第49話 049

誰かを、


明里の事を、守りたい、と思ったことがあるだろうか?



バスルームを出て、髪を乾かすのもいい加減なまま、ベッドになだれ込んだ。

もう8年? この身体しか抱いていないのに、全く飽きないし、毎回嬉しいのは、奇跡じゃないかと思う。

そんな風に誰かを思い続けられる人間だったと、初めて知った。


離れている時間が普通の夫婦より長い分、会うとどうしても空気が濃くなる。

それも俺の肌には合っていると思う。


性格的に、仕事とプライベートを分けるのが苦手だし、良くも悪くも、自分のペースを崩されるのが嫌いだから、会えない時間、仕事に集中できるのがいい。


その会えない時間に、俺が明里を思い出す事は、ほとんど無かった気がする。


俺は、明里も同じだと思っていた。


付き合い始めた頃から、嫉妬深いところはあったけれど、かなりドライな付き合い方をしていたし、明里も、それが楽だと言っていたし。

その言葉を俺は疑いもしなかった。

「また浮気してたんでしょ?」

と、笑って言うのは、俺を信じているからだと、疑いもしなかった。



こうなるまでは。



仕事柄、連絡がつかなくなる時間があるのはしょうがない。それは俺に限ったことじゃないのを明里はよく知っている。

そんなタイミングのズレを、「うちの旦那、また浮気してるよー」と、笑っているのも知っていた。

そう言われているうちは、大丈夫だとも思っていた。


だけどそれが、

俺が思っているのと違うものだったら、、、、、、




「和樹?」


動きの止まった俺を、明里が不思議そうに見上げている。


「どした? 出ちゃいそう? まだダメだよ?」


クスクス笑う明里の素顔。


一番好きな、素の明里。


「明里」


「ん?」


「俺、いつこっち戻れるか分かんないけどさ」


「うん」


「もしかしたら今より遠くに転勤とかあるかも知んないし」


「あー、怖いねー、それ」


「もう、全部明里一人に任せっきりになるかも知んないけど」


「何を?」


不思議そうな顔から、キョトンとした顔になって首を傾げる明里を、体重を預けて抱きしめる。


「ちょ、重っっ! 苦しい!」


明里がジタバタ暴れるけど、俺の身体を動かすほどの力は伝わってこない。

背は高いけれど、

威圧的で、俺なんて精神的なとこは完全に支配されちゃってるけど。


俺の方が、確実に強いんだと思い知る。



「そろそろ子ども作ろうよ。俺にも、何か守らせてよ」



呟くように言った俺に、明里の動きが止まった。


それから、クスクスと小さな笑い声が聞こえて来る。


「何でここで笑うかなー」


身体を起こして、明里の顔を覗き込むと、


「かずくん。そゆことはさ、そのビビリの心臓の負担が無くなってから言おうよ」


と、怒ってんだか笑ってんだか分からない表情が返ってきた。

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