第17話 異常ボス調査とゼンの職選択☆



 ※



 ロックゲート 岩の門のボスを倒し、迷宮(ダンジョン)制覇を果たした翌日、西風旅団は一応全員で(ゼンもいる)、ギルドに迷宮(ダンジョン)ボスの報告をしに行った。


 最初報告を聞いていたカウンターの女性職員は、その若さで凄いですねぇ、と普通に聞いていたのだが、次に出た青黒い肌のオークキングの話をした辺りから、態度が怪しくなり、


「すいません、ちょっと……」


 と席を外した後、中が騒がしくなり、明らかに上役らしきギルド職員の男性が、すみません、詳しい話をお聞きしたい、という事で、ギルドマスターがお待ちです。と伝えてきたのだ。


 そして案内人として現れたのが、


「私は、副ギルドマスターの一人、ロナルドです。ギルドマスターは上の、5階の小会議室で君達を待っています。来て。くれますね?」


 穏やかな態度だが、その鋭い眼光は強制を意味している。応じない訳にはいかないだろう。


 西風旅団のメンバー達は、ロナルドの案内で5階まで上がった。


「こんな上の階、来たことないですよ」


「当然です。冒険者達に開放されているのは、資料室のある2階までです。それ以上は職員専用。もしくは、緊急時の会議等では大会議室に呼ばれる事も……」


「緊急時?」


「ゴブリンやオークの群れ、もしくはその巣穴の討伐や、それ以外でもB~C級の危険な魔獣が発見されたりした時ですかな。フェルズでは、それなりにある、『緊急時』ですよ」


 副ギルマスは、にこやかに危険な話をする。


 5階の廊下の一番奥の手前、それが小会議室だった。ゴウセルとレフライアの密会の定番場所でもある。


 その部屋の、白い円形テーブルの奥に腰かけていたのが、この迷宮都市フェルズの名誉領主でもある隻眼のギルドマスター、レフライア・フェルズだった。


「ようこそ『西風旅団』の諸君。私が、この冒険者ギルド辺境本部のギルドマスター、レフライア・フェルズだ。以後お見知りおきを。若く優秀な冒険者の若者達よ」


 立ち上がり、優雅な礼までしてみせたのは、燃えるような紅い髪に、左の目の傷を覆う様に魔術の紋様が刺繍された眼帯をする、女性であり、かなりの美人であるのに異様な迫力を持った存在、それがレフライア・フェルズだった。


「とりあえずは席に、適当についてもらおう。……案内ご苦労、ロナルド」


「いえ。それでは私はこれで……」


 副ギルマスのロナルドも優雅に礼をして去り、なんだか西風旅団の面々は、ひどく場違いな場所に来たのではないだろうか、との思いに駆られる。


 ともかくも、めいめいが席を決め、座る。


 レフライアは、傍らに立つ女性秘書にお茶を頼み、「形式的な振る舞いはこれくらいでいいだろう」、と言うと急に彼女から放たれていた迫力と圧が、スウっとなくなる。


「いちいち、ギルマスの権威だ。立場だってうるさいのよ。冒険者が格式張ってどうするんだか……」


 ブツブツ言うギルマスを見て、溜息をつきながら秘書はめいめいにお茶をいれてくれる。


「それでも、上の者は、下の者に軽んじられる態度がとれないのでは?」


 お茶を入れ終わった秘書はそう言うと、そのまま彼女の左隣りに座り、筆記具を構える。


「ファナはそういうけどね、要は見栄なのよ見栄。私はそういうの、好きじゃないなぁ~」


「個人の好き嫌いで語れる程低い立場ではないですよ。ギルマスも、名誉領主も……」


 急に軽くなった会話に目を丸くしていたリュウエン達だが、なんとはなしにレフライアの人柄や考え方が分かったので、ホっと肩の力を抜いた。


「あなた達の事は、ゴウセルからよく聞いているわ。ゼン君の事も含めて、ね」


 レフライアは、ニコリと優しく微笑みかける。


「だから、その妻となる予定の私としても、あなた達には一度会っておきたかったのよ。そこに、今回の話でしょ。渡りに船とはまさにこの事ね」


ゴウセルから婚約の事は、内々にしてくれ、といわれつつも聞いていた彼等だが、実際に相手に会って言われると実感が違う。


 こんな雲の上の人と、朴訥でちょっとだらしない感じがしなくもなゴウセルというカップルは、その内情は知らない彼等には、美女と野獣というか、美女とそこらの野良犬、とでもいった感のある。少し不釣り合いなカップルに見えるのだ。


