第19話 野外任務(2)☆闇夜の脅威



 ※



 ラルクスとゼンが戻って来た。


「血抜きで、流れのゆるい場所作って岩とかに狼達はさんで、川に浸して来たけど、あれって魚とかに食べられない?」


「大きな川じゃないからな。つつかれてもたかが知れてる。それよりも、血の匂いにつられて何か魔物が来ないかが心配だな。川下にグレイウルフの群れがいたし、都合よく行くなら、もう一群れ来て欲しいところだが……」


「何か来たら分かる様に感知系の魔具仕掛けてきたから、見張らなくて大丈夫だぜ」


 ラルクスが親指を立てて、バッチリと合図してくる。


「フェルズは本当に便利な魔具が色々売ってるよな。俺らの村じゃそんなものないから、交代で見張りをしたもんだが」


 ゼンの様子はかなり普通に戻っていた。やはり、解体作業で集中して身体を動かしたのが良かったのだろう。




 しばらくして、そろそろ夕食の支度にでもかかろうとしていた矢先、感知系魔具に反応があった。目立つ岩の上に置いた魔具が赤く点滅している。


「夕飯前の運動だな……」


 五人がすぐに装備を整え、武器を持って駆け出す。


 ゼンとラルクスが解体したグレイウルフのある場所がすぐに見えてくる。その、川下からやってくる無数の影は……。


「本当に都合よくいったな、嘘だろ……。グレイウルフだな。だが、20頭近くいそうなのは余計なんだが……」


「こっちの都合で頭数調整してくれる訳じゃないからな」


 ラルクスは余裕で笑っている。解体中、ゼンに昼間の戦闘の様子を聞いたのだろう。


「暗くなる前にかたずけよう。サリサは、炎系使うなよ。素材燃やされるのはごめんだぜ」


「あ、そっか。迷宮外だとそんな制限もあるのね、仕方ないわ……」


 サリサリサは風と氷結系を使う事にしたようだ。低位、中位の呪文で何発か群れに放つ。


 群れの先頭にいた数匹がその犠牲になり、全体の勢いが明らかに落ちた。


 アリシアの強化補助が、リュウエン、ラルクス、ゼンに飛んでくる。他にやる事がないので念の為なのだろう。戦力が足りているので、アリシアの棍棒(メイス)の出番はない。


 リュウエンは中央に突っ込み、ラルクスはその援護に側面。位置はバスターソードの届かない絶妙な位置にいるので安心して薙ぎ払えるのだが、ゼンも似た様な位置にいるのが驚かされる。


  迷宮(ダンジョン)探索の時もそうだったが、まだ冒険者の……剣士としての訓練を始めたばかりなのに、この、長い付き合いの幼馴染達とほぼ同じレベルと言っていいような、安心感、信頼感があるのは、なんなのだろうか。将来性があり過ぎて怖い、というのは明らかにおかしいのだが……。


 瞬く間に数が減ったグレイウルフは、自分達とは別格の強さを持つ敵に、早くも及び腰だ。


(散って逃げられると面倒だな……)


「サリサ、足止め出来るか?」


 リュウエンが剣を振りながら、その勢いのまま後ろを向き指示を飛ばす。


「ん~~。分かった。……『氷結牢(フリージングジェイル)』!」


 狼達の後方に、抜ける隙間のない氷の柱が壁のように降り立つ。


 ラルクスとゼンが左右に逃げ場のないように回り込んだ位置に走って行く。


 リュウエンはゼンのフォローに走る。


(ちゃんとラルクと逆の位置に行くとか、もう阿吽の呼吸みたいだな……)


 包囲網が完成し、サリサは適当にその中央へ風の刃を次々と飛ばす。


 前衛3人は、左右に逃げてくる敵をただ殲滅するだけの簡単なお仕事です。


 数分と経たず、狼達は全滅した。


「初日でほとんどの任務達成とか、どこの優良パーティーだよ……」


 それは西風旅団でぇ~~す、と返すアリシアの声が聞こえる。


 もう少し討伐任務、受けてくるべきだったか?等と思うのは贅沢が過ぎるだろう。


 ゼンが戦場を走り回ってどんどん狼達の残骸をポーチに放り込んでいる。後に残ったのは血溜まりのみ。ポーター 荷物持ち兼冒険者は有能なのだった。


 

