第16話 ロックゲートのボス2連戦・激闘☆



 ※



「これがボス部屋だ」


 10階にある、大きな扉を開くと、かなりな広さを持つ部屋があった。


 別に珍しい装飾も、像もない。至ってシンプルな部屋。


 そして、扉を中心に半円のラインがある。


 アリシアが、おもむろにゼンに説明の確認を始める。


「前もって言っておいたけど、これが、ボスの部屋に入って、でも戦わない、ゼン君みたいなポーター 荷物持ちとか、後時々いる、ボス戦を見たいって物好きな人用?」


「いや、違うでしょ。普通に戦わない人用の安全地帯が用意されてるのよ。観客席みたいに言わないの。そういう馬鹿貴族が来たりしてるみたいだけどね」


 サリサリサはが補足するが、


「じゃあ合ってるじゃない!サリーの意地悪!」


「意地悪で言ってる訳じゃないわよ。私は、本来そういう人を連れて来たりしたら駄目、と言いたかったの。


 確かに貴族や魔物の素材を買う豪商が、ボス戦を見たがって冒険者にそういう依頼したりするけど、それは推奨出来ない事よ。


 そもそも迷宮(ダンジョン)は、部外者を入れるべき場所じゃないのよ。『試練』の場なんだから、私はそういう公私混同みたいなのは好きじゃないの」


「……は~い」


 アリシアも渋々納得する。神に仕える身なのだから、これはむしろ役目が逆になっているのだが。


「ゼンは、ここから足を一歩でも踏み出したら、ボス戦参加ってみなされてしまうから、絶対に出ない様に気を付けて。


 で、ボスとの戦いで流れ矢とか魔術とかがこっちに飛んで来ても大丈夫。その半円は、迷宮のシステムで、一昨日の訓練場を思い出して。あれと同じ様なものだから。


 外側からはどんなに強い力を受けても破られない防御フィールドをはってくれるの。

 

 ボス戦が終われば、解除される筈だけど」


 サリサリサは半円のライン上に展開された薄青い透明な膜を指して言う。


「ゼン君、本当に、入って来たら駄目なんだからね。


 今までは、ゼン君はちゃんと魔物の攻撃範囲とか分かってて、その外側から援護的な動きしてくれてたけど、ボス戦の攻撃はケタ違いになる、攻撃がカスったり、魔法が当たったりしたら、その、多分、冒険者としての身体が出来てないゼン君は、一発で即死しかねないの。


 私の神術はまだそんなにレベル高くないけど、そもそも完全な死からの蘇生呪文なんていうのは、神話とかではあっても、実際にはないから。あったとしたらそれは多分、単に自分の命を他人に移すだけの、身代わりの呪文……。


 つまり、本当に死んじゃったりしたら、私も助けられないから!」


 術者二人の念押しは、とてもしつこく、これから戦闘する自分達よりもよっぽどゼンの方を心配している。恐らく一昨日の、ゼンのお礼と『大好き』が効き過ぎたのだろう。


 前衛のリュウエンとラルクスは、苦笑しながらも気持ちは分かるので、女性陣の邪魔は決してしなかった。



「じゃあ、行きますか……」


 女性陣の、少し長過ぎる注意が終わった後、リュウエン達旅団メンバーは、半円の薄青い膜を通り抜け、初級の迷宮(ダンジョン)、ロックゲート 岩の門のボス戦へと挑む。


 準備は万端。すでに、かけられる全ての補助魔法を、アリシアは自分を含む全員にかけた。


 リュウエンとラルクスは、闘気でわずかながらも身体強化をしている。


 リュウエンが、部屋の中央辺りに来た時に、変化が起こった。


 彼等の前方、奥の壁よりな地点に、敵が突然現れたのだ。


 敵ボスは、ゴブリンキング、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンウォーリア、ゴブリンスカウトだ。


