第32話 帰還☆



 ※



 パチパチと、焚火の炎が音を立てて燃えている。


 揺らめく炎は、ただ見ているだけでも飽きがこないから好きだ。


 その向こう側では、彼の師匠であるラザンが岩を椅子代わりに腰おろし、途中立ち寄った街で買い込んだ酒を、それはそれは満足そうに飲んでいる。


「師匠、あんまり飲み過ぎない方がいいんじゃないですか?」


 一応言ってみるが、師匠がゼンの言う事を素直に聞いた事はない。


「いいからお前も飲め……、て言えない歳なのがつまらんな」


 少しだけ酔って赤らんだ顔をしたラザンは、自分の収納具からつまみらしき物を取り出し、それをくちゃくちゃ噛んでいる。


「……それでゼン、お前が、強くなってまで守りたい奴ってのは、何人いるんだ?」


「何で急に……」


「いいから答えろ。これは師匠命令だぞ」


「何かあるとすぐそれを出す……。え~と、ゴウセルと、西風旅団のみんなの、4人で、合わせて5人かな?商会で、他にもお世話になった人はいるけど、ライナーさんは、少し違う感じだし……」


 ゼンは真面目に考え込む。


「あ、ギルマスにもお世話になってるから、それで6人?」


 それを聞いてラザンは、げひゃげひゃよく意味の分からない下品な笑い声をあげて笑い出した。


「おいおい、あの、ギルドマスターを、お前が守るってのか?古傷があるからって、”アレ”は元A級の凄腕だぞ、逆に守られちまうぜ!」


「……ならやっぱり5人です」


 ゼンはむくれて訂正する。


「ほうほう。だが、大方、それでは済まなくなるぜ」


「……なんでですか?」


 師匠に敬語を義務付けられたゼンは、そろそろ敬語を使い慣れて来た。


 弟子になる前は、気にしなくていいって言ったくせに!


「そりゃ、人には、人の付き合いとかって、しがらみが出来るからだ」


「付き合い?しがらみ?」


「そうだ。例えば、お前が女を好きになる、とする」


「はあ」


 恋愛とか言われても、今のゼンにはまるで理解不能なので気のない返事になる。


「その女は、お前の守るべき、大事な者になるな?」


「それは……当然、そうなるでしょうね」


「その女には、親兄弟、そして友達、親友とかかな、を大事にしてる、とする」


「はあ。まあ、優しい子なら、そうだと思います」


「そうして、お前の大事な者は、増えていくわけだ」


「え!?あ、そうなる、のかな?」


「そうなるんだよ。愛する女の大事な家族、親友をお前は大事じゃないって言える程に、薄情なのか?非情なのか?ゼン」


「それって、意地悪な言い方じゃないですか……」


 不満そうなゼンの顔を肴に酒を飲むラザン。


「言い方は悪いが、人の世に生きる者はそうして、大事な者の輪が、繋がり増えていき、そしていつしかか、身動きが取れなくなる時がくる」


 ラザンの言葉に真剣な調子はあるのに気づき、ゼンは真面目に耳を傾ける事にした。


「……そうなんですか?」


「ああ。そいつを、しがらみって言うのさ。もう俺にはない。全部捨てたからな」


 それを喜ぶべき事の様に言うラザンの、真意は本当にそうなのだろうか?


「だから、なんでもかんでも抱え込んで、身動き取れなくならない様にしろよ」


 ゼンの心の疑問にラザンは当然答えず、ただ言葉を重ねるだけだ。


「お前が大事に思う者には、他にも大事に思う者がいて、そいつには~、とそれが無限に繋がって行く。それが人の絆の輪だ。強くなった奴は時々、結構これを、自分が全部守らねば、とかって大それた勘違いをする」


 ラザンは飲み干した酒壺を、残念そうに口の上で傾け、もう出ない事を確認すると、ポイと宙に投げ、刀を一閃、いや、ゼンには見えなかっただけで、何十閃とさせたのだろう。壺は、粉々の粉となり果て、風とともに散り霧散する。