「……ギルマス、あまり公私混同は……」


「ついでがあったんだから、いいでしょ、これぐらい。ゼン君、私の事は、『お義母さん』って呼んでもいいのよ」


 くつろいだところで、またお茶を噴き出しそうになった者数名。


「オレ、ゴウセルの事も、ゴウセル、としか、呼んで、ないよ」


 ゼンが困ったように小声で言う。


「なら『お義父さん』って呼んだら、絶対喜ぶわよ。……いえ、もしかしたら卒倒するかもしれないわ」


 真剣な表情で悩むギルマス・レフライア。


「ギルマス。雑談はそろそろ……」


 コホンと、行儀のいい咳をして、ギルマスの脱線を戻すファナ秘書官。


「ん。まあ仕方ないか。


 じゃあ、あなた達のボス戦の事、最初から、なるべく細かく話して。足りない、と思ったら他の人もどんどん補足して、なるべく正確なデータが取りたいのよ」


 こういう話は得意なラルクスとサリサリサが、最初サリサリサがメインで、それをラルクスが補う様に話して行った。


 リュウエンやアリシアも、その場その場で感じた事や、第六感で感じた様な曖昧な話まで交えて、あの時のボス戦の異常性、そしてその、初級迷宮(ダンジョン)で出るにはあり得ない程強い、青黒い肌をしたオーク達の事を、なるべく細かく、自分の予測や考えまで交えての熱い討論会のような感じにその場はなった。


 それらをファナは、寸分漏らさず全てノートに速記していた。


 ゼンだけが何も言わず、静かにお茶をすすっていた。


「……うん、大体の情報は出尽くしたみたいね。ここまでのデータで、ファナなら大体予想がつくでしょ」


「……そうですね。ありきたりの結論だと思いますが、要は、『西風旅団』皆さんが強過ぎた、あの程度のボスに挑むには。そして、その判定を確定させてしまったのが……」


「殲滅速度ね」


「ですね。初戦は、サリサリサさんの魔術が効果的に決まり、彼等の陣形との相性との良さが出て、ボス戦としてはあり得ない速さで初戦が終わった……。そして、迷宮(ダンジョン)がボス、という『試練』を『西風旅団』用に再調整したのが、その青黒い、『強化オーク』なのでしょう。……あくまで推論として、ですが」


 その場には、あのオーク達が使っていた武器が戦利品として残ったので、すべて出してある。


 鉈の様な大剣、片手剣、大槍、短槍、弦の切れた弓、手斧、杖。どれもが普通のオークキング一党が使用する様な物ではない。そもそも大きさからして段違いだ。後、場違いな特上豚ロース……。


「私は、それで間違いないと思うわ」


 旅団メンバーは、ギルマスと秘書の阿吽(あうん)の呼吸に、息の合った高ランクの強者はやっぱり違うな、と感心する。ファナはあくまで単なる秘書なのだが。


「これらの武器は、肉以外は、こちらで高く買い取らせて貰いたいのだけれど、いいかしら?もしかしたら自分達で使うのある?」


 レフライアの言葉に皆は首を振り、買い取りを了承する。


「でも、あの雑魚ダンジョンで、初心者練習用迷宮、なんて言われてたロックゲート 岩の門のボス戦に、そんな罠(トラップ)めいた『試練』があったなんて……」


 レフライアも昔一回クリアした場所だ。本当に初心者の時で、苦戦こそしなかったものの、仲間とあーだこーだと苦労はしながら戦ったのはいい思い出だ。ゴウセルと一緒に。


「実はね。あのロックゲート 岩の門のボス戦では、時々、本当の時折なんだけど、帰って来ないパーティーがいたの。そのパーティー、あのロックゲート 岩の門のボスに負ける筈がないパーティーばかりだった」


「それって……」


 リュウエンは全滅、という言葉を軽々しく口にして使えなかった。


「ええ、多分。でもあなた達のお陰で、あそこのシステムのルールが分かった。これからはもう、そんな悲劇が繰り返される事はない。これは、あなた達のお陰よ」


 レフライアはニコリとギルマスとしての顔で微笑んだ。


「この功績。そしてロックゲート 岩の門の強化ボスのクリア、後、レオ検定官からの推薦もあります。あなた達、『西風旅団』全員のF級昇級を、ギルドマスターとして正式に認めます」


 喜びに沸く旅団メンバー。


 それを見て一抹の危惧を感じるレフライアは、言わずにはいられなかった。


「少しだけ注意を。あなた達はまだ若過ぎるわ。その事で様々な心無い嫌味や皮肉等を言われるかもしれないけれど、これだけは分かって。あなた達はまだ、本当に色々な意味で、『経験不足』なの。