 出てきたのは最弱のボスだったが、そういった事は考えない。目の前にいるのは、この迷宮(ダンジョン)の主(ボス)なのだ。誰も油断などしない。


 数的有利を見たゴブリン達は、ニヤニヤ笑みを浮かべ、余裕で歩み寄るリュウエン達を迎え撃つ。


 メイジとアーチャーが、それぞれスカウト、ウォーリアの後ろに着く。


 遠距離攻撃の盾にするつもりだったのだろうが、これは正攻法としては正しいのだが、相手に貫通攻撃を出来る魔術師がいたのが仇(あだ)になった。


「雷撃、2発行くわ!」


 言うとすぐに短い詠唱。


 サリサリサが杖を向け、雷撃を放つ。続けて2発だ。


 スカウトとメイジ、ウォーリアとアーチャーは貫通した雷撃で、『4匹とも』しびれて動きが止まった。ダーメージとしてはそう大きくないが、それは敵を倒す為のものではないからだ。

 

 ウォーリアの方にラルクスが、スカウトの方をアリシアがダッシュで駆け寄っていた。短剣と棍棒(メイス)が容赦なく、急所を攻撃する。短剣は喉元、棍棒(メイス)は頭だ。


 かかし同様の敵だ。


 首が落ちてもおかしくない短剣の一撃、棍棒(メイス)の一撃は、棍棒(メイス)型にへこんだ側頭部を見れば分かる。どちらも即死だ。


 二人はそのまま後ろ、雷撃のしびれから回復しつつある、メイジとアーチャーは、前方で自分達を護っていたゴブリンとほぼ同じ目に合う。武器を構えることすら出来なかった。


 そして、二人が攻撃していた時に、リュウエンも遊んでいたわけではない。雷撃と同時にダッシュしたのはリュウエンも同じだ。


 部下のゴブリンの邪魔な攻撃等なく、中央を駆け抜け、ゴブリンキングへと迫る。


 背の低い、小柄というより小人に近い種族の王は、リュウエンより少し大柄で、とてもゴブリンには見えない迫力と威圧感がある。


 それを意に介せず、リュウエンはバスターソードを振る。


 相手は片手剣に円形の盾、と極一般的な装備だ。一回二回と剣を合わせ、相手の剣筋を見切ったリュウエンは、バスターソードで思いっきり振り、盾を殴るような重い一撃を入れる。相手が受けきれず、よろめいた所で剣を持つ片手を、下から、肩と肘の中間辺りの箇所をすくいあげる様に斬り飛ばした。


 剣を持ったゴブリンキングの腕は、クルクル回りながら、後方にいたサリサリサすら越え、ゼンのいる半円フィールドの近くまで飛んで来た。


「危ないからそんな物、後方に飛ばさないでよ!」


 サリサリサが苦情を叫ぶ、その時にはもう勝負はついていた。


 剣を持つ右手をなくし、あらがっても相手の方が一段も二段も上だ。バスターソードの猛攻を、残った片手でさばききるのには無理がある。


 攻撃にしびれた盾の腕が下がる瞬間を、リュウエンは見逃さなかった。


 今度はゴブリンキングの首が飛んだ。


 結局戦闘は、三か所が同時に終わるという結果になった。


 2頭を相手にしたラルクスとアリシア、そしてボスのゴブリンキングの相手をしたリュウエン、3方の攻撃は偶然にもほぼ同時に終わった。


 防御フィールドから見ていたゼンには、サリサリサが雷を放ってから、あっという間に戦闘が終わってしまったように見えた。完勝であった。瞬殺と言っていい早さだった。


「凄い……。こんなに凄いなんて……」


 サリサリサが貫通の魔術で4頭の動きを止められた事、向こうの陣形が、彼女の使う魔術にハマってしまったのが向こうの敗因、こちらの勝因だっただろう。


 一応、4人は、連戦があるかも、とのレオの助言に従い、少し待ってみたのだが、何も起きないようなので、ゼンのいる半円フィールドの方に、彼を迎えに行こうと動いたその時……。


