第28話カミーユへ

他者に通じる言葉を失ったまま、ひとり黙して座っていると、カミーユ・クローデルの晩年を心のうちで何度もなぞることになる。奪われた恋も、失われた彫刻への情熱も、もはや憎悪となって身のうちを焦げ尽くし、焦土と化したその場に映るものすべてが醜さに傾いている。月も昏い。そして私もきっと歪んでしまうのだ。行き先のない隘路をひた走る感情をいやすために、かろうじて伸ばした指先の果てに、跪拝することもかなわぬ聖母を仰ぐために、憎しみとなった肉体は今輝きを放って、その隔たった原初の海を呼び起こす。


『ココア共和国』2023年1月落選作品

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【詩集】春嵐 雨伽詩音 @rain_sion

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