 迷宮(ダンジョン)は、今回の事からも分かると思うけど、時折、意味不明と思われる形でも人を試す『試練』を課すわ。それは特にボスに形となって現れる、とギルドでは見ているの。


 そういう事を、警告として冒険者達には言ってあるのだけれど、ちゃんとそれを本気で理解している者は極少数、というのが現状。


 あなた達は、迷宮迷宮(ダンジョン)という落とし穴に、決してハマらない様に注意して欲しい。あなた達が前途有望だと思うからこそ言うわ」


 リュウエン達は、ギルマスの真剣な眼差しに、本気の警告を感じて、その言葉を心に決して忘れない様に深く刻み込んだ。


「迷宮(ダンジョン)は、力だけが全てじゃない。強者至上主義に走りがちな冒険者ギルドだけれど、それでもその事を忘れないで。時に神々が試すのは、力だけではないのかもしれない、と」


 そして、迷宮(ダンジョン)ボス戦の聞き取り調査は終わった。



 ※



 下の階に降りた旅団メンバーは、ランク昇級の為、ギルドカードの更新をする。


 一般的に知られている事は、冒険者のギルドカードは本人しか使えない、個人の身分証明書でありなおかつ、冒険者の様々な個人的なデータ(スキル等)を登録し、閲覧できる便利な魔具である、という事がばかりが知れ渡っている。

 

 だが、ギルド的には他にも、その冒険者が何の魔物累計何匹倒したか、何の素材を売ったか(ギルドに売った場合)、どれだけの任務を達成したか、非達成だったか、等様々なデータの累積が行われている、冒険者個人の総合的なデータの倉庫となっている。


 勿論このデータは、ギルドにも残され、バックアップされているのだが、違う国の違うギルドに言った場合、そこでこのカードからのデータが共有され、冒険者のランク保証が完璧な物になるのだ。


 偽カードを作っても、そのデータがないだけで、どんなに見た目精工な偽物を作っても無駄となる訳だ。


 ちなみにこの累積データは、本人が希望すれば閲覧する事も出来るのだが(魔術で膨大な紙に印刷され)、機能を詳細に記した説明書を、脳筋ばかりの冒険者が隅々まで読む事はほとんどなく、一部の頭の良い術者系の冒険者しか利用していないのが実情だった。



 新しく、Fのクラスが刻印されたギルドカードを見て、誇らしく思いながらも、まだまだある遥かな高みの上を目指す気持ちが高まる旅団メンバーなのであった。



 ※



 ギルド内にある食堂にとりあえず落ち着いた西風旅団総員5名は、次の初級ダンジョンをどこの決めるかの相談をしていた。


 今現在、フェルズ周辺にある初級ダンジョンは5つ。中級ダンジョンは4つ。上級ダンジョンは3つ。最上級は1つ。となっている


 このように、全ての等級の迷宮(ダンジョン)が一つ所に固まっている場所等、世界中探してもそうそうある物ではない。だからこそ『迷宮都市』と呼ばれるフェルズなのだ。


 全部の迷宮(ダンジョン)が近場にある訳ではなく、馬車で移動しなければならない程遠い場所にもあるのだが、その中心に位置するのがフェルズなのだ。


 基本、初級ダンジョンは歩いて行ける距離にある。半日、もしくは丸1日歩いてやっと、という場所もある。


 彼らは、次に攻略する初級ダンジョンを決める話し合いをしていた。


 候補はもちろん、残りの4つなのだが、基本的にそれ程特徴的なダンジョンがある訳でもなく、死霊系が多い所がいい、とアリシアが、そこなら自分が活躍出来る!、と言い出したのだが、残念ながら、そのダンジョンの一部に出る、という場所はあるのだが、全体が死霊系、という物はなく(サリサリサがかなりホっとしていた)、決め手に欠けていた所、ゼンがオズオズと手を上げる。


「ダンジョン、じゃない、討伐任務は、駄目なん、ですか?」


「いや、駄目って事はないが、でも何故?」


「あの、オレ、魔物の素材、の、剥ぎ取り、とかそういうの習いたい、です……」


「なるほど、ダンジョンだけじゃ覚えられない技術、結構色々あるし、な」


 ある意味盲点だった、と皆が気づく。冒険者見習いなゼンには、これから教える事が山ほどある。それには、むしろ迷宮外の事の方が多いくらいだ。


「フェルズはダンジョンがあるから、と、それに目が奪われがちだが、普通の任務だってちゃんとある。そうだな。ついでに採取とかの任務もいくつか取って、ゼンに薬草とかを見せて、種類や効能を覚えさせる事も出来るな」