「……師匠、そんな事しなくても、残しておけば何かに使えたのに……」


 ラザンはゼンの貧乏性には付き合わない。話を続ける。


「そうして自滅する。どんなに強くなろうと、人の力には限りがある。


 砂漠の砂を、両の手の平でですくいあげても、全部をすくえはしない。指の間から零れ落ちる砂もある。あるいは、水の方が比較としてはいいか?」


 『流水』だしな、とラザンはよく意味の分からない事を言う。


「砂だろうが水だろうが、救えるのは、限りある者だけだと言ってるんだ。


 自分の力の限界を正確に見極め、救える者だけ救わんと、それこそ足元をすくわれる事になるんだぜ」


「よく、わかりません、師匠」


 師匠の言う事は、時々ゼンには難し過ぎる。


「まあ、今はそれでもいい。いつか帰ったその時にでも、俺の言った言葉の意味を、よく考えてみるんだな……」




 ※




 ヒューヒューと、耳元で風が鳴っている。焚火の炎の音ではない。


「う~ん?」


 ゼンが身じろぎして、目を開けると、そこは遥かな空の高み、飛竜の鞍の上だ。


「寝てもいいとは言ったが、熟睡するとは思わなかったぞ。流石は『流水』の弟子だな。肝が座っている」


 ゼンの後ろで飛竜の手綱を握る竜騎士は、笑いながらその小さな剣士に話しかける。


(そっか、今の夢……、修行の旅の、かなり最初の方の。なんで急に今?)


「なんだか昨夜は興奮して眠れなかったので……。もうすぐ着きますか?」


「ああ、もう後5分もかからん。そろそろ見えてくるぞ。”迷宮都市フェルズ”が」


 ゼンの視界に、確かにフェルズの懐かしき光景が近づいて来る。


 前より街道の道幅が微妙に広く見える。街道整備がなされているのだろう。


 そして、フェルズを囲う頼もしき城塞の壁、それよりも高い位置にある、巨大な建物。あれが、空の上から見たフェルズの冒険者ギルド東辺境本部なのか。


「3年ぶりなのか?」


「2年と半年ですね。前の”闘技会”の時に、旅立ったので」


「そういえば、後、半年で3年ぶりの”フェルズの闘技会”だな」


「はい」


 あの時見た、色々な光景は、今もゼンの目に、胸に焼き付いている。


 精霊達の、華やかで楽しそうな乱舞。そして、師匠が負けた、衝撃的な試合……。


「よし、ギルドの屋上に降りるぞ。しっかり掴まって、口を閉じてろ。舌を噛むぞ」


 竜騎士の操る飛竜は、いったんフェルズのギルド本部の屋上付近でしっかり減速し、上に一瞬浮かんだ様な感じがしたと思うと、ほぼ垂直にゆっくりと羽ばたいて降りて行く。


 ギルドの屋上は、それ程狭い訳ではないが、上手く減速出来なければ屋上内には着陸出来はしない。その点を考えても、この竜騎士は一流の腕の持ち主だ。


 ゼンという『流水』の弟子をフェルズに送る依頼は、大変名誉なものとして、サリスタで一番の竜騎士が選ばれたからだ。


(師匠の威光が凄過ぎて、この先も不安になるな……)


 ギルドの屋上には数名の見張りがおり、遠方から来た飛竜に乗った客人をすぐに出迎える。


「サリスタの竜騎士、ケインだ。依頼により、客人1名をお連れした!」


 ゼンと竜騎士ケインは、飛竜が姿勢を低くしてくれたので、楽にその場へ降りる事が出来た。


「ここまでありがとう、シリル」


 ゼンは、転移門(ゲート)のある街サリスタから、一気にここまで飛んで運んで来てくれた飛竜の喉を撫でてやる。ゴロゴロ喉を鳴らして、ゼンにその顔を寄せてくる飛竜のシリル。


