第12話

ぽたぽたとコーヒーのドリップが落ちていく、落ちていったドリップは波紋を残していくがまた新たなドリップと衝突し打ち消されていく。


最初のうちはまだまだ出るが最後のほうは波紋の余韻すら消えたあとでやっと顔を出してくれる。落ちるまでにまた時間がかかる。適切なタイミングでお湯を注がないといけない。


喫茶店で一番大切で、面倒な仕事かもしれない。


現在進行形で私はそれを習っている。


「先輩って誰が好きなんですか?」


「はいはい、集中してね」


あれ?いつもの先輩なら"えっ・・・"みたいな反応になると思ってたのに。慣れてきちゃった。


「同級生ですか?先輩は部活入ってないですし、違う学年と繋がりないですから」


さながら、名探偵のように淡々と推理したことを述べていく。答えが合わせは簡単。


先輩を見つめるだけ。


・・・正解と。


「そうなると、同じクラスですね。他クラスと同じように繋がりは作りずらいですし、去年同じクラスでの先輩のコミュ力じゃだんだんと疎遠になっていくだけ!」


振り返ってドヤ顔を決めてやった。どうせ、正解なのだから。もっと心踊る謎はないのか・・・。なんちゃって。


「はい、コーヒーの完成。お客さんに出してきて。休憩入るから頼んだよ」


「あれ、ちょっと当てすぎちゃったかな」


こんな短時間のバイトで休憩なんて制度ないですよ。あったらバイトのする時間半分ぐらいになっちゃいます。


「お待たせしました~」


お客さんにとりあえず出してっと。一応、任されたからね。


「先輩、私からの差し入れです。休憩なんですからコーヒーぐらい欲しくないですか?」


あの面倒な作業に加えて、豆を挽くことから全部自分でやったコーヒー。これで先輩も感動して私を許してくれるはず。


休憩室もといコーヒー豆の倉庫からは引き出した。


どうだ?


「挽くのも勉強しなきゃだね」


「褒めてくれたっていいじゃないですか。可愛い後輩がこんなに頑張って作ったのに。挽くのだって自分でやったんですよ」


先輩はまたコーヒーに一口つけて、目をつぶったまま一息吐く。カップをコトッと台に置く。


「ドリップもダメダメ。コーヒーだって奥が深いんだよ。コーヒーを入れるコンテストがあるぐらいだし」


コップを取って、私の淹れたコーヒーを一気にあおった。先輩はにっこりと笑った。一点の曇りもない笑顔だった。気持ちのいい笑顔だった。


「一人前になるまで付きっきりで指導してあげるから。嫌らしいぐらいに細かく。覚悟してきな」


悪魔の笑顔だった・・・みたい。







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