 彼らは、迷宮(ダンジョン)のシステムを知らなかった。


 ボス戦において試される試練。それは時間判定によって決められていた。ある程度短い時間であれば次のボスが出る。そういうシステムだった。


 だから、彼等は余りにも『早く』ボスを倒した。部下の死亡時間も当然判定のデータになる。


 だから、『早過ぎ』たのだ。


 遺跡のシステムは、彼等に相応(ふさわ)しい相手を強化補正するのに、しばしの時間を有した。そしてそれは現れる。彼等、強者の相手をする為に、あり得ない程の強化を施された強者(ボス)が……。


 それに、一番早く気付いたのはゼンだった。『ボス戦が終われば、解除される筈』サリサリサが言った言葉を、ゼンはしっかりと覚えていた。


 だから、『防御フィールドはまだ解除されていない』、そして、こちらに歩くリュウエンの後方に浮かび上がる影……


「リュウさん、後ろぉっ!!!」


 ゼンは声を振り絞って、彼が出来得る最大限の音量で叫んだ!!!


 それを聞いたからか、後方からの強い圧力放つ存在を感知しからか、リュウエンは後ろを向こうと身をよじり、それが結果的に彼の命を救った。が、その代償はあった。


 左肩に斬り下ろされた巨大な鉈(ナタ)、それはリュウエンの肩先を斬っただけで、かろうじて致命傷は避けられた、かに見えたが。


(チッ!左の鎖骨がいった。剣が……持てん……)


 彼が振り向き、対峙しているのは、オークキングだった。だが、とても普通のオークキングには見えない。


 背丈は3メートル近く、青黒い肌をし、はちきれんばかりの筋肉、戦闘への喜びに興奮しているのか、妙に鼻息荒く、ニタニタ笑ってリュウエンをにらんでいる。


 当然、現れたのはオークキングだけではない。


 メイジ、アーチャー、ウォーリア、ランサー。


 まずいのは、アリシア、ラルクスが前後にはさまれている事。


 いい事は、離れた所にパーティーの大砲であるサリサリサがいる事か。


 アーチャーとランサーにはさまれたラルクス。


 メイジとウォーリアにはさまれたアリシア。


 どちらを先に救うのかを選ぶのに迷いはない。チームの生命線であるアリシアが最優先だ。


 リュウエンも負傷して苦戦しているようだが、全ての援護は出来ない。


 サリサリサは杖を構え集中を、ヒュッと鋭い音がして、反射的に動いたローブのすそをアーチャーの射た矢が突き抜けていった。


「ラルク、アーチャーをどうにかして。魔術が撃てないわ!」


「分かってるっ!」


 位置的に奥にいるアーチャーが目前の自分でなくサリサリサを狙ったのは、それだけ魔術師の脅威が分かっているのだ。頭のいい、厄介な敵だ。


 ラルクスは、アーチャーに向かい走りながら投げナイフを二本、腕の方を狙って投げた。上手くいけば……。アーチャーの弓の弦が切れた。弓が壊れたら、と思ったが幸運だった。弓が使えなければ結果は同じなのだから。


 更に速度を増してアーチャーへと迫る。はさまれる前に各個撃破が理想だ。ランサーがこちらに来る前に仕留めなければ……。


 アーチャーも弓捨て、腰につけていた手斧を持ってラルクスを迎え撃つ。ラルクスは、防御力の高そうな青黒い肌を見ながら、フェイントを混ぜ、一気に目標を切り裂く。相手の眼球だ。


「眼球はどんな訓練をしても鍛えられない、ていうからな……」


 相手の視界を奪い、致命の一撃を放とうとしたその時、後ろから鋭い音がして、反射的にラルクスは横に飛びのいた。


 飛んで来た槍が、アーチャーの胸を貫いていた。


「とどめの必要がなくなったな。そして相手の武器も……て予備持ちかよ」


 ラルクスに槍を投擲したランサーは、投げた物より短い槍を持って、ラルクスに襲い掛かってきた。


「チ、長い槍なら懐に入れば、と思ったんだが……」


 短剣と短槍、相手の腕も悪くない。これは、戦闘が長引きそうだった……




 一方アリシアの方は、すぐにメイジへと距離を詰め、容赦なく頭を粉砕したのだが、


(めまい?なにかクラクラする。術をかけられたんだ……。リュウ君の治療に行きたいのに……)