「あと!オレ、なりたい、冒険者の職、決めました……」


 これは、入団?祝いの騒ぎをした時に、ラルクスが、なりたい職を決めたら、それに向けての専門的教育が出来る、とゼンに言って、自分が何にどうなりたいかをゆっくりでいいから考えておけ、と宿題として出していたのだ。


 他のメンバーも興味津々で、自分と同じ職を選べば個人レッスンが出来る、と皆が自分の職を強く進めていた。(酔っぱらっていたせいもあったが)


「あ、決まったんだ。意外に早いね。ゼン君なら色々悩むかと思ってた」


「この子、決断力とか行動力とか凄いから、決めるのも足みたいに早いのよ」


「まあまあ。ともかく、ゼンの話聞こうぜ」


 と言ったのは、妙に余裕を持ったラルクスなのだが。


「オレ、剣士、に、なりたい、です」


 と遠慮がちだがはっきり明確に意見表明され、明暗は分かれた。


「よっしやった、これから俺がゼンの先生だ!」


 大喜びのリュウエンと、嘘、スカウトかと……、とかなり落胆のラルクス。


「でもなんで~?ゼン君。私達のパーティーが、前衛薄いからってそれを埋める為に、とか考えなくてもいいのよ~」


 アリシアはゼンの優しさと気遣いを理解しているので、それがゼンの選択に強制要素となってしまったのでは、と心配しているのだ。


「ゼンは元々素早いし、気配消せるし、すでにスカウトの素質充分だと思うんだけどなぁ~」


 未練タラタラなラルクスであった。


 だがアリシアの心配は杞憂であった。


「え、と。気遣い、とかじゃ、ないです。術系は、多分、素質ないと思うから、実際多分、向いてないと思う。で、剣士は、護りたい人を護れる力が得られると、思う、から」


 ゼンはトツトツと自分の気持ちを語る。そこに嘘はないようだ。


「スカウトも興味、あったけど、ラルクさん見てて余計、スカウト的動きの出来る剣士がいいかな、と……」


「でも、確かにゼンは、リュウみたいなムキムキで、バスターソードなんて振り回すタイプじゃないし、ね。同じ感じにはなれないとかなら、剣士としてはじゃあ、どういうのを目指すつもりなの?」


 サリサリサは興味本位で軽く聞く。


「今の、その、特徴生かした、そういう剣士。素早くて、気配消して相手に気づかれずに斬る、みたいな?」


 テレながらも、すでに自分で色々考えていたらしく、はっきりと言う。


「聞いただけで強そうだが、それってアサシン(暗殺者)タイプって感じかな……」


 剣士の型(タイプ)としてはそれに近いのかもしれない。


 皆が、ゼンの未来像を考える。


 そこには、恐ろしく強い、周囲に恐怖を振りまく強剣士が笑っている、そんな未来が出来上がってしまいそうな気がしたのは、気のせいだったのだろうか……。


「あ、あれだ。剣士を目指すと決めたからには、いよいよ闘技会は、ゼンのこれからの参考になると思うぞ」


 不吉な未来を振り払うべく、リュウエンは、もう開催間近に迫ったフェルズのイベントの事をを持ち出す。


「そうだな。剣士ならあれを見ない選択肢はない。なにしろ、この国の最強、もしかしたら、この周辺国1と言っていい、3人の剣士がでるんだ。いい席を張り切って取ろう。余裕も今はそれなりにあるからな」


「『3強』かぁ。私達術士には、正直関係のない話だけど、そんなに強いの?」


 サリサリサの揶揄に、リュウエンもラルクスの凄い勢いで頷いている。


「本当に凄いんだよ、ともかく頭一つ、いや、二つも三つも飛び抜けた存在、それが『3強』なんだ!」


 ポカーンとして反応の薄いゼンに気づいたラルクスが解説モードに入った。


「どうもゼンは『3強』の知識がない様だから、詳しく説明しよう。


 『3強』とは、このフェルズにいる3人のA級冒険者を指して言う。なんでAA ダブルエーAAA トリプルエーじゃないのか、って説明は後にするな。


 まずその一人、遥か東方の国から流れて来た、摩訶不思議な剣術を使う、『流水』の二つ名を持ち、折れそうな細い刀を使う謎の剣士『ラザン』。


 流水、は彼の使う剣術の名前から来ているという。前回準優勝、前々回は優勝、の凄腕剣士だ。変わり者との噂もある。


 二人目は、シリウス・ゼフヴァーン。いや、ゼフヴァーン侯爵家から勘当されてるから、ただのシリウス、なのか。


 彼は『聖騎士(パラディン)崩れ』という二つ名を持つ。何故なら、王都の近衛騎士団所属で、聖騎士(パラディン)の技能にも目覚めたのに、更なる強さを求めてあっさりと騎士団を退団したんだ。


