すき焼き

「嘘・・・じゃないのね?」


「ああ。おれは別の世界からやってきた」


じっと見つめ合う2人。


「・・・それから?」


「今この体は15だけど向こうで死んだ時は35だった」


「え?私より大人?」


え?え?と戸惑うレイラ。


「そうだよ」


「え?それってその・・・あの・・・初めまして」


ぺこりと頭を下げるレイラに思わずカナトは吹き出した。


「な、なんで笑うの!」


「初めましてってそれはないだろ。あー・・・腹痛いわ」


「だってそれはその・・・やだ・・・私子供だと思ってお風呂上がりとか・・・その」


急に赤面するレイラ。


「風呂上がりにはしたないって?」


「はははっきり言わないで・・・ください」


「ごめん気にしてないから落ち着いて。ほらコーヒーでも飲んで」


「は、はい」


深呼吸をしてコーヒーを啜るレイラ。そうか子供と思われていたか。この見た目ならしょうがないかとため息を着く。


「あ、だから記憶が・・・って」


「そう。嘘をついて悪かった」


ぺこりとレイラに頭を下げるカナト。


「あ、いやいいの。そんな事情があったなら」


「ありがとう。それで・・・おれみたいに違う世界から来た人の話って聞いたことない?」


「どうだろ・・・わかんないかも。でもカナトがそうだって言われてなんか納得した自分もいたの」


「そうなの?」


「うん。ビビっと来たって言ったでしょ?黒髪黒目なんてそうそういないし顔立ちもどことなく違うしね」


「なるほど・・・」


「でもそれでこの世界・・・の事を教えて欲しいって事だったのね」


「そゆこと。おれは魔法もスキルもドワーフやエルフやドラゴンなんていない世界から来たからさ」


ええ!?とレイラが驚く。


「そんな世界あるの?」


「あるんだ。で、そこから来たわけだけど・・・そうだな・・・ちょっとまってて」


そう言ってカナトはスマホを交換して電源を入れる。レイラは食い入るようにスマホを見つめていた。その顔をパシャっと写メで撮り、レイラに見せる。


「おれの世界ではこんな感じで・・・魔力の要らない魔道具みたいなのが沢山あったんだ」


「あ、私こんな顔してた?」


顔を赤く染めていくレイラ。


「してたしてた。多分だけどこれみたいな道具ってある?ないんじゃない?」


今度は動画を撮ってレイラに見せる。


「ない・・・と思う。なにこれ凄い・・・私が動いてる・・・」


スマホを手にしてどう使うのだろうと睨めっこしている。


「で、多分なんだけどおれはいずれ狙われると思う」


「誰に?」


「多分同じ世界から来た人間に。確証がある訳じゃないけどさ」


「何かしたの?」


「いや何もしてないよ。ただ狙われてもおかしくない立場にいるってだけ。あ、貴族とかそんなんじゃないから」


ううむと難しい顔のレイラ。ある程度この世界の事を教えて貰ったら離れた方がいいのだろうか。


「いなくならないよね?」


ドキッとした。うまく言葉が出なかった。


「まだ出会って少しだけどいなくならないよね?」


「・・・そうだな・・・まぁそうなる時もあるかもしれないって話だよ」


「そっか・・・わかった」


どことなく寂しそうなレイラに罪悪感が湧いてくる。見ず知らずのおれに力を貸してくれたのに嘘をついていた。カルマランクや罪の扉を選んだことも言えていない。我ながら情けない。


「でも宿は1ヶ月取ったんだし最低でもそれくらいはいるつもりだけどね」


「・・・わかった。ごめんね。私から聞いておいてうまく言葉が出ないの」


「それは仕方ないよ・・・気持ち切り替えていこう」


「うん。・・・そうだね!」


この日は元いた世界のことを話したり、シャンプーやリンスとかも力で取り寄せたこと、他にも色々と話した。気づけば夜も更けてきて夕食をとレイラが言い出した。


「じゃあなんか作るよ。ちょっとまってて」


そう言って部屋の中にコンロと鍋、調味料や包丁などをどんどん並べていく。作るのは・・・すき焼きだ。


「生卵・・・食べるの?」


心底不安げな顔で生卵を見つめているレイラ。


「騙されたと思って食べてみ?先に食べるから」


カナトは取り寄せていたA5ランクの近江牛を卵につけて1口。うますぎる。涙が出そうだ。そこに白米をかきこんで・・・至福の表情を浮かべるカナトにゴクリと息を飲むレイラ。真似して卵につけて食べる。その瞬間レイラに電撃が走った。天地がひっくり返ったと思うほどの衝撃だった。それほどに。


「お、お、お、おいしい・・・」


「美味いよな?いっぱいあるからどんどん食って」


野菜も食えよと何度も言うが、レイラは肉食獣ばりにひたすら肉を食べ続ける。先に満腹になったカナトはひたすら肉をレイラの皿に移す作業に突入した。


「も、もう食べれない」


臨月かな?と思うほどに膨らんだお腹を撫でながらレイラは恍惚の表情だ。


「良かった。洗い物は後でするとして・・・しまっちゃうか」


タバコを咥えながら調理器具等をストレージにしまっていく。テーブルを拭いて綺麗にし、デザートに季節のフルーツたっぷり生クリームタルトを出すと、レイラの目がキラっと光った。まだ食うのかとレイラの分も取り出すと光の速さでタルトは消えた。


「私・・・カナトと結婚する・・・」


お腹を擦りながら満足気な表情だ。胃袋を掴まれたのだろう。


「いやいや・・・でも美味かったろ?ここのタルト好きなんだよ」


イチゴにマンゴーにメロン。それらが生クリームと合わさってざっくりとしたタルト生地とよく合うのだ。


「ふぅー・・・食った食った」


「私こんなに幸せな食事初めて」


「大袈裟だな。でもその腹を見ればわかるよ。まだまだ美味いもん沢山あるから楽しみにしとけよ」


「楽しみにしておくね」


そう言ってレイラはベッドに入る。数分後にはいびきが聞こえてきた。何にしろ誰かと食べるご飯のありがたみを噛み締めたカナトであった。



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