 調子の悪いアリシアに、オークのウォーリアが、ドカドカと騒がしい足音をたてながら豪快に迫る。獲物は剣だ。片手剣のようだが、アリシアから見れば充分大きい大剣だ。


 なんとか愛用の金属棍棒(メイス)で受けるが、相手の力が強い。術の影響もあって動きが悪い、相手に押し負けている。


 元々訓練はしていても接近戦は慣れていない。オマケにリュウエンの事を気にしているせいで気が散り、その焦りのせいもあって防御が雑になっている。このままだといずれ……。


「『地獄の業火 ヘルズファイア』!」 


 サリサリサは親友の危機に、思わず、使う魔法の選択を間違えた!


 自分の魔力がガクンと大きく減ったのを感じる。


 サリサリサはもう大きい魔術は撃てない。ラルクスは今は互角のようだ。放置しよう。


 リュウエンは、片腕が使えない様で苦戦している。防戦一方だ。


(でも、アリシアが空いたから……。え!?)


 必殺で放った筈の魔術を受け燃えながらまるでそれをものともせず、オークウォーリアはアリシアに攻撃を続けていた。


(しまった、あの青黒い肌、大方、魔術か熱に耐性があるんだ。頭吹き飛ばすか、胸をつらぬくような魔術使うべきだった……。後悔しても仕方ない。何か、あいつの動きを悪くするような魔術を考えなければ……)




 リュウエンは、逆手に持ったバスターソードを右手で何とか盾代わりに使い、オークキングの攻撃を紙一重で耐え忍んでいるように見えた。


 だが実際は違った。オークキングはわざと、紙一重かわしているように見せていただけで、実際は軽く、浅い攻撃でジリジリとリュウエンの身体を切り刻んでいたのだ。


(こいつ、俺の血を見て楽しんでいるのか……)


 重いバスターソードは、両腕が使えないリュウエンの仇になっていた。それでも、バスターソードを捨て、腰にある予備の短剣に切り替える事は出来ない。恐らく、あの重い鉈の攻撃は、短剣ではさばききれないだろうし、短剣でキングに致命傷を与えるのは難しそうだ。


 防戦一方のリュウエンは、少しづつ切り刻まれながら、耐え続けて仲間の支援を待たなければ活路が開けそうもなかった。


 そして、出血のせいで、段々と力が入らなくなっている。リュウエンの限界が近かった。


 その時、誰もが考えなかった人物が、動き出した……。



 ※



 ゼンは、かつてない程の苦戦を強いられてい、る西風旅団のメンバーの皆を見て、信じられない信じたくない過去の記憶を呼び起こす。


 自分によくしてくれた者が、次々といなくなり死ぬ恐怖、自分はただ取り残され、そこには無人、無人の、誰もいない世界がある。


(嫌だ嫌だ、そんなの嫌だ!)


 もう誰も死んでほしくない。もう誰も失いたくない、今得た幸福。昔は考えもしなかった、喜びに満ちた世界。それを、なくす訳にはいかないと!


 強く思ったゼンは自然に足を踏み出していた。あれ程駄目だと念を押されたその半円のラインを、自分だけが安全だった、そのフィールドを超え、ゼンは走り出した!


 それに気づいたのは誰であっただろうか。


「ゼン、駄目、やめなさい……」


 その制止を振り切って、ゼンは走った。目標は、ゴブリンキングの腕、その剣だ。


 全力で走ったゼンは、すぐにその片手剣を、持とうとしても普通の子供に過ぎない彼にはそれは、重すぎる持てない。


(なら、両手で、リュウさんのように!)


「やあぁぁぁーーーーーっ!!!」


 誰もが驚いた。誰もが圧倒された。オークでさえも。


 その小さな弱き存在が剣を握り、思いっきり放り投げるのを!


 放物線を描いたその剣は、クルクル回りながら、リュウエンの方へと、結構正確に飛んできた。


「そうか、片手剣なら……」


 リュウエンはバスターソードを、オークキングの顔に投げつけ、希望の光へ跳躍する。


 それは、動体視力のかなりいいリュウエンでなければ受け止められなかっただろう。


 回りながら飛んでくる、ゴブリンキングの剣の握りをしっかりと受け取り握りしめ、そのまま、渾身の闘気を込め、自分の体重と落ちる勢い、全てを込めてオークキングの頭上から、袈裟懸けに斬り込んだ。


 Gyaaooooo~~~~!!!


