ギャルと文学少女の小競り合い

秋克凜

第1話 ワタシ、文学少女メイ。三毛猫中に転校しました。

 そういえば、最近読んだ本にこういう話もあったっけ、『引っ越した先は、自分の知らない怪異がいる。』とかなんとか。この田舎のほのぼの〜とした雰囲気もいいけど、やっぱ自分の目で見てみると田舎を描いた小説やミステリーの世界と現実の世界がマッチしてるのがわかる。


 ワタシ、花園命。今日から郊外の田舎にある三毛猫中みけねこちゅうに転入しました。親の都合で……。


めい!本読むのはいいけど、新しい学校ではちゃんと友達も作りなよ!」


夕姉ゆうねぇ!もう余計なことは言わないでって・・」

 夕姉は私の一人だけの姉。すごく闊達かったつで、正直私は友達は作るつもりないのに押しつけがましく友達を作らせようとしてくる。今までだってまともに出来たことないから無理なのはわかってるのに……。


「私は好きな本を読めていればそれでいいって思ってるの。ロシア文学だって哲学書だって誰も見向きもしないけど、すごい魅力があるの。きっとそこら辺の子には理解ができないような。」言い返してやった。私の好きな逃避行先、文学の世界の話だったら誰にも負けるつもりないから高飛車ぶってやるんだから。


「まぁったくおっとさんに似ちゃったのかねぇ……」と母がため息をつく。


 作家だったロシア人の父と二人で、本屋という回廊を歩いた時から、読書の良さを知ってしまった。でも、小説は古くて硬くなる程、現代の人にはよさを共感してもらえなくなる。だから共感できる友達なんてありゃしない。そう、一人で読むしかない。そういう風に世の中はなってるし、ここは田舎もど田舎、だから古書の部類を読む人なんてもっとマイナーな存在のはずだ……。

 命はいつしかそうとしか考えられなくなっていた。





 ○






「キーンコーンカーンコーン……」

 ごくごく一般的な予鈴が新鮮に聞こえる。


 私は、教室のドアを開ける。

 そして始まるテンプレのような担任の先生による私の名前と出身の紹介。

 でもヒロインがいつも転校生とは限らない。きっと私は端役のみたいなモブキャラか何かだ。

 だからやっぱり静かな声で、

花園命はなぞの めいです。よろしくお願いします。」

 そんな端的に挨拶を済ませる。完璧だ。


 わざとじゃないけど妙な間が開いてしまった。

 すかさず前原先生が話を引き出そうとする。

「ほかにはありますか?」


「ありません……」

 退屈で凡庸な挨拶。それでこそ今読んでる指南書にも大事であると書いてあったことだ。


「えっ。これだけ?」

 クラスメイトがそうざわつく。そんな声の中から「あしかゆーい」とかいう明らかに私には興味もないような子もいた。まぁそう目立たずにいるようにしたのは私のせいなんだけどね。


「そこの角の席に座ってくれるかしら?」

 担任の前原先生の指示に従って私は席につく。

 前には足を触っているギャル……。「」じゃないかっていう姿をした金髪ギャルがいるけど足を触っていてこちらを見向きもしない。


「今日はこの本読もう。」

 嬉々として手に取り出したのは、お気に入りの本の「葉隠れの書」。江戸時代、山本常朝が武士としての心得を口述したものとされている。武士の思想は頭が整理されるし質素こそ正義って感じで結構美徳として好き。しかも最高に武士は素敵でカッコいいと父からも聞いている。

 その昔にこの本は父から譲り受けたものなんだけど、先祖代々受け継がれているみたいで結構古めかしいんだよね。


 内容も確かに近代的なドイツの観念的な思想とはちょっと違う。この書物には、科学も神の存在もこの本には存在しない。それでも、生きていくとはなんたるか。1日の大切さはなんたるかを説いてくれる。とそんな感じに読書を楽しんでいると、 HR(ホームルーム)の時間が終わったようだ。面倒な授業に見舞れる。


 ……と思った矢先だけど今日は始業式の日だから、数学だけの授業だった。

隣のギャルはずっと寝てた。


 今日はもう家に帰ろう。と教室で本を片付けていたけど怖いギャルが、こっちをにらめつける。


「あっ……」

本を落としてしまった。


ぱさぁ……

その本をギャルが拾うと目を見開いている。


「……あ、あの、か、返していただけますか?」


金髪でがさつそうでちょっと黒い、ギャルが睨んで大きく息を吸った。

怖い怖い怖い……


「あんたね?!!転校生のあんた!聞いてる!?」


「何も聞いてないよぉ……」


「いや!返事したってことはさw聞いてんじゃんってw」


「は、はい……ギャルさん!」


「これっ……」


「はひ……??」


「これあんたの本でしょ?」


「あっ……ありがとう」


そういって私はおどおどしながらも受け取り片付ける。そんな様子を見ながら追い打ちをかけるようにギャルが赤面して、怒ってそうな顔で声をかけようとしてくる……


「いや。まぁその〜なんというか?その本に興味あっていうかさ……」

えっ???はっ??

「……えっ!?ギャルなのに?葉隠読むの??」


「さっきからさ〜〜ギャルギャル言わないでよ!!アタシは薪倶志鹿尾かぐし かおんって名前があるの!カオンって気軽に読んで!」


「……あっごめん」


「カオンって読んでくれていいから!!そうなの!ワタシはbungakusyouzyoなの」

 その時ワタシの思考は止まった。

 

「……文学処女?」


「処女じゃないって……あっ処女だけどさ……そういうことじゃなくて文学少女なんですカオンは!!」

顔を赤面にしている。

まじか。一番関わりが無さそうな子が私に一番興味を抱くどころか本の趣味が合うなんてことあるんだ……。まじか。まじか。そんなこと今まで文学仲間ができたことすらなかったしそんなのユニコーン並みにレアだと思ってたよ?

 しかもギャルだよ?一番反りが合わないはずの彼女が「質実剛健」「Busido!!!」がキャッチフレーズの本が好きなんて考えられる?いや、それはもはや某レッ〇ウザとかのウルトラレジェンドレアポケ〇ンな部類じゃない?ビッチのはずでしょ?なんで処女アピールを??あああわけわかんない。


「えっ……本当にウルトラレジェンドレアポケ〇ン……?」


「何言ってんのアンタ……それなら伝説のポケ〇ンでしょって、誰の事じゃい!!」

さすがにギャルのカオンもキレてる。でもちょっとうれしそう。

「えっ意外すぎて……」


「そぉ!意外っしょ!?そんな感じですごいいい感じ!!アタイのおとうさんもすごく好きでその影響で好きなんだ……」

そこはかとなく、悲しい顔でそういっているように感じた。けれどこれは、


……まさかの境遇が一緒だった。いや、……まさかだった。


「あ、あのさ、メイって読んでいい?」

緊張感漂ってた。誰もいない教室で……二人は見つめ合い、意外過ぎる組み合わせがそこには誕生していた。


「あ、いいよ……////」


 恥ずかしがってあんまり大声では言えなかったけどにはこの学校では慣れなさそうだなって思ってしまった。

 

 まさか葉隠で会話が芽生えることなんてないと思っていた。はぐれもの同士話してしまうのかもしれない。これからも。そんな予感がした。もう、予定違いの意外なギャルなおともだちができたかもしれない。


 こんなに早く、意外過ぎる同志ができるなんて……なんて素敵なんだ……。

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