第21話卵生の痛み

感情がもつれ合って絡まり合って解きほぐせないから、糸くずのようになった塊をあなたにあげる、というわけにもいかない。あなたにはせめてアガパンサスを捧げたい。願いは遂げられず、言葉は蝶になれないまま、あらゆる必然性を欠いた虚言ばかり並べ立てて、ひらひら、ひらひらと翼を失ったまま落ちていって、ベッドに横たわりつづける人形の夢を見ている。無言の声のみを、あるいは時折こぼれる吐息だけを信じられたら救われるのでしょうか。卵のように、水のように、交わされる言葉の密度に固執するあまりにあなたも遠ざかって、別れの言葉も告げられないまま、また顔のない誰かになっていく。そうして透明になった人間たちを数えて二十七になったら、架空の自傷も終わりを迎えるのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る