 ※



 焚火を囲んでの休憩。


 夕食は、グレイウルフの肉に、ポーチにいれて持って来てもらった野菜を適当にいれた煮込みで済ませ、和やかに冒険者講義だ。


「夜に冒険者が活動をしないのは、魔物には夜、力を増幅させる種が多いからだ。あの狼達も、月夜、満月の時には昼間の何割増しかの強さとなる。それでもDグレイウルフより下かもだが……。


 また、その親戚種になる人狼(ウェアウルフ)や、後、吸血鬼(ヴァンパイア)なんかも有名だな。魔物には、夜の女神や月の女神の祝福を受けた者が多いせいもあるんだ。


 だかこっち(冒険者)にとって一番問題なのは、人間は夜目が効かない、それが夜戦わない最大の理由だな。夜目が効く人種(ひとしゅ)も中にはいるんだが……それは置いておくとして。


 相手が強いとか弱いとか以前に、相手の姿を認識出来ない状況では戦いようがなくなる。それを補うスキルや魔術、神術もあるが、術士のいないパーテイーの方がほとんどだからな。その点、うちは恵まれ過ぎている。


 だから、基本、夜に積極的に戦うことはない。どうしてもそうなったら、灯の魔具を用意するとか仲間に術を使ってもらうとか、万全の用意をして望まないと、敵の術中にはまる事になる。それはなるべく避けなければ……」


 ゼンがウトウトしている。腹がいっぱいになり、昼間の疲れが一気に出たのかもしれない。


「ゼン、眠いならもうテントに入って休め」


「え、でもまだ……」


「しっかり休んで次の戦いに備えるのもいい冒険者だよ。女子もいいぞ。この後、俺とラルクが交代で見張りするからな」


「あ~、うん。私も結構術使って疲れたから寝るわ。周囲には防御結界張ってあるし、何かあったら起こして……」


 サリサリサがゼンの背を押してテントに無理に入れる。ゼンは、まだ残っていたかったのだろうが、眠気があるのも本当なので、仕方なくそのままテントに入った。


「眠くない様に精神強化使っておく?」


 アリシアは見張りの時の定番神術を、自分の杖を指して言う。


「じゃあ俺に頼む。後半はラルク頼むな」


 ラルクスは手を上げて了解の意を示す。先に仮眠を取るラルクスにかけると眠れなくなってしまうので、かけるのはリュウエンだけだ。


 リュウエンに術をかけた後、アリシアもテントに入って就寝だ。


 基本的に術士系の方が精神力を使うし、体力があるのは当然男の方だ。見張りの役目は、パーティーを組んだ最初の頃から男性陣の役目だった。


 血抜きのほぼ終わった狼達は、近くの岩に干してある。川で一晩は流石に危ない。


 川岸に設置していた魔具は、今はこのキャンプ地に設置してある。夜の守りは万全に近いだろう。この周辺には赤熊(レッドベア)やグレイウルフ以上の魔獣の生息は確認されていない。


 しばらく無言の時間が過ぎた……。


 気心の知れた相手だと、こういう無言の時間も苦にならないのが楽で嬉しい。


 それからいくばくかの時が過ぎた後、ラルクスが立ち上がり、無言で、指で離れた場所を指し示す。


 一応テントから声の聞こえない場所に移動して、話したい事があるのだろう。残っていたのもその為の様だ。


 リュウエンも応じて静かに移動する。




「……ゼンの、剣の訓練、手応えはどうだ?」


 ラルクスは手真似で剣を振るフリをしてリュウエンに尋ねる。


「曖昧な表現だな」


「分かってる癖に。剣士として才能あると思うか、って話だよ」


「う……ん、なんというか、ともかく覚えが早い。飲み込みが早い。でもそれは、お前も解体とか教えて思ったんじゃないのか?」


「確かにな。昼間、サリサ達が指導した、薬草採取も凄かったらしいし、な」


「薬草の匂いを覚えて、そうそう生えてない希少な薬草も嗅ぎ分けて見つけ出す、か」


 感心するしかない多才さだ。


「あいつは、色々なところで意外な才能を発揮する。ああいうのを天才っていうのかね」


「う~~ん。確かに、そうも思う。オレが、何カ月か習得に費やした、剣の振りや型、そういったものを、ゼンは、最初は出来なくても、一度注意してやれば、その次には注意された事をすぐに反映して行える。それは、確かに天賦の才、としか言い様のない物なのかもなんだが……」