「俺以外慣れないシリルが、ゼンにはすっかり甘えてるな。これも『流水』の技なのか?」


「まさか。シルリが優しい飛竜だからですよ」


 ゼンは笑って、彼に頬ずりするシリルの頭も撫でてやる。


「竜騎士殿は、すぐにお戻りになられるのなら、どうぞこちらで一時休憩をされて下さい。お茶をお出ししますので」


「お客様は、身分証明をお願いします」


 サリスタから飛竜で来るには、かなり料金がかかる。


 高貴な身分の者かと思ってギルド職員は出迎えたのだが、その客は、10歳ちょっと位にしか見えない、だがかなり高価な特殊効果のついていそうな、不思議な藍色の皮鎧をつけた冒険者風の剣士のに見えた。(ミニ剣士)


「『流水』ラザンの弟子で、従者のゼンといいます。身分証明書はこれで……」


 ゼンはその昔、レフライアに直接出してもらった身分証明書を渡す。


 自分達のギルマスの印が押された証明書だ。その真偽はすぐ分かる。


「『流水』の弟子!ゼン殿ですか!」


 今や、大陸各地を好き勝手に暴れまわり、高位の魔獣、幻獣を狩りまくる剣士、『流水』のラザンとその弟子や従者達の存在は、もうその筋で知らぬ者はいない、と言っていい程の勇名を馳せていた。


