今日も隣のあなたに恋をする

みなづきあまね

今日も隣のあなたに恋をする

できることなら来たくなかった。しかし今日中に終わらせねばならない仕事があったのだ。どうせ休日、ほとんどほかの人は休みだし、彼も来ないだろう。彼と会えないことでモチベーションはそもそも上がらない。しかも、昨晩仕事の急ぎの用事で彼に連絡したのに、既読が付いたのは夜中。そしてもう9時になるけど返事はない。・・・そんなに私嫌われてるの?だとしても、仕事のことなんだから返事はしてほしいよね!


職場に着くと予想より人はいた。しかし、ほとんどの人がこれから始まる会議に出る上司ばかりで、それ以外の2~3名は私と同じく今日中に必要なことをやりにきていたが、そんなに骨の折れることではなく、休日を外で過ごすついでに1時間ほど寄ったという人だった。


私はいつもと変わらず荷物を置くと、パソコンを立ち上げ、メールチェックをした。メールもそこそこ溜まっているし、上司に相談しないと進まない案件もあった。しかし、直属の上司が来るのは1時間後だし、それより上の上司も今は1つ目の会議に出ているようだった。


私はひとまず今できることを先に片付け始めた。なるべく午前中には帰りたい。


1時間後に直属の上司が来て、仕事の進捗を報告した。最終チェックはさらに上の人にやってもらうことになり、会議と会議の合間に戻ってきた瞬間を捕まえ、今後の約束を取り付けた。これでひとまず最重要事項は終わった。それでも個人的にやらないといけないことはまだ残っている。


会議が始まり、オフィスは閑散とした。しんとした中、そういえば朝、同僚が出勤すると言っていたのを思い出し、スマホを鞄から取り出した。どうやら彼女は遅めに起きたらしく、あと40分ほどで到着するとのことだった。


よく見ると彼からも返事があった。


「これから出勤する予定なのでそこで!」


「え・・・?来るの?」


私は思わず声に出して呟いた。休日出勤なんて喜ばしいものではないが、一気に考えが変わった。ああ、仕事があって良かった。そう思える私は単純だ。


これ以上催促したりLINE上でのやりとりを続けることは意味のないことだと思ったため、「お返事ありがとうございました」という短い言葉と、スタンプだけを送り、私は彼が来るのを待った。


しばらくするとドアが開いた。彼だった。


「おはようございます。」


私は控えめに会釈をした。


彼は荷物を置き、机を整理していたが、ちょっと様子を伺ってから私は手を挙げた。


「あの、それで、連絡した件なんですけど!」


私がそう声を掛けると、彼はこちらに歩いてきた。


「昨日夜にほかの人から関係ある質問が送られてきて、多分この間の処理で間違いないと思ったんですけど、なんだか妙に不安で昨夜連絡しちゃったんです。」


「話を聞く限り、平気だと思いますよ。昨日早い時間から寝てて・・・。」


「そうだと思いましたよ。」


「起きたらもう23時頃で、半分眠りながら、なんか通知が数件あるなとは思ったんですけど、まあいいか・・・っていう感じで。」


「仕事の用件だから面倒だな~というか、またあいつからか、既読無視しよう~とか思ってたんですよね、いいですよ、別に。」


私がわざとらしく(ただ、内心はそうだったらどうしようと悲しくなりながら)怒ってみせると、彼は大笑いしながら、


「そんなんじゃないですって。早い時間からちょっと遊んでてそのまま寝ちゃったんで。」


と、私に返した。彼の素振りがわざとらしくないことで、ちょっと安心した。


「とにかく、解決はしたので、ありがとうございました。」


私がそういうと、彼は返事を返して自分の席に戻って行った。途中でコピー機に寄り、私との話を続けた。


「でも、来年この作業から私は降りるけど、もう一人は誰なんでしょうね?」


「空欄ってことは、新しく来る人じゃないですか?」


「えー、でも新人にこれやらせるかな?」


「待って、俺1年目でしたけど?」


「あ、そっか。いつも忘れる。そう見えないから。」


そう二人で笑い合った瞬間、ドアが開く音がした。同僚が1人出勤してきた。その同僚は私と彼に交互に目をやってから挨拶をした。


彼が今どんな風に思っているかは全く読めないが、休日のオフィスに二人っきりで、そこそこ楽しそうに話していたのを目の当たりにして、同僚は何かを思ったようだった。以前も私がいない飲み会の席で、その同僚が彼が私に気があるのではないかという話題を提供していたと仲のいい子に聞いたことがあったので、私は一人意識してしまった。きっと彼はそれっぽっちもそういうこと思ってないかもだけど・・・。


それから数分後に来ると告知していた同僚も出勤した。これで4人となり、オフィスに賑やかさが戻った。それからも数回彼とやりとりをしたが、ちょっとでも話せたり、肩を並べたりすることが嬉しかった。


今日も、昨日も、そして明日も。私は毎日あなたに恋をする。

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