 オークキングの重い悲鳴が上がる!


 剣が恐ろしく硬いオークキングの皮膚を肉を切り裂き進む。心臓の辺りで、固い物を斬った感触があった。魔石を破壊したのだ。


 胸の下辺りまで行った剣は止まり、リュウエンも手を放して、そのまま力尽き、その場に座り込んだのだった……。





 その、少し前、オークウォーリアが茫然と投げられた剣を見て、足を止めていた時、


(そうだ、足を止めれば……!)


「両足の動きを封じれば……氷結(フリーズ)!」


(魔力消費の少ない、でも効果的な呪文!)


 サリサリサの呪文は、ゼンの投げた剣を見て注意のそれていたオークウォーリアの足元を完全に凍らせた氷結のダメージはなくとも動きは封じられる。


 アリシアへの攻撃を再開しようとしていたオークウォーリアは、剣を振ろうとして、両足が動かないので態勢を崩し、その勢いで前のめりに倒れてしまった。


 流石にそれを見逃すアリシアではない。


「え~~い!」


 渾身の力を込めて振った棍棒(メイス)は。アリシアの前にひざまずく様な態勢になり、調度いい位置に頭のあったオークウォーリアの側頭部に当たる。振りぬいた棍棒(メイス)は、完全にオークウォーリアの頭部を粉砕した。


 



 互角の勝負であったその攻防は、どちらかに隙が出来れば容易(たやす)く崩れる均衡だ。


 ゼンが防御フィールド出て走り出しても、ラルクスは動揺しなかった。


(あいつは、間違った判断で行動しない。それを信用しないでどうする!)


 少年が渾身の力で剣を、彼の王であるオークキングの方に投げた時、オークランサーは動揺した。自分の様にキング目指して投擲した、とでも思ったのだろう。自分の槍の様に。


 その隙に、ラルクスは二本持った短剣を、オークランサーの両耳の中に、両側からはさむように刺し貫き、渾身の力を込めて、打ち込む!