「す、すぐにギルドマスターにお伝えしますので、しばしお待ちを!」


 ギルド職員が慌てて走り去って行くのを、ゼンと竜騎士ケインは眺めつつ、雑談する。


「有名人は辛いな」


「師匠の活躍を、弟子と同一視されると困るんですよねー……」


「またまた。妙な謙遜は嫌味だぞ」


「いえ、本当なんですってば……」


 ゼンの言葉はまるで取り合ってもらえない。


「俺は1日休暇を貰った。フェルズの街を1日観光して休んで、1泊したらとんぼ返りだ。


 ラザンのゴルゴバ砂漠での活躍の話は面白かった。縁があったらまた会おうな」


 ケインはゼンの肩を親しみを込めて軽く叩き、1日滞在する事をギルド職員に告げる。


「1日、ここの厩舎でシリルを預かってもらえるか?」


「はい、勿論大丈夫です。餌も手配しておきますので、ご安心下さい」


 屋上に設置してある厩舎は、賓客等が飛竜で訪れた時用の物で、基本的に平時は空の状態だ。


 ケインはシリルを先導して厩舎へと移動して行った。


 それと入れ替わるように来たのは、一応ゼンも会った事のある顔だ。


「確か、副(サブ)ギルドマスターのロナルドさん?」


 厳めしい顔をした副(サブ)ギルドマスターはうやうやしく礼をする。


「お見知りおきいただき光栄です、ゼン殿」


「あの~、俺、これから冒険者登録する新人なんで、普通にゼンって呼んでもらえないでしょうか?師匠が強くて有名人でも、俺とは別ですから」


「……まあ、本人がお望みならそれで。では、ゼン。ギルドマスターがお待ちです。行きましょうか」


「はい!」


 ロナルドが素直に呼び捨てにしてくれたので、ゼンはニコニコ笑顔でついて行った。


 ギルドの屋上からギルマスの執務室まではそう遠くない。ギルマスの執務室は5階だ。


 ロナルドがノックをし、返事があったのでドアを開けて中へ入ると、一度ゴウセルの手紙を渡しに入った懐かしきギルマスの執務室だ。


「お帰りなさい、ゼン君!」


 ビックリしたのは、レフライアは椅子に座っておらず、ドアのすぐ近くでゼンを出迎え抱き締めた事だ。


「え、れ、レフライアさん?」


「ギルドマスター、その様な不作法な真似は……」


 ロナルドが顔をしかめ、苦い顔でギルマスをたしなめる。


「いいでしょ、3年近くな、久しぶりの”英雄な義息子”の帰還なんだから。あなたこそ、感動の再会に水を差すのは無粋よ、ロナルド」


「……分かりました、邪魔者は去りますが、くれぐれもご自重なさいませ」


 ロナルドが去ると、レフライアはまじまじとゼンを見つめ、


「三年ぶりともなると、すっかり成長して……はいるけれど、相変わらず小さいのね、ゼン君は」


「三年、というか正確には2年半です。その分は成長したと思うんですけど、もう自分でも諦めてるんで……」


 ゼンが、心持ち渇いた笑いを浮かべる。


 10歳当時は7、8歳と見られ、今は13ぐらいでやっと10歳ちょっとに見られている。背がやっと当時の年齢に追いついた、というのはゼンにとっては皮肉でしかない。


「でも、すっかりなんか、普通に話せる様になっているし、表情豊かな感じになってるから、まるで別人みたいよ」


「自分だと、あんまり分からないんですよ。俺ってそんなに変わりました?」


「うん。だって、いつもなんか無表情で、色々押し殺してる感じが……。


 でも、別れ際はもうそんな事はなかったし、これが君の”普通”だったのね……」


(そうだ、あの頃の事があったからこそ、俺は色々取り戻せたんだと思う。そして、辛く辛く、それはそれはひどいひどい内容の修行にも耐えられた……)(←色々2回繰り返している)


「どうしたの?なんだか虚無を見つめる悟り切った僧みたいな虚ろな顔して」


「……な、なんでもないです。どんな表情なんですか、それは?


 余り思い出してはいけない、記憶の蓋が開きかけただけです……」


 ゼンは記憶の蓋に大重量の重石を乗せて、無理に微笑む。


「それより、”義息子”って言うのなら、ゴウセルとはもう正式に結婚したんですよね?


 おめでとうございます!」


 ゼンは努めて明るい声を出して、レフライアを祝福した。


 だが、今度はレフライアの方がド~ンと落ち込んだ暗い顔をしている。


「……ごめんなさい、”義息子”と言ったのは、私もあの頃を思い出して、悪ノリしてしまったの。


 ゴウセルとの婚約は、今は、解消されていて、つまりは白紙撤回ね……」


 ゼンは、その衝撃の告白に驚かずにはいられなかった。


 確かに、彼が旅立つ前の、レフライアを英雄視する周囲の重圧が凄過ぎて、とてもすぐに結婚どころか、婚約を表沙汰にする事すら出来ない、というのは聞いていた。


 でも、この二人の熱々ぶりは、周囲が見ていて砂を吐きたくなる程凄く、恐らくは二人の片思い期間がそれぞれ長かった為に、その反動の様に盛り上がっていたのだろう。


 だから、とてもおいそれと破局するとは思えなかったのだが。


「……解消された、と言うからには、ギルマスが何かしたんですか?その……浮気、とか……」


 シュッ!鋭い音が空気を裂く。


 ゼンはその瞬間、”流歩”を発動して、ギルマス執務室の狭い室内を、瞬時に後方へ移動してなんとかその鋭い一撃を躱した。


 紙一重過ぎて、喉元に紅い線が残っている。


「私がそんな事する訳ないでしょ!言っていい冗談と悪い冗談があるわ!」


 魔獣でも射殺しかねない凶悪な視線でゼンを睨むレフライア。


「……今俺、避けなかったら軽く重傷コースだったんですが……。まあ、迂闊な発言には謝罪します。すみません、ギルドマスター」


「あ、いえ、私も、その、ごめんね……。つい、反射的に……」


 と言って、その手を振ってもなかった事にはなりません。


 手刀の一撃を、反射的に急所の喉に叩き込まれては、たまった物ではない。


 どうしてこう彼の周囲には、つい、とか、思わず、とか言って致命になりかねない重い攻撃を軽く繰り出す者が多いのだろうか……。


<いい、この人は大丈夫だ、気にするな>


 ゼンは、中の者達が、今の攻撃で反応するのを押しとどめた。


(確かに、これは”守る”必要のない人です。師匠は正しかった……)


