消費の度合いを比較するのだった。大槌


 『剛腕豪打』のドワーフ兄弟、ガドルドの武器は雷鎚(ミョルニル)のレプリカ、らしい大槌を渡した。本物は神の使う神器なので、レプリカなのは当然だが、これも雷の魔力を宿しているので、かなりの破壊力を持っている。怪力にガドルドにはうってつけの武器だろう。


 弟のゴドルドには、兄のと見た目は同じで、こちらは地の魔力が宿った大槌で、こちらも破壊力が凄まじく、うまく扱えれば地割れが起きると言う。


 考えると、地割れは敵味方問わず、危ない気がするのだが、扱えれば、の話なので、とりあえず、注意だけはしておこう。


 『破邪剣皇』のリーダー、ガイには、デユランダルのレプリカ。“気”の込め具合で、斬れ味が増す魔剣だが、込め過ぎると消費が激しく、今も硬鋼岩石を一刀両断で、縦に切り裂いたが、本人はすでに青い顔をしている。この剣も制御が難しいので、迷宮(ダンジョン)探索までに、扱いを覚えて欲しい。


 副(サブ)リーダーのロータスがどうにかすると思うが、無理なら別の剣と変える事になるかもしれない。


 そのロータスには、『精霊剣(スピリットソード)』を。エルフの剣士は、これで不公平感はないと思われた。


 『古(いにしえ)の竜玉』の竜人兄妹は、村に伝わるという、竜の牙や爪から造られたという力のある名剣を持っていたので、そのままになった。


 後、まだ所属先が決まっていない、ロナッファには、隕鉄で造られたという星屑の爪スターダスト・クロウを。


 リーランには、棒術、棍術を使えるというので、ニョイボウ、という武器のレプリカで、“気”によって長さを伸ばしたり、多節棍としても使える物を渡した。


 精霊術士であるカーチャの杖も、リバース再生の古木で新しくしてもらった。


 彼女は多分、人数の少ない『古(いにしえ)の竜玉』に加わってもらう事になるだろう。


 これで、グランド・サンドワームの皮鎧が、来週半ばには完成するらしいので、訓練期間約一カ月、武器、防具を新調して準備万端、それぞれに合うと思われる中級迷宮(ミドル・ダンジョン)の攻略に出てもらう。


 その進捗具合によっては、途中で戻り、また訓練という事もあるかもしれない。可能性は低いと思われるが、それでも何が起きるか不確定なのが迷宮(ダンジョン)だ。


 『悪魔の壁デモンズ・ウォール』の様な予測不能な出来事が、絶対に起きない、とは誰にも保障出来ない話だ。



 ※



 一通りの確認が終わると、時間は正午近くになっていた。


 ゼンは昼食の調理があるので、風呂は男性陣の一番早い組に入る。


 日中の風呂は、身体を洗うのではなく、ただ汗を流す感じで手早く済ませる。


 ゼンは厨房に入り、風呂を出た者もそのまま食堂に来て、いる者と雑談する。


 食事の後もなのだが、皆、余りすぐ部屋に引き籠らずに、集団で話すようになっていた。


 最初は、竜人たちの話の様な、ここに来るまで訳ありの者の話を聞いたりもした。


 フェルズの外で起きた、3年前の悲劇の事件。


 竜人達の村を襲った、邪竜を信望する暗黒教団の非道な振る舞い。


 本来、竜人族は、人間族よりも獣人族よりも、更に言えば魔族よりも強い、最強に近い種族だ。たやすく傷つけられるような弱い存在ではない。


 しかし、その邪竜を信望する教団の信徒達は、邪竜から抽出、精製した毒を塗った武器で村を襲い、耐性の低い子供達が犠牲に合い、6人の子供達が亡くなったと言う。


 野盗が徒党を組み、辺境で村を襲うなどと言うことは、ままある事だ。


 その場合の被害は、そんな少数では済まないのが普通だが、寿命がエルフ以上に長く、子供が生まれるのは100年に一人、いればいい方である竜人達にとって、それはとてつもない痛手であり、一時的にでも離散して、子供達を逃がし、その安全を確保してから復讐するのが当然の出来事だった。


 その邪教徒達にとっては、長筋の血に何らかの意味があったのか、執拗に狙って来ていたので、オルディアスとコルターナの兄妹は、他の者を逃がす為に囮となり、古くからの盟約で、助けを約束されていたハイエルフ、アルティエールとその従者を護衛に、わざと目立つ行動を取りながらフェルズ入りをした一行は、そこで魔族の『神の信奉者』事件の事を知り、そのままフェルズにとどまった。


 その理由は、村を襲った邪教徒達と、『神の信奉者』とに何か繋がりがあるのでは、と怪しんだ事と、もしまた邪教徒達が襲って来たら、フェルズの冒険者達も巻き込もうという計算が合ったのだそうだ。


 だが、それ以降、散発的にはあった邪教徒の襲撃が、ある時期よりパタリと音沙汰無くなり、それでもフェルズにそのまま滞在し続けたのは、囮としての役目と、ハイエルフと竜人、という、寿命の長い、気の長い種族故の時間感覚のズレからであった。


