理由

「もう身体中いたい・・・」


宿に帰ってきたレイラは風呂から上がり、ベッドに倒れ込んだ。


「おつかれ。でも良くやったと思うよ?一日でだいぶ成長したんじゃない?」


「その自覚はあるかも・・・なんかこう・・・壁を超えたみたいな・・・ありがとう」


「なぁ、なんで対人戦強くなろうと思ったんだ?」


「・・・・・・」


「言いたくなきゃいいんだけどさ」


「今回のクエストの途中・・・護衛依頼だったんだけど」


「ああ」


「その途中で盗賊が出たんだよ」


「うん」


「取り囲まれたけどそいつらはなんとかなった・・・でもアジトに強いのがいてね。私は勝てなかった。その後仲間が応援に駆けつけてくれて、敵わないと悟った盗賊が子供を人質に取って・・・説得したけど結局自暴自棄になったその盗賊に子供が殺されたわ」


「そういう事か」


「うん。だからしばらく休んで力を付けようって。そう思ってる矢先に困ってる貴方を見て・・・なんだか放っておけなくて。ごめんね」


「いやいいんだ」


「うん・・・」


気づくとレイラはすやすやと寝ていた。レイラに毛布をかけると寝ながらレイラは泣いていた。


コーヒーをいれてタバコに火をつける。


吐き出した煙の先に視線を向けた。


ーーーーーーーーーー


次の日、カナトはレイラを連れてダンジョンへとやってきた。


「それで・・・潜るのはいいけどどうしたの?」


「ちょっと考えたんだけどさ、レイラのレベル上げをしようと思って」


「レベル上げ?」


「そう。この指輪嵌めてくれる?」


「ゆ、指輪?ゆびわ・・・ゆびわ・・・」


何故か指輪を受け取ったレイラはどの指に嵌めようかモジモジと体をくねらせている。


「それは経験値倍加の指輪だよ」


「えっ?それって・・・めちゃくちゃ希少なアイテムじゃないの?」


「多分売れば金貨1億枚くらいじゃないかな?」


「え?え?なんでそんなのをカナトが?」


「いいからそれ嵌めろって」


「う、うん」


迷った挙句左手の薬指に嵌めるレイラ。はぁ・・・とカナトはため息を吐いて次の指輪を渡した。


「え?これも経験値倍加?」


「そう。まだあと8個あるから全部つけてくれる?」


「・・・・・・は?」


こうしてレイラの異次元レベリングは始まった。何を隠そうカナトもこの指輪を交換出来るようになってからこれで爆発的にレベルを上げたのだ。


「おれも嵌めてるけど経験値倍加の指輪10個で1024倍。とりあえずレベル1000までサクッと上げるから」


頭のついて行かないレイラだったが、カナトが言うならと剣を握りしめる。


ちなみにこのダンジョンはカナトが見つけて放置していたダンジョンの一つだ。人恋しすぎてスルーしていたここに、マップを辿って来たのである。


「レベル1000になるまでダンジョンコアは取らないからそのつもりでね」


「わかった」


早速現れるゴブリン。サクッと討伐しレイラのレベルが上がる。


「え?今のだけで?」


「1024倍だからね。今ので1024匹倒した事になる。あ、おれの方も経験値入ってる」


「1024匹・・・まぁパーティーだから当然カナトにも入るわよ?」


「じゃあおれが倒しても構わないのか・・・ならいい機会だからおれの武器を見せるね」


そう言ってカナトはストレージから銃を取り出した。


「これは前いた世界の武器。まぁ今はこれに魔法とか属性を付与したりしてるんだけど」


現れたゴブリンに弾丸をお見舞するカナト。


「・・・見えない・・・それがその・・・異世界の武器なのね?」


「そう。これがおれの1番得意な武器」


その後も駆け足でダンジョンを降りていく2人。全てをカナトが撃ち尽くしていくのでレイラはただのマラソンだ。


いくつか深いダンジョンを経験したカナトだったが、このダンジョンも深いようで既に30階層を超えている。


「もうレベルが400を超えたんだけど・・・」


「だろうな。おれも1000までは一日で上がったから」


「け、桁違いね・・・」


高レベルの魔物をどんどん討伐していくカナト。魔力を纏わせれば銃にも攻撃力はプラスされるようで、ドラゴンやデーモンなんかも1発で仕留めていく。そしてたどり着いたこのダンジョンの最下層は80階だった。


「もうレベルが950よ・・・夢?」


走っているだけでレベルが跳ね上がったのだ。それも当然だろう。


「夢じゃないから。80階層のダンジョンを1024回くらい潜ったと考えたらそんなもんだよ」


そう言いつつ最後のボス部屋の扉を開ける。現れたのはオリハルコンでできたドラゴンだった。


「オリハルコンドラゴンか。レイラおれここで見てるから戦ってみようか」


「本気で言ってる?オリハルコンなんでしょ?そんなの私に・・・」


ゴクリと唾を飲み込むレイラ。しかしオリハルコンドラゴンのレベルはアイによると650と今のレイラからすると無茶では無い。


「剣に魔力を纏わせて、ほら集中集中」


体と剣に魔力を込めて集中するレイラ。レベルが上がったせいか、込められる魔力が尋常ではない。恐怖心を押さえ込み斬りかかる。


「斬れたっ!」


オリハルコンドラゴンの顔面を浅くだが切りつけたレイラ。自分の刃は通じる。それを確信すると息を吐き出し、再び斬りかかる。襲い来る爪や炎、それらの一つ一つが手に取るようにわかる。気づけば刃から魔力を飛ばし、オリハルコンドラゴンの翼を切り落としていた。やれる。その直感のまま体を動かし剣を振るう。


オリハルコンドラゴンの口に魔力が高まるのを感じる。


「ブレスね・・・でも今の私なら斬れる!」


オリハルコンドラゴンの口に魔法陣が展開され、その巨大な四肢を大きく広げて固定砲台のように踏みしめる。高まった魔力は光の玉となり、極太のレーザーのようなブレスが吐き出される。


それをレイラは飛び込み、全身に魔力を纏わせて振り抜いた。


キンっと硬質な音が響き、レーザーの光がおさまる。数瞬の後にオリハルコンドラゴンの首はドド・・・ン・・・と地面に落ちた。


「・・・やった・・・やった!やったよカナト!」


剣をしまってカナトに駆け寄り抱きつくレイラ。


「・・・よくやったな」


そう言ってカナトもレイラを抱きしめて頭を撫でる。


「これでレベルも上がったろ?」


「・・・うん。1056になってる」


半泣きになりながらステータスを確認する。


「ほらこれ」


そう言って差し出したのはクリア報酬の宝箱から出てきた一振の剣だった。


「龍滅刃だってさ。オリハルコンでできてるみたいだしレイラにピッタリだと思う」


「・・・ありがとう」


そう言って剣を抜く。頭身は鈍い金色に輝き、所々に龍の紋様が浮き出ている。込められた魔力も中々ありそうだ。


「あとはダンジョンコアを抜いてと。さて、帰ったらすき焼きにでもするか」


そう言って振り返るとレイラは涙混じりの笑顔で大きく頷くのだった。



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