「と、とにかく、色々話したい事もあるし、隣に移りましょ」


 レフライアに連れられ隣室へと移る。


「あれ、ここって小会議室だったんじゃ?」


「私が、相手を立たせたままの報告って好きじゃないから、こちらを簡易的な応接室に変えたの」


 以前小会議室だった部屋は、ソファ2組と、中央に低く長いテーブルの置かれた、客をもてなす空間に様変わりしていた。


 向かい合ったソファに二人は座る。


 レフライアは、テーブルに置いてあったベルの様な物を振る。音はしなかったが、どうやらそれは魔具で、別室にいた者を呼び出す為の物のようだ。


 振ってしばらくすると、ドアにノックの音がした。


「入っていいわよ」


 ギルマスの許可に入室して来たのは、ファナ、ではなく、別の眼鏡をかけたいかにも真面目そうな女性だった。


「トリスティア、私達にお茶と……もうすぐ昼ね。ゼン君、多分、話が長くなりそうだし、昼食も頼んでおく?」


「そう、ですね。お願いします」


 レフライアは頷くと、トリスティアと呼んだ女性ーーー多分秘書官なのだろう、に頼んだ。


「下に、ランチセットでいいわね。それを2つ頼んでおいて、来たらこちらに持ってこさせてね」


「はい、うけたまわりました。ギルドマスター……」


 トリスティアは何故か緊張に震えた声で応え、頭を下げ一旦退室した。


 食事などは下の食堂へ注文するようだ。


 彼女は新人秘書なのだろうか?緊張した様子を不思議がっているゼンを見て、思わずレフライアは吹き出していた。


「ゼン君、あの子は、”あなた”に緊張していたのよ、分からないの?」


「俺に、ですか?なんでまた……」


「それは、あなたが今大陸に名を馳せている”英雄”だから、に決まってるでしょ?」


「またそれですか……。俺は、”英雄”の弟子に過ぎないんですよ……」


 ゼンは、いい加減その手の話にうんざりしていた。


「そうなのかしら?君は、北の大国アスガルズでのお家騒動で活躍して、そこの第四王女に気に入られて、熱烈に迫られていたって聞いたけど?」


「……あれは……たまたま歳が近かったから、そうなっただけの話で、そこで実際に戦って、敵を撃退したのは師匠ですし、俺はその王女を護衛してた位ですよ……」


「本当に?君は単に自己評価が低いだけじゃないかしら。実際、周囲には全然そう思われていないわよ。『流水』はもうかなり使えるんでしょ?さっきの動きだって」


 レフライアは悪戯っぽく微笑む。


 先程の動きが『流水』の技の一つなのは確かだ。元A級ともなるとお見通しの様だ。


 そこで、またノックの音がして、レフライアが応じると、トリスティアが茶器を用意して入って来た。


 しばし、彼女がお茶をいれてくれるまで話は中断した。


 震える手で、入れた茶のカップを置かれ、ゼンが、ありがとうございます、と頭を下げると、とんでもございません!とトリスティアは、年下の子供に頭を下げられただけなのに、顔を真っ赤にして、わたわたとうろたえ、ギクシャクとした動きで退室していった。


 やはりゼンに対して緊張していた、というのは本当の様だ。


 ゼンは不本意そうな顔をして、それでもその入れてもらったお茶をすすってから、中段した話を再開する。


「……まあ、『流水』をある程度は習得出来たと思いますが、師匠の域には、まだまだとても及ばなくて……」


 弟子が師匠に追い付けないのは、ある意味当然だと思うレフライアだ。


 ラザンの様な達人級の師匠なら、増々それは不可能に近い難事だろうに。


 それだけ彼の向上心が貪欲で旺盛なのだろう。


「ところで、今日は、前にいつも見かけていたファナさんはどうしたんですか?もしかして、秘書を辞められた、とか?」


「ああ、あの子は今ね、隣り街の方で冒険者といさかいを起こした親戚の仲裁に行って、フェルズにいないだけよ。まだまだ元気に秘書してるわ。ゴウセルとの婚約が解消になった時には、それはもう喜んで仕方なかった位……」


