第58話 058
「おかえりなさい」
セキュリティーなんて何もない玄関を開けた俺に、
甘い匂いが飛び付いてきた。
「ただいま」
腕の中にすっぽりと収まって、額を肩の下に押し付ける仕草に、思わず鳩尾の奥の方が
「お腹減ってる? お昼ご飯食べた? どうしよう、お風呂入る?」
顔を上げたゆかりが、慌ただしく捲し立てながら、俺を見上げた。
子どものように小さな肩。
無防備に跳ねた前髪。
「腹減ってる」
そう答えて、小さな唇に噛み付く。
「んんーーー」
最初、戸惑ったように身を捩っていたゆかりも、キスが長くなるにつれて、力が抜けていった。
意識する事のなくなっていた自分自身の生活の匂いが落ち着く。
折れそうなのに、どこか柔らかい肩とか背中とか。
どことなく懐かしさすら覚える。
「カズキ、、、」
唇の隙間から、ゆかりが呟く。
薄く開けた目蓋の隙間で、カチリと視線が噛み合う。
「ゆかり。。。」
吐息なのか、囁きなのか、漏れた息が音になる。
「やくそく、、、」
「ん?」
ほんの少しだけ離れる唇の隙間から、
ゆかりが呟く。
「さくら、、、」
だけど、
その言葉ごと、
飲み込んだ。
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