 3年ぐらいは彼等にとって、3カ月ぐらいな感覚らしいのだ。


(そこに更に、他からの召喚や、助力の要請がなければ、エルフの里以外の外には出られないが為に、その時間を引き延ばそうとしていたハイエルフの思惑も絡んでいた)


 取り合えず、ゼンの話と、仲間の伝言から事態が収束した事を知った二人は、その恩人の一人となるゼンへの恩返しと、村の復興資金を稼ぐ為にクランへの参加を決意したのだった。


 ここで、アルティエールには、“外”にいる口実の大半がなくなっているのだが、盟約の召喚主がここにいる以上、帰れ、と言われない限り、帰る道理はなく、自分が興味を持った相手を連れ帰れるのであれば、そのまま帰っても良かったのだが、それが叶わなかったので、方針を変えたのだった。


 ゼンやその仲間達が、自分を必要とする者になればいい。


 それをどう引き延ばしたとしても、その寿命の範囲内で、自分にとっては瞬きにも等しい短い期間だが、それでも、今までとは違った、新たな珍しい経験が出来るかも、と期待している。


 クラン『東方旅団』のメンバー達は、竜人達の悲劇の話を知り、いきどおりを覚え、義憤にかられても、それはもうすでに解決してしまった話だ。竜人達には同情するしかない。


 同じ様に、ドワーフ達の、村に捨てられた人間族の少女、クラリッサの事情等も聞き、これにも義憤を覚えるが、大半の者が不思議に思っている。


 人間がドワーフの村に我が子をわざわざ捨てに来る、理由が分からないからだ。


 そのドワーフの村は、他種族と交流はあるようだが、普通に子を捨てたければ、自分の住む街や村の、教会や孤児院にでも捨てればいい。


 だがその理由は、相手を見つけて問いたださなければ分からない物だろう。


 調査は冒険者ギルドに引き継がれた。


 そうした調査に、冒険者ギルド以上に適任な組織はないであろう。


 そこで無理なら、それこそ千里眼や予知等の、超常のスキル持ちにでも頼るしかない。


 その場合でも、スキル持ちを探せるのは、世界規模の組織である冒険者ギルドだろう。


 教会も、その意味でなら、当てになるかもしれないが、その依頼以前に法外な寄付を要求されるだけなので、余りいい選択先とは言えない。


 仲間内で、そんな事をつらつらと話し合う。


 最初の内には、まったくなかった光景だ。


 同じ目的を持った者達が、同じ場所で衣食住を共にし、お互いを高め合い、助け合い、暮らす。


 それは、ゼンが思っていた以上に、集団の団結を高め、親睦を深め、親愛を強めていた。


 特に、人の三大欲求の一つ、他の種族とも共通する“食”が美味いのが、最大限に効果を発揮していた。


 誰もが、美味しい物を食べられて、不機嫌になったりはしない。


 満足し、機嫌が良くなり、食が進めば話も弾む。笑いもこぼれる。


 厳しくも、実りが実感出来る、鍛錬の日々。その汗を、疲れを、綺麗な広い風呂で洗い流し、脱力する。


 そして美味いメシ。


 おまけに栄養面を十二分に考えられた、多種多様なメニューは、その日の消耗を補充して余りある、次の日への活力となる。


 規則正しい生活に、たるんだ部分が多少はあった身体は引き締まり、最高級の力を発揮出来る下地を作り出す。


 ゼンが、そうしたらいい方向へ向かうのではなかろうか、と漠然とした考えは、思いがけない程に、功を奏していた。


 ゼン自体は、それをまったく意識していない。


 ただ、思っていたよりも、いい人達が集まってくれたなあ、と思っている。


 ガドルドやガイ等、最初はもっとこちらに反発する、問題を引き起こしそうな不安があったのだが、それも杞憂で、今のところ何も問題は起きていない。


 ガドルド兄妹も、ガイも、最初の頃の険が取れ、丸くなった印象すらある。


 それに自分が貢献しているとは、まるで思っていないゼンは、旅団のメンバーや、ダルケン等爆炎隊のメンバーや、他のチームリーダー達までもが、そういうゼンを微笑ましく思っている事に気が付かないのだった。










*******

オマケ


伝説の武器、防具の模造品(レプリカ)について


この世界には、神話で神々が使われたとされる神器や、伝説の勇者、英雄が使われた聖剣、魔剣等の模造品も、数多く存在します。

実際の物からの忠実な外見を模倣した物から、単なるモチーフとして、名工が自分の解釈で造り上げた、見た目はまったく異なる、付与された効果のみ似た物等、多種多様な物が造られています。

それらは、決して本物には届かない能力の物ばかりではありますが、魔力を込められた武器である事に変わりはなく、ほとんどが法外な高値で取引されます。

中には、本物に迫る物なのでは、と言われる程に高い性能を秘めた物もあり、それを造ったのは、その時代の有名な鍛冶師、名工で国宝指定される事も。

本物との違いは、『鑑定』で、どれ程の物を作ってもかならず模倣品(レプリカ)である事が判明するので、名画の贋作の様に、本物ではない偽物が本物として扱われる事はほとんどありません。

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