第17話多神教の巫女

眠るには鬱屈とした精神が私の邪魔をするし、行き場のない憤怒が私を支配して絡めとる。すべてのものが滅びる雷雨を待ちわびて、もう十三時間近く経とうとしているのに、豪雨はほんのひととき顔をのぞかせて、その顔に描かれた文字列を読み耽る間に通り過ぎた。書かれていた文字は解読不能の言語体系で成り立っており、漢文が刻まれた石碑を読み解けるきみなら、あるいは読めるのかもしれないが、雨の漢字を複雑に並べ替えて、旧字や難読語が連なった文字列におおよそ意味はなく、天啓と認めて神がかる巫女はすでにいない。その末裔として生まれた私は神々に背き、天を統べるただひとりの神の前に跪くことも叶わぬまま、病める少女を私自身の似姿として崇めている。自我というものから解き放たれること願いながら、計り知れない重力は否応もなく私を縛りつけ、驟雨だの秋雨だの五月雨だのといった単語の渦に呑み込まれてゆく。あまりにも多くの単語によって構築されたこの国で、病苦を罪業として味わい尽くしても、贖うすべはどこにもない。穢れきった体を持て余し、発語することもままならない絶望を聖書をなぞって言語にしようと抗うけれど、雨の言葉が次々と口をついて出るばかりで、一向に深淵にたどり着かないまま、来ない嵐を待ちつづけている。

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