魔法詩人の夜

坂井 傑

メゲナ川のほとり

月のきれいな夜でした。

ここはクーメルン王国のメゲナ川のほとりです。

旅人の青年、トワイナはたき火をたいて夜を過ごしていました。

トワイナは銀色の髪に明るい青の瞳をした美男子で、魔法詩人でした。

魔法詩人とは、魔法の本を書く詩人です。

魔法詩人は誰もが憧れる文化人で、とてもめずらしい魔法使いでした。

川の近くにはトワイナの愛馬のトンパがいて、おとなしく水を飲んだりしています。

トンパには旅の荷物が少しだけくくってあって、重い物はあまりありません。

たき火を見ながら、トワイナは詩のことを考えていました。

トワイナは草の上にすわっていて、手元にはピキの実があります。

ピキの実はあまくておいしい果物で、トワイナは大好きでした。

トワイナがピキの実を食べようとしたときのことです。

馬のトンパが、ぶるるるっとふるえました。

すると、川のほうから小さなブルーの光がゆっくりとトワイナに向かって飛んできたのです。

ブルーの光はトンパのまわりをひとまわりしてから、トワイナのところにきました。

そして、ピキの実の上でブルーの小さなきらめきは止まりました。

トワイナは、ブルーの光にほほえみかけます。

「やあ、こんばんは。月光の妖精さん」

トワイナはそう言って、かるく頭を下げました。

ブルーの光の正体は、メゲナ川に宿る月光の妖精でした。

妖精はトワイナの手のひらにのるくらいの大きさで、ゆったりとしたドレスを身にまとった女の子の姿をしていました。

その彼女の背中には羽根があるのです。

月光の妖精の髪は金色をしていて、その背中ほどまでの長さがありました。

妖精の瞳は静かな黒で、いまはトワイナを見つめているのでした。

「こんばんは。旅のおかた。月がとってもきれいですわね。お馬さんも、しっかり者のようだわ」

妖精の声は、美しい音楽のようです。

「ありがとう。トンパは働き者さ。┅┅ぼくは、トワイナ。あてもない旅をしている、魔法詩人さ。こんな月のきれいな晩に妖精さんと会えるなんてうれしいよ」

トワイナは笑顔になりました。

「まあ。魔法詩人さんなのですわね。ステキ! さぞかしお勉強なされたことでしょう。私はテルフィンともうします。メゲナの月光の妖精として、この土地を守っています」

テルフィンは、月の光に目をほそめていいました。

しばらく、川の流れの音だけがして、月の光はやさしく世界をつつんでいます。




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