 鈍い感触が手に伝わる。オークランサーの両目に光はなく、崩れ落ちる様に倒れ込んだ。


「つっかれたぁ~~。何度も戦いたい相手じゃないな……」


 ラルクスは一人愚痴ると、仲間の方へ向かった……。




 誰もが力を使い果たし、ギリギリの体力しか残されていなかった。


 ギルドから安全を保証されたボス戦が、こんな苦戦の乱戦になると、誰が予想したであろうか。


 死力と尽(つく)し、戦い、そして勝ち残った。


 だが誰もが、この勝利をもたらしてくれたのが、一人の少年の勇気ある行動のお陰である事を否定する者はいないであろう。



 やっと合流し、リュウエンの血だらけの身体を治癒神術で癒すアリシア。


「鎖骨を斬られた以外はみんな浅い怪我ね。出血が多いのが心配だけど……」


 失った血は治癒の術でも戻らない。


「たくさんメシ食って寝てれば治るだろうさ。他の奴も、軽い傷や怪我ぐらいで、体力や魔力の限界なのが多いな。だがなんとか生き残った……」


 リュウエンはホっと安堵の声が出る。全員が危機だった。サリサリサも、他が全滅していたら、魔力切れの彼女も当然同じ末路をたどる運命だ。


「ギルドに文句……というか報告だな。どうしてあんな強いボスが出たのか、分からんが……」


 ラルクスも考え考え、思案する。


「私は、やっぱりもっと使う魔術の選択を間違えない様にしないと。それと魔力容量のアップね。そうしたら、どんな呪文も使い放題……」


「そ、そうだな……」


 そんな地獄は見たくない。密かに思う男性陣だった。


「これでもう怪我した人いない?」


 アリシアも疲れているだろうに人の事ばかり思う。


「ん。後は、ボスどもの戦利品(ドロップ)を回収すれば、ってそういえば、ゼンはどうした?」


 そこで初めて、今日の一番の功労者、ゼンが話に加わっていなかった事に皆が気づいた。


「あ、あそこ!」


 ゼンは、あの剣をほうり投げたその位置に倒れ込んでいた。


 旅団全員が、残り少ない体力を使って走る。


 倒れてピクリとも動かないゼン。


「どうしたんだ、これ。攻撃の余波とか行ってない筈だが……」


 アリシアが抱き起し、ゼンの様子を見る。口元に手をあて、胸に耳をあてて、呼吸と、その心臓がちゃんと脈打っている音を確認して、ホっと安堵の息をもらす。


「気絶してるだけみたい。何も怪我も傷もないみたいだけど……」


 心配そうなアリシアは、傷がなくても治癒呪文を使いそうだ。


「ん~~。そうか!多分、オークキングの威圧にあてられたんだ。


 俺も傍にいるだけでビリビリ来たからな。何の訓練もしてない、普通の子供なら当然だ。


 いや、あの敵の群れがうごめく中で、よくあそこまで走り、俺に剣を投げてくれたもんだ。大した奴だよ」


「あれで膠着していた情勢が一気に動いたからな」


「そうよね。本当に、あれがなかったら、私達、今こうしていなかったと思う……」


「ゼン君頑張ったね。でも頑張り過ぎだよ……」


 アリシアが優しく撫でるが、まだゼンは気絶したままだった。


「よし、こいつは俺がおぶろう。戦利品は、悪いけど、こいつのポーチにいれさせてもらって……」


 リュウエンがアリシアからゼンを受け取り、背におぶる。起きないよう、極力優しく柔らかく……。


「リュウ、お前、血が足りないんだろ。おぶるなら俺が……」


「いや、悪いが俺におぶらせてくれ。こいつは、俺が一番危ないのが分かって。剣を投げてくれたんだ。俺の命の恩人なんだ。それぐらいさせてくれよ」


「そんな事言って、この子はもうみんなの命の恩人よ。本当に、この子には全員、頭があがらないわね……」


 サリサリサも気がつかないゼンの頭を優しく撫でる。


「多分、あの奥に出来た扉の部屋に、迷宮(ダンジョン)の入り口へ戻れる噂の転移魔法陣があるんだろう。今日はもう早く帰って、宿で寝よう」


 リュウエンはそう言って、一番奥の壁に今までなかった、恐らくボス戦が終わって出来たであろう扉を目指す。


「そうね、もう今日は何もしたくないわ……」


「右に同じ」


「みんな頑張ったもんね。でも、ギルドへの報告は?」


「長くなりそうだ。明日にしようぜ」


「そうね。あのボスの事とか説明すると長くかかりそう」


「あ、ゼン君、目を覚まさなかったらどうする?」


「俺達の宿に連れて行こう。こいつ、未だにスラムに戻ってるらしいからな。


 ゴウセルさんが、商会の社員寮とか、あるいはゴウセルさんの家に泊まっていい、っていうのも断ってるらしいぜ。だから今日は、無理やり宿体験だ!」


「あ、それなら私達の部屋に、ね、サリ~~」


「え~。まあ今日の殊勲賞だし、一日くらい、いいかな……」


「おい、俺達、男同士の絆の邪魔するなよ」


「なにそれ、ばっかみたい。クスクス……」


 彼らはそんな馬鹿話をしながら、ロックゲート 岩の門を出て、今や彼等の居場所である迷宮都市フェルズへ戻るのであった……。










*******

オマケ


リ「なんか主人公ぽくなかったか?ボス倒したし。最後助けられたが……」

ラ「あ~どうだろうな。いいセンいってるんじゃ?……(まだ拘ってるのか」

サ「初戦はともかく、次の選択ミスが……私もまだまだよね……」

ア「私も~。もっと戦棍(メイス)の扱い上手くなって、ガンガン撲殺出来る様にならなきゃ!」


他全員の声:「なるな!」


ゼ「……みんな、凄かったね……」(ニコ)

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