拝啓、空を飛んだ君へ

湊谷愛澄

プロローグ

 昔から朝に弱かった。学生時代は何度も母に叩き起こされては遅刻ギリギリで登校していたものだ。

社会人になった今もそれは変わらず。スマホのアラーム設定は十分おきに計四回。一人暮らしだから起こしてくれる人などいない。

四回目のアラームのそれもスヌーズ機能でなった目覚ましの音でやっと体を起こす。

一回目のアラームですでに目は覚めているのだ。ただ人の体温によって温められた布団の中ほど離れがたい場所などない。それは暑い日でも変わらない。

うじうじと布団に潜っていれば気づけばいつもギリギリの時間。遅刻するのは俺を離してくれない布団のせいだ。

そんな社会人生活三年目。収入もそこそこ、仕事の大変さもそこそこ。何の変哲も無い平穏な日々。それでいいのだ。


《京浜東北線は人身事故の影響で遅延が発生しております》


 朝の支度をしながら聞き流しているだけのテレビの中でアナウンサーがそう告げる。

“人身事故”

その言葉に俺の心が跳ね上がる。もう何年も前のことなのにあの頃の記憶は繊細に、根強く脳に刻まれている。

そうか、あの時もまだまだ暑さが厳しく残る九月だったか。だから余計に反応してしまったのだろう。

支度を終えて最後に全身鏡の前で身だしなみをチェックしてから玄関を出る。

燦々と輝く太陽に舌打ちをして最寄駅に向かう。


なぁ、お前は今元気か?

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