 それで強い冒険者の集うとの名高い評判の迷宮都市フェルズに来たんだが、それを怒った親父さんのゼフヴァーン侯爵が、勘当だけじゃ飽き足らず、自分の手勢の騎士団30人をここに派遣して制裁を加えようとしたんだが、これがアッサリ返り討ち。


 その上その内の20名が彼の強さに心酔し、フェルズ残留を希望。こいつらは今のシリウスのクラン、『崩壊騎士団 フォール・ナイツ』の中核となっているが、基本シリウスはソロで活動している。あ、言い忘れたが、ちゃんと冒険者になってから活動してるからな。

 

 彼は前回の優勝者、前々回の準優勝者だ。


 彼を懲らしめたい近衛騎士団が、王都からこちらに何度か騎士を派遣しているようだが、結果は、言わなくてもいいよな。騎士団なんて所詮、張子の虎だ。


 で、最後の一人は~、省いてもいい気がするが一応。


 『豪岩』の二つ名を持つ、褐色の肌の3メートル近い大男。噂だと、トロルの血が混ざってるだの、祖先はタイタンだの(どれも巨人族)言われているが、実際は純粋な人間らしいんだが、の、ビィシャグ。

 

 彼は、普通なら持てないような巨大戦斧を使う、いわゆるパワーファイター、なんだが、もう本当にその典型で、ともかく力!技とか駆け引きとか二の次の、力馬鹿。つまりは脳筋。


 そのせいで、前に説明した二人が現れてからはずっと万年3位の地位に甘んじている。


 それでも、彼の豪快な戦い方や、その一本気な男気に惚れて、彼を慕う者も一定数以上いて、それが彼のクラン、『デス・パワー 死神の力』となっている。大男ばっかりの、いわゆるファンクラブかな……」


 話疲れて目の前の飲み物を一気に飲むラルクス。


「この中で注目は当然、優勝、最強の座を争う、『流水』ラザンと、『聖騎士(パラディン)崩れ』のシリウスだ。


 どちらも強いし、剣士となるなら見て損のない、剣士の高見にいる存在だ。


 だが、シリウスは、完成された剣士として、強いは強いんだが、正直言うと、彼の剣技は普通の騎士団剣技の延長線上にいるに過ぎない、と言われている。その完成度は凄すぎて、並の剣士など足元にも及ばないのだが、なんというか、意外性がない、とでも……


 まあ、それはいい。俺レベルが何か言ってもひがみにしかならない。


 俺が言いたいのは、一番注目して見て欲しいのが、『流水』ラザンだ、という事だ。


 彼の剣技は、初めて見たらきっと驚く。初めてでなくとも驚くんだがな。彼の剣技は、まさに流れる水の様に、全ての攻撃、それが魔術だろうが何だろうが、を完璧に受け流す、脅威の剣術だ。


 あれは、参考にするとかどうのと言ったレベルじゃないんだが、とにかく見て、何かを感じて欲しい。シリウスも今は彼がここにいて、競い合えるからこそここにいる気がする……」


 剣士には縁遠い術士のサリサリサとアリシアもゴクリと思わず息を飲む。ラルクスの話にはそれだけで彼の感じている脅威の一端が伝わって来る程の話だった。


 リュウエンはうんうん頷くばかりだ。


「ふーん……」


 それが分かっているんだがいないんだか、この頃少し無表情ではなくなってきたゼンは、それでもその考え込む様子には、何を考えているか今一つ周囲には分かり難いのだった。


 まだラルクスの話には続きがある。


「後、ランクの話な、『流水』は何故か、A級に上がってから余り仕事をしてないんだ、必要ない、とか言って、自分が食うに困らない程度はやるんだが。昇級には興味ない、と。


 それを聞いてシリウスが、奴が上げぬのなら、自分も上げぬ、と言い張り、昇級予定のないビィシャグまでもが乗っかって、で、ここに最強のA級冒険者3人、『3強』がいる訳だ……」










*******

オマケ


レ「お義母さん、って呼んでみない?」

ゼ「え、と。あの。困る……」


リ「あれ、ほっといていいのか……?」

ラ「しかし。相手は仮にもギルマスだぞ……。正直言って怖い…」

サ「元A級だものね。ゼンは、尊い犠牲になったのよ……ププ」

ア「微笑ましい光景だね~~。ゼン君も、甘えてあげればいのに~~♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る