第34話 水の女たち
病み果てたわたくしの髪を滝と爆ぜた水が流れ下る。感情をうちに宿した黒髪の渦が排水溝にたまってゆく。失われた恋ばかり数えて、虚ろのなかに見出したあなたの影を求めてここまで流れ着いたのだったか、水滴のうちに映えたあなたのまなざしがわたくしの裸身をすべってゆく。快楽にはほど遠い痛苦ばかりを抱いて、この島に辿り着いた娘たちと火をくべて、恋文を燃やしてもまだ足りない。歌声に兆した呪いを幾度となく唱えて、収奪された肉体に刻まれた傷を互いに海水で洗って、傷を傷として刻みつけてゆく。この嘆きから逃れられないうちに夢想の中の恋人を縫いとめて、修復する手を待ち侘びる。やがてそのうちからひとりがふらふらと歩み寄り、わたくしは指に刃を携えて切開を試みる。溢れ出た血のなかに、いつしか描いた恋人の横顔がある。やがて凝固するカメオをいくつもその身に連ねて、娘たちは岸辺へ向かう。煌々と照る月影のもとで踊りはじめたわたくしは両手に捧げ持ったカメオを海に放ち、その結晶は浅瀬に沈澱する無数の横顔の中へとゆっくりと沈んでゆく。
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