 その話で、今はゼンとラザンの華々しい修行の旅の話に花を咲かせている場合ではないのを、レフライアは思い出した。


「それで、ゼン君には、帰って来て早々なんだけど、相談事があるの。帰ってきてくれて、本当に良かったわ。連絡を取ろうかとも思っていたのだけれど、ゴウセルが禁止するし……」


 顔を曇らせて話すギルマスのらしくない態度に、ゼンの不安はにわかに高まる。


「も、もしかして、誰かに、何かあったんですか!?」


「あ、心配しないで、その……”死んだ人”とかは、いないから……」


 それはつまり、それ以外の事があると言っているのも同然だ。


「でも、なにか悪い事があったと?その……どちらにですか?」


「………両方ともよ」


 最悪に近い回答だ。


「でも、ゼン君が帰って来てくれた事で、色々と事態は変わって、好転すると思うの。


 特にゴウセルの事は、ちょっと急ぐ必要がある。でも、今まで色々な魔獣を狩って来たゼン君なら、この問題はそう難しい物ではないと、私は思っているわ」


 それから、詳しい話をレフライアに聞く。


 ゴウセルの話、そして、西風旅団の話を。



(中略)



「……確かに、ゴウセルの話は、どうとでも出来そうですね。でも、西風旅団の方も、放置していていい状況には思えません。


 俺が帰って来た事を伝えて、とりあえず活動をひかえてもらわないと……」


 と、何か階下の方から上がってくるのが、感覚の鋭い二人には分かった。


「……これって、もしかして?」


「こ、困ります!例え『三強』と言えども、勝手に上に上がられては!こちらは関係者以外、許可なく立ち入りは禁止されています!


 今、ギルドマスターは、大事な客人の応対をされているのですから……」


 トリスティアが何者かを止めているのが、五感を鍛えられた二人には聞こえていた。


「だから、俺らもそいつに用があるんだよ、邪魔すんな、嬢ちゃん」


「失礼、レディ。我もこの様な不作法な真似はしたくはないのだが、可及的速やかに、確かめたい事があってね」


「どうやって嗅ぎつけて来たのかしら、もう。面倒な連中ね……」


 レフライアが顔をしかめ、呆れた様な顔でドアの方を見る。


 そして、乱暴な音をしてノックもなしにドアが開かれ、そこにいたのは、


「悪ぃな、随分待たされたんで、気が急いっちまってな、ギルマス」


「……突然の訪問、どうかお許しを、ギルドマスター」


 かつて『三強』と言われた、ゼンの師匠以外の二人、『豪岩(グレート・ロック)』のビィシャグと、『聖騎士(パラディン)崩れ』のシリウスだった……










 

*******

オマケ


という内容でした!どうでしょう?

1度やってみたかった!あれから何年後、という黄金パターン。

レイズナーとか北斗の拳とか凪のあすからとか、他も色々あると思いますが。


ラ「ちょっと待ってやぁ!俺とゼンの修行の旅は!何処行った!」


いやあ、もうそれ終わりましたんで、ゼン君の新たな精神的外傷(トラウマ)になりかねない厳しい修行については、折に触れて出てくると思われます。

色々な活躍は、外伝でか、もしかしたら3章では過去に戻ってその話をやると言う事も


ラ「おお、やるのか!」


可能性がなくなくもないかなあ、とまあ要望とかあったりしたらでw。

という事で、強くなって帰って来たこれからはずっとゼン君のターン!的な話が増えると思われます。流石に無敵!までいってはいない様ので、変に無双な感じにはしないと思いますが、ゼン君には、まだ旅で得た秘密なあれこれがあるので、それらも順次、明かされていくと考えてます。

そして恋!13歳とかまだ幼くてちょっと犯罪じゃね、な気もしますが、男の子なら大丈夫!か、どうかは知りませんが、やっとそういう話も解禁、て事で女の子のメインキャラも増えて行く予定です。男も増えますが、こうご期待!


ゼ「なんて期待だけ煽っても、俺、知らないですよ……」


ま、とりあえずは、ゴウセルと西風旅団の抱えた問題を何とかしていくのが目下の急務。2章何話になるかなぁ……

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