 リュウエンは言葉を濁(にご)して難しい顔をする。


「なんだ、お前には別の考えがあるのか?」


「ん。確かに器用で、物事の覚え、吸収力がすさまじい。でもあれを、天才、の一言で済ませていいレベルの話じゃない気がするんだ」


「と、言うと?」


「あいつは、俺達なんかと違って、極悪な環境下で生きて来た。それは、俺達の想像を超えるぐらいに。『だからこそ、そうなった』んじゃないのか?」


「天才になった?」


「そうじゃない。色々な物事、周囲の環境を、それを見て、即座に覚え、学習、吸収し自分に適応させる、そうじゃなきゃ、生きていけなかったんじゃないのか、て話だ」


「つまり、生きる為、生き残る為の適応力が今のゼンを形作っている、と」


「ああ。俺は、そうじゃないか、って考えてる。感じているんだ。あいつが物事を覚えようとする時の真剣さ、一途さ、懸命さ、それは、二度三度覚える機会なんてない事が多かったから、なるべく一度で覚えるように『ならざるを得なかった』、それが俺の考えだ」


「……それは、壮絶だな」


「そうだ。そういう過酷な環境でなりたくてなったんじゃなく、生き抜く為に半ば強制でそういう技量に特化してしまった、それを、簡単に、天才、なんて一言で済ませるような軽い話じゃないんじゃないかな、と俺は思うんだよ……」


「うん。なんだかそう聞くと確かに俺は、こいつは『天才』だから出来るんだ、と自分を納得させて誤魔化していたのかもしれないな。


 『天才』だと思わせてしまう程の学習能力、適応力が育った背景がある、か。それはどちらかと言うと、懸命に努力してなる『秀才』の部類だな……」


 ラルクはゼンの、特殊な道程の背景を想像して眉をひそめる。


「ラルクの方が表現が上手くて、話が早いな。


 で、その適応力で、今、俺達が冒険者としての技術を教えていけば、あいつはかなり早く見習いを卒業するんだろうが、あいつにもすぐには出来ない事もある」


「あるか?」


「あるさ。それがないからこそ、ゼンがスラムでは『逃げ』て『走る』事を選んでいた理由、それは単純な「力」の無さ、だ」


 ラルクが、それは盲点だった、と独り言ちる。


「あんなに幼い年齢で、満足な食事等ほとんどしてなかったんだろう。だから、背も伸びず、体格も細い。基本の体力がない。膂力がないんだ。


 今は、速度や勢いでなんとかしてるようだが、それが通じない、硬い敵、重い敵なんかには、恐らく弱い、ってそりゃ、若干10歳なんだ、当たり前なんだよな~~」


 リュウエンは今更だが、ゼンがまだ子供であるのに、いつのまにか有能であるが為に信頼できる仲間として一人前扱いしそうになっている自分の迂闊さがある事に気づく。小人族ならあれぐらいの背で成人している者もいるのだが、彼は違うのだ。


 ラルクスもリュウエンの気持ちは分かる。スカウトとして自分以上の素質が見られるゼンを、普通に子ども扱いする、というのは難しい。


「まあ、つまりは、これから旨い物たらふく食わせて、筋力つけさせていく必要がある訳か。下半身は、今まで走り回ってたから充分として、上半身の重点的な強化と、基本的な体力づくりが今後の課題か。


 これからの大まかな教育方針が決められそうだな」


「うん、二人で話してた成果だな。一人だと考えが煮詰まってた気がするよ」


「いやいや俺も、ゼンに対する見方の認識が大いに変わった。女子達ともそこら辺は話した方がいいな。情報共有だ」


「そうしたら、アリアもサリサも、喜んでいい物をゼンに食わせそうだな。二人とも料理上手ではないところが残念だが……」


「結論らしきものが出たし、俺はそろそろ仮眠するな。適当な時間に起こしてくれ。くれぐれも無理するなよ。教師役が寝不足じゃ、サマにならんからな」


「了解、きもに命じるよ」


 リュウエンは、テントに戻るラルクスを見送りながら、一つ、ゴウセルからリーダーである自分だけに教えられたゼンに対する懸念を、ラルクスに話さなかった事に罪悪感を覚える。


 頭脳明晰で勘のいいラルクスならいづれ自分で気づくかもしれないが。


 ゴウエンに言われるまで、自分は意識もしていなかった。


 今のラルクスとの話でも、ゼンの特化した能力ともいえる学習能力や吸収力、とっさの判断力、それに、スカウト的な力、気配を消せる事、並外れて足が速い事。色々話した。ゼンは本当に多才だ。過酷な環境下に強制されたとしても、それらをあの幼い身体で立派に体現している。


 だが、『何故それらは』、『スキルとして昇華されていないのか』、彼はギルドの鑑定具で、スキルは無しと判定された。出会ったばかりのあの時は、こういう子もいるな、としか思わなかったが、今はゼンの多才で高機能と言っていい、安定した数々の力を見ている。


 なのに彼は、『何一つとしてスキルを所持してない』。スキルと言ってもいい程の高い能力があるにも関わらず、スキルはゼロなのだ。


 そもそもスキルとは、神々に与えられた、神民たる人の能力の補助、サポート機能だ。


 何かに一つの事に打ち込み、鍛錬すればそれは芽生え人の能力強化となる。更に鍛錬を続ければ、そのスキルは一定以上の段階を経て次なる領域のスキルへと進化する。


 それが、神々の祝福を得てこの地に生まれた人種(ひとしゅ)の世界の、大きな法則だ。


 ゼンという存在は、そういう意味で『異常』だ。その法則から完全に『逸脱している』、『規格外』の『逸脱者』だ。


 これが、ゼンが人間…人種(ひとしゅ)ではない、何か別次元の存在である、というならまだ話が分かる。例えば竜や幻獣、神獣のような、法則外の超越的存在。


 だがゼンは間違いなく人間だ。鑑定具でそう判定されたから、とかそういう問題ではない。彼は人間だからこそ、スラムで色々な苦難を経験し、それを乗り越え、必死で這い上がろうともがく、余りにもか弱い存在だ。彼が人間ではないとか馬鹿を言える奴を、自分の目の前に連れてきて欲しい。嫌と言う程殴り倒してやる……!


 リュウエンは考えに没頭し過ぎて頭が過熱してきたので、大きく息を吸って、とりあえずこの考えても答えの出ない難題は放り出す事にした。


 自分は頭脳派では明らかにない、体力馬鹿、脳筋系だ。


 言える事はただ一つ、ゼンが何であろうが関係ない。西風旅団はもう彼を仲間として迎え入れた。ここに、仲間を裏切る者など一人としていないのだ、と。



 ※



 焚火の明かりだけが周囲を照らす、暗闇の世界。


 月明りも三日月で暗い、人間の目では見通すことの出来ない、どこまでも続く暗黒の風景。


 こういった何もない、変化のない風景、状況は単調で眠りを誘う。それを防ぐ為の精神強化だ。眠気の心配は今のところない。


 ただ万一の事態を防ぐ為の見張りだ。何もなくて当り前。その……筈、だったのだが。


 リュウエンは自分でも気づかない内に緊張状態にある自分に気づいた。


 見回しても何もない。だが、ラルクスがいて、話をしていた時からかすかに感じていた気がする。


 それは、視線。誰かの視線を、本当にほんのかすかに、だが感じるのだ。


 最初は気のせいか、もしかしたらゼンが起きて、見張りをしたくてこちらを伺っているのでは?と考え、テントの中を覗いても見たのだが、全員ちゃんと熟睡しているのが分かっただけだった。


 では、この視線は何だ?


 魔物が、夜の闇に紛れて襲撃、な感じはしない。魔物除けの魔具に感知の魔具、サリサリサが防御結界も張っている。普通の魔物は近づかないし近づけない。


 なら、これは……!?


 リュウエンは一瞬心臓が止まるか、と思った程の驚愕を覚えた。


 何の気配も、音もなく、魔物除けや感知の魔具が反応していない、サリサリサの防御結界の内側に、自分のすぐ隣りに、黒ずくめのローブをまとった誰かが、いた!


 リュウエンがバスターソードを慌てて抜き、構えると、それ、は音もなく距離を大きく取った。


(何だ?人……では、ない。魔族か?)


 フード付きローブのフードを目深にかぶっているので、その特徴となる角は見えなかったが、浅黒い肌は魔族の特徴と一致した。その色をした人種がいない訳ではないが、その、多分男に見える、正体不明の人物には、暗い力を感じる。


 魔族は、基本、敵対種族だが、中には友好的種族がいない訳ではない。魔界と一部交易がされているし、物好きな者はこちら側に出てきて、冒険者をする者もいるぐらいだ。


 実際、フェルズでも何人か見かけた事がある。当然、そういう存在を余りよく思わない者もいるし、色々な差別や偏見を受ける事もある。大抵がそれを承知でこちら側に来る者達だ。超然とした態度で周囲を無視して、堂々とした冒険者になっている。


 だが、今目の前にいる存在は、フェルズにいる冒険者の魔族とは、根本的に違う物があった。


 それは、あからさまな敵意と憎悪、そして殺意。


 明らかに、敵、だ。


 なのに襲って来ようとはしない。ただ敵意と憎悪に歪んだ目で、こちらを値踏みしている?


 そして、フと鼻で笑って、一瞬で目の前から消えた。恐らく、完璧な隠蔽や気配遮断のスキル持ちなのだろう。


 不意をついて襲って来るつもりなのか、としばらく周囲を警戒したが何も起きない。


 どうも完全にここから去って行ったようだ。消える前に一瞬テントの方に視線を走らせたが、それもどうでもいい、無価値な者を見下す、絶対強者の眼差しだった。


 最後に見せた嘲笑、あの優越感に浸った、遥かな上から相手を見下し、馬鹿にしきった視線。


 リュウエン達は確かに、まだまだ下位の冒険者だ。フェルズにはもっと上の者がいる。だが、それはそれとして。


 リュウエンは異常に湧いて出る冷や汗を拭(ぬぐ)い、強く握りしめ過ぎたバスターソードを、なんとか苦労して鞘に納める。身体の震えが止まらない。心臓の鼓動が早い。身体の芯に氷の棒でも突っ込まれたような嫌な感覚がする。


 とにかく圧倒的な実力差だけが分かった。相手が何の職かも分からないのに、戦えば絶対に負け、死ぬことだけが予想出来た。


 そして、それがテントに向かえば、自分達は確実に全滅していただろう……。


 だが見逃された。いや、相手にもされなかったのか。


 こちらの強さを推し量って、手を下す必要のない、小物と判断した?


 リュウエンは、あの禍々しい存在の目的を考える。


 あの、敵意と憎悪溢れる存在は、『強き者』を、『三強』のような『強者』のみを狙って『抹殺』する為に現れたのではないだろうか?


 たまたま、西風旅団は、奴のお眼鏡には適わなかった、という事なのだ。幸運な事に。


 魔族の勢力には、こちらと友好を望む『友和派』と魔族以外は殲滅し、魔族の領土拡大を願う『過激派』がいると聞いた事がある。


 つまり今のは『過激派』で、人の『強者』抹殺の為に送り込まれてきた暗殺者?


 リュウエンの単純な連想からなる予想に過ぎないが、案外的を射ている気がした。


 闘技会、というフェルズでの一大イベントが近い。一応、この件はギルマスに報告しておくべきだ、と思うリュウエンだった……。











*******

オマケ

こぼれ話


テント内


ラ「おっと……」

 持ってきた小物がポロっと落ちて、女性陣の方に転がってしまった。

 手の届く距離だ。拾おうと手を伸ばす。

 瞬間、下で何かが発動し、反射的に危険を感じて手を引っ込めた。

 女子との境界線上に、無数の氷の槍が、下から突き出されていた。


ラ「お、おま、何考えて!死んでも不思議ないぞ!?」

サ「警告はしたわ!自動迎撃術式ね!安心して。テントに被害は出さないから!」

ア は、ケラケラ笑い転げている。


リとゼは